入門
「で、結局『ペティナイフ』って何を目的とした組織なの?」
「・・・学校でそんな話しないで。
どこで話聞かれてるかわからないから」
「あ、そっか。
ごめんなさい」
お昼休み、私と林檎は昼食を食べながらそんなやり取りをしていた。
「何の話をしているの?」長身の女の子が声をかけてくる。
「え、田辺さん。
何の話って・・・えっと、その・・・」
私は嘘をつくのが下手だ。
それもあって林檎に『黙ってろ』と言われている。
しかし口ごもる事自体、余計に怪しい。
「そりゃあんまり人にペラペラ話せないよね。
『恋バナ』なんて」林檎がデタラメを言う。
「ちょっと!待ってよ!」
「ごめん、ごめん。
話しちゃダメだったよね」
林檎がバレないように私の爪先を蹴ってくる。
『話を合わせなさい』と。
「全くもう・・・リンちゃん言わないでよ~!」
良い!これぞ女子トーク!
私も『恋バナ』してみたい!
でも松本さんがどんな男の子が好きなのか気になる。
えーい!聞いちゃえ!
「松本さんの好きな男の子ってどんな感じの人なの?」と田辺さん。
「え?」
「ね?良いでしょ?
どんな人かだけ聞いたら個人特定とかはしないから!」
「そんなのじゃないよ!」
「もしかして松本さんの好きな人って女の子!?」
「な、何でそんな事思うの?」
「私、結構女の子に告白されるのよ。
私にそんな趣味はないけど、女子校だとそんな女の子もかなりいるみたいだから・・・」
良かった。
私が『元男子だ』ってバレた訳じゃないみたいだ。
というかバレる訳ないか。
「スーちゃんの好きな人は普通の男の子だよ?
小さい頃からスーちゃんの事を知ってるし、好きになった人の事も聞いてるけど女の子を好きになる訳がないよ」林檎がフォローしてくれる。
何故か私は傷つく。
「私の好きな人は・・・凄く面倒見が良い人。
どんな場面でも私の事を守ってくれる人・・・え!?何!?」
私が質問に答える前に、田辺さんがガバッと抱きついてきた。
「ごめんなさい。
もう可愛いすぎて我慢出来なかったわ!
『守ってあげたくなる女の子』って松本さんみたいな娘の事なのね!」
「!?!?!?!?!?」
「ホラ、スーちゃんも困ってるみたいだし、放してあげて?」田辺さんは普通にハグしたつもりなんだろうけど、私と田辺さんでは背丈に差がありすぎて私の頭は田辺さんの胸の間に挟み込まれた。
窒息しそうになっていた時、助け船を出してくれたのは林檎だった。
その時に私は田辺さんの首筋に蛇のような形のアザがある事に気付いた。
でも女の子だもんね、アザなんか隠したいよね。
私は田辺さんの首筋のアザに気付かないフリをした。
私にとって田辺さんは林檎以外で初めての女の子で親しくしてきた子だ。
「私、松本さんと仲良くしたい!」
「私も仲良くしたい・・・」差し出された右手を重ねて私と田辺さんは握手をする。
その光景を林檎は微妙な顔をしながら見つめていた。
「私は反対よ」帰宅した後、私の部屋に来た林檎が言う。
「一体何の話?」
「田辺さんの話よ」
「田辺さんがどうかしたの?」
「田辺さんと李桃があまり仲良くするのは反対だって話よ」
「え?
どうして?
林檎は『女友達を作るべきだ』って言ったじゃない」
「女友達は作るべきよ。
でもそれはあんまりベッタリした仲じゃないわ。
田辺さんは李桃とベッタリした仲になろうとしてる。
李桃、すぐに男に戻るつもりなのよね?
女の親友なんて作らない方が良いに決まってるじゃない」
「私は一人も親友は作るべきじゃないと!?」
「そうは言ってないでしょう?
冷静になって?
貴女には本来の男友達がいるのよね?
