一大プロジェクト
「まさか人身売買なんて悪しき事が行われているなんて……」
顔を青くさせてオウタが呟く。
ヴェータに関しては、ショックすぎて言葉も出ないようだ。
オウタたちと手を組むことになり、こちらの動き・計画を大まかに説明した。
王を追い込む重要な一手となる材料。
それと同時に、危険度も高まる情報。
ヴェータとオウタの心にも大ダメージを与えているようだ。
「……確かに、それを暴けば王の立場は無くなるでしょうね。けれど、私たちと手を組まなくても可能なのでは?」
「そうかもな。でも揉み消される可能性もある。お前たちは元老院を動かすのが目的だろう。元老院の前で暴くのが一番効果的で、かつ逃れようもない」
人身売買に関わっていなくても、家同士や仕事の利害関係によって、人身売買に関わる貴族を庇う者が出てくる可能性は十分にある。
それが多数いた場合には、人身売買の事実なんて揉み消されて、逆にこっちの立場が悪くなる。
“万が一”なんて可能性を残してはいけないのだ。
逃れようのない衆人環視の場で、最大限公平な相手に対して、人身売買の事実を突きつける。
その最も都合のいい状況が、貴族も平民も注目する元老院の前ということだ。
「それにしても、ミコトさんを危険な目に合わせるなんて、酷くはありませんか」
ショックから多少立ち直ったヴェータがぼやく。
「神に遣わされているといっても、お姿は幼子のものです。お力は弱く体力もあるとは言えません。敵う相手は野に咲く草花くらいではありませんか」
すごい言われようだ。
ヴェータの中の私は相当柔な存在らしい。
それに対するケッツの返答は、いつものごとく取りつく島もない。
「感情で判断を鈍らせるな。成し得るものも成し得なくなるぞ。それに神の遣いなんだったら、神とやらが守ってくれるだろ」
感情云々に関してはうなずけるけど、神が守ってくれることはないと思うよ。
簡単な説明された後は影も形も無いもんね。
放置よ放置。
「ミコトさんを危険にさせざるを得ない状況だったのでしょう。合理的に考えるお人のようですから」
納得した表情でなかったが、それ以上の言は抑えてヴェータは押し黙った。
「それで、ケッツはどのような手立てをお持ちなのでしょうか」
「俺たちは今、西の港町を中心に動いてる。日々交流を重ねてきたんだ。そこの住民はもちろん、大きい街だ、商人や旅人らも巻き込めるだろう」
最近はただ遊びまわって会話を楽しんで、という井戸端会議的な交流になっていたのだが、まさかここに繋がってくるとは。
大きな港町だ。
住民が多いのは言うまでもなく、国の商船が立ち寄ることもあって交流が豊か。
商人や旅人など人の出入りも多い。
分母が多ければその分、多くの人と繋がれる。
加えて、港町の管理を任されている貴族、ヴァツサも協力関係だ。
仲間を募るにはいい環境だろう。
「確かに人数は見込めそうですね。しかし、散らばっていては勢いに欠けます。元老院を動かすには、人数もそうですが、勢いも大切です」
「お前たちが声をかけてる貴族連中だって一か所に居るわけじゃないだろ。そこはどうまとめるつもりだったんだ」
「頻繁に文書のやり取りをしています。私とヴェータで調整をして、齟齬が生じれば顔を合わせて意見を交わしています」
「なら平民も同じようにすればいい」
「平民は文字が読めないでしょう。文書のやり取りはできませんよ」
「文字には頼らないさ。港町を起点として、交流に重きを置いてまとまりを得ていく。大概が商人や旅人だ。再訪する奴は多い。市場でも開けば、自然と集まるさ」
商売や仕入れを目的に、多くの旅人や商人が出入りする港町。
市場を開けば、そこで商売をしようと商人は集まり、掘り出し物を探しに旅人が訪れる。
至極当然の流れ。
第三者から不自然に思われる点は全くなく、人を集めることができる。
文字を介さなければ証拠が残ることもないし、顔を合わせるから手紙よりも不審な態度に気づきやすい。
志を同じくし、不満を分かち合い、王に反意を表する。
貴族も平民も、身分関係なく挑む一大プロジェクトだ。




