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町屋敷の出来事から皆んなの様子がおかしくなっていき、不安になる春香です
なんだろう…何か足りない。寝不足だから?考えるけどモヤモヤするだけで答えは出ない。
レイモンド様、アビー様とミハイルさんは何か話し合いをしているが話は何故か聞こえない。
やっと軽食を食べ終わりふと部屋の端にワゴンが置いてあるのが目についた。食器くらい自分で運ぼうと立ち上がったら両足に激痛が走りバランスを崩した。
『あ!倒れる』
『あれ?痛くない…』目前が黒い?
見上げるとクリスさんが支えてくれていた。
「ありがとうございます」
クリスさんは少し屈み抱き上げ再度ソファーに座らせてくれた。直ぐにミハイルさんが隣に座り抱き締める。足を痛めた記憶が無い。下を見たら両足は包帯が巻かれている。
『私に何か起きている、なにがあったの?』
執務室の扉が開いてクロードさんと公爵家の専属医が入ってきた。専属医は私の前に座り手首で脈をとり、足の包帯をとり患部を確認している。
状況が全く把握できない私はどんどん不安が増していく。その様子に気付いたミハイルさんが強く抱きしめる。
専属医は今日有った事を何故か聞いてくる。なんでそんな事聞いてくるのか疑問に思いながら答えていると、朝食後の記憶がごっそり無い。
「あれ?アビー様がクリスさんの報告が終わったら洋品店に買い物に行く?えっ?アビー様!洋品店に行きましたっけ?」
「…春香ちゃん洋品店には行かなかったわ。本当に覚えてない?」
「なんかそこだけぽっかり穴が空いてる感じ?がする…何があったんですか?」
「「「「「 … 」」」」」
誰も何も言ってくれないからどんどん不安が増していく。私に何が起こっているの?
すると専属医が
「春香様。無くなった記憶は今は必要無いのでしょう。春香様が必要になった時に戻ってきますからご安心下さい。ただ頭痛が酷い時は受診下さい」
「はい。ありがとうございます」
専属医はレイモンド様に挨拶され、クロードさんと一緒に退室して行った。
「春香。暫くはこちらで療養するといい。足の傷が癒えたら町屋敷の様に好きに過ごしなさい」
「えっ!でも王都に居ないと殿下が」
「春香は気にする事無い!明日話を着けてくるから安心しなさい」
レイモンド様が怒っている。益々昼間に大変な事が起こっていたかもしれないと不安になる。
「レイモンド。春香ちゃんを驚かさないで!春香ちゃん大丈夫よ。貴女は何も悪い事していないから。今日はもう遅いわお休みなさい。ミハイル!春香ちゃんを寝室まで連れて行ってあげなさい」
「ハル。部屋で休もう」
ミハイルさんが抱き上げてくれ、レイモンド様とアビー様が頬におやすみのキスをくれた。
クリスさんとクロードさんにもおやすみを告げて、ミハイルさんと寝室にむかう。
静かな廊下にミハイルさんの足音が響く。見上げたミハイルさんの表情は険しい。皆んな気にするなと言うけど、皆さんの顔色から私が何かやらかしているのは分かる。でもどんなに考えても朝食後から馬車で目覚めるまで空白だ。いつも通り行動しているなら洗濯している筈。洗濯…たしかシーツを…
「っつ!」
「ハル⁈どこか痛いのか?」
「大丈夫です。少し頭痛が…」
「とりあえず今日は何も考えず休め」
私が不調を言うと皆んなの顔色が悪くなる。暫くは何も言わない方が良さそうだ。
大人しくミハイルさんの腕の中でぼーとしていたら眠ってしまった…
「いや!ちゃんと帰るからやめて!帰る場所無くさないで!」
自分の叫び声で目が覚めた。びっしょりと冷や汗をかいている。けたたましい音と同時にクリスさんとミハイルさんが寝室に入ってきた。ミハイルさんは力いっぱい抱きしめるから苦しい!死にそうでミハイルさんの背中を必死に叩く。
「ミハイル様!春香様が苦しそうです!」
クリスさんが忠告しやっと息ができるようになった。
ミハイルさんは心配そうに私の顔を覗き込みます。クリスさんはお水をグラスに入れてくれました。
また元の世界の夢だ。叔母と叔父が何処に入って行く。スーツを着た男性と向き合い話をしている。
話の相手は弁護士のようだ。
叔母は失踪した私の手続きを相談しに来ている。
「…と言うわけで失踪して1年が経ちます。あの子名義の預貯金や不動産管理を私が代行して問題無いのでしょうか!また、考えたく無いけどこのまま見つからなかった時は法的にどの様な手続きが必要ですか?」
「警察にも捜索願いを出されていますし、失踪宣告を家裁に申し立て7年経過をすると死亡扱いとなります。税務に関してはよければ税理士を紹介しましょう。しかしまだ1年ですし姪御さんは若い。ふらっと帰ってくるかも知れません。もう少し様子を見られては?」
「先生!財産が欲しいんじゃない!春香が帰って来た時に直ぐに生活を取り戻せる様にちゃんとしてありたいんです」
叔母は必死に弁護士に訴えている
ここで目が覚めた。これが私の不安からくる夢を観ているならいいが、もし元の世界で起こっている事なら大変だ!
