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相談

「ったくアレクシアには困ったもんだわ。いい子だと思ったのよ?今日なんて本当に私のために色々やってくれてたんだって感動の涙まで流したのに!」

「いいからさっさと着替えろ。もうすぐ全員ここに来るんだぞ」

「…うるさいわねぇ。聞こえてますー。私若いんだから」


 あーもう、今日は散々だった。

 本当なら今頃ピアスの検証中だったのに。

 だいたい今日のパーティー何なのよ?ただみんなニコニコしてご飯食べてただけじゃない。

 私必要だった?私はご飯じゃなくて年食ったんですけどね!!

 …と、そんな事を言っている場合ではない。


「はい、お願い」

 水晶の城の応接間でソファに沈み込み、疲れを隠し切れない弟子の前で両手を広げて呼びかける。

「…お前は…どこまで……」

「何よ」

「…いや、いい。それより後ろ……」

「何言ってんのよ。今日のドレスはどう見たって前開きでしょうが。ほらさっさとリボン解いて頂戴」

 目を見開いて固まる弟子。

「…は?あー…ちょっと待て。色々と準備が必要だ」

「準備?何とぼけた事言ってんのよ!私は今から気合い入れて魔法使わなきゃなんないんだから、さっさとする!」

「お前……まさか…今までもそうやって弟子に着替えを手伝わせてたり……」

「たまに。そりゃそうでしょ?アレクシアに何度ドレス着せられたと思ってんのよ」

「……………。」

 本当に厄介すぎる。私だっていい加減弟子に下らない事を頼みたくはない。


「…あんた何してんの?私腕がけっこうプルプルしてるんだけど。自慢じゃないけど筋力無いのよ?」

 いつまで待ってもピクリとも動かない弟子に少々苛立ってくる。

「……待て。心眼を開く」

「はあっ!?1000年修行しても開くわけないでしょ!」

「………ふむ」

 ふむ…じゃないっつーの!!

 イライラしながら勝手にゼインの手を取り胸元のリボンを解いていく。

「勘弁してくれ……!」

「うっさいわね。アレクシアを手懐けようとしたのはそっちでしょ!嫌ならトリオにもっと修行させなさい!あの子らに頼むから!」

「だ、だめに決まってるだろう!」

「はあっ!?」

 絶対こうなると思ったのだ。

 あー面倒くさい!!

 

 


 ようやく編み上げ式のリボンが解けると、思いっ切りドレスを左右に開く。弟子の手で。

「はあ〜、ようやく魔力が戻って来たわ!」

 体を捩りドレスを床に落とせば、シュンッと一瞬でドレスが消える。

 前々から思っていたが、どんな魔法をかけてるんだろう。ドレスを脱いだことがきっかけで持ち主の元に戻る……。

「ゼイン、このドレスの魔法どう思う?」

 視線を床から元に戻し、正面の弟子の顔を見れば、表情が無い。〝無〟である。

「石になっても元に戻せないわよ?」

 パチンと指を鳴らして服を着替え、ドスッとゼインの隣に座る。


「ねぇゼイン、ちょっと相談があるんだけど……」

 手の平の上に4つの石を乗せ、ポソポソと話しかける。

「あのね、リオネルの件なんだけど、手伝いは必要無いって言ったじゃない?言っといてなんなんだけど……」

 チラッとゼインの顔を見れば、今度は目をつぶって瞑想している。

「あんた具合悪いの?」

「いや、何も問題無い。手伝う。当然だ」

 …本当に大丈夫か?と思いはしたが、アレクシアの言う通りゼインに協力を仰ぐべく、これまでに分かったことと、アレクシアから今日聞いたばかりの話を聞かせる。


「…それでね、リオネルが組み立てたのが自己犠牲魔法をベースにした封印魔法だってことには行き着いたわけよ。あの子と私を繋ぐのはこの4つの石だから、これが鍵なのは間違いない」

