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愛の封印

「はー……これまたすごい数の……」

「屋敷妖精っしょ?」


 私とギリアムそしてうるさいアレクシアは、眠ってしまったマカールと、その息子の回復を待って例の屋敷に来ていた。

「ふーむ……。ここの妖精はちょっと変ね」

 顎に手をあてて呟けば、ギリアムが頷く。

「あ、やっぱり変なんすか?確か姉さん言ってましたよね。妖精が姿を見せるのは珍しいって……」

「あんたなかなか良い脳みそしてんじゃない。その通りよ。妖精は滅多に姿を現さないんだけど、()()()妖精はまた別なわけ」

「慣れた……ああ、人に慣れたってことすね」

 ギリアムの言葉に頷きながら考える。

 つまり、だ。

 この小部屋にいる大量の妖精は、相当程度の人間か、もしくは魔法使いを見慣れていると言うことだ。

 小部屋を出入りする相当数の魔法使い……



「ディアナ様〜!これなんて800年前の手縫のドレスですわ!守りの糸に…まぁぁ!15歳は若く見える〝時の糸〟…!」

 せっかくの思考が空気を読まない声に打ち消される。

「…アレクシア、とりあえずドレスは置きなさい。屋敷の主人の許可なく触るんじゃないの。…15歳って何の意味があんのよ」

「ええ〜…ですわ」

 口を尖らせながらドレスをクローゼットに戻すアレクシア。

 その様子を目を白黒させながら見ている人物が一人。

「あ、あの、本当に婆ちゃんは……」

「ああ、ザハールだったわね。遺された物を見るにつけ、間違いないわね。あんたのお婆さんだけじゃなくて、あんたの父親もあんたも魔法使いよ」

「!!」


 明け方目を覚ましたザハールは、軍の施設で行われていた事を洗いざらいゼインに語った。

 というか、ゼインの圧迫面接に負けて全部喋った。

 彼の話を聞いた結果、後のことは可愛い弟子に任せることにした。

 相手が人間だと分かった以上、私では上手い解決法が見出せない。


「……俺……まだ信じられない……」

 マカールそっくりの瞳を歪め、ザハールが呟く。

「ザハール……父さんだってそうだ。でもお前も見ただろう?一瞬でここまで移動する技といい、お前を助けてくれた技といい、我々が知らなかった世界が実は身近にあったんだ」

 マカールは随分と心の整理ができたらしい。

 色々と受け入れる準備を整えている…といった様子だ。


「ザハール…くん、何も心配する必要ないっすよ。俺もそうだった」

 項垂れるザハールの肩を、ギリアムがポンッと叩く。

「ギリアムさん……」

 そっか、ギリアムだって自分が魔法使いだって知ったのは大人になってからだったわね。

「少しずつでいいんだ。自分の体に感じていた違和感が解ける瞬間が来る。…みんな助けてくれるっす。ここにいる姉さん方は……たまに…いや常に……とんでもないっすけど」

 ……うぉい、どういう意味だそれは。


 ちっとばかり気に入らないが、ここでグズグズしていても仕方がない。

「マカールにザハール、あんたたちには仕上げをしてもらわなきゃならない」

「仕上げ…ですか?」

 マカールが首を傾げる。

「そうよ。この部屋の中に、屋敷にかけられた最後の封印を解く鍵がある」

「最後の…封印…?」「鍵…」

 親子の声が揃う。

「本来ならこの部屋に辿り着けたのもイレギュラーなのよ。ちょっとばかりうちのギリアムが優秀でねぇ……」

 チラッとギリアムを見るが、本人はよくわかって無いらしい。


「姉さん、屋敷にはまだ封印が残ってるんすか?」

「そうよ。あんたが解いたのは最終封印の前段階まで。……封印を解けば、必ず何かが現れる。考えてご覧なさい。あんたならどんな時に封印を施そうと思う?」

「どんな時に……あ、未来でそれを開く必要があるから…すかね。今は無理だけど、いつかその時が来たら……てな感じで」

「ご、ごうか〜く!!」

 

