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少し話が進みます
「殿下からですか?」
クロードさんが手紙を届けてくれた。記憶がおかしな日から7日経った。とうとう町屋敷に戻って来ての催促だろう。殿下にしては我慢できた方だ。いやもしかしたら私はお役御免かもしれない。
クロードさんがいい笑顔でペーパーナイフを渡してくれる。これは『早く読みなさい』だ。
美しい筆跡で時候の挨拶から始まり私の体調を気遣われていた。次の一文に息をのむ。2日後に国王主催の舞踏会が開催されるそうだ。是非参加して欲しいと書かれていた。やった!貴族と会えるチャンスだ。『ん?2日後?』
「クロードさん。殿下から2日後の舞踏会のお誘いです。これって直前に招待されるものなんですか?」
「いえ。国王主催の舞踏会は数ヶ月前から決まっております。春香様の体調を考慮しての事でしょう」
「是非参加したいのですが、レイモンド様は許して下さるでしょうか⁈」
「ちょうど今執務室にいらっしゃいます。ご自分でお聞きになっては?」
クロードさんかついて来てくれる事になった。
あの日から屋敷の皆さんは凄く過保護だ。相変わらずあの日の記憶はまだぶっ飛んだままだけど体調はいい。それにそろそろ町屋敷に戻ってもいいと思っている。私の為に大改築してるのに申し訳ない。
レイモンド様の執務室をノックすると許可が出て入室する。アビー様もいらっしゃった。
「お仕事中お邪魔してすみません。今お時間いいですか?」
「あぁ…構わないよ。クロード。春香にお茶とケーキを出してくれ」
「畏まりました」
「春香の訪問は陛下主催の舞踏会の事かぃ?」
「はい。殿下からお誘いの手紙をいただき、体調も悪くないので参加したいのですが…ダメですか?」
「分かった。いいよ。私にも陛下から春香を参加させる様に手紙が来ていたからね。当日はミハイルにエスコートさせよう」
「はい。ありがとうございます。えっとレイモンド様はダンスされるのですか?」
「妻のアビーとは踊るが何故だい?」
「ドレスのお礼にならないけど、一緒に踊れたらって思って。マナー的に大丈夫ですか?」
レイモンド様はフリーズしている。やはりパートナー以外と踊るとかダメなのかなぁ…
「レイモンド!よかったわね!春香ちゃん駄目じゃないから、是非レイモンドと踊ってあげてね。勿論ミハイルとジョシュともね。あー私も春香ちゃんと踊りたいから、当日はドレスじゃなくてスーツで行こうかしら⁉︎」
レイモンド様は心なしか口元が緩んでいる気がする。それよりアビー様の興奮ぶりが凄い!部屋の雰囲気がいいのであの事を聞いてみよう
「レイモンド様…私このままでいいのでしょうか?」
「どうゆう意味だい」
「町屋敷に戻らなくていいんですか?」
「戻りたいのかぃ?」
「せっかく改築してまでご用意いただいたのに、ずっとこちらにいるのは…」
レイモンド様とアビー様は真っ直ぐ私を見据えて
「2日後の舞踏会で殿下とアレックス殿に会い、全て知ってから決めるといい」
「全てって?」
「春香。もう秘密にしなくていい。春香は”迷い人”で間違い無いね」
「レイモンド!もっと優しく聞いてあげて!尋問しているみたいだわ!」
どう答えたら正解なのか?