 ゼインがようやく目を開けて、手の平の上の石をじっと見る。

「魔法を暴く手段は色々あるんだけどね、まあ……ちょっと知恵を借りたいなーなんて……」

 あ、命令するんだった。

 知恵を貸せ!だ。


「……封印の鍵、か」

 ゼインがおもむろに私の手の平からピアスを一つ取り上げ、光に透かしながら覗き込む。

「…見事な技術だな。実物に施してあるにも関わらず、術式の痕跡が見えない」

「あ、分かる?リオネルの魔道具の作り方は特殊で……」

「それは後々(のちのち)本人に聞く。それで?何に引っ掛かってる」

 ……お帰り。マイペース男。


「あんたも知ってるでしょ?封印魔法に必要なのは対象と鍵。つまりガチガチの理論。そこに魔力は関係ないの」

 言えばゼインがなるほどという顔をする。

「500年前、リオネルはクラーレットの魔力を借りたのだったな。……魔力を借りなければ発動できない……」

「そう、そこ。つまりね、あの時リオネルは封印魔法を書き換えたんだと思うの。封印のためじゃなくて、書き換えるために魔力が必要だった」

 つまりは、これこそが想定外。

 …リオネルは、解除者である自分が身動き取れなくなる封印を施すような未熟な魔法使いじゃない。


「書き換えが可能な魔法を暴くとなると、果てしなく時間がかかるわけよ。そもそも魔法が完成したのがいつか分かんない上に、かなり強い封印だから相当の年数かけて練り上げられてると思うわけ」

「お前に渡されてから900年…だったか?」

「よくご存知で。そしてあんたが見た通りこのピアスは外から魔法をかけたんじゃない。多分だけど、あの子ブラックダイヤを創るところから始めてる」

 ゼインが目を見開き、呟く。

「…錬金術師……」

 そしてゼインの呟きに私はしっかりと頷いた。

「……なるべく早くリオネルを元に戻してやりたいの。知恵を貸して」



 私の言葉にしばらく何事かを考えていたゼインが、静かにその口を開いた。

「…ショーンと作った魔法陣がある。時間魔法の陣なのだが、誰も彼もは使えないように少し工夫した」

「時間魔法?」

「ああ。時間魔法は未熟な者が使うと危険が伴うと言っていただろう?私も確かにその通りだと思う。だから停止条件を付けてみたのだ」

「停止条件……」

「そうだ。先般のシェラザードの駐屯地を()()際、ショーンは建物のコンクリートを固まる前の段階まで戻した。何度も止まる魔法陣に、何度も何度も魔力を注いでいたのだ。おそらく水分含有量の変化を停止条件に……要は、あらかじめ設定した条件に変化が起きた時に魔法陣が止まる。だから……」

「一つ一つ確認しながら目的の時間まで遡れるってこと?」

「まあ…そうだな。魔法陣の便利さを無視した代物だが……」


 ……何てことだろう。

 数千年で育てた弟子の中に魔法陣の特性を逆手に取る子なんていなかった。

 普通は、より便利に、より早く、より強くを目指して技術が進歩する。

 盲点だった。というか……考えもしなかった。


「ゼイン、あんた本物の天才だったりする?」

 思わず口をついて出れば、ゼインが片眉を上げる。

「理論を組み立てたのはショーンだ。つまり、ショーンが天才なのだ。私は魔法を使う上で不便さを感じた事がないからな。あの3人の方が悩んだり考えたりする事が多いんだろう」

 ……リオネルもそうだった。少ない魔力を補うためにいつも色々なものを作り出してた。

「…使えそうか?」

 私は頷く。

「その陣で4つの石の術式を辿るわ。書き換えられたタイミングがわかるなんて、すごいとしか言いようがない」


 フッとゼインの口端が上がる。

「…まあ、魔力が有り余る怪物向きの魔法だな。どこかの27歳詐称高齢魔女とか」

「ああん?それでも可愛いんでしょーが」

「それは1時間前までだ。もうとっくに可愛くない」

「はあっ!?こ…この……馬鹿弟子っっ!」

「天才だと言わなかったか?」

「おたくの息子さんの話よ!トンビがタカってやつ!」



 ゼインは成長している。

 過去の魔法使いの真似事の世界から飛び出して、彼だけの世界を築きつつある。

 おそらく私はそう遠くない未来において、対等な魔法使いに出会うことになるだろう。

 …私と渡り合う、対等な魔法使いに。


 だからやっぱりこう思う。

 ゼインを弟子に留めおいていいわけがない、と。

 

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