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とある旅商人の話

近頃、西の港町がとても活発だという話を聞く。

期間を長くあけずに頻繁に市場を開いており、その度に大勢の人間が訪れているのだとか。


知り合いの旅商人も行ってみたらしく、一度足を運ぶべきだと熱弁された。

商売先を定めず自由に放浪することが好きなあいつにしては珍しい発言。


そこまで言うならと訪問してみると、なるほど活気づいている。

船が多く立ち寄る港町だけあって、周囲に比べて賑わいがあるとは、以前から評判ではあったが。




街の大通りに品物を広げ、店を構える人たち。

人の交流も盛んで、言葉が飛び交ってとても賑やかだ。


これだけ賑やかなら、よほど悪い仕入れをしなければある程度の収益が見込めるだろう。

次の機会があったらここで商売してみるのもいいかもしれない。




様子を観察しながら歩いていると、私にこの港町のことを熱弁してきたあいつも店を構えていた。

私の顔を見つけるや、表情を明るくして片手を上げる。




「おう、来てくれたか」


「言ってた通りの活気だな」


「そうだろうそうだろう。だが、それだけじゃない」




にやりと口端を上げて、耳を寄せるよう手招きされる。

こんな賑やかな場所で、誰も他人の話など聞いちゃいないだろうに。

素直に耳を寄せて囁かれた言葉は、確かに声を潜めるべき話題であった。




「ここにいる奴らはほとんど、反意のある人々だ」




何を言われたのか一瞬わからなかった。

口を開けたまま瞬きを繰り返す。

傾けていた耳を離して顔を見れば、私の顔が間抜けだったのか声を上げて笑う。




「驚きだろう。俺も驚いた。しかし悪い話じゃあない。お前も加われよ」


「いや。……いやいやいや。これだけの人数だぞ?それが本当なら嗅ぎ付けられてすぐに処罰されるだろ。ここに居たら危ないんじゃないか?」






現王の執政はわりと横暴だ。

徴税は高いし規則も厳しい。

理不尽な理由で処罰されることも珍しくない。


当然それを不満に思う民は多く、このまま大人しく搾取されてたまるかと、抗議を表する奴らもいた。

しかし官吏は目敏くそれを察知して、取り押さえてしまう。




友人の父親もそれで捕まってしまった。

十数人程度で簡単に見つかってしまうのだ。


この人数でまだ逮捕者が出ていないのだとしたら、泳がされているとしか思えない。




すぐにでも港町を発ちたい心境になった私に、余裕たっぷりといった態度で返される。




「それが大丈夫なんだ。先導者がな、うまいことやってる」




この賑わいの中なら、話し声は目立ちはしない。

聞き取りづらいながらも小声で説明してくれた。












周りを見てみろ。


同じ装飾具を付けてる奴が多くないか?

足首や手首、腕、首につけてる奴もいるな。

それが仲間の印だ。




外部の奴に真似されるんじゃって?

平気さ。

俺たちにゃ手に入らない、お貴族様のお高い糸が混ぜ込まれてる。


まあ、それを綺麗なまんま俺たちが持ってたら怪しさ満点、疑ってくれってもんだ。

汚して目立たなくしてるけどな。




ああ、そうだ。

これはお貴族様も仲間なんだよ。


聞いて驚け。

なんとこの港町を牛耳る貴族だ。

それが後ろ盾についてる。



そんなことは初めての事態だろ。

今回のこの運動は今までとは違うぞ。

規模も範囲もどでかい。

俺はこれで世の中ひっくり返ると思うね。






ん?

ああ、仲間を増やせるのは印を持った奴だけだ。

印付きの奴が仲間にしたい奴を引き連れて、市場に店を出すための手続きをする。

その際に合言葉を言えば、新しい奴の印をもらえるって流れだ。


仮にどこかで合言葉が漏れても、印がなけりゃそいつの印は貰えない。

俺ら平民には手に入らない素材だから、印の偽造もできない。

きちんと印と持ち主の照合もされる。


間諜が入り込む余地はないって寸法さ。





客側の場合はだな、ああ、ほら見ろよ。

今まさに、だ。


ああやって、日に何度か見回りがある。

その際に、印を持った奴が合言葉を言って紹介すればいい。



そら、あいつも印を貰っただろ。

こうやって、官吏の奴らに気づかれないまま、俺たちは仲間を増やしてくのさ。






全体で何人くらいいるのかね。

把握してるのは先導者だけさ。



もちろん、数を増やすだけじゃない。

何を目的に掲げて行動を起こすのか、みんな心得て活動してる。


そりゃこれだけの人数がいたらな、多少はそれぞれ違う目的があるだろうさ。





二つ隣で店を構えてる奴いるだろ。

あいつはとにかく、この苦しい現状が辛くてたまらんからだって言ってたな。


斜め左の奴は身内が官吏に処罰されたらしい。

その恨みかららしいぞ。


俺か?

俺は、参加した方が楽しい未来が開けそうだからさ。

いいんだよ、そんなんでも。

核が一緒ならな。






先導者と顔を合わせて話し合う場が定期的にある。

そこで情報交換を行ったり、先導者が目指している未来を共有したりするんだ。


もちろん仲間全員は無理だ。

人数は分けてだけどな。




不思議なことに、しばらく顔を出してないと、誰かしらが声をかけてくるんだよ。

そろそろ話し合いの場に参加しろってな。


まあ、そんな期間が空くことは稀だ。

商売する奴はここが良い儲け場になってる。


頻繁にこの港町には来るわけだ。

そんで商売でひと儲けした後、話し合いの場でついでに外じゃ言えないいろいろをぶちまけて鬱憤も晴らすってわけさ。

客として来てる奴も、ここで商品を仕入れて他で売りさばいてる奴もいるしな。


結構顔を覚えるぜ。







なあ、お前も参加しろよ。


聞いててわかるだろ?

官吏に気付かれないよう、離反者が出ないよう、注意してある。

実際行動を起こして、慌てふためく奴らの顔が楽しみじゃねえか。



なあ?

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