行き先決定と準備
ツフマに繋がらないなら、その先のプロットに繋げよう。
寄宿学校時代、ヴェータは学校に迷い込んでいじめられていた小人を助けている。
そして、その助け出す現場をツフマは目撃していた。
ヴェータを牢から助け出すのに、ツフマはその小人と協力するのだ。
ツフマが駄目なら小人である。
「じゃあラピスィに会いに行く」
「ラピスィ?」
「うん。寄宿学校の森に住んでる小人族。その人に協力を頼む」
大丈夫。
ツフマがいなくても、ラピスィと接触できればプロットと似た展開に持っていけるはず。
「ヴェータを助け出して、その後どうするつもりなんだ」
「どうって?」
「王の半人族嫌いは頑固だぞ。ヴェータを牢から出したところで交信者に戻れるわけじゃない」
優秀な交信者である、ヴェータの代わりが見つかっていないから国が荒れている現状。
それを正すには、ヴェータが交信者の役職に戻らなければ意味がない。
「わかってる。ヴェータの後、オウタって人も助ける。オウタは人脈が広いから、手を回してもらえば王を引きずり落とせる」
王がいなければヴェータは交信者に戻れるのだ。
言ってから、ケッツが兵士だということを思い出して血の気が引いた。
ケッツは兵士。
城に勤める兵士だ。
ってことは王の味方だよね!?
私思いっきり謀反発言しちゃったけど!
また手枷はめられる!?
視線に射殺される!?
それは勘弁!
意味ないだろうけど手首を背中に隠してみる。
だけどケッツの口からは予想と違う言葉が出てくる。
「ふん。まあいいだろ。手伝ってやる」
「えっ!ほんと!?」
思いがけない言葉だ。
ケッツは兵士という職に信念を持ってるのかと思ったんだけど。
国のため、王のためという矜持。謀反を許すはずがないと。
違ったんだろうか。
「王も大事だが、その前に国が倒れては仕方がない。国を助けるためなら協力するさ」
有難い、と思うと同時にケッツの言葉に引っかかる。
始めはもうちょっと人当たりの良い言葉遣いしてなかった?
なんか不遜な態度なんだけど。
親しくない相手とは敬語を使って距離を測る現代人としては、ちょっと不快である。
いや、私も敬語使ってないけどさ。
幼児の体であることへの甘えと、神(作者)っていう事実に偉ぶっていたけど。
一瞬むっとしたものの、お互い様だという結果に考えが落ち着く。
そもそも、身分社会のこの世界。
兵士は傲慢で尊大な態度を取る人が多い。
城勤めならなおさらだ。
貴族やそれなりの身分の人には敬意ある態度を取るけれど、それ以外には横柄だったりする。
貴族でも何でもない、怪しさ満点の私の話を聞いてくれるだけでも御の字かもしれない。
うん。
そう思っとこう。
「よし。ケッツ、寄宿学校に連れて行って!ツフマの件は遅れを取ってるから、ラピスィは先手を打たないと」
勢い込んで立ち上がる。
「寄宿学校の森は広いぞ。正確な場所は把握してるのか」
「もちろん!」
作者を舐めないでいただきたい。
小人族が隠れ住んでる位置は勿論、ラピスィの性格や家族構成も、当然把握してますとも。
地面に簡単に地図を書いてケッツに説明をする。
「城と寄宿学校がここだとするでしょ?そうすると森がこの辺りにあって…」
城想定の丸を描き、その上方向に寄宿学校を想定した丸を描く。
寄宿学校は広く、言ってしまえば1つの大きな村くらいの敷地を持っている。
その敷地の中に、森は大まかに3つ。
北東方面にある森と、寄宿学校に繋がる道を挟んで南側左右に位置する2つの森。
小人族が隠れ住んでいるのは北東の森だ。
「奥の森の、この辺り。東側の奥まったあたりに居るはずだよ」
言いながら該当位置をぐるぐると囲う。
続いて、現在位置だろう辺りから線を伸ばす。
「ここからなら、寄宿学校の正門から道なりに進んで、校舎の右側を沿って森へ向かえばいい」
そうすれば小人族の村近辺に辿り着けるはず。
小人族は複数家族で土楼という1つの家に住んでいる。
円状の、人間サイズで考えれば2階建てほどの建物。
近くに行けさえすれば見つけるのは簡単だ。
「わかった。城に戻って馬で向かおう」
歩き出すケッツ。
それを追いかけて私も動く。
が、身長が全く違う私とケッツ。
きびきびと素早く歩かれると距離が開いていく。
「ちょっと待って、早い!」
追い付くために走りながらそう言うと、ため息交じりの返答が来る。
「お前が遅い。急ぐんじゃなかったのか」
そうだけど!
急ぎたいけど!
この体を見よ!
「このちっちゃい体じゃ限度があるの!ケッツ抱えてよ」
両手を伸ばして抱っこアピールをする。
厩舎までの距離。
ケッツの移動速度。
幼児の体力。
乗馬での移動。
諸々考えると、いま走って体力を使うのはよろしくないと思う。
ケッツもそう思い至ったのか、嫌そうな顔をしつつも抱えてくれた。
粗雑な抱え方だけど。
落とされないようにしっかり首にしがみついておく。
ケッツは門番をしている兵士にさっき倒した輩共の始末を頼み、伝達に使う鳩を休ませている小屋に向かった。
「厩舎に行くんじゃないの?」
「その前にすべきことがある」
一旦私を降ろし、何かを記して鳩の足に括りつける。
そうして、流れるように窓から鳩を放つ。
急ぎの情報を流す伝書鳩だ。
電話やメールがないこの世界では、伝書鳩が一番早く情報を渡せる。
「何を送ったの?」
「部外者に教えるか」
すげなく一蹴された。
ケッツは再度私を粗雑に抱えて、今度は厨房へと向かう。
飲み水と軽食の準備を頼み、厨房の人たちは慣れた様子で手早く用意していく。
ふと気づいたようにケッツは付け足した。
「そうだ。ここで頼むことじゃないのはわかってるんだけど、何か簡単な防寒具は無いかな」
「防寒具ですか?」
「うん、ただの布でも何でもいいんだ。これからこの子を馬に乗せて数時間走る。少しでも暖かくしたいんだ」
ケッツにしては気の利いた提案!
さっきは30分程度の我慢だったからいいけど、寄宿学校までの道のりは長い。
何時間も我慢するなんて風邪ひいちゃうよ。
私の姿を見て、ひとりの女性が口を開く。
「本当に何でもいいですか?」
「うん。何でもいい」
ケッツにそう言われて女性が取り出したのは、鍋を保温するための布カバーだった。
保温機能を高めるために綿を摘めてあるため、カバーは分厚い。
「馬鹿、こんな鍋用のカバーを使わせる気か」
「だって何でもいいって」
同僚に怒られ、女性は口をとがらせる。
「いや、ありがとう。使わせてもらうよ」
鍋の保温カバーを受け取って、私に被せるケッツ。
「わっ」
乱雑だよ!
せめて声を掛けてくれ!
ムッとしつつ腕を出してサイズを確かめる。
丈はなかなかに丁度いい。
脇で挟んでくるぶし辺りの丈。
でもぶかぶかである。
私がもう一人入れそうなほどだ。
余ってる部分を折り返して腕で押さえつければいいかな?
私が試行錯誤している間に水と軽食の用意ができたようだった。
「ありがとう。戻ってきたら返しにくるよ」
受け取ったケッツが、私を抱えて厨房を後にする。