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人物画

「うーむ…どれどれ…」

「古くさい絵ですわねぇ」

「この人が春を告げる魔女っすか?」


 私たち3人は、タペストリーが掛けてあった空き部屋に清浄魔法をかけ、アレクシアの趣味であるレースでドチャッとしたテーブルで茶を飲んでいた。

 マカールとザハールが大層くたびれた様子で隠し部屋を出て来たのは、そろそろランチタイムにしようかと思っていた頃だった。


「ふぅ……。正直なところ、母からの話も本当にうろ覚えでして……」

 マカールが頭を掻きながらテーブルに寄って来る。

「父さんはああ言ってるけど、俺はこの絵に見覚えがある!」

 バーンとテーブルの上に一枚の絵を載せたザハールの瞳には、確信のようなものが浮かんでいた。

「ほほう……聞こうじゃないの。まぁ座りなさいよ。ちょうどいいわ、お昼にしましょう。アレクシア」

「はい〜!ディアナ様っっ!!……お前たち、ディアナ様と同じテーブルに着くなど、今日という日を一生噛み締めて暮らすが良い」

 …相変わらずの物言いだが、テキパキとテーブルをセッティングし、オスロニアの食材をふんだんに使った料理を所狭しと並べるアレクシア。

 使える。この女の使いどころ、心得たり。


「え、ええと、よろしいのですか?こんな食事、何年振りだろう……」

「父さん、やっぱりまだ夢の中なんじゃ……」

 瞳をキラキラさせながらフォークを口に運ぶ親子。

 …フッフッフ……魔女の賄いを口にしたからには魂枯れるまで働いてもらおうか……。

 などと頭の中で物語の魔女を気取っていると、目の前の親子の瞳からポロポロと涙が落ちてくる。

「ど、どうしたのよあんたたち!!ア、アレクシア!あんた変なもの混ぜたんじゃないでしょうね!?」

「何をおっしゃいますか!ディアナ様が口にするものに混ぜ物など!」

「ふつうに美味いっす」

 じゃあ何でこの親子はポロポロしてんのよ!


「…ぐす……妻に…持って帰ってもいいですか…?」

「母さん……」

 ああ…そうだった。

「奥さん、どんな人?」

 そっくりな色味の親子に問いかける。

 別に弟子でもない人間の恋愛話に興味は無いが、魔女とほぼ人間の話にはそれなりに興味がある。


 ぐすぐす言いながらマカールが語り出す。

「…妻とは……結婚して20年になるのですが、いつまでも若くて美しい、私にはもったいない女性でして…」

「…母さんが本気で怒ると食器が割れるぐらい怖いんだ。でもイタズラした時はもっと上手いやり方を考えろって叱られて……」

 …魔女じゃん。それ普通に魔女じゃん。え?隠してたんじゃないの?え?分かりやすく魔女じゃん。


 二人の語りは続く。

「…でも食事を摂らなくなってから3年ですっかり元気が無くなってしまい……」

「…俺が軍で出世できれば食べ物もらえたのに……うぅぅ……」

 いやいやいやいや、生きてる時点で魔女じゃない。

 食べ物のために軍に?

 何なの、この親子……。

「…何なのだ?この凄まじく頭の悪い微生物どもは……」

 んー〜……アレクシアと意見が合うなど屈辱的だが、けっこう同意である。

「頭の働きが良くないお二人に聞くのもなんなんすけど……」

 ギリアムが辛辣である。

「…この絵の件、いい加減話してもらってもいいっすかね?」

 ……そうだった。

 


「…コホン、仕切り直しましょ。ええと、この絵を持って来た理由は何?」

 尋ねればザハールが手を挙げる。

「俺はこの絵の女の人を見たことがあります!」

「……ふぅん?女の人……ねぇ」

 私が姿絵を眺めながらそう呟けば、マカールとザハールがギョッとした顔をする。

「え……女性…なのでは?」

 マカールが尋ねる。

 確かに絵に描かれた人物は、波打つような金色の髪を胸まで垂らし、ゆったりとしたローブを身につけた美しい容貌をしている。

「残念ね。この絵の人物は〝彼〟よ。…シエラの最期に立ち会った人物…ね」


 黒衣の魔女…いや、(いにしえ)の魔女が長い時間をかけて繋いで来た、ゼインいわく〝叡智〟を授けられた人物。

 ……運命の弟子。


「ザハール、あんた彼をどこで見たの?」

「え!?あー……この屋敷じゃなくて……」

 言いながらチラッと隣に座る父親の顔を見る。

「なるほど、母親の方に関係があるのね」

 私がそう口にすると、マカールが明らかにショックを受けた顔をしている。


「…面倒くさい微生物たちよのう。死んだ男の何を気にしておるのだ」

 アレクシアが突然口を開く。

「クラーレット所長、何で死んだってわかるんすか?……この人魔法使いなんすよね?」

 アレクシアが腕を組んでふんぞり返りながら言う。

「はぁ?決まっておるだろう。この絵の男は……確かラマ…ロマ…なんとかという当時の魔法使いの頂点だった男だ。生きておるならばディアナ様どころかお前の虫ケラが魔力を見逃すはずが無い。私は興味の欠片もないから名前すら覚えておらぬが、死んでおるわ」

 ……アレクシア、あんたサラっと言うわね。

 でも確かにその通りだ。

 生きていたならば、ゼインが最初に弟子入りを望んだ人物になっていた可能性が高い。

 凄腕魔法使いで、何と言ってもこの容姿。

 くやし……


「あー…コホン…。ま、めちゃくちゃ美しい()()凄腕魔法使いだったってことよ」

 瞼をパチパチする二人に告げる。

 マカールは瞼をパチパチしながらも何かが頭に浮かんだらしい。

「まさか……ロマン…フラメシュ…?」

「え…誰それ。父さんの知り合い?」

「い、いや、ダニールとお前の名前もこの人物から取ったんだ。お前の婆さんがしょっ中〝かたわれかわりてまたここに…ロマン・ダニール・ザハル・フラメシュ〟とかいうまじないをよく唱えててな。双子だからどうだろうって。妻のカリーナも似たようなことを……」

 

 グビッグビッと喉を鳴らし、茶を流し込んだギリアムが言った。

「鍵の片割れ、見つけに行くっすよ。ザハールくんの体の陣……何か意味があるはずっす」

 …なるほど。

 これは面白くなって来たわね。

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