今、彼らは貴女の事を忘れているわ。
ナッツが行った事実改変の影響ね。
貴女が男に戻って男友達が貴女の記憶を取り戻したら、貴女が女の子だった時の知り合いがみんな貴女の記憶をおそらく失うわ。
つまり田辺さんは貴女の記憶を失うのよ。
仲良くなろうがならなかろうが田辺さんの記憶から貴女は消えるのよ。
いい?
深入りすべきではないのよ」
「・・・わかった」
「不服そうね。
良い傾向だとは思うけど」
「『良い傾向』?」
「気付いてないの?
貴女、以前なら『女の子と友達になろう』と思っていたかしら?
今、貴女、田辺さんに異性としての感情ないわよね?
純粋に『同性の友達』を作ろうとしたのよね?
貴女に言ったわよね?
『女の子を演じろ』って。
貴女は演じないでも素のまま女性になり始めているのよ。
貯まる『乙女パワー』も段違いに多くなってる。
今だったらきっと、ぬいぐるみを同時に数体召還出来るんじゃないかしら?
貴女の変化は魔法少女として望ましい傾向なのよ」
(その分、男からは遠ざかってるんだけどね)
林檎は頭に浮かんだ言葉を飲み込んだ。
「・・・で『ペティナイフ』がどんな組織か気になるんだったわよね?」
「うん」
「地球には魔力の素になる『魔素』が乏しい話はしたかしら?」
「うん、少しだけ」
「『ペティナイフ』も魔法少女が『乙女パワー』を魔力に変換しているように"他のモノ"を魔力に変換しているのよ」
「それは一体?」
「『恐怖の感情』よ
『ペティナイフ』は人々を恐怖に陥れる事で、魔力を得ているの。
だから特定の"何か"を目的に『ペティナイフ』が暴れているワケじゃないわ。
暴れる事で魔力を得ているのよ」
「じゃあ『ペティナイフ』の伯爵と一緒にいた戦闘員は?」
「アイツらの事『コバンザメ』って言ったわよね?
アレ、別にアイツらを侮辱しようと思って言った訳じゃないのよ。
アイツらの"処世術"が『コバンザメ』そのものなのよ」
「どういう事?」
「『コバンザメ』ってサメなんかにくっついて食べ残しをもらったりする魚よね?
アイツらは『ペティナイフ』にくっついて、店主が逃げ出した商店なんかから金品を奪ったりするのよ。
ペティナイフはそんなモノ全く興味はない。
必要なのは『恐怖の感情のみ』
だけど戦闘員が人々に与える『恐怖の感情』はペティナイフにとっても必要なモノなの。
逆に戦闘員達にとって『恐怖の感情』なんて不必要なモノなのよ」
「つまり共存共栄の関係?」
「そう言う事。
まあペティナイフにとっては『別に邪魔にはならない存在』くらいの存在みたいだけどね」
「ペティナイフはそんなに魔力を貯めて何をするつもりなの?」
「それがわからないのよ。
シナモンに聞いてもハッキリしなかったわ。
色々説はあるらしいけど。
"魔力で動く装置に大量の魔力を流し込もうとしている説"
"魔人、もしくは魔神を復活させようとしている説"
"大量の魔力を暴走させて強力な爆弾にしようとしている説"
色々言われているけど結局は仮説でしかないし、説の根拠もないのよ」
「あともう1つ知りたい話があるんだよ。
『四天王』って・・・」
「あぁ、実は四天王って"本当に四人いるか?"わからないのよ」
「どういう事!?」
「今のところ確認されてる四天王は二人。
『ドルトムント伯爵』と『シュツットガルト侯爵』ね」
「じゃあ何で『四天王』って?」
「本人達が名乗ってるから」
「そうですか」
「中でも『ドルトムント伯爵』だけ登場頻度が高いのよ。
だから日本に住んでるのは二人だけ、埼玉県に住んでるのは『ドルトムント伯爵』だけなんじゃないか?なんて言われてるのよ。
もちろんそんな説には強い根拠はないんだけどね。
でも『"ドルトムント伯爵"という男は私達の近くにいるに違いない』と私もシナモンもにらんでるのよ。
ドルトムント伯爵のアジトに踏み込んだら、ドルトムント伯爵はいつもみたいに逃亡する事はできない。
しかも組織、四天王の秘密が何か掴めるかも知れない」
「ずっと気になってたんだけど『組織』の名前って・・・」
「知らないわ」
「やっぱりか!」
「とにかく私達、魔法少女は全てを知らなさすぎる。
敵が現れて、逃げられて、の繰り返しよ。
少しでも敵を知る事が事態を進行させる事になると思うわ」
「私は事態の進行にはあまり興味がないんだけれど・・・」
「敵を追い詰めて、逃げられて・・・を繰り返して大きな成果を挙げずにズルズルと十数年魔法少女をしていた女性が確か存在したわね。
先代の『マジカルピーチ』・・・」
「ドルトムント伯爵をアジトに追い詰めて、アジトを殲滅して大きな成果にしましょう!
