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失恋

 ピッピッピッピッピピッピピッピピッピピッ・・・

 目覚まし時計が鳴る。

 女の朝は本当に面倒臭い。

 最初のうちは5時起きだった。

 別に髪の毛ボサボサで学校に行っても良かった。

 でもそれをしたら必要な『乙女パワー』が貯まらない。

 敵と闘うために再び地獄のようなBLアニメを見なきゃいけない。

 もう二度と男同士のくんずほずれずを夜な夜な見たくない。

 洗顔してリビングへ行く。

 両親が私を出迎える。

 「おはよう、スーちゃん!」

 「おはよう、ママ」

 「おはよう、李桃」

 「おはよう、パパ」

 恥ずかしいなんて言ってられない。

 照れれば"乙女パワー"は貯まらない。

 貯まらなければ、私はBL地獄だ。

 もう一度、寝る間もなくBLアニメを見させられる。

 それ以上に嫌な事、恥ずかしい事なんて存在しない。


 「おはよう、お姉ちゃん」

 「おはよう、ナッちゃん」

 もう妹を『ナッちゃん』と呼ぶ事に抵抗はない。

 「早く朝ごはん食べて、支度済ませちゃいなさい。

 リンちゃんが来ちゃうわよ!」

 と母親(ママ)が言う。

 リンちゃんというのは林檎の事だ。

 林檎は毎朝私を迎えに来る。

 林檎は最初のうち出かける前の私の格好をチェックしてくれていた。

 最初のうち、私は林檎にダメ出しされまくりだったが、今は林檎は迎えに来ているだけだ。

 「学校ては私を『リンちゃん』って呼びなさいよね!」

 「何で?」

 「そんなモノは設定を作ったアンタの使い魔に聞きなさいよ!

 私達は『リンちゃん』『スーちゃん』って呼び合う事になってるのよ」

 「なんかリンスインシャンプーみたいだね」

 「何か言った?」

 「いや、何にも」


 学校での私は無口だ。

 無口を演じている。

 喋ったらボロが出るからだ。

 私は『深窓の令嬢』だと周りに思われている。

 本当は単なる地方公務員の娘だ。

 『令嬢』と言うなら、ベンチャー企業の偉いさんの娘である林檎の方がよっぽどお嬢様だ。


 私は学力は並みだ。

 並みだと思っていた。

 でも超高偏差値お嬢様女子校に入ってしまうと最底辺だ。

 英語などペラペラで当たり前、「何ヵ国語しゃべれます?」と日常的に聞かれる。

 そんな中で『飛び抜けたお嬢様』を演じなくてはいけない。

 ・・・無理だ。

 四大財閥の娘より『箱入り娘』を演じなくてはいけないのだ。

 小学生時代、ハナをたらして「♪うーんこ、うんこ、うーんこ、うんこ・・・」と大声で歌いながら登下校していた私がお嬢様だ。

 授業は何にもわからないけど、とにかくノートは取る。

 背筋は伸ばす。

 定期試験でバカは発覚するだろうが、それまでに男に戻れば問題ない。


 「スーちゃんってワイルドな食べ方だよね」学友に言われる。

 「え?

 どうして?」

 「弁当箱に口つけてかきこんでるじゃん。

 他の仕草はエレガントなのに」

 え?

 それってダメなの?

 弁当箱は女の子らしい。

 燃費の良い身体になったから大きい弁当箱だと困ってしまう。

 ただ弁当を30秒で食べ終えるのがおかしいらしい。

 『お嬢様は普通、犬喰いしない』と。

 抜けているところはあったが概ね私はお嬢様だと思われていた。

 不審に思われるような所は林檎がフォローしてくれた。

 私と林檎はいつも一緒にいるせいか仲良しだと思われていた。

 本当は林檎、私と一緒にいたくないんだろうな。

 私が魔法少女として一人立ち出来ていないから、林檎は私と一緒に『上尾市』と『川越市』の治安維持につとめていた。

 本当であれば林檎は川越市だけがテリトリーのはずだ。

 上尾市は私のテリトリーだ。

 だが林檎は私の教育係として行動を共にしてくれている。


 林檎の部屋に入るのは小学校の時以来だった。

 私の家にはナッちゃんとママがいる。

 いつ、家族に見られるかわからない状態で魔法少女にはなれない。

 林檎の家には誰もいない。

 林檎の父親は単身赴任しており、母親は今、父親の単身赴任先に行っている。

 つまり林檎の家には今、林檎と私、そしてお互いの使い魔しかいなかった。

 私は何をして良いかわからなかった。

 「魔法少女って具体的に何で攻撃するの?」

 「決まってないのよ」

 「?

