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魔女の実力

 ──速い!

 

 ディアナの魔法を受け流しながら思うことはその一点に尽きる。

 片手ずつ…などと言う次元では無く、指一本一本から繰り広げられる多重属性の波状攻撃。

 一体どんな修行をすれば水と炎が一つの手から出てくるのだ!


 何が気に障ったのか、ディアナに命じられた〝居残り〟。

 新しい魔法でも教わるのかと思いきや、突然連れて来られた隔離空間。

 そして休むことなく浴び続ける攻撃魔法。

 …訳がわからない。


「ゼ〜…イ〜…ン〜……?なぁにボンヤリしてんのよ!撃ってこないなら威力上げるわよ!!」

「!?」

 暴風を巻き起こしながら目の前を掠めた10本の灼熱の矢を辛うじて盾で受ける。

 切り裂く風で、頬に熱い筋が走るのを感じる。

 おいおい冗談だろう?

 防御結界魔法……何のためにあるのだ。


「ディアナ、とりあえず落ち着け!まずは話を聞かせろ!これは何の真似だ!!」

 涼やかな顔で上方で魔法陣から隕石のようなものを出している魔女に呼びかける。

「はー?優しい師匠が修行つけてやってんのよ!本気でやらないと……」

 ディアナの姿が消え…

「…大怪我するわよ?」

 …たと思ったら耳元で囁かれる脅迫めいた言葉。

 修行…だと?

 なぜこのタイミングで……


「ホレホレ、動き回る相手はどうするの?」

「イラッとする」

 目の前をチョロチョロ飛び回る魔女目がけて端末から5つの魔法陣を展開する。

「あ、なんかヤバそう」

 絶対にそんなことは露ほども思っていない口振りの魔女目掛けて、5つの陣から同時に霧状の繊維を飛ばす。

「おお!何の素材?固いのに柔らか……ついでに燃えない」

 最新のポリマーブレンド技術で作り上げた繊維がディアナに絡みつき、瞬時に一枚の布を織り上げ頭部以外をすっぽりと覆う。

 ディアナに教わった、〝魔法の書き換え〟の応用だ。

「おっしゃれー!良いわね、何かあんたらしいわ!」

 ケラケラと笑っているだけのはずのディアナに、なぜか背中に薄ら寒いものを感じる。


「…化け物か、お前は!」

 言いながら今度は繊維の先端から電撃の魔力を這わす。

「なぁるほど、そうやって使うのか。燃えずに雷も通す布……欲しい」

 突然背後から声がする。

「はぁっ!?いつの間に……はっ!?」

 咄嗟に視線を布にくるまれたディアナへと動かす。

「あ、それ分身体」

「ぶん……何でもありか!!」

「そりゃ魔女ですからー。使えるものは何でもありですー!」

 言葉と同時に巻き起こるブリザード。

 この時すでに悟っていた。

 ……『絶対に勝てない』と。

 だから本気で魔法を使っていいのだと思った。

 冗談などではなく、強者から授かる本当の修行の機会なのだと思った。

 ──が、とにかくムカつく事だけは確かだ。




 何時間このやり取りが続いたのか、気づけばいつの間にかディアナがいつも靡かせている銀色の髪を一つに纏めていた。

 よく見れば黒い服もあちこち焼き切れてボロボロだ。

 …まぁ自分も人の事は言えない。


「…あんたまだ魔力残ってんの?」

「…その言葉……そっくりそのまま返す」

「あー……時計を上手に使ってんのね。手加減されてんのかと思ったわ」

 手加減…する訳ないだろうが。少なくとも最大限の防御魔法と結界を張りつつ人生で一度も使ったことの無い攻撃魔法を撃ち続けている。

 ……とにかく強い。

 そしておそらくディアナは本気を出していない。


「…ゼイン、あのね、あんた報告する重要度間違ってるから」

 ディアナが攻撃の手を緩める。

「…間違ってる?なにが……」

「私にとっては人間の末路とかハッキリ言ってどうでもいいのよ。私が何千年生きてると思ってんの?」

「………三……千年では無いのか」

「…魔女になってからね」

「は……?」

 魔女になってから……?


 ディアナの目が鋭く光る。

「私の目の前を通り過ぎて行った人間が何人いると思う?魔法使いだって一緒よ。いいこと?耳の穴かっぽじって良く聞きなさい!!」

 ディアナがどんどん目の前に近寄って来る。

 異様な迫力に負けて一歩ずつ足が後ずさる。

「私にとって大事なもの!それは第一に弟子!弟子より大事な者は無い!第二に孫弟子!孫弟子に何かあると弟子が悲しむ!第三に1か月顔と名前を覚えてた者!あとは適当よ!!」

「…は?」

「とどめ刺すから覚悟なさい」

 本当に…意味がわからない。

 言動と行動の矛盾に頭がおかしくなりそうだ。

 

 空間に浮かんでいた巨大な隕石が閃光とともに弾け、無数の流れ星が降り注ぐのを目に留めたのを最後に、その日の記憶は途切れた。

 



 

 夢を…見ていたように思う。

 鮮やかな悪夢を。

 

 苦痛に悶える若い兵士が、助けを求めて手を伸ばす。

 必死に拘束を解こうともがき続ける体と、それを見下ろす私の目。

 音のない断末魔、投げ捨てられる体。

 そして淡々と何かを書き込む自分の手……。


 一つ一つの場面が写真のように現れては、なぜかスッと消えていく。

 消えていくと同時に、閉じた瞳から一つ、また一つと何かがこぼれていく。

 鮮やかな悪夢が朧げとなり幻のように消える間際に、ようやく冷たかった自分の体に温もりを感じた。

 


 …自分の……体……?

 

「…ん……まだ寝る……」

 は?

「…誰よゴソゴソしてんのは……大人しく……すや……」

 は?は?

 頭が…動かない……?

 頭だけじゃない。体も動かない。というより…何かに拘束されている……?

 ガッチリと固定された頭を恐る恐る回転させる。

 ゆっくり視線だけ上にやれば、銀色の髪に半分隠れた耳が目に入る。


「───ッッッ!!!」

 声にならない叫び声が喉元まで出かかる。

 ディ…ディアナ!?

 は!?

 ここはどこだ!?

 思わず力一杯のけぞれば、魔女が怠そうに起き上がる。

「…もう…朝?…仕事?」

「し…しごと……」

「んー……………2時間半寝た…?」

「し、知らん!寝ぼけるな!な…何が…何を…」

 体は温まっているが、急速に背筋が冷たくなってくる。


 ノロノロとディアナが半身を起こして顔を覗き込む。

「ん〜……流れたみたいね。よかったよかった。あんたなかなか泣かないから苦労したわよ。次からはちゃんと言いなさいよ?記憶を奪う魔法はねぇ、後遺症残るときもあるんだから」

「…な…いた……?私が?」

「そうよ。泣かせた。泣かせる以前に眠らせるのが大変だったわよ。100年分の魔法使ったわねぇ……」

「……そのための…修行…?魔力切れを起こさせるため……」

「ま、そゆこと。楽しかったわね!だ〜いじょうぶよ!泣き顔けっこう綺麗な部類だったから」


 よく見ればここは会社の60階、魔女の寝床。

 ディアナ…お前はどこまで頭が悪いんだ……。

 泣き顔の美醜などどうでもいい。

 問題は…問題は……


「…私もう少し寝るわ。年取ると魔力じゃなくて体力がねぇ……。あんたももう少し寝なさい。顔色悪いわよ?ほらおいで」

 


 ……どう考えてもこの状況だ!

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