転送
「うー………あたまいたい………きもちわるい………」
「だろうな」
「みず……みず……あー…みずがでない!!ゼイン…ドレス……」
「酒が抜けるまで却下だ」
ショーンと朝まで飲んだらしい私は、ガーディアン・ビルの60階で昼過ぎに目を覚ました。
せっせと仕事をこなすゼインに、道端の生ゴミを見るような目つきで睨まれながら。
「…悪かったわよ、ショーンという名のウワバミを付き合わせて……。反省してるから……水!水をちょうだいっっ!!」
「…チッ」
めちゃくちゃ態度の悪い弟子が、師匠に向かってあからさまに舌打ちをする。
…覚えてなさいよ……魔力を取り戻したらギャフンと……
「ホラ、水だ。ありがたく飲め」
床で寝そべる私の右頬あたりにドカンッと何かが現れる。
「…水……ってこれ水槽じゃない!!あんた…性格極悪ね!!」
「中身は高級天然水だ。優しいだろうが」
「…ぐ……っ!」
屈辱……だが背に腹はかえられ無い。
私は頭から水槽に顔を突っ込むと、ゴクゴクと高級天然水を飲んだ。…うまっ!
「…げ、水槽から飲んだ……」
ゼインの呟きに血管が沸騰しそうになるが、何かを言う気力も無い。
ぷはぁッと顔を上げれば、今度は弟子の顔が完全に引き攣っていた。
「…なによ」
「………醜い」
その言葉とともに飛んでくる鏡。
覗き込めばそこには……
「…ギャーーーッッッ!!」
…顔がドロドロに溶けた、火炙られ後の魔女が映っていた。
『まじょぶさいくー』『おてつだいする』『しゅうあくすぎてみていられない』『きえないね』
二度と酒は飲むまいと、仰向けで人生の悟りを開きつつあった私の顔の上に、遠慮なくよじ登って来た妖精たち。
「あんははち…わたしのかおはらくがきちょうじゃないはよ……」
ゴッシゴッシと遠慮なく顔を擦ってくる妖精たちがヒソヒソしている。
『…かおごとけす?』『はなはのこす?』『あってもなくてもおなじ』『くちだけあればいきできるはずだ』
「………アホかーー!!!」
妖精を薙ぎ払いガバッと起き上がる。
「醒めたわよ!酔いが!一瞬で!!」
『よかったな』
「…ゴルドーー!!」
妖精を追いかけてドタバタ走り回っていると、大きな溜息が聞こえた。
「……はぁ。ディアナ、来い」
お前が来いっ!…と喉元まで出かかったが、機嫌を損ねていいことは無さそうだったので、スススとゼインのデスクに近づく。
「後ろを向け」
「…うしろ?」
クルっとゼインに背を向けると、ドレスの背中のボタンが外されていく。
「ったくお前のどこが年長者なんだ。泥酔するわ、水槽の水は飲むわ、着替えは一人でできないわ……」
……最後の一つは不可抗力なんですけど。
「…魔力が無ければ3歳児並みだ。ショーンが3歳の頃は時計も読めたから3歳児以下だ」
「は?私だって時計くらい読めるわよ?」
クルっと振り向きゼインに抗議すると、再びゼインに後ろ向きにされる。
「こっちを向くな!馬鹿女!ったく今がいつだか分かってるのか?」
いつ……?
「…レセ何とかの次の日…でしょ?」
そう言うと、ゼインが背中をバシッと叩く。
「そうだな。確かに昨日はレセプションパーティーの次の日だった。…分かったら…さっさと城を運んで来い!!」
「は……?は……はいっっ!!」
……お酒……怖っっ!!
ゼインから逃げるように更地に転移した私は、超速で地面に巨大な受け入れ用の転移魔法陣を描いた。
ヤバいヤバいヤバい、グラーニン一家を迎えに行く日は今日!今は今日の昼3時!シェラザードは夕方……何時!?とにかく急げ急げ急げ!
「幻視よし!侵入阻害、防音よし!物理防御、魔法防御よし!空間拡張、空間接続、完璧!あとは……」
そこまで考えてしばし悩む。
あの城はネオ・アーデンの温暖な気候でも状態を保てるのだろうか。
氷の城では無かったが、外の気温に合わせて城内を適切に保っていたなら……。
「うーむ……一部切り取るか……」
時間は無いが適当はマズイ。
ロマン・フラメシュの城は魔法使いにとって永久保存級の遺物だ。
私は結界内空間の地面の一部を切り取ると、そのままシェラザードへと転移した。
「うっそ真っ暗!!時差…そんなにあった…?ヤバいヤバいヤバい!」
屋敷の回りのギリアムの結界を確認する。
「うむ、ゼインの補強もよし!…跡地は何にすべきか……いや、とりあえずまた来よう」
結界をすり抜け、面前にそびえる城を見上げる。
「フラメシュ…変な防衛魔法かけてないでしょうねぇ…?動かしたらドロドロに溶ける…とか」
口に出したら急に不安になってくる。
…いやいや封印を施すだけでいっぱいいっぱいのはず。でも私なら縛りの魔法の2個や3個かけて移動不可に………あー面倒くさくなって来た。
何でよく知りもしない男と知恵比べしなきゃなんないのよ。
比べたところで私が圧勝するに決まってるし。
「……大事にするわ。約束する。マカールの性根も叩き直すし、カリーナは長生きさせる。双子はあんたの後継としてちゃんと育てるわ。…だからあんたの城……私に預けなさい!!」
両手に魔力を込め、城をすっぽり覆うほどの巨大な魔法陣に魔力を流す。
「ネオ・アーデンは賑やかなところよ。さあ、行くわよ!──転送!!」
青白い光に包まれて、水晶の城が霞のように消える。
後に残るのは、拡張されただだっ広い空間のみ。
やり口は私と一緒か。さすが稀代の魔法使い……。
ギリアムの結界から出る前に、先ほどと同じように空間内の一部…今度は天井近くを切り取って、ネオ・アーデンと繋げた。
……また来るわ、シエラ。
今度は溜まりに溜まった愚痴でも聞いてちょうだい。
ゆっくり歩くようにして、私は再び転移した。