 どういう事?」

 「魔法少女は"空想の力"で戦うのよ。

 何を空想するかは"魔法少女次第"ってワケ」

 「つまり武器も攻撃手段も私の妄想で決まるって訳?」

 「妄想って・・・。

 言い方は悪いけどその通りよ」

 「具体的にどうすれば良いの?」

 「先ずは得物を決めないと」

 「『得物』?」

 「武器の事ね。

 李桃の思う『強力な武器』を脳裏に浮かべるのよ」

 「わかった。

 私が考える武器は・・・と」

 私は頭の中で武器を想像したつもりだった。


 「何これ?」と林檎。

 「ぬいぐるみだね」

 「これが武器?」

 「いや、武器と言ったら真っ先に"クマのぬいぐるみ"が思い浮かんだんだよ。

 ホラ、クマって無茶苦茶強いじゃん?」

 「重火器でも何でも武器に出来るのによりにもよって『ぬいぐるみ』か」

 ぬいぐるみが地面の中に溶けるように消える。

 結局、誰もぬいぐるみがなんなのかわからない。

 「マズったかな?

 だ、だって『"可愛いモノ"を常に思い浮かべておけ』って話だったじゃん!

 "可愛らしさ"が乙女パワーになりやすくて、乙女パワーが魔法少女を強くするって!」

 「マズったかどうかはぬいぐるみを闘わせてみないとわからないよ」フォローのような事を林檎は言うが、林檎の表情は明らかに失望している。

 『二人とも取り敢えず魔法少女に変身したら?』そう言うのは林檎の使い魔"シナモン"だ。

 シナモンは白いイタチのような小動物風だ。

 シナモンとナッツは微妙な距離感だ。

 川越市を担当するシナモンと上尾市を担当するナッツは同じコンビニのスーパーバイザー同士みたいな関係らしい。

 "同僚でありながらライバルでもある"

 そんなライバルに何故力を貸すのか?

 "同僚"の上司は同一だからだ。

 上司に「ナッツとマジカルピーチに力を貸せ」と言われたら、シナモンには逆らう術も理由もない。

 それに何だかんだ言ってマジカルアップル、林檎は面倒見が良い。


 私と林檎は魔法少女に変身する。

 私の衣装はピンク色で、林檎の衣装は赤色だ。


 「取り敢えず『ぬいぐるみ』でどうやって闘うのよ?」と林檎。

 「取り敢えず『ぬいぐるみ』を出すね」

 私はぬいぐるみを目の前に呼び出す。

 "召還"とでも言うのだろうか? 

 地面に白い小さな魔法陣が浮かび上がる。

 その魔法陣から膝位の背丈のクマのぬいぐるみが浮かび上がる。

 「だからこのぬいぐるみでどうやって敵と闘うのよ?」呆れ声で林檎が言う。

 「わかんない」

 「"わかんない"って!」

 ぬいぐるみのクマが声を荒げる林檎から私を守るように手を広げて仁王立ちした。

 「ふざけないで!

 そんな操り人形に何の意味があるのよ!」

 カッとした林檎が私をドンっと押そうとした。

 そんな林檎の腕をクマのぬいぐるみが払い退けた。

 「は?」林檎は間抜けな声をあげた。

 もう一度林檎は私を押そうとした。

 林檎の腕をもう一度ぬいぐるみが払う。

 偶然じゃない。

 ぬいぐるみが私を守っているんだ!


 「確かにぬいぐるみは防御手段にはなるみたいね。

 でもぬいぐるみは攻撃手段になるのかしら?」

 「どうなんだろうね?」

 私は別に突き放すように言った訳じゃない。

 わからないものは"わからない"と答えるしかない。

 「全く李桃は・・・」

 ちょっと待て。

 林檎は私の事を『李桃』と呼んでいる。

 人目があるところでならわかる。

 私が『桃李』なのを知っている人物は林檎しかいない。

 でも二人きりの時に『李桃』って呼ぶ必要ないじゃないか。

 もしかして林檎は私の事を"男"だと、『桃李』だと思ってないんじゃないか?

 いや、今の私は男じゃないんだけど。

 『二人とも大変だ!

 川越市の薬師神社にペティナイフが現れたよ!』とシナモンが言う。

 「え?

