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裏の仕事

 何だかんだありはしたものの、私はあと2日で勤続3か月を達成しようとしていた。

 いつの間に3か月も経ったのかは知らない。多分寝てたのだろう。

 これだけの期間を会社員として過ごせたのも、全ては慈悲深く忍耐強い私自身のおかげである。

 慈悲深い私は重労働の傍らでついつい口走ってしまったゼインへの修行もちゃんとやっている。多分。

 アヤツは世が世なら大賢者か大魔道士になれる器だ。

 一言で言うならば化け物である。

 私を怒らせては魔法を使わせ、あれよあれよという間に四大属性の基礎魔法を盗んだ。

 だが甘い。

 ゼインよ、魔道の苦しみはここからはじまるのじゃ。わーはっはっはっは!!



 などと朝から満員電車の中で考えている。

 仕事に不満はとりあえず無い。不満があるとすれば通勤のみ。転移が一切認められない。

 その代わりにブラックIDの中にテイキというものを入れてもらった。電車に乗り放題という優れものだ。

 線路とかいう道を移動するのはまだ世の中に蒸気機関車が走っていた頃以来なのだが、止まるたびにあちらこちらから音楽が流れて騒がしい。

 そして人間に取り囲まれている現状はストレスフルである。……そう、必要なのはダイヤモンド級の忍耐力。

 

 電車を降りたあとのビルの中も面倒くさい。

 60階に着くまでにどれ程の手順をこなすことか…。

 修行をつけているつもりが、修行させられているのでは、と思わないこともない。

 そして苦労して60階まで辿り着けば、今朝は4人が揃っていた。珍しい。


「おはようさん」

 会議机で何やら真剣に話し込んでいる4人にとりあえず声をかける。

「あ、おはようディアナちゃん!いいところに来た!」

 絶対悪いタイミングで入室したに違いない。

 ニールの台詞からは面倒なニオイしかしない。

「あ…ディアナさん、おはようございます」

 ショーンがペコリと頭を下げる。うむ、可愛い。

「はよっす」

 ギリアム、せめて瞼を開けろ。

「ディアナ、座れ」

 はいはい来た来た。偉そう!生意気!


「何なのよ、朝っぱらから。こっちは痴漢との激しいバトルの後で疲れてんのよ」

 ポロッと漏らせば、4人がギョッとした顔で私を見る。

「…大丈夫なの?」

 ニールが言う。

「え?この通り」

 赤子のような人間に負けるわけがない。ピリピリッと心臓が踊り出すような刺激を……

「いや、相手の話だ」

「………業火」

 燃えろ、アホ黒男。 


「で?どうしたのよ。みんな揃うのって初めてじゃない?」

 とりあえず甘ったるいカフェラテ3つとブラックコーヒーを2つ出しながら席に着く。

 私とゼインはブラックコーヒー派だ。

「…久しぶりに魔物の目撃情報が出たんだよ」

 ニールが困ったように言う。

「ま…もの?」

「うん、そう」

 ほー!それはまた面白い!

「いや、ちょっと待って。何で一流企業の社長以下役員一同雁首揃えて魔物の話で盛り上がってんの?」

 驚く事にニールは副社長である。そして残り2人も役員らしい。

 ゼインは会社組織の上下関係うんぬん言っていたが、蓋を開けてみればガーディアンは恐ろしいほどの年功序列組織だった。

 そしてきっとこの序列を超えられる人間は100年経っても現れない。


 ギリアムの瞼がようやく薄っすらと開く。

「だってそれが本来の仕事っすから」

「…は?仕事?魔物の発見が?」

「そっすね。見つけるだけで済めばいいっすけど、たまに討伐するっす」

 とう…ばつ……されたんじゃなかった?あんた。

「ギリアム、違うでしょ」

 ニールから冷静にツッコミが入る。

「ディアナちゃん、僕たちが仲間を探してるっていう話はしたよね?」

「聞いたわね」

「魔物が発生する場所には何がある?」

 魔物が発生する場所……。

 それは決まっている。

「魔力がある」


 4人が無言で頷いて、そして目線を落とす。

「…単純だけどね、僕らは魔障とか、魔物とか、魔力が原因だと思われる事象を調査してる。そこには魔法使いが産まれてるかもしれないだろ?」

 ニールの言葉にゼインが続ける。

「調査の結果魔力による影響無しと判断した場合、各国政府からの要請に応じて社の人間を解決のために派遣する。そして影響有りと判断した場合は…政府からの要請があろうがなかろうが、我々4人で事にあたる。…ショーン、報告」

「は、はいっ!」

 もしかしてショーンはそうやって見つけ出した…?

 魔法使いを探すためだけにこんなに大規模な組織を作ったわけ?

 もしかして私、ものっすごく無駄な400年を過ごしたんじゃ……。


「報告します!ナナハラ国暫定政府より寄せられた情報を元に同国訪問。家畜の被害報告が複数出ているアラタカ山を調査。山頂付近にて対象を確認。対象は……つがいの…竜です」

 最後は消え入りそうな声でショーンが報告を述べた。

 竜!!まさかこの時代に竜がいるなんて!!

 素晴らしい働きだ、ガーディアンの者たちよ!

 さあ我に竜を献上せよ!!

 と、私の頭の中はお祭り騒ぎだったのだが、トリオは黙ったまま。

 ゼインだけが目を丸くして私を見ている。

『…あんた、私の頭の中覗いたでしょ』

『ああ』

『いさぎよし!…じゃなくて、みんな何でこんなに暗いの?』

『竜にはお目にかかった事が無いからだ』

『あー、私ら以上に絶滅危惧種だしね』

『絶滅危惧種………』


「ゼ…社長、どうする?ナナハラ国からの支援要請待ってみる?」

 ニールの問いにゼインが首を横に振る。

「待ったところで来はしない。あそこは政情不安定だ。我が社に調査要請が来ただけでも奇跡に近い」

「…要請来たところで対処できるんすか?」

「だね〜。見て見ぬふりして現地調査だけする?」

「……………。」

 

 黙り込んだ4人の顔をしげしげと見回す。

「みんな小難しい事考えてんのねぇ」

 ほんと感心するわ。

 長生きしすぎると、1分先のことも考えるの面倒なのに。

「最低限のことを話し合っている。それとも何か妙案でも?」

 ゼインが腕を組んだままジロリと私を見る。

「ごちゃごちゃ考えすぎなのよ。今回の件、やるべき事は一つだけでしょ?パパっとショーンと行ってきてもいい?」


 私の発言にゼインとニールが凍りつく。

 そして私の隣では、ショーンが飲みかけのカフェラテをひっくり返しながら気絶した。

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