それで早く魔法少女を引退しましょう!」
「そうね。
でもドルトムント伯爵を倒すには貴女は実力不足よ」
「具体的に何が足りていないの?」
「『全て』ね。
少しマシなのが『防御力』ね。
『攻撃力』に関しては"皆無"と言っても良いわ。
小さなぬいぐるみ一体しか出せないんじゃ話にならないわ」
「どうすればいいの?」
「方法は貴女の頭の中にあるのよ。
『大きいぬいぐるみを出す』
『沢山ぬいぐるみを出す』
『今いるぬいぐるみをバージョンアップさせる』
色々考えられるけど、正解は貴女の頭の中にしかない。
ただ、1つだけ言える事があるのよ」
「それは何?」
「貴女には『圧倒的に"乙女パワー"が足りていない』っていうこと。
貴女はナッツの作った設定を"悪意"と受け取ったのよね。
でもあの設定もこなせない魔法少女が"乙女パワーを得る"とか笑い話にもならないわ」
「・・・私だって魔法少女になりたくてなった訳じゃない」
「私だってそうよ。
魔法少女なんてなりたくてなった訳じゃない。
だから必死で魔法少女を辞めるためにもかいてるのよ。
貴女にはその必死さが圧倒的に足りてない」
「・・・・・」
「貴女に私の"運命共同体"になってくれる気が少しでもあるなら、甘い考えを改めて。
・・・厳し目の事を言ってしまってごめんなさい」
"事態の進行に興味がない"と私が言った後、林檎の態度が急変した。
「私、何か林檎を怒らせるような事を言った?」
「別に。
李桃は色々考えて無さすぎるよ」
「考えているつもりだけど・・・」
「だったら李桃の運命が私の運命に直結している事もちゃんと考えてる?」
「・・・・・」
「私の事はまあ良いわ。
李桃がどうやったら早く男に戻れるかわかってる?」
「魔法少女として実績を残せたらだよね」
「その通り。
どうやったら実績は残せるの?」
「魔法少女として強くなったら・・・かな?」
「どうやったら強くなれるの?」
「"乙女パワー"を貯めるんだよね?」
「そう。
どうやったら"乙女パワー"が効率良く貯まるのかわかる?」
「わからない・・・」
「私も良くわからなかったわ。
でも元々女性じゃなかった李桃を見ていてわかったわ。
ナッツは李桃にBLアニメを見せた・・・そうよね?」
「うん・・・思い出したくないけど・・・」
「おかしいと思ったのよ。
BLを見る事が"乙女らしさ"と直結する訳がない。
では何故ナッツは李桃にBLアニメを見せたのか?