 そんな事わかるの?」と私。

 「使い魔はその魔法少女の担当地域で何かが起こったらすぐにわかるんだよ。

 つまり、シナモンは川越市でトラブルが起きたらすぐにわかるんだよ」と林檎。

 「・・・って事はナッツは・・・」

 「ナッツは上尾市でトラブルがあったらすぐに感じ取れるのよ」

 今回は川越市で起こったトラブル。

 私に参加する義務はない。

 でも私は林檎と行動を共にしたい。

 林檎にはもっと色々な事を教えてもらいたい・・・というのもある。

 しかし、林檎と離れたくない理由は別にもある。

 私は子供の頃から林檎に恋憧れていたのだ。

 私の望んだ形ではない。

 でもどんな形であれ林檎のそばにいたい。


 「それじゃあ薬師神社に向かおうよ!

 ・・・それより、魔法少女ってどうやって移動するの?

 電車?バス?タクシー?」と私。

 「魔法少女が公共交通機関を使える訳がないじゃない!

 タクシーなんて使ってたらお金がいくらあっても足りないわ!

 魔法少女は個人事業主、請求書はどこにも出せないわよ!」

 「事業って・・・営利目的で魔法少女ってやって良いの!?」

 「利益目的じゃなくても魔法少女活動を継続するためにはある程度の金銭が必要なのよ。

 スポンサーを得るためにもペティナイフを討伐して名声を得ないと!」

 「『名声を得てスポンサーを付ける』って言っても魔法少女の存在も正体も秘密なんでしょ?

 どうやってスポンサー料金を受け取るのさ?」

 『そのためにもボク達の"組織"はあるんだよ。

 確かに君達の存在は公には秘密だ。

 おおっぴらに君達がスポンサーから金銭を受け取る事は出来ない。

 だが、スポンサーが組織の覆面企業を通して金銭を振り込む事で・・・』

 「マネーロンダリングじゃないか!

 私は何でコソコソしなきゃいけないの?」

 『魔法少女が正体を知られたらマズいでしょ?

 家族や友達が人質に取られても良いの?』

 「うっ!

 それは良くないけど・・・。

 悪い事してないんだから堂々としたいなあ。

 と、そうだ!

 『移動手段』の話だった。

 どうやって魔法少女は目的地に移動するの?」

 『使い魔には"魔法少女"を目的地に移動させる能力があるんだよ』

 「使い魔に力があるなら魔法少女に闘わせないで使い魔が闘えば良いじゃない」

 『使い魔に出来るのは"魔法少女のサポート"だけだよ。

 戦闘能力は全くないんだ。

 それにもし使い魔が闘って魔法少女だけを残して命尽きたら君達も困るだろう?』

 「確かに。

 それに役目を終えたら魔法少女を引退させてもらう約束も頓挫しちゃうしね」

 『そうそう。

 そういう訳だから今回はシナモンとボクとで、敵が出現した場所に君達を転送するね!』

 「ちょっと待って!

 心の準備が!」私がそう言った時には、気付くと私達は神社らしき鳥居の前に私と林檎は立っていた。 

 「使い魔はあんまりこちらの都合とかは考えないわよ。

 そのくせ『魔法少女の都合を考えているつもり』なのが始末に悪いのよ。

 本当に『無自覚』って質が悪いわよね。

 私も最初は本当に困ったわよ。

 いきなり敵の真ん中に転送されたり・・・。

 李桃も慣れるしかないわね」

 「それよりその『李桃』って言うの・・・」

 「何?

 名前を呼んでるだけじゃない。

 学校じゃちゃんと『スーちゃん』って呼んでるでしょ?

 学校から帰っても『スーちゃん』って呼んで欲しいの?」

 「ううん、そうじゃないよ。

 だって林檎、子供の頃は私の事『桃李』って呼んでたよね?

 急に私の事『李桃』って呼ぶようになったから・・・」

 「見た目も性別も変わっちゃったし。

 目の前で着替えたりとかもしなきゃいけないから『女の子』としてちゃんと受け入れなきゃって。

 それに趣味も性格も言葉遣いも『女の子らしく』しようと頑張ってるんだから私もちゃんと女の子扱いしてサポートしないとダメじゃない?」

 確かに林檎に全く悪気はない。

 それどころか親切心でサポートしてくれている。

 林檎は昔から面倒見が良くて優しい女の子だ。

 私はそんな林檎に惹かれたんだ。

 好きになった女の子に"異性として"見られていない、当たり前だ、今は同性なんだから。

 最初のうち林檎は私を『同性として』意識しようと努力していたように思う。

 しかし今は心の底から私を同性として考えているようだ。

 その証拠に私の前で着替えるのに全く抵抗がないようだ。

 それに全く興奮しない自分にもショックだが、好きな女の子に全く意識されていないのもショックだ。

 そもそも私はまだ林檎に惚れているんだろうか?

