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奇異な子供との邂逅

“ミコト”の安否が不安で気もそぞろなヴェータから、かろうじて聞き出せたのは僅かな情報。


“ミコト”の手引きでヴェータは解放され、春の儀式を行った。

私を釈放し、他に捕らえられているヴェータの関係者たちも開放するという話だが、具体的に何をするのかは不明。




頭が重くなり、額を抑えて深いため息をついた。

考えがあって動いているのか、疑いたくなる。


ヴェータはどうして、未熟な子供の考えに乗って動いているのだろうか。

どれだけ頭が達者であろうと、経験の浅い子供が私たちよりも優れた策を考え出すなどあるだろうか。


地に足を付けて、地道な努力を重ねる人物だと思っていたけれど、“ミコト”を素晴らしい方だと心棒する様は、薄気味悪ささえ感じた。








少しして、先ほどの兵士が戻ってくる。

痩せた男を括りつけた馬を一匹増やし、自身の前には子供を乗せている。


子供の無事を確認して抱き着くヴェータの後ろで、私は息を飲んでいた。


この世に二つとない目を惹く容姿。

1人だけ光が当たっているかのように輝く白い肌、透明感のある髪。

ふと交わった目は左右で色が異なっていて、全てを見透かされているような気分になる。



私と向き合った子供に、つい後ずさりしそうになった。


神が存在しないとは言わないが、取り立てて信じているわけでもない私。

しかし、目の前の子供の姿を見ると、俄かに信じたくなってしまう。


不思議な説得感があった。

疑っていたヴェータの言動にも、納得できてしまうほどに。







「初めまして、オウタ。私はミコトって言います」





見た目で言うと、3歳か4歳か、生まれて数年しか経っていないだろう幼子。

舌足らずであったり、気持ちを表現しきれないはずの年齢。



その子供が、流暢な言葉遣いで、簡単な状況説明と望みを口にする。

ヴェータはこの子供が未来を良い方向に導くのだと話していた。


それは、未来を知っているということなのか。

私などでは考えの及ばない、埒外の存在であるということか。





「貴女は……。何をどこまで、知っているのですか?」





無意識に発していた言葉。


全てを見透かしているように見えた。

私たちを導いてくれるような気がした。




しかし、すぐに否定の言葉が返ってくる。




「知らないことばっかだよ」




申し訳なさを感じているような、大人びた表情で。

その反応に、目が覚めた。


いや、冷静さを取り戻したと言うべきか。


狼狽えていたヴェータとラピスィの動揺が、気付かないうちに伝染していたのかもしれない。



未来が分かる人物などいるわけがないだろう。

少し変わった見た目をしているが、半人族と小人族の混血なのかもしれない。

もしくは、病気を患っている小人族か。


それなら、少し大人びた言葉遣いや表情も納得できる。

子供であることに変わりはないが、見た目よりは上の年齢なのだろう。








“ミコト”の仕切りでラヘッラへと向かい、宿で口火を切ったのも“ミコト”だった。




「さて。ここにいる全員、目的は一緒だと思うのよね。オウタは危うい国を立て直したい。ヴェータは捕まった家族たちを助けたい」




ヴェータの目的はともかく、私の目的まで把握しているのは何故か。

疑問に思いつつ、間違いはないので頷いた。


ヴェータが話したのだろうか。

けれど、ヴェータが把握していたとしても可笑しな話だ。


王への反意を決意したのは、ヴェータが捕まった後。

意志を固め策を練ったのは牢の中だ。

再会してからも伝えていない。




「私も国が傾くのを阻止したい。王は引きずり降ろさないといけないって思ってる」




言葉を続ける子供は、兵士もラピスィも自分が協力を頼んだのだと言う。

それが本当だとすると、“ミコト”発端でこの状況が出来上がったことになる。




「何か協力してほしいことがあったら言ってほしいと思うし、逆にお願いしたいことがあったらこっちからも頼みたい」




“ミコト”の目線はほぼ私に向いていた。

私の返答を待つかのように、間が空けられる。



この子供は、知らないことばかりだと答えた。

“何をどこまで知っているのか”

そう問うた私の言葉をどう捉えたのかはわからないが、知らないことばかりだと。



何もかもを見透かす“神”ではない。

容姿や雰囲気に惑わされそうになったが、権力も影響力もない、単なる子供だ。


そんな子供に、王を廃位させる助力を頼めるのか。

ヴェータよりもよく状況を把握し、先を見据えているように見えるが、果たして頼りにできるのか。



答えは否だった。




「…助けていただいたことは、感謝しています。ヴェータから簡単に聞きました。けれど、貴女のような小さな子を危険な目に合わせることはできません」





罪を犯していない清い身でも、王と関わりのある地位でなくても、突然に掴まり牢に閉じ込められるのだ。

反意を示した場合はどうなるのか、容易く想像がつく。


最悪がすぐそこに待機している。

年端のいかない子供を巻き込むわけにはいかない。




「危ないってことは理解してるよ。でも、私をただの小さな子供だと思わないでほしい。ある程度知識は持ってるし、オウタたちに助言はできると思うんだ」




果たして反意を翻すことの意味を正確に理解できているのだろうか。

子供の、根拠のない自信による妄言に見える。




「どう見たって子供にしか…」


「ミコトさんは特別な方なのですよ、オウタ」




最後まで言葉にする前に、ヴェータに発言を被せられた。




「私たちの力にきっとなってくれます。子供だからと思わないで、困った時には助力を願うべきです」




“素晴らしい方” “特別な方”だとヴェータは言うけれど、容姿以外で特別な点は見当たらない。

不思議と惹き付けられるあの相貌に惑わされてるだけだとしか思えなかった。




「ヴェータ。ミコトさんはどこからどう見ても子供ですよ。子供を危険に晒せというのですか」


「決して危ない目に合わせたいわけではありません。けれど、ミコトさんの助力はきっと手助けとなります」

「ミコトさんが何故特別なのか、まず説明してくれませんか。でなければ何も納得できません」


「それは…」




核を口にしない態度に、若干の苛立ちが混じる。


何故口ごもるのか。

何を隠しているのか。


ヴェータの煮え切らない態度が気持ち悪い。



棘の混じった空気を、「はいっ」と子供の高い声が打ち破る。




「何もできないけど、知識はあるよ。何でもは知らないけど、皆が知らないことを知ってる」




“ミコト”が例えとして挙げたのは、寄宿学校時代の話。

今のヴェータとは異なり、言葉遣いも仕草も身嗜みも、全てが歪だったときの話だ。

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