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下準備

「無理無理無理無理無理ですっっ!僕、炎だって直径20センチしか出せないんですっ!」


 目を覚ましたショーンはそりゃもう全力否定だった。


「別に炎なんか出す必要ないわよ。要は2匹を捕獲すればいいんでしょ?」

 私は当然の事を言っている。

 …はずなのだが、皆の頭の上には?が浮かんでいる。

「えー…っと、何で捕獲?」

 ニールが訊ねる。

「は?だって竜だし」

「ん〜……と?」

「飼うに決まってんじゃない」

「「「は?」」」

 トリオの声が揃う。


 ……みんな頭悪いのねぇ。

「違う。お前だけ頭が悪い。頭の悪い人間の説明の仕方だ」

「あ!あんたね、読むなら読むで声に出すんじゃないわよ!」

「口を開いてものを言えと言っただろう」

「今だけ守ってんじゃないわよ!!」

 ギャイギャイ言い合っていると、ニールが止めに入る。

「はいはい、2人とも痴話喧嘩やめる〜。社長、もう少し詳しく教えてくれない?」

 私に聞くんじゃないんかい!だいたい痴話喧嘩じゃないっつの!


「竜は絶滅危惧種だ。…我々と同様に。人間に姿が見えているのかは分からないが、人里を荒らすとなると遅かれ早かれ討伐の対象となる。今のうちに保護するのが適切かと考える」

 そうそう、それよそれ!そう言ってんじゃないの。

「保護…って、場所の確保はどうするんですか?」

 ショーンが訊ねる。

「……ディアナに考えがあるんだろう」

「…………ほんとっすか?」

 ギリアム…あんたもぶちのめすリストに載りたいわけよ。は〜ん?

 

「……まぁ、考えが無いわけじゃないけどね。でも私がぜーんぶやったらあんた達何も成長しないじゃない。私だっていつまでここにいるか分かんないんだから」

 そう言えば4人の視線が突き刺さる。

 ……何よ、なんでそんな目で見るのよ。


 鬱陶しい4人の視線を手で遮りながら叫ぶ。

「とにかく!これはいい修行になるわ!ショーン、行くわよっっ!!」

「えっ!?」

「えっ、じゃないの!一番修行が必要なのはあんたよ!さ、行くわ……」

 そこまで言いかけた時だった。

 ガタンッとギリアムが立ち上がる。

「待つっす!修行なら俺も行く!いいですよね!?ゼインさん!!」

「ああ。ニールも合わせて3人で行って来い」

「は?ゼイン何言ってんの?何で僕まで!?」

「修行だからだ。(いにしえ)の魔女からの修行などそうそう受けられない。行け」

「はーーー!?」



 こうして私は3人を引き連れて、ナナハラ国へと向かうこととなる。

 …のだが、それなりに下準備はいる。

 ショーンだけなら何とでもなるが、あとの2人が予測不能な動きをしたらジ・エンドだからだ。

 

「炎!水!風!…オケ。んじゃ次、防御結界!転移陣!空間拡張!…ふむふむ」

 

 彼らがタカタカポンポン発動する新時代の魔法を一通り見て分かったことがある。

 ニールはおそらく相当に修羅場をくぐっている。

 目もいいのだろうが、腕時計の操作…というか魔法を選択するのが早い。躊躇いもない。

 ギリアムの耳がいいというのは間違いない。

 私が言葉を言い切る前に操作に入る。あと魔法が大きくて派手でいい。

 ショーンは慎重。とにかく慎重。きっと性格上攻撃魔法は好きではないのだろう。けれど彼の基本に忠実な魔法は美しい。


「だいたいのことは分かった。あんた達に利があるのは呪文の詠唱より魔法陣ね」

 

 60階フロアに結界を張り、私は彼らにガンガン魔法を使わせた。

 魔力を溜めるのに時間がかかるからと彼らは嫌がったが、見てみない事には作戦だって立てられない。


「魔法陣?あんまり使わないけどなぁ」

 ニールが言う。

「んじゃ試してみようか。ショーン、腕時計に入ってる魔法陣でややこしいの一つ選んで。ニール、私と競争よ」

「えっ?あ、ええっ?」


 ニールの戸惑いをよそに、ショーンが少し楽しそうに時計をポンポンしている。

「あ、使い道わからない魔法陣見つけました!これにします。鮮度維持魔法陣!」

 は〜…またマニアックな陣だこと。どうせゼインのコレクションだろうけど。

 頭の中でツッコミつつも、指先で空中に猛スピードで陣を描く。

「あ、あった」

 私が指を動かす傍らで、ニールがポンッと時計を触れば完成形の魔法陣が床に展開する。


「負けたわねっと!」

 指先で複雑に描いた陣を床に下ろす。

「お〜……何か指の動きハンパじゃなかったっすね」

 ギリアムが賛辞を送ってくれる。

「まあね。はっきり言って超早技。でもニールに負けたでしょ?そういう事よ」

 詠唱は絶対に私…というか口に出す方が早い。

 だけど魔法陣については、描くという段階をすっ飛ばす分明らかに腕時計ポンポンの方が早い。


「そんな事思いもしなかったな〜。比べる相手がいつもアレだからさ」

「アレは規格外。というかズル。卑怯。呪文は自分の口で唱えて、複雑な魔法陣は時計から出してる。まぁとにかく、素早く動く生き物にあんたらの攻撃呪文を当てるのは難しい」

 私の言葉に皆が頷く。

「そっすね。俺ら3人、普段から補助魔法使うことが多いっす。な、ショーン」

「は、はい。…戦闘は社長が前に出てくれます」

 要するにあのストーカー真っ黒男は過保護なのね。

 せっかく見つけた同族に抱く気持ちとしては間違って無いけどさぁ……。

「よしわかった。作戦会議よ!出発まで残り2日、眠れないほどドキドキして待つように!」

「……普通さ、落ち着いてゆっくり休むように、とか言わない?」


 ニール、あんたわかってないわねぇ。

 人生において、眠れないほどドキドキすることがいかに貴重なのか。

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