 自分の気持ちがよくわからない。


 色々考えていると頭がおかしくなりそうだ。

 その思考を断ち切るように林檎が小さく叫ぶ。

 「気をつけて!

 来るわよ!」

 「『来る』?

 何が?」私はポカンとするしかなかった。


 「来たな、魔法少女『マジカルアップル』!」

 長い漆黒のマントを身に纏い、身体には真紅の軍服を着ている。

 頭には軍帽をかぶり、足には膝まである長いブーツを履いている。

 いかにもサイコパワーを使いそうな格好だ。

 「あらわれたわね!

 ペティナイフ四天王『ドルトムント伯爵』!」林檎と男は火花を散らす。

 完全に私は二人の眼中にはない。

 しかしドルトムントはないでしょ。

 サッカーチームみたいな名前だ。

 ドイツに怒られてしまえ。

 ドルトムント伯爵の周りには、戦闘員らしき黒い全身タイツに目出し帽の男達がいつのまにか群がっている。

 エラい事だ!

 多勢に無勢、リンチされてしまう!

 そんな私の焦りを感じたのか林檎が私に言う。

 「大丈夫、マジカルピーチ、貴女は私が護るわ!」

 何この男前・・・、思わずキュンキュンしてしまった。


 林檎には「敵の前では『林檎』と呼ぶな。『マジカルアップル』と呼べ。私も李桃の事を『マジカルピーチ』と呼ぶ」と言われている。

 「敵に素性、正体をバラすのは愚かな事だ」と。


 マジカルアップルの身体がどこから現れたかわからない薔薇の花に囲まれる。

 薔薇の花びらが一斉にまき上がりマジカルアップルの姿が見えなくなる。

 花吹雪が止んだ時、マジカルアップルの姿はそこにはなかった。

 マジカルアップルの姿は遥か上空にあった。

 飛んでいる訳じゃない。

 マジカルアップルは『ジャックと豆の木』みたいな巨大なツル植物の葉の上に立っていた。

 「相変わらずの『植物を操る能力』だな!」とドルトムント伯爵。

 解説ありがとう。

 マジカルアップルは植物を操る能力があるらしい。

 ツル植物のツルが戦闘員達を拘束していく。

 あ、コイツら雑魚すぎる。

 別に"対魔法少女"ではないのか。

 攻撃してくるつもりなら、真っ先に飛びかかってくるか。

 ドルトムント伯爵にもツルが一斉に襲いかかる。

 しかしドルトムント伯爵は戦闘員とは違いツルに拘束される事はなく、長いマントで軽くツルをはね除けた。

 ドルトムント伯爵はツルをはね除けたついでにマントでマジカルアップルに攻撃を仕掛けた。

 「危ない!」

 私は咄嗟に叫んだ。

 マジカルアップルが敵の攻撃に対して何の対策もないわけがなかった。

 マジカルアップルの前にサトイモの葉のような大きな葉っぱが並ぶ。

 おそらくこの葉っぱが敵の攻撃を防ぐ盾なんだろう。

 "おそらく"と言ったのは実際にはそれらが盾になることはなかったからだ。

 実際にドルトムント伯爵のマント攻撃を防いだのは私が召還したクマのぬいぐるみだった。

 ぬいぐるみの首にはネックレスになっているネームプレートがぶら下がっている。

 ネームプレートを読む。

 えーと『ガーディアン』?

 『ガーディアン』がこのクマのぬいぐるみの名前なのか?

 ずいぶんごっつい名前だ。

 改名は改めてすれば良い。

 「『ガーディアン』、お願い!