あの時点で李桃は"元男性"であると言う事実にしがみついていたわ。
ナッツは李桃に"女性しかしない事"としてBLアニメを見せたのよ。
つまり"乙女パワー"を上げる事は"男性であること"からかけ離れる事よ!」
「わからない・・・。
具体的に何をすれば良いの?」
「そう難しく考えなくて良いわ。
やるのは『男だった事を忘れる事』『男に戻る事を諦める事』『女としての生活を受け入れる事』『男に恋する事』よ」
「そんなバカな!?」
「私もバカな話だと思う。
でもそれ以外に李桃が実績を残して男に戻る方法はないわ」
訳がわからない。
『男に戻るために、男に戻る事をあきらめろ』と。
『男に戻るために、男だった事を忘れろ』と。
『男に戻るために、女としての生活を受け入れろ』と。
『男に戻るために、男に恋をしろ』と。
「李桃が本当に"乙女パワー"を貯めたいなら私は協力するわ。
でも『程々にやりたい』と言うなら、私は李桃と袂を別ちたい。
李桃が未熟な内は私はサポートするつもりだったわ。
でもいつまでもこのままなら私はサポートしきれない」
そりゃそうだろう。
敵はこちらの命を狙ってくるのだ。
林檎だって本当は自分の事で精一杯のはずだ。
いつまでもお荷物なら私と一緒に行動したくはないだろう。
「わ、わかった」
「信じて良いのね?
これからは李桃の事を今まで以上に『女友達』として扱うわよ?」
「頑張るよ!」
「言葉遣い!」
「頑張る・・・わよ?」
「何で疑問系なのよ」
「すぐに言葉遣いは変えられない・・・わよ」
「まあ言いわ。
早速だけど変身してみなさい」
「え?何で?」
「特訓しなきゃ。
早く実績残して引退したいんでしょ?」
「わかりました!
ご指導ご鞭撻お願いします!」
私は魔法少女に変身した。
「じゃあぬいぐるみを出してみて」と林檎。
「わかった」
私は魔法陣を練り上げてその中からテディベアを誕生させた。
テディベアがよちよち歩き私の前にやって来る。
そしてテディベアは勢い良く私の胸目掛けてジャンプする。
私は胸の前でテディベアを抱き抱える。
抱き抱えられたテディベアは心なしかどや顔に見える。
「じゃあもう一体、ぬいぐるみを出してみて」と林檎。
「え?そんな事出来るの?」
「出来ないかも知れない。
でもパワーアップは必須よ。
色々パワーアップの方法を模索しましょう」
「わかった」
私はテディベアを胸に抱きしめながら、もう1つ魔法陣を生み出す。
魔法陣の中から今度はカエルのぬいぐるみが
飛び出す。
カエルはオモチャみたいな弓矢を持っている。
カエルの胸にはテディベアと同じようにプレートが付いている。
プレートは名札になっているようだ。
名札には『アーチャー』と書かれている。
「アーチャーって事は矢が撃てるの?」と林檎。
「わからない」と私。
だってわからないんだからしょうがない。
突然アーチャーが林檎の部屋の台所からリンゴを持って来た。
「林檎だからリンゴなの?」私はしょーもない事を林檎に聞く。
「知らないわよ。
だいぶ前にお母さんが買ってきたモノだから。
因みに私はあんまりリンゴは好きじゃないわ。
味も好きじゃないし、散々名前の事で子供の頃からかわれたから」
林檎はリンゴが嫌い、と。
好きだったらちょっと萎びるくらい置いておかずにすぐ食べるよね。
アーチャーがピョンとジャンプして私の頭の上にリンゴを置く。
「あ、わかった。
ウィリアム・テルだ。」
アーチャーは3メートル程離れたところから、私の頭の上のリンゴを狙う。
主人の頭の上のリンゴを射るくらいだから、弓矢の腕には相当自信があるのだろう。
心配する必要はないな。
・・・とは言え、やっぱりちょっと怖い。
危険はない、と思いながらもスリルは感じるモノだ。
その最たるモノがジェットコースターだろう。
びびっている私の頭の上目掛けてアーチャーが矢を放つ。
気のせいか?
矢が私の眉間のあたりに飛んで来てないか?
気のせいじゃないよな?
明らかにリンゴに向かっては飛んでないよな?
あ、私、死んだわ。
急所に矢が刺さったわ。
避けられない!
避けられる身体能力はない!
私には目を瞑る事しか出来なかった。
"カン!"
