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「いやー、よかったよかった!外で怒鳴り合ってた時はどうしたもんかと思ったよ」

「ニール……なぜ防音結界の中でのやり取りを知っている」

「え?ああ、こちらにはギリアムがいますから。一言一句漏らさず実況中継を………」

「………………。」

 私の弟子は粒揃いだとは思うが、どうにもタチが悪い。

「みんな真っ青だったんだよ?ゼインとディアナちゃんの喧嘩なんて、シェラザード跡形も無くなるんじゃないかって」

「………………。」

 勝てもしない相手に喧嘩など吹っ掛けないし、第一喧嘩をしたらショーンが就職活動してしまう。

 

 

 数分前、ディアナから貰った魔力を端末に充填しようと部屋に戻ってみれば、なぜかニールが半月のような目をしてニヤニヤしていた。

 その瞬間全てを悟った。……筒抜けだったと。

「だからちゃーんと僕も中継してあげといたからね!二人はラブラブ仲直りって!」

「!!」

 こいつは……!

 ニールとギリアムには結界の意味は無いのか!?だいたいいつも覗きはやめろとあれほど言っているだろうが!!

 ついでに何をどう勘違いしているかは知らないが、アレはおそらく魔女に伝わる何かしらの儀式だ。

 魔力吸収……交換……付与……的な何か。

 本当は端末に仕組みを取り入れる前に実験したかったが、ニールと…却下。ギリアムと……も厳しいし、ショーンにトラウマを植え付ける訳にもいかない。

 

「…なーんてね。嘘だよ。それどころじゃなかった」

 そう言いながらテラスに視線を送るニール。

 視線の先には結界から漏れ出る紫色の粒子。

 …クラーレットの魔力だ。

「……いつ戻った」

「あー……ゼインとディアナちゃんが熱い抱擁を………」

 ……ニール……お前覚えておけよ?寝る暇無い程の仕事を振るからな……。

「はぁ……。あれはそういった意味合いのものでは無い。いつも言ってるだろう。ディアナにとっては私は大勢いる弟子の一人に過ぎないと。子ども扱いもいいところだ」


「え、じゃあゼインさんにとっては違うんですか?」

 いきなりのショーンの割り込みに心臓が飛び出そうになる。

「ショ、ショーン!何を言っている!ディアナは師匠だ。お前も見ただろう!ディアナは誰にだってああだ!」

 ショーンが唇を尖らせる。

「えー?まぁ確かに僕もニールさんもヨシヨシされてましたけど……」

 ショーンの言葉にニールが一瞬赤くなり、そして青くなった。どういう感情の振れ幅だ。

「そ、そうだね。ディアナちゃんのハグに意味なんか無い無い!ふー…危ない危ない……」


 ショーンが可愛い顔に憂いを帯びて言う。

「……確かにディアナさんは僕たち魔法使いにとってはお母さんみたいな存在ですよね」

「う…うむ。その通りだ」

 あんな母親、心の底から嫌だが。

「でも人間の皆さんにとっては違うんですよね…」

「ああ…写真の件?」

 ニールがショーンに問う。

 写真とは何のことだ。

「それもあるんですけど、人間の皆さんからは、ディアナさんが本当に可愛い後輩に見えてるみたいなんです」

 は?

「サラスワの濾過装置の前でぼんやりしてるディアナさんを見て、社員が毎日一緒に報告書作ってましたよ」

「へえ、ディアナちゃんやるじゃん。そういう要領も大事だよね」

 要領だと……?

 真面目に報告書を提出するようになったと思っていたら、他の社員にやらせていたのだな……?


「でも手伝う代わりに、ネオ・アーデンに戻ったら一緒に食事に行こうって誘われてました」

「え、それってハラスメント案件なんだけど」

 ……人間が…魔女を誘う………?