ちょっと待って…こちらで1ヶ月程で元の世界は1年。後6ヶ月で元の世界では私は死んだ扱いになる。という事は付き合わせの1ヶ月前には帰らないといけない。確か付き合わせ1ヶ月前には参加するか決めないといけなかったはず。早く帰り方を見つけないと!期限が決まった。立ち止まっていられない!
まずは帰りを助けてくれる貴族を見つけないと。その為には多くの貴族に会わないと。一度に貴族が集まる場所…『確か社交シーズンが近い』ってアビー様が言っていた。積極的に参加して探そう!
自分でも不思議に思う。昨日までぼんやりといつか帰り方が見つかればいいと思っていたけど、今は何故か早く帰らなければと焦っている。期限が分かったから?
「ハル?大丈夫か?」
ミハイルさんが心配そうに見つめてくる。
「ごめんなさい。夢見が悪くてご心配おかけしました。あの寝汗酷いので着替えたいのですが…」
「分かった侍女を呼ぼう」
「大丈夫です。自分で…」
ふと寝室の扉にモリーさんが立っているのが見えた。クリスさんが既に呼んでいたようだ。
「ハル。まだ足の傷が癒えていないから侍女に任せなさい。俺は隣で待っていよう。着替えたら朝食に行こう」
頷くとミハイルさんとクリスさんは寝室を出て行った。びっくりした事に翌朝になっていた。
記憶がおかしい日から3日過ぎた。足の傷も癒えて一人で移動出来る様になり、ミハイルさんの抱っこから解放された。
屋敷の皆さんは優しく何も言わない。私はクロードさんに借りた貴族名鑑を毎日読んで顔と名前を一生懸命覚えていた。
そろそろお茶の時間だからお茶菓子を貰いに調理場に向かっていたら、エントランスの方が騒がしい。
何故か胸騒ぎがしてエントランスに向かう。
『へ?なんで?』
エントランスには陛下と見知らぬ男性、そしてレイモンド様とアビー様が睨み合っている。
自分の目を疑った。
思わず隠れた。まだ私の存在には気づいていないようだ。盗み聞きなんていけない事だと分かっていても、この場から立ち去る事が出来なかった。
「陛下!こちらにはお越しにならない約束だった筈」
「済まぬ。事情が変わったのだ。同じ加護持ちの子を持つ親同士情報を共有したくて来た」
「アレックス殿が春香ちゃんに謝罪に来るならまだしも、親であるコールマン侯爵が何の用があるのかしら?まさか愚息の代わりに謝罪かしら?」
「公爵夫人の怒りはごもっともだ。必ず愚息から謝罪をさせよう。しかし今回の件で息子は役目を知り今必死に受け入れようとしている。これはアレックスが謝罪をすれば解決する話で終わらない。加護を受けたお二人にも大きな影響をもたらす」
アビー様が噛みついているのはアレックスさんのお父さんらしい。加護を持ちのミハイルさんや殿下と関係があるのだろうか⁈
皆さん冷静になって来て話し声が小さくなり聞こえにくくなって来た。聞こえるように身を前に出そうとした時、背後から誰かに肩を掴まれた!
ビックリして思わず両手で口を押さえて声をころす。さっきまで気配は無かった…誰?ゆっくり振り返るとクロードさんがいた。クロードさんは口の前に指を立てて静かにと促がす。思わず頷く。
クロードさんは私の手を取り歩き出す。何処に連れて行かれるのだろう…
心配する事はなく当初の目的地の調理場だった。
クロードさんが料理長に何か言っている。料理長は小さい籠に焼き菓子を沢山入れて渡してくれた。
甘い匂いに一瞬さっき見た事を忘れそうになった。
調理場を出て部屋に戻る道すがらクロードさんがいきなり話し出す。
「旦那様も奥様も春香様を大切に思われておいでです。直ぐには無理でしょうが必ず全て話していただける筈です。お二人を信じてお待ちいただけますか?」
「さっき見た事とか?」
「はい。特にミハイル様には内密にお願いいたします。旦那様から説明される筈ですから」
「分かりました。お口チャックですね!」
「チャックが何か分かりませんが、口を噤んでいただきたい」
私何も考えて無さそうですが案外空気読めるしお口は硬いです。クロードさんと雑談しているうちに部屋に着いて、焼き菓子に気を取られて陛下の秘密の訪問は私の頭の隅に追いやられて行った。
次の日から明らかにミハイルさんの様子がおかしくなった。なんだろう⁈焦りと必死さが見てとれる。
それに私嫌な予感がずっとしている。町屋敷に帰らないのにアレックスさんが文句を言いにこないし、殿下からもなしの礫で気持ち悪い。あのおかしな日からベクトルが変わった気がする。
私は無事帰り方を見つけて帰ることが出来るのだろうか?
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