何者かが弓矢を弾き落とす。
弓矢を弾き落としたのはテディベア『ガーディアン』だ。
そうか。
ガーディアンは私に対する攻撃を全て防御してくれるんだ。
しかし何なんだ!?
この『アーチャー』ってカエルのぬいぐるみは!?
私を殺す気か!?
何事もなかったように林檎が言う。
「まだまだ使い物にならないわね」
「そのうち使えるようになるの?」
「おそらくね」
「それはどんな根拠で?」
「私が最初に使えるようになった植物の力って『薔薇』だったのよ。
その後『豆の木』が使えるようになったわ。
でも最初の『豆の木』は腰くらいの高さくらいしかなかったのよ。
何が足りなかったかわかる?」
「訓練じゃない?」
「違うわ。
私が『豆の木』を自在に使えるようになったきっかけを教えるわね。
ズバリ『恋』よ。」
「"恋"?」
「中学生で私が魔法少女になったばかりの頃、私は"ただの幼馴染み"だと思っていた男の子に対して、恋心を抱いている事に気付いたのよ。
気付いた途端に『豆の木』が使えるようになったのよ。
つまり『豆の木』は訓練で使えるようになった訳じゃない。
"乙女パワー"を得て使えるようになったのよ」
「・・・・・」
私はそれどころじゃない。
林檎に恋心を抱くような幼馴染みがいたのだ。
確かに林檎の幼馴染みは私だけじゃない。
私と林檎に共通している幼馴染みも何人かはいる。
私は林檎の家の隣に住んでいるだけだ。
中学生時代、私は林檎とは疎遠になっている。
その間に林檎が誰かに恋をしていても何も不自然じゃない。
いや、小学生の時だって誰かに恋をしていたのかも知れない。
私は単なる異性の友達だったのだから、それを知らなくても何も不思議はない。
あぁ、そんな話は林檎の口から聞きたくはなかった。
男に戻ったとしても私は脈なしなんだろう。
何のために男に戻るのだろう?
「李桃?
李桃!?
聞こえてるの!?」
「あぁ、ごめんなさい。
恐怖でフリーズしちゃった」
「まあ弓矢が自分に向かって飛んできたら恐怖を感じるのはわかるけど、敵と闘ってたらこのくらいのスリル、日常的に感じるからね!
李桃も覚悟を決めなさい」
「わかったよ」
「とにかく"乙女パワー"を貯めないとアーチャーはポンコツのままだと思うわ。
ペティナイフと闘うためにも更に女の子らしくならないと、ね」
「"女の子らしく"と言われても具体的に何をすれば良いやら・・・」
「私は"乙女パワー"、"女の子らしさ"を手に入れるために茶道部に入ったわよ?
李桃なんて私なんかより、まだまだ女の子らしくなる余地があるんだからやることなんてよりどりみどりじゃない?
結局は『やりたくない』ってプライドが邪魔してるだけでしょ?」
「わかったよ!
何でもやるよ!
ただ何をやれば良いかわからないから林檎が指示してね!」
~次の日~
「何?この格好?」
「何でもやるんじゃなかったの?」
「何でもやるよ!
でもこの格好で何をするの?」
「李桃には部活に入ってもらいます」
「えー。
今まで帰宅部だったのにー」
「李桃は"女の子らしさ"を身に付けると同時に新しい身体の使い方を覚えるために"身体を使う"部活に入るべきよ」
「"身体を使う"って運動部!?
文化部にしてよ!」
「敵と命懸けで闘わなきゃいけないのに『身体を動かしたくない』って許されないわよ!」
「わ、わかったよ・・・。
でもどんな部活をやれば良いかも、どんな部活があるかもわからない・・・」
「じゃあ、いくつか私がお勧めする部活を挙げるわね」
「よろしく頼むね」
「じゃあお勧めの部活をいくつか挙げるね。
『新体操部』
『バトントワリング部』
『チアリーディング部』」
「え?他には?」
「この3つしかお勧めはないけど。
ここから選びなさい。
自分じゃどんな部活が良いかわからないのよね?」
選んでくれ、と言ったのは私だ。
3つの中から選ぶしかない。
まず『新体操部』
うん、出来る気がしない。
元の身体でも側転くらいしか出来なかったし、慣れない身体で飛んだり跳ねたり出来る気がしない。
『バトントワリング部』
これも経験なしでは厳しそうだ。
『チアリーディング部』
これも飛んだり跳ねたり出来ないと厳しそうだ。
でも『女性版応援団』的な性格がありそうな気がする。
高校に入ってから応援団に所属したって話聞いた事がある。
それに甲子園の応援のチアリーディング部とか『甲子園出場が決まってから急造で編成された』なんて話も聞いた事がある。
チアリーディングならなんとかつとまるんじゃないかな?