困っていたらクロードさんとミハイルさんが入室して来た。困り顔の私を見てミハイルさんが慌てて隣に座り抱きしめてくる。
「父上。ハルに何を言ったのですか!」
「丁度よかった。ミハイル2日後の舞踏会に春香も参加するからエスコートしなさい。陛下と殿下からも参加を促す手紙が届いている。アレックス殿も落ち着いたらしい。意味は分かるな」
「…それで春香に何を言ったのですか⁈」
「私達はまだ春香からまだ”迷い人”であると聞いていない。私達も春香が”迷い人”だと判明した上で、今後の対応を考えねばねらない」
恐らく皆さんの認識では私が迷い人”で私の言質が欲しいのだろう。まだ切札として言わない方がいいのか、それとも話して協力を得るべきか…
私が押し黙るとアビー様が幼子を諭す様に
「春香ちゃんこれだけは信じて!私達の意に反していても貴女が望む事に違を唱えない。それに何処かに閉じ籠めようなんて事はしない。シュナイダー公爵家は春香ちゃんの味方だと誓うわ。だから真実を教えて欲しいの」
皆さんの視線は真剣だけど温かさをが感じる。ここまで言われたらもう隠す意味が無い気がして来た。
でも怖い。皆さんを信用しているけど怖い。
思わずミハイルさんの手を強く握る。
「ハル…」ミハイルさん優しく背を撫でてくれる。その手の温かさに泣きそうになる。
「はぃ…」俯いたら涙が膝の上に溢れ落ち着いた。
「ありがとう春香。君を遣わして下さったテクルスに感謝を!」
「あの…テクルスって誰ですか?」
「テクルスはゴラスを作った神だ」
「レイシャルは女神レイラがいるのに何故ゴラスの神なんですか?」
「詳しくは2日後の舞踏会でアレックス殿に聞くといい」
「今は教えてもらえ無いのですか?」
「今はその時では無い」
この後何を聞いても教えてもらえな無かった。とりあえず明日昼一に町屋敷に移動して泊まり、舞踏会当日は町屋敷から登城する事が決まった。
レイモンド様の執務室を出るとミハイルさんがいきなり私の手を取り歩き出す。何処に行くのだろう⁈
この先はエントランスだ。訳が分からずただミハイルさんに着いて行く。
エントランスを出るとクロードさんがミハイルさんの愛馬といて、テリーさんをはじめ5人の騎士が騎乗している。
「あの!ミハイルさん何があるんですか?」
「ハルが嫌がる事はしない」
そう言うと私を馬上に座らせミハイルさんは騎乗し馬を走らせた。
スピードば出ていないが高いから少し怖い。思わずミハイルさんの胸元をぎゅっと握る。
すると私を支えるミハイルさんの腕の力が強くなり未着。ミハイルさんの鼓動を感じ不安が消えていった。
暫く走ると森の中に着いた。少し離れたところで騎士の皆さんは待機している。
何故こんなところに来たのが分からず、只ミハイルさんの顔を見上げるしかなかった。
ミハイルさんは馬から降りて、私を降ろしてくれた。馬の手綱を近くの木に固定して私の手を引いて歩き出す。
少しすると青い芝の原っぱが見えて来た。何故か見覚えがある。
「ここは?」
「ハルと初めて会った場所だよ。あの時は狼に襲われていたけどね」
あの日は夕暮れでこの芝がこんなに青いなんて気付かなかった。凄く綺麗で何故か落ち着いた。
「ここは俺の世界が色付き出した場所だ」
「?」
「あの日。本当は港の巡察の日だった。しかし無意識に森に馬を走らせていた。きっと本能的にハルが来るのが分かっていたんだろうなぁ…
俺は公爵家嫡男で加護持ちの為、何一つ苦労した事がない。だがいつも何か探していて、自分には何か足りないと感じでいた。ハルを保護しこの腕に抱いた時、自分がずっとこの人を求めていたのだと直ぐわかったよ。
ハルは小さくて愛らしくて謙虚だ。一生懸命この世界に馴染もうとしてくれ、愛を捧げていればいつか受け入れてくれると安易に考え、ハルの本当の気持ちを考えもしなかった。ハルが町屋敷で倒れた日、ハルの心の叫びが俺にも届いたよ。愕然とし自分に落胆したよ。今はどうすればハルに心を向けてもらえるか考えている。
改めて言わせてくれ!俺をハルの傍において欲しい。ハルが傍に居てくれたら地位も財産も要らない。2日後。アレックス殿から話を聞いた時、俺の事を思い出して欲しい。そして帰らないで欲しい」
なんて熱烈な告白だ。顔が熱い!
でも所々気になる点があった。記憶がおかしい日に私の心の叫びって何?
なんで2日後の舞踏会に重要人物かの様にアレックス様の名前が度々出てくるの?
多分、今ミハイルさんに聞いても教えてくれないだろう。2日後の舞踏会。楽しみでもあり、怖い気がして来た。
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