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助け船

「オウタ。この話に乗りませんか」




ずっと黙って話を見守っていたヴェータが、重たい空気をスパリと切る。

軽やかな声で風穴を開けてくれたお陰で、幾分か息がしやすい。




「行き詰っているのは事実でしょう?何か他に策はあるのですか」


「口ぶりからして、非常に危ない話ですよ」


「私たちの活動自体が危ないものでしょう?」




それは確かにそうだ。


独りよがりで偏見にまみれた執政を行う王に、反意を翻す行為。

人身売買を摘発する行為と同じく危険が伴う。

けどやっぱり、人身売買摘発の方がより危険な気がする。


まあ、内容を知らずにヴェータもオウタも話してるわけだけど。

話したら最後、逃避は許されないからね。




「……ミコトさん、オウタにも話しませんか」




唐突に、ヴェータが私に話を振る。

でも何の話か察せられなかった。

ヴェータは言葉を続ける。




「オウタにもミコトさんの立場を話した方が、円滑に話が進むと思うのです」




私の立場。

神の遣いだって言っちゃった話?




「いや、どうだろう……」




ヴェータの意見には同意しかねた。

神の存在を信じてる人間は、今現在のこの世界では少ない。

そんな人間に“神の遣い”だと説明したところで、胡散臭い人間だと思われるだけだ。

逆効果の可能性さえある。


交信者として神の存在を感じていたが故に、“神の遣い”という存在も信じられる、ヴェータの方が異質なのだ。




「ミコトさんの立場とは、一体どういう…」


「ミコトが神の遣いだって話だ」


「ケッツ!?」




尋ねるオウタの言葉に被せて、ケッツがさらりとばらしてしまう。

案の定オウタは怪訝な顔だ。




「面倒だから明かしてもいいだろ。対して変わらない」


「変わるよ!不信感が増すかもしれないじゃん!」


「減って困る信頼なんて元からないだろ」


「そんなこと!ある、かもだけど……」




尻すぼみになってしまった。

強く言い返せない自分が悲しい。


オウタとは少ししか話せていない。

特別牢を出てこの宿で話した十数分だ。

そのときも「何かあったら相談してほしい」と伝えただけで、信頼を築けたとは言い難い。



王廃位のためにオウタとケウニス隊長が手を組むのが本来のシナリオだけど、そこではオウタとケウニス隊長が直接話をして協力関係に至る。

現状、オウタとケウニス隊長は顔を合わせていない。

仕事上で何度か姿を見たことはあるかもしれないけど、親しく言葉を交わすような間柄じゃないはず。


悪い予感がよぎる。


悪い方向へと転がりやすいのがこの世界だ。

もしかしてオウタと協力関係にならない未来も有り得るのだろうか。


過ぎった予感に心臓が縮む。




「ミコトさん、きちんとオウタに説明してもよろしいですか?」




こうなったら話すしかない。

気は進まないけど。


頷いた私を見て、ヴェータがオウタと向き合う。




「ミコトさんは神から遣わされた、私たちを導いてくださる存在なのです。ミコトさんのお陰で私は今この場に居ますし、儀式を行って季節を正すことも出来ました。


ですから、行き詰っているならミコトさんに協力していただくべきです。


私たちでは知り得ない知識もお持ちですし、ミコトさんにご助力いただけるということは、神が味方についてくださるも同然です。必ずや事態は好転することでしょう」




大した説明にはなっていなかったけど、熱の込もったヴェータの言葉。

肩にズシンとのしかかる。


重い。

肩の荷が重いよう。

そんな万能な存在じゃないんだ私は。

ヴェータさん私のことを信頼しすぎじゃよお。


オウタは額に手を当てて大きく溜息をついた。




「“神”と言われただけで、そこまで信じられるのはヴェータだけですよ」


「神の力をお借りしてこの国は成り立っているというのに、オウタは信仰心が薄すぎます」




ムッとしてすぐにヴェータが言い返した。

ヴェータの言葉は正しい。


神の存在なくしてこの世界は成り立たない。

この世界の根幹とも言える存在。


だけど残念ながら、この国のほとんどの人がオウタと同じ考えなのだ。

馬鹿々々しい話だと溜息つかれても仕方がない。




「神はいらっしゃいます。私たちを見守り、守護してくださっています。私が儀式を行い季節が安定したことで、オウタも神の存在を信じられるかもしれないと言っていたではないですか」


「“かも”と言ったでしょう。姿は見えず、私には感じることもできません。周囲もみな同意見で、教師も信じている素振りはありませんでした。猫を信じるようなものですよ」




猫は気まぐれで、思った通りの行動なんてしてくれない。

この世界での猫は、不誠実の象徴のような存在だ。

つまり、“全くもって信用できない”と言われている。


あれれれ。

オウタとの心の距離が随分と遠ざかってやしないかい?

売り言葉に買い言葉だよね?

本心はそこまでじゃないよね?




「神と猫を同列に扱うなんて……っ」




ヒートアップしそうな空気に、ケッツが止めを入れる。




「待て。俺だって神の存在は信じてない。だからといって、神を使わずにこいつの存在を説明できるか?奇抜な見た目に、幼さに見合わない言動。知り得るはずのない情報も持っている。


頭ごなしに否定しないで冷静に考えろ。こいつはただの子供か。“神の遣い”と考えた方が腑に落ちるのか。


それに、こいつが神の遣いだろうとなかろうと、どうだっていいことだ。お前は、俺たちと協力するのかしないのか、どっちなんだ」




ヴェータは口をつぐんでムスッとした顔をしていた。

オウタに言い返したかったのを堪えてるんだろうなあ。




「……判断するにはこちらの材料が少なすぎます。ケッツたちは秘密裡に何を行っているのですか」


「国を揺るがす一大悪事を暴こうとしてるのさ」


「暴いて王を糾弾するということですか」


「ああ。お前たちにとっても都合がいいだろ?」


「確実な情報なのですね?仮に糾弾に失敗して共倒れした場合、最悪な結末となります」


「言われなくても慎重に進めてるさ」




真剣な目をしたオウタと、いつもと変わらぬ飄々としたケッツ。

二人がしばし見つめあう。


息苦しく感じられた室内の空気は、「……わかりました。覚悟を決めましょう」というオウタの返答で緩和された。

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