「じゃあチアリーディング部で・・・」
「・・・意外ね。
まさかチアリーディング部を選ぶなんて。
ウチの学院のチアリーディング部、全国大会に出るような強豪よ?」
「え?」
「でもまあ一人も知り合いがいない部活よりはチアリーディング部は良いのかもね」
「チアリーディング部に誰がいるの?」
「え?
知らなかったの?
チアリーディング部にはスポーツ特待生枠で入学した田辺さんがいるのよ」
「田辺さんって、ウチのクラスの田辺さん?」
「そう、あの田辺さん。
手足が長くて、田辺さんって背丈も高くて見栄えがするよね。
まあ"女性らしい"というよりは"カッコいい"って感じで李桃が学ぶべきモノは少ないとは思うけど。
でも知り合いがいるのは心強いよね!
田辺さんも李桃と仲良くなりたいみたいだし。
それに李桃は私以外の女友達を作るべきだと思うのよ。
田辺さんはうってつけなんじゃないかしら?」
~翌日、放課後・第三体育館にて~
さすが私立高校、スポーツにも力を入れているし体育館の数も多い。
第六まで体育館があって、室内競技の部活は交代で体育館を使っているんじゃなくて毎日体育館を使って練習しているようだ。
第三体育館は半面がネットで仕切られている。
半面はバドミントン部が使っていて、もう半面はチアリーディング部が利用している。
体育館ではチアリーディング部の面々がストレッチをしている。
普段からチアユニフォームは着ていないらしい。
全員がジャージ姿だ。
「ちゅうもーく!」
私を連れている部長が大きな声をあげて、こちらに注目が集まる。
40人くらいだろうか?
全国常連の部活、という割には部員が少ない、のかな?
全員が引き締まった肉体をしている。
あっ!田辺さんがいる!
ちょっとビックリしている。
私が来るのは予想外なのだろう。
「ちょっと時期外れだけど、今日は新入部員を紹介しまーす!
それでは自己紹介どうぞ!」
「ま、松本李桃です。
全くの未経験ですが、衣装が可愛くて憧れました。
運動神経はそんなに良くありませんので、皆様の足を引っ張る事もあるかとは思いますがよろしくお願いします!」私は林檎と一緒に考えた自己紹介のセリフを口にした。
「キャー!」「可愛いー!」色んな方向から黄色い声が上がる。
「コラー!静かにー!新入部員が萎縮してるよー!
質問があるなら一つずつ、ゆっくりね!」部長が部員達を制する。
「松本さーん、趣味は~?」いかにもギャルって感じの部員が質問する。
「趣味ですか?
ゲーム・・・」ちょっと待て。
これは『女の子らしくなるための修行』なのだ。
ここで「ゲームとマンガが好きかな?」とか言っても修行にならないんじゃないか?
「趣味はぬいぐるみ集めです」
まあ設定通りだよね、ウソはついていない・・・と思う。
「ぬいぐるみ集めだってー!」
「イメージ通りー!」
「かーわーいーいー!」黄色い声が再び上がる。
ようやく自己紹介が終わって、集まっていた部員達が練習に戻った。
全員がいなくなったはずなのに、そこには一人だけ部員が残っていた。
田辺さんだ。
「松本さん、チア部に入ったんだ!」どうやら田辺さんは歓迎してくれているようだ。
「うん、これからよろしくね!」
「たしかチア部のユニフォームに憧れたんだっけ?」
「う、うん。
不純だったかな?」
「まさか!