「……怖いもの知らずが過ぎる」

 社員の末路を思い溜息をつきながら言えば、ニールが冷たい視線を送ってくる。

「…あのねぇゼイン?今回のリリアナ・プロイスラーの件は、その怖いもの知らずのせいで起きたんだからね!ネオ・アーデンに戻ったら10倍働いてもらうから!」

「…あ、ああ?」

 私が何をしたというのだ。

 仕事を振るのはこちらの方だろうが。



 暖炉の前でニールとショーンが交わす会話に耳を傾けながら、ニールの端末とショーンの端末に今しがたディアナから分けられた魔力を充填する。

 魔力の不思議とはよく言ったもので、ディアナから与えられた魔力はなぜか体内で溶けるように私の魔力と一体化している。

 ……という事は、ディアナがニールに直接魔力を分けても問題は無かった……かどうかは検証の余地無し。


 テーブルに置かれたギリアムの端末を手に持った時に、ふと気になることがあった。

「ニール、ギリアムはどこに行った」

「ああ、隣の部屋。こっちと同じように結界張ってくるって」

「結界……」

 今のギリアムには魔力がほとんど無い。あいつはどうやって結界を張ったり消したりしているのだろう。

 呪文の詠唱では魔法は発動しなかったはずだ。竜の血は魔法陣とは相性がいいのだろうか。

 ディアナは魔力について学べと言っていた。

 同じ魔力でも、分ければ年を取る魔力とそうではない魔力がある事は分かったが、どうやってそれを操るのだ。

 


 少し物思いにふけっていると、大きな声が聞こえて来る。

「わかったわかった!一緒にマカールの屋敷に行きましょ!ゼインは別行動!ね?」

「絶対ですわよ……?ディアナ様…私の目が黒いうちはあの虫ケラに指一本触れさせませんからね……!」

 お前の瞳はすぐに紫色になるだろう。何だ、突っ込み待ちか?

 ……本気で面倒くさい魔女だな。


「じゃあみんな、私とアレクシアでマカールの件引き受けるから」

「はいっ!?」

 ディアナの声に、ザハールのベッドの側に腰掛けウトウトしていたマカールが飛び起きる。

「では私たちで軍に潜入だな」

 私がそう言えば、ニールとショーンの顔に緊張が走る。

「そう心配するな。下見は済んでいる。目的も明確だ」

 彼らがいかにして体に魔を宿したのか……。

 私の中でいくつか仮説は立っているが、果たして結果はどうだろう。


「あ、ギリアムはこっちね」

 ディアナが側にやって来て突拍子もないことを言う。

「なぜお前にギリアムを貸さねばならん。ギリアムこそ潜入調査には適任なのだぞ」

「何言ってんのよ。私とアレクシアの細腕でどうやってマカールとザハールの面倒見るのよ」

 ……お前たち二人は最凶だろうが。ここにいる全員を足してもお前たち二人の足元にも……ああ、頭が最高に悪かったな。


「……仕方がない。ギリアム!」

 声と同時に思念を飛ばせば、壁の向こうからギリアムが出て来る。

「呼んだっすか?」

「ああ。ディアナとクラーレットがお前とマカールの屋敷に行きたいそうだ」

 そう言うと、ギリアムがやや白目になる。

「…なんだ?赤ムシ……。ディアナ様に対するその態度……!」

 お前だ、お前。

 ……すまない、ギリアム。


 思念を読まれたはずは無いのに、クラーレットから怒りのこもった何かが投げつけられた。

 足元に落ちたのは人形。目玉が飛び出て口が半開きの気持ち悪い人形が三体。

 なるほど、魔力を戻せということか。しかしどうやって。

「ギリアム、お前は…魔力が必要か?」

 そう問えば、ギリアムが頭を横に振る。

「無い方がいいっす。…できれば魔力が回復しない方法も教えて欲しいっす」

「魔力が回復しない……」

 ディアナと目が合う。

 わかっている。お前の流儀ではないことぐらい。

 だが今回だけ、急場しのぎで許せ。

 そう心の中で唱えながら、私はギリアムの心臓近くに、魔力で陣を一つ描いた。

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