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閉鎖的な関係

絶望のベピーピンク

作者: 西埜水彩

 今日は小学校の卒業式、私は当たり前のように一人で帰る。


 姉は大学かバイト、もしかしたら社会人として普通に働いているかもしれない。両親は今何しているのか分からない。


 ということで卒業を祝ってくれるどころか帰りを待ってくれる家族なんていないことになって、私はいつもと変わらず帰宅してから、また出かける。


 空のランドセルを背負ったまま、目当ての家にあるインターホンを押す。当然のことながら反応は無し。


 私は手慣れたように合鍵を使い、家の中へ入っていく。


「みち、ただいまー」


 返事はない。いつものようにある部屋の中へ入り、そこにしてある丸まった布団を蹴飛ばす。


「おはよう。学校はいいんか?」


「今帰ってきたところやねん。あっラジオもつけてへん」


 もぞもぞと動き始めた布団のかたまりを無視して、CDラジカセの電源をつける。


「もう学校から帰ってきた? うそやろ、いつの間に午前終わってるんや? 学校終わったってことはもはや夕方かもしれへん」


 布団を飛ばすようにしてみちは座り、ラジオを見つめる。


 どうやらこの様子だとよっぽど夜更かししたのか朝起きることができなかったかして、私が来るまでずっと寝ていたみたいだ。


「今日は卒業式やったから、午前中だけやってん。ところでご飯はまだ食べてへんな」


「そりゃ今起きたばっかりやし。えっ今日卒業式やったん? 卒業おめでとー」


「お祝いありがと。今からご飯作るね」


 ランドセルを床に置き、台所へ向かう。


 うどんのめんとつゆを用意して、適当に野菜をいくつか切る。これらを全て煮てからうつわに盛り、卓袱台の上に運ぶ。


「みちー、ご飯できたよー」


「分かったー」


 髪の毛を整えながらみちがもそもそと出てきて、ご飯を二人で食べることにした。


 ラジオ番組の楽しそうな話し声を聞きながら、私とみちは黙って食事する。


「そうや。小学校卒業したから、ランドセル返すね。今までありがとう」


 私はうどんの麺を冷ましつつ、必要なことを淡々と話す。


 先月ランドセルをクラスメイトに壊されたので、みちから借りたランドセルを今まで使っていたんだ。


 あっ流石にランドセルを壊されたって話自体かなり大きな問題になったから、あれ以降は何も起きていないよ。


 前に使っていたランドセルが赤で、今使っているランドセルがベピーピンクだから色が全く違う。そこでいくら家族が私のことを気にしなくても、先生は気にしていたし。


「いーよ、いーよ。あれ使わないでほっといただけやし。もしいらんかったら、捨ててもええから」


「かわいい色やから捨てるのはもったいないねんけど、そういえば使えることあらへんな」


 淡いピンクで私服でもつけたくなるほどの可愛らしいデザイン。だけどいくらかわいくたって小学校を卒業してから、ランドセルを使うことはないので、捨てる以外ないかもしれない。


「ていうかなんでみちはランドセル置いといたん? みちが小学校を卒業してから何年か経ってるやん」


 確かみちは中学校も卒業しているはずなので、小学校時代に使っていたランドセルなんて本当なら処分してしまっていてもおかしくない。


 それじゃあなんでみちはランドセルを残していたのだろうか? そこが気になる。


「もしぼくがこんなかわいい物を好きになれるような女の子やったら、もっと幸せに生きられたのにな、という後悔を忘れんように置いとったんや」


「別にそんなことあらへんと思うけど。私はかわいい物好きやけど家族に可愛がられることあらへんし」


「そうやろうな。それにぼくももう見捨てられちゃったから、これからかわいい物好きな女の子になっても遅いし」


「お金もらえるだけましやん。生活に困らへんし」


「そやな。家族なんておらんくても、お金があればいいか」


 本当はそうじゃないってことを分かりつつも、私とみちは本音とうどんを飲み込む。


 世間的にはいわゆる子供に分類されるであろう、みちと私。普通なら親か保護者が世話をしてくれるはずだけど、そんなことはなくて、お金しかもらっていない。


 そりゃあ貧しいよりはましかもしれない。一応欲しいものを買えて、食べたいものを食べることが出来て、幸せかもしれない。


 それなのに寂しさだけがなぜか消えない。たまに見る幸せそうな親子連れが羨ましくって仕方ない。


「そうや卒業祝いに夕ご飯おごったる。どこ行きたい?」


「うーん焼肉とかどう?」


「それええな。久しぶりに学園前のあそこ行こー」


「そうやな。遠いけど」


「遠いからええやん。電車とバスで」


 親に見捨てられた私達はそんな夕ご飯のことを話しながら、うどんを食べていく。相変わらずラジオからは楽しそうな話し声が聞こえて、雰囲気は暗くない。


 家族が私達を例え見てくれないとしても、私達はお互いを見放さない。それだけで今は幸せだ。


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