 マジカルアップルを護って!」私はぬいぐるみにダメ元でお願いする。

 『ガーディアン』は"了解"とばかりに右腕を上げる。

 再びドルトムント伯爵はマントでマジカルアップルに攻撃を仕掛けてくる。

 今回の攻撃はマントが変形して大きなトゲのような形になっている。

 『ガーディアン』はそのトゲを真っ正直から受け止める。

 激しく火花が散る。

 マントも布、ぬいぐるみも布、火花が散る意味がわからない。

 わからないが確かに火花が散っている。

 「二対一では分が悪いようだな。

 ここは一旦退こう」そう言うとドルトムント伯爵はマントを翻した。

 すると既にそこにはドルトムント伯爵の姿はなかった。

 「追いかけなくて良いの?」と私。

 「どこに逃げたかわからないのに追いかけられないわよ」と林檎。

 そりゃそうか。

 「今回は『李桃に攻めがない』事をドルトムント伯爵は知らなくて、勝手に警戒して逃げてくれたから良かったわ。

 戦闘が長引いて全てがバレるのはこちらにとって得策じゃないから、追いかけられても追いかけないわよ。

 今回はなんにしてもマジカルピーチを抱えて本気で闘う気はなかったわ。

 アレで百点、思っていた通りの成果があがったわ!」マジカルアップルがよしよしと私の頭を撫でる。

 「こ、子供扱いしないでよ!」

 「あら、ごめんなさい。

 あまりにも可愛らしいからつい・・・」

 男らしさを発揮したら"乙女パワー"はたまらない。

 女の子らしくしていたら林檎に更に"女の子として"扱われる。

 どうすりゃいいのか?


 「それはそうとこの拘束してる戦闘員どうするの?」

 「そこら辺に転がしておけば当局が勝手に連行するわよ。

 コイツら、ペティナイフの構成員じゃなくて普通の人間だからね」

 「え!?人間なの!?」

 「そうよ、終末思想に取り憑かれた頭のおかしいテロリストね。

 ペティナイフのコバンザメみたいなもんよ。

 悪く言えば寄生虫ね。

 中にはテロリストを躊躇なく殺す魔法少女もいるみたい。

 でも私は殺さない。

 罪を償わせる。

 その結果死刑になったとしても。

 コイツらを裁くのは法よ、人じゃない。

 正義は人それぞれ。

 そもそも正義のために魔法少女をやってない人も多いのよ」

 なるほど。

 私も正義のために魔法少女をやるんじゃないし。

 『何のために魔法少女をやるのか』と聞かれたら、自分のためと答える。

 自分が男に戻るために魔法少女をやっているんだ。

 「今日は家に戻りましょう」

 「え、どうやって?」

 「ここに使い魔を呼ぶのよ。

 シナモンは川越市全体をモニタリングしているのよ?

 私が『仕事が終わったから迎えに来て』って頭の中で呼び掛けたら迎えに来てくれるわよ」

 「『迎えに』ってどうやって?」

 「シナモンが自分自身(シナモン)を転送させるのよ。

 転送させるモノは魔法少女に限らないわ。

 大がかりな作戦の時には作戦に使う装置を転送する事もある。

 ここまでシナモンに"転送"で来てもらって"転送"でシナモンと一緒に自宅まで帰るのよ」

 「もし誰かに"転送"を見られたら?」

 「見られない場所に転送する必要があるわね。

 "転送"する前に魔法少女に変身しておくのがコツよ。

 私も転送先で何度か人に見られているけど、魔法少女に変身さえしておけば『どこからともなく魔法少女が現れた』って噂になるだけだから。

 正体がバレなきゃ転送先で見られてもどうって事はないのよ」

 「帰る場合はそうはいかないんじゃない?

 家にナッちゃんやママがいる可能性は高いし。

 変身してようがしてまいが、魔法少女が私だとバレようがバレまいが、家の中に人が突然転送されて来たら家族はパニックになるよね?」

 「それは確かに・・・。

 じゃあ私も李桃も帰る時の転送場所は私の部屋にしましょう。

 私は基本的に独り暮らしみたいなモノだし、もし両親が帰って来てたとしても一人っ子で"子供のプライバシー"とか言って滅多な事では私の部屋には入って来ないから。

 ・・・それより早く帰りましょう!」

 私は急かされて林檎の部屋に転送された。


 本当に使えない連中だ。

 しょうがない。

 異能も何もない普通の人間なのだから。

 しかしおじいちゃんは偉大な大宇宙の伯爵だったかも知れない。

 お父さんも偉大なおじいちゃんの血を引く"ペティナイフ"の大幹部、四天王だったんだろう。

 でも私は宇宙の事なんて何にも知らない。

 何で自分が"伯爵"って呼ばれてるか、何で伯爵が六畳一間のアパートに住んでるのかわからない。

 だいたい私は大幹部の血は1/4しか継いでいない。

 ほとんど日本人なのだ。

 正式な本名は田辺"ドルトムント"梢。

 日本人の血が強すぎるのかクウォーターだとバレた事はない。

 唯一のクウォーター要素は『背が高い』と言う事だ。

 私は身長が170センチ以上ある。

 そして父親は背が低いのが悩みの種だった。

 だから父親から受け継いだブーツは『シークレットブーツ使用』だ。

 私はブーツを履くと一見180センチ以上あるように見える

 軍服には分厚い肩パッドがついている。

 軍帽にはアップにした髪を入れている。

 

