表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

前編

 これは、たこす様主催の「だ~れだ企画」に提出した作品に加筆修正したものです。

 前後編で、後編は7/3朝の更新になります。

 タイトルバナーは秋の桜子さまから、前編に挿入されている影絵はアホリアSSさまから、それぞれいただいたものです。

 挿絵(By みてみん)


 トライア王国が誇る魔術学園の卒業式で、今、前代未聞の珍事が起ころうとしていた。

 この学園は、優秀な魔術師を育成すべく王国の進んだ魔術体系を教えるために設立されたものである。

 魔術師の素養を持たない者は貴族であっても入学できないが、その代わり、素養があれば平民でも入学できる。

 魔術師になれば将来安泰なので、素養のある者はこぞって入学してくることとなった。

 また、王国の先進性を誇示するため、周辺国の王侯貴族からも留学を受け入れている。そのため、留学生が将来それなりの役職に就いた時のための顔合わせ的な面も持っていた。



 そして、今日は各国の重鎮も列席した卒業式だ。

 卒業生代表として壇上に登ったウイリアム王子は、卒業のあいさつやら今後の抱負やらの代わりに、突然、婚約者への婚約破棄をぶち上げた。

 よく見ると、背後に半分隠れるようにして小柄な少女がひっついている。

 婚約破棄には付き物のヒロインだ。

 髪色は安定のピンク、家柄は男爵家。きっちり基本を押さえてきている。


「お前は、このキャンディの教科書を隠し、制服を破り、・・・・・」


 はっきり言って、集まっている人間の99%には関係ないのだが、王子は気付かない。

 正に自分に酔っている風情で文句を並べ立てた。それはもう滔滔と。

 周囲の呆れた顔など目に入っていない。鈍感というのは幸せなものであるらしい。


「そういうわけで、アマンダは王妃にふさわしくない!

 よって、私はアマンダとの婚約を破棄する!」


 王子以外の全員の顔に、「卒業生代表のあいさつ、どこいった?」と書いてあったが、王子は上機嫌でスルーしていた。まったく、鈍いというのは幸せである。

 ちなみに、アマンダはヤーマン公爵家の令嬢であり、王子と同い年であるため卒業生の列に並んでおり、反論のしようもなかった。彼女は、わざわざ他の生徒をかき分けて壇上に登るほど厚顔無恥ではなかったのだ。

 司会進行役が予想外の珍事にオロオロしていると、来賓として列席していた隣国バイカン帝国の王太子ベリアルが立ち上がり、ウイリアム王子の前へとやってきた。

「殿下、ご高説は承ったが、この件、陛下はご存じなのですかな?」

「無論だ。

 自分の婚約者くらい、自分で決める!」

 王子は思いっきりドヤ顔で言い切った。

 他国の王族、それも王太子を相手にこの横柄な態度、周囲の面々の顔には「あわわ…」と書いてあった。そして、皆「絶対、陛下に言ってない」と確信していた。

 が、もちろん、そんなことを口に出せる勇者はいなかった。


 いや、いた。一人だけ。


「一国の王子がこのような公の場で声高に宣言したのだ、たとえ陛下がご存じなかったとしても、もはやなかったことにはできないが、よろしいな?」


 王太子は、そう言って、ウイリアム王子に確認した。

 周囲の関心は婚約破棄などではなく、王子の世迷い言の方に行っていたが、そこを指摘できる者もまたいなかった。


「ほかに、言っておきたいことはありますかな?」

 王太子に問われ、興が削がれた王子は、「いや、言うべきことは既に言った」と答える。こうして、卒業生代表のあいさつは、卒業と全く関係ない婚約破棄宣言で終わった。


「では、せっかく壇上にいることだし、このまま来賓としてあいさつしてもいいだろうか?」


 王太子は、司会に尋ねた。

 式次第はとっくの昔にグダグダだったが、それでも進めないわけにもいかない。司会はありがたい申し出に、一も二もなくうなずいた。


「卒業する諸君、君達は、それぞれの国の未来を支える重要な立場にある。

 この国で生きる者、祖国へ帰る者様々だが、いずれの国もきっと君達を必要としていることだろう。

 それぞれの立場から、祖国の繁栄を支えてほしい。

 前途に苦難もあるだろうが、学園で学んだことを糧に頑張ってほしい。以上だ」


 王子のあの(・・)あいさつの後だけに、まともなあいさつが身に染みたが、最後の一言に大いに不安をかき立てられた者も多かった。

 その多くは、「あの王子が王になったら、確かに苦難の連続だよなあ」といったもので、本当の苦難の意味を理解している者は僅かだったが。


 式次第が終わると、王太子は人をかき分けて(実際は海が割れるように人が避けたのだが)、アマンダの元へと向かった。

 そして、目の前にひざまずいた。

「アマンダ嬢、このようなことになった以上、この国であなたに新しい縁談は難しいでしょう。

 祖国を捨て、我が妻となってはいただけないでしょうか」

挿絵(By みてみん)


 アマンダは、しばらく目を閉じて考えた後、「はい、お受けします」と答え、王太子にエスコートされて会場を出て行く。

 こうして、波乱の卒業式は無事? 終わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 99%の出席者が白けたり、動揺する空気が痛いほど伝わってきました。 >実際は海が割れるように人が避けたのだが モーゼな王太子(笑)
[良い点] わー! 前後編ですね!! [気になる点] >本当の苦難の意味を理解している者は僅かだった なるほど。ココに加筆で、分かりやすくしたのですね! 理解してたのは、アマンダと各国の重鎮に数人…
[良い点] とても残念な空気が流れている婚約破棄の現場(笑) 素敵バナーに影絵の差し込み位置もいい(≧∇≦)b 後編も楽しみ〜♡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