 ギリアムの髪の毛をワシャワシャ撫でていると、やりとりを聞いていたアレクシアが青筋を立てている。

「……先だって私が言うたであろう。誰にも解けぬ封印を施すなど愚か者のやることだと……!何をすっとぼけた顔してディアナ様に褒められようとしておるのだ!!」

「…あー……言ってたっすか?」

「たわけ、赤ムシ!この屋敷にはな、『血の封印』が施されておるのだ!ほんに忌々しいことよ」

「「血の…封印」」

 遠巻きに私たちを見ていた親子の声が揃ったところでパンパンッと手を叩く。

「要はグラーニンの血脈の人間以外は立ち入れないってことよ。さ、中に入って記憶にある限りの知恵を絞って鍵を探しなさい!」

「「は、はい!」」



 隠し部屋でガサゴソしだした親子を少し離れたところから見つめながら、私は改めてこの屋敷に足を踏み入れた時の事を思い出していた。

 間違いなくこの屋敷は幾重もの封印結界で保護されていた。そしてそれを実に最短の手順で解いた痕跡もある。解いたというよりは、綻びを見つけた…が正しい。

 ギリアムの耳がいい事は知っている。

 だけど耳がいいだけで何重にも施された封印の穴を見つけられるはずがない。

 ……竜の血……。

 竜が使うのは魔法ではない。霊力…神力……魔力よりももっと崇高な力。

 耳がいい…よく聞こえる…何を聞く?声…何の声…


「…姉さん、俺って何か変なんすか?グラーニンの血脈以外は入れないって……」

 右隣にそっとギリアムが立つ。

「そりゃ変でしょ」

「え」

「みんなと一緒でどうすんのよ」

「え?」

 ギリアムの方を向き、彼の目をジッと見る。

「ギリアム、あんた、魔法陣の構成を覚えてから魔力が邪魔になったんじゃない?」

「……よくわかるっすね。魔法陣の成り立ちを知ってから、不思議と世界が身近になったんす。雲の動きや星の巡りも、教科書的なことは理解してるんすけど、何というか……」


 言葉に詰まるギリアムの肩をポンポンと叩く。

「……私の知ってる竜はね、2種類いるの」

「2種類…?」

「そうよ。地上に落ちて魔に染まった…ミニ竜になる前のナナとハラみたいに、いわゆる魔物化した竜と、万物の声を聞き、世界の調和をはかる天の竜。天空を羽ばたき、決して地上の生物には手の届かない存在」

「天の……?」

「そう。調和というのは難しい概念よね。…そこに在る物を壊すことにも繋がる。分解し、再構築して…新しいものを創るの」

「…まるで魔法陣っすね」

 

 そう呟くギリアムの背中を撫でる。

「…あんたに出会えて光栄だわ。よかったら魔力の真髄を一緒に研究して頂戴」

「姉さんにも分からないことがあるんすか?」

 不思議そうな顔をするギリアムに思わず笑みが溢れる。

「そりゃそうよ!私の知識はあんたの見てる世界の〝真似事〟だもの。…あんたは肌感覚でわかったんでしょ?この屋敷に巡らされた封印が……」

 ギリアムが隠し部屋の2人を見る。

「…『血の封印』なんておどろおどろしいものじゃなくて、『愛の封印』の方が良くないっすか?」

 無表情で〝愛〟を口にするギリアムがおかしくて、私は彼の背中をバンバン叩いた。

「いった!いた!いたいっす!!」

「あっはっはっは!愛の封印……いいわね。素敵じゃない!」


 さてさて、隠し部屋の親子は鍵を見つけられるかしらねぇ……。

 背後でアレクシアが髪を逆立ててるから、なるべく早く頑張ってちょうだい。

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