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グリフの森に行く朝。ジャン王太子から話を聞く為に気合いが入る春香です。
部屋に戻り乗馬用のワンピースに着替えてエントランスに向かうと廊下でエリックさんに会った。どうやら私を迎えに来てくれたようだ。エリックさんと雑談しながら集合場所に向かう。
集合場所には皆さん集合していてミハイルさんが走ってくる。ミハイルさんは開口一番謝ってきた。
リリアン様とのサロンの事だ。ミハイルさんはレイシャル代表で来ている。リリアン様が何を話しかは陛下に報告義務がある。だから謝る事ないのに…
「ミハイルは陛下に報告義務があるんでしょ?だから謝らないで…」
「ハル…」
ミハイルさんは強く抱きしめてくる。
「っち!」耳元でミハイルさんが舌打ちした。
顔を上げるとミハイルさんの背後にジャン王太子がいてミハイルさんの肩を掴んでいる。
「ミハイル殿!そろそろ出発故、春香嬢を離しなさい」
ミハイルさんが腕を緩めると私の腕を掴み馬の方に歩いていく。王太子は1歩が大きいく足が早い。自ずと私は走らないとついていけない。
『痛い…』王太子は力も強く掴まれた腕が痛い。
急に王太子が止まった。息が上がり顔を上げると目の前にアレックスさんがいる。
「ジャン王太子殿下。春香嬢の腕を離していただきたい」
「アレックス殿何故だ。俺は春香嬢を馬に案内している。邪魔をするな!」
「恐れながら春香嬢はこの世界の女性より小柄で弱い。殿下の様な大柄な男性が掴み引っ張ればついていけないし、掴まれた腕は痛むでしょう。春香嬢を妻にと望むなら彼女をよく見て差し上げて下さい」
ジャン王太子は振り返り私を見て驚いた顔をして、慌てて手を離しポケットからハンカチを取り出して私の額を拭いた。
「すまなかった。体格差が有るのを失念していた」
「…」
ジャン王太子は屈み私を抱き上げ馬に向かう。アレックスさんの横を過ぎる時に、王太子は小さく恐らく私とアレックスさんにしか聞こえない声で
「アレックス殿。忠告感謝する」と
アレックスさんも私も驚いた。てっきり注意され逆ギレするかと思ってた。
『殿下はお優しく愛情深い…』リリアン様の言葉を思い出した。身分関係無く素直に謝れる人は信用できる。少しジャン王太子の印象が変わった。
王太子殿下が騎乗する馬の前に来た。『大きい…』他の馬よりひと回り大きい馬がいた。王太子は私を馬上に座らせ自分も騎乗する。
馬はゆっくり歩き出しアレックスさんとリリアン様が騎乗する馬に並んだ。
リリアン様の熱を持った視線を王太子に送り、王太子は愛おしそうにリリアン様をみる。
準備が整いコールマン侯爵様とエレックさんが先頭てグリフの森の中に入っていく。
「貴女の国の女性は貴女の様に皆んな小柄なのか?」
「勿論大きい方も私より小さい方もいます。私は標準体型です」
「そうか…本当にすまなかった。しかしアレックス殿は春香嬢を大切に想っているのだなぁ。貴女の事をよく見ている。反省したよ。貴女を娶ると豪語したのに、貴女をしっかり見ていないし知ろうとしていない…」
「失礼ですが殿下は想い方がいらっしゃるのでは⁈」
「!!」
王太子を見上げると顔を赤らめ動揺している。
「貴女は愛らしいだけで無く頭がいいようだ。その通りお慕いしている女性がいる。しかし、俺が王になる為にはアンリ王女か貴女を娶らねばならぬ。
そこで頼みがある。かりそめでいい!婚姻後半年したら離縁する故妻になって欲しい。この婚姻は”白き婚姻”であるとヴェルディア王家で証明しよう」
王太子は必ず次期王になる必要性を話し出した。王太子の父(元王)はテクルスの異常信者。ローランド殿下がレイラの加護を受け生まれてからレイシャルは豊になり、それによりゴラスはレイシャルとの友好はより深くなる。更に次期女王ハンナ王女とシュナイダー公爵家との縁談が有力視され、このままいくと今までのゴラスとの縁が弱まる事を懸念し王女との縁を急いだが王女があれだから…