チア部のユニフォームに憧れて、入部する子多いのよ?」
「良かった。
でも全くの素人だけど良いのかな?」
「良いに決まってるじゃない!
大会に出るにはハードルが高いかも知れないけど、他の部の応援なんて真面目に練習してたら経験なんてなくても大丈夫よ!
・・・とは言え、どの程度身体が動かせるか見せてもらうわね!
いまからかける音楽に合わせて身体を動かしてみて?」
「『身体を動かす』?」
「簡単に言えば即興でダンスをするのよ。
でも大袈裟に考えないでよ!
ホラ、こんな風に・・・」
田辺さんが旧式のコンポをいじくりかなり前に流行った曲、『LOVE&攘夷』をかける。
田辺さんが跳ねるようにダンスする。
私もそれに習って身体を動かす。
「い、『井森ダンス』!?」
説明しよう!
『井森ダンス』とはかつての『伝説のアイドル』がオーディションで披露した、とされる幻のダンスだ。
それにインスパイアされた球団マスコットが完全コピーしたことで知られているぞ!
(ここまでダメダメだとは思わなかった・・・。
これは強敵だ!)田辺さんは冷や汗を流す。
「それじゃ、柔軟体操から始めようか?」と田辺さん。
私は長座で前屈してみる。
「ひっ!軟体動物!?」
「そんな大袈裟な・・・」
「大袈裟じゃない!
身体が柔らかい人は他にも沢山いるわ。
でも、松本さんはそんなレベルじゃない。
まるで元々『折り目』がついていたみたいよ!
『前屈』というよりは『二つ折り』みたい!」
「じゃあ次は開脚してみて」
私は田辺さんに言われた通り伸脚のまま、足をパカッと開いた。
「ま、松本さん!
貴女、股割り出来るの!?」
私の足は横に一直線、180°に開いていた。
「やった事なかったけど、出来るみたい」
「やった事ないって体育の授業で『開脚前屈』くらいしたことあるでしょう!?」
「さ、さあ。
どうだったかな?」私ははぐらかして答えた。
「・・・まあ良いわ。
じゃあ、足を開いたまま前屈して?」
私は足を開いたまま、前にペタリと倒れた。
「貴女"柔らかい"なんてもんじゃないわね・・・ビックリ人間レベルよ」
「まさか」
「いいえ、身体を柔らかくする訓練を全くしないでこの柔らかさは異常よ!
テレビに出たりしてる"軟体人間"いるじゃない?
あれ、猛特訓してるからね!」
そんな事言われてもこの身体でちゃんと身体を動かすのは初めてだ。
この身体がどの程度、身体能力があるのかなんて私自身も知らない。
そう言えばナッツが言っていた。
『君の身体を魔法少女として活動出来るように作り変えた』と。
それは男から女に変えただけじゃないらしい。
魔法少女として活動出来るように身体能力にも変化させたのだ。
ここにきて林檎の言った『身体に慣れるために部活に入れ』の意味がやっとわかってきた。
身体能力が上がっても"身体を使った事がない""身体の使い方を知らない"じゃ全くの宝の持ち腐れなのだ。
「もしかして、だけど・・・今まで一度も真面目に身体を動かした事ない?」と田辺さん。
「・・・うん」
「自分の身体能力を全く知らない?」
「・・・うん」
「・・・じゃあ、まずは"ランニングの仕方"からレクチャーしましょうか?」
「はい、そうしてもらえると助かります・・・」
男の身体の時、軽いランニングくらいした事がない訳じゃない。
でも、今の身体の使い方なんて全く知らないし、子供の頃から無意識で使っていたならいざ知らず、いきなり女性の身体にされて"さぁ動いてみろ"と言われても訳がわからない。
それに身体が男の身体のままだったとしても、今までまともに運動もした事がなかったのにいきなり"闘え!"と言われても『とりあえず運動するところから始めさせてよ』と言いたくなる。
こうして私は"田辺道場"に入門したのだった。