 説明しよう、三代目ドルトムント伯爵は男装の麗人なのだ。

 三代目ドルトムント伯爵は埼玉県内の女子校に通う高校生なのだ。


 「今日もマジカルアップルは可愛かったなー。

 いいなー、羨ましいなー」

 説明しよう、三代目ドルトムント伯爵は可愛らしいモノに対する憧れが強いのだ。


 「今日何か新しい魔法少女が来てたなー。

 凄い可愛かったなー。

 クラスの松本さんみたいな可愛い女の子だったなー」

 説明しよう、三代目ドルトムント伯爵は李桃や林檎と同じクラスなのだ。

 説明しよう、三代目ドルトムント伯爵は凄い鈍感で『マジカルピーチ』が松本李桃だという事に全く気付いていないのだ。


 「というか、アイツら何なの?

 不気味なアイツらがついてくるせいで余計にドルトムント伯爵が怪人チックに見られちゃうじゃん!」

 説明しよう、三代目ドルトムント伯爵は確かにペティナイフの四天王だが、別に現地で戦闘員を募集していない。

 テロリストが勝手にドルトムントについてくるだけなのだ。

 テロリストが生きようが死のうが、ドルトムントは痛くも痒くもないのだ。

 「私も可愛らしくなりたいな・・・。

 クラスメイトの松本さんみたいに。

 松本さんは内気で伊藤さん以外とはあんまりお話しないみたいだし仲良くなれないかな?

 ううん!

 弱気になっちゃダメよ!

 何なために貧乏なのに私立のお嬢様高校に特待生枠で入学したのよ!?

 もう男女扱いされたくないからでしょ?

 お嬢様高校で『女らしさ』を学ぶためでしょ?

 決めた!

 明日、松本さんに話しかけて見よう!」


 場所は変わって林檎の部屋。

 変身を解く林檎と私。

 二人は光に包まれるとセーラー服に戻った。

 「それじゃ、私はウチに帰るから・・・」

 「少しぐらいゆっくりしていきなさいよ。

 ちょっと話もしたいし」

 「それじゃ、ちょっとだけ・・・。

 ママが心配するからあんまり遅くまではいられないけど」

 「おばさんも過保護よね。

 これだけ可愛い娘がいたら、わからないでもないけど。

 ・・・それじゃ、要点だけまとめて話すわね。

 今日見たのが魔法少女の宿敵『ペティナイフ』の四天王の一角、ドルトムント伯爵よ」

 「四天王って事は・・・」

 「そう、あれみたいなのがあと三人いるのよ。

 それより強い存在がいるとか、いないとか。

 私はまだ見た事はないけどね」

 「そうか。

 やっぱり闘う事になるんだ・・・。

 もっと強くならなきゃな・・・って何してるの!?」

 「何って・・・部屋に帰ってきたらルームウェアに着替えるのは普通じゃない?

 いつまでも制服姿でいる方が変でしょ?」 

 「そうかも知れないけど普通、私が見ている前で着替える!?」

 「何よ?

 学校で体育の前、散々私の着替え見てるでしょ?

 私も今さら李桃の着替えを見ても、着替えを見せても何とも思わないわよ。

 それともクラスメイトの田辺さんの追っかけの女の子達みたいに同性を『王子様』扱いしてキャーキャー言いたいの?

 止めときなさい、キャラじゃないわよ」

 林檎は少し前「"乙女パワー"を貯めるために女らしくしろ」って言ってたじゃないか。

 だから私は少なからず"女らしさ"を演じていたつもりだった。

 そう言えば前は林檎に『女らしくしろ』と注意を受けていた。

 だが最近は『キャラじゃないから止めろ』と注意を受ける。

 もう林檎の中で『女らしいのが当たり前』になっているのだ。

 『演技が板に付いてきた』と喜ぶべき事かも知れない、が素直に喜べない。

 で、私が女性の性を意識する事など『あり得ない』と林檎は笑い飛ばしている。

 それじゃあ田辺さんに群がる女の子達、百合百合しい女子校ならではの一過性の麻疹(はしか)みたいなモノと一緒だ、と。

 李桃はそうじゃないでしょ?と。

 何てことだ。

 いつの間にか林檎は私を完全に同性の友達として見ている。

 いつの間にか私は失恋している。  

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