「父上の執着するのは自分の代だけゴラスから妃を娶れなかった事だ。ゴラスの元女王の妹君に求婚したが断られ、次に公爵家令嬢に求婚しようとしたが、既にレイシャルの男性と婚約済みだった。歴代王太子の中でゴラスの王女を妃に迎えなかったのは父上だけでそれがコンプレックスになっている」
なるほどね…だから王太子には自分と同じにならない様にアンリ王女との婚姻に拘ったんだ。アンリ王女との縁談が難航するところにいい具合に私が登場か…テクルス様!タイミング考えようよ…
「父上はヴェルディアはテクルスを信仰しているのに加護がなく、信仰していないレイシャルにテクルスの乙女が現れた事に嫉妬しているのだ…
俺の代でその異常なまでのテクルスへの拘りを断ち切りたい」
ふと王太子を見上げると真剣な眼差しに彼の決意を感じた。銀色が言ったみたいにジャン王太子なら、ヴェルディアを変えるかもしれない。
「身内の恥を晒すが父上は全てテクルスに結びつける。良くない事は国民の信仰が足りないと教会の礼拝を義務付け、吉報が届くと国を挙げてテクルスを讃え祭りを行う。何があってもテクルスでご自分で政り事をしないのだ。見かねた母上が祖国のガルバン皇国へ俺を留学をさせてくれた。父上の様にぬらないようにと…」
「お母様はゴラスの人では無いのですか?」
どうやらゴラスから嫁取りが出来なかった元王は、隣国のガルバン皇国の皇女を妻に迎えた。ガルバン皇国は多宗教だがテクルスを信仰している者も多い。ジャン王太子は従兄弟にあたるハイネス王太子と共に学び親交を深め自給率の低いヴェルディアはガルバンから穀物を輸入し、代わりにヴェルディアで採れる光石をガルバンに輸出する事をハイネス王太子と約束したそうだ。
ちなみに光石とは鉱山から採れる光を蓄える石で、電気やガスが無いこの世界の照明の役割を果たしている。光石は日中に太陽の陽を当てると半日光を放つ。光石は採掘してから拳大の物で約2年、大きくなるにつれ保つ年数は増える。城の大広間にあるような大きな物は20年近くもつらしい。各国自国で採取出来るが自国をまかなえる程は採れないようだ。ヴェルディアは光石が採掘出来る鉱山を多くを有しているが、元王がゴラス以外の輸出を認めなかったらしい。ジャン王太子は何かにつけてゴラスを優先して偏った政務を行う元王と側近を引かせ、国民が豊かな生活を送れる国を目指しているそうだ。ガルバン以外の近隣国にも短期留学し友好国を増やしている。
「ジャン王太子殿下…私にそんなネタバレして大丈夫ですか?」
「俺は人を見る目はある。貴女は信用できる。明確な根拠はないが俺の味方になってくれる気がする」
「買いかぶり過ぎだと思いますが…」
「では!言葉を変えよう。俺の妃になるのが嫌なら何か知恵を貸してくれ!」
「ぷっははは!何その理屈!」
「俺は至って真剣だ」
大きな目を見開き熱く語る熊…もとい、王太子に協力してあけだいと思った。
「俺が王になればヴェルディアを改革する。それには王にならねばならぬ。しかし国の中枢を担う者は父上と同じくテクルス絶対信者が多く、テクルスの花嫁を娶らねば王になれない。故に貴女を攫ってでも王になる」
「私が攫われるとレイシャルが大変な事になるのでやめてほしいです。何か打開策があるはず…少しお時間下さい。考えてみます」
「貴女は何故そこまで俺の為にしてくれるのだ。俺に気が…」
「それは無い!殿下か成されようとしている事は正しいと思うし、想う方と幸せになって欲しいから」
本当は銀色を介しテクルスの頼みだけど、それは言わない方がいい気がしたのでやめておこう。
アレックスさんの馬が近付き
「もうすぐ着くぞ」
さぁ!グリフ達と対面する。無事に終わるといいけど…
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