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一時中断と新たな情報

次の誰かを引掛けるためにすぐ行動に移すのかと思いきや、そうではないらしい。

しばらくは人目の多いところをぶらつけと言われた。


なぜだ。





人目が多いところで人を攫うことは不可能だ。

囮捜査を続行するなら、人通りの少ない時間・人目のない場所をうろつく必要がある。


今はその逆をしている状態だ。


船からの荷物が届いて店が活発な時間に、町の子供たちと戯れる私。

周囲の観察もしているんだろう、少し距離を取ってそれを見ているケッツ。


ケウニス隊長からの伝書鳩は帰ってきていたから、何かしらの指示が出ているのは間違いないんだけど。

ケウニス隊長の別荘で尋問中の誘拐犯から、情報を聞き出せるのを待っているんだろうか。





あの後、ケウニス隊長の別荘には近寄っていないけれど、隊長から派遣された人が尋問を行っているらしい。


よほど多くの報酬をもらっていたのか、雇われていた貴族に恩義でもあるのか、誘拐犯の口は堅かった。

これ以上口を割らないようなら、眠らせない・爪を剥ぐ・骨を折る・薬攻めなど、あの手この手が使われるのだとか。


ケウニス隊長からの指示は教えてくれないくせに、尋問内容についてはじっくりと教えてくれた。

たぶん、話を聞いて顔を歪めたり悲鳴を上げる私を見て楽しんでるんだ。


こんにゃろ。









子供たちと遊んだ後に、馴染みとなった食堂で食事を取っていたら、店員さんがケッツに近づいてきた。

別テーブルの皿を回収したその流れで近づいてきて、サラリと言う。




「旦那、注意した方がいいぜ」




言葉遣いはちょっと悪いけど、いつも陽気で、気さくに人に話しかけている店員さんだ。

ケッツとも私とも、他愛ない話を何度か交わしている。




「聞かれたのか」


「ああ。俺だけじゃねえ。魚屋のババアも、荷運びの坊主も聞かれたってよ」


「どんな奴だった」


「俺の肩くらいの、ちっせえ野郎だったな。ババアが言うには、左手の甲に火傷跡があったってよ」


「そうか。情報感謝する」




淡々と交わされる会話。

内容はなんだか不穏だ。




「何かあったの?」


「何でもない」


「何でもなくないでしょーよ」




気になって尋ねたけれど、ケッツは平然と嘯く。

明らかに何かあるくせに。


むっと口をとがらせる私に、店員さんが「まあまあ」と割ってきた。




「嬢ちゃんを不安にさせたくねえんだよ。心配するようなことはねえから安心しな」




言うだけ言って、店員さんは皿を持って引っ込んでしまう。

店員さんが気を使ってくれてるのはわかるけど、安心できないんだな、全く。


「私に危害が加わらないように」とケウニス隊長から指示はされているけれど、ケッツは即座に助けてくれるわけじゃない。


こないだだって、あと少しで私は薬を盛られるところだった。

ギリギリのギリギリまで、静観を保とうとする。


命が危険にさらされることまでは無いだろうけど、心臓に悪いのだ。

恐怖で禿げそうな程に。

せめて心構えだけはしておきたい。






誰が何を店員さんたちに尋ねたのか。


ケッツは何も教えてくれないが、私を危険に晒す気も今のところは無いらしい。

私を抱えて、魚屋のおばあさんや港で荷運びをしているお兄さんのところへ話を聞きに行く。


断片だけでも情報を掴めないかと、若干険しい顔で話を聞く私に、おばあさんもお兄さんも「心配ないよ」「怖がることないよ」と私に優しい言葉をかける。



ケッツから何を言われてるんだろう。

話の流れから、ケッツがこの状況を予想して、前以て準備をしていたらしいことだけはわかる。


誰かが私とケッツのことを調べに来るだろう。

何か聞かれたら教えてほしい。


何気なく交流しているときに、顔馴染みとなった人たちに伝えていたようなのだ。




思い返すと、この港町で親しくなった人たちは人と広く関わっていそうな人ばかりだ。

食堂の店員や、店を構えている人たち、荷運びで町のあらゆるところへ顔を出す人など。

誰かが街で聞き込みをするなら、高確率で声を掛けられるだろう人たち。



これから何が起きるのか、私は気が気でない。









夜、安宿の窓から、見慣れたケウニス隊長の伝書鳩が入ってくる。

こちらから新たな報告は送っていないはずだから、報告の返事ではない。


鳩の足から手紙を外し、中身を確認するケッツの背後に回る。

図も何もなく文字だけの手紙だ。


図があれば多少は情報を推理できるかと思ったのに。

単語の切れ目もわからない文章からは何も読み取れない。

単なる模様である。

くそう。


ダメ元で聞いてみる。




「ケウニス隊長だよね?なんだって?」


「…イェテーヂョが新たな情報を掴んだ」




無視されたかと思いきや、手紙の最後まで目を通してから言葉が返ってきた。



イェテーヂョは、ケウニス隊長の仲間だ。

まだ会ったことがないけれど、左瞼にホクロがあるのだとかなんとか。


ヴェータ脱獄の際に、人身売買に関わっていると判明した兵士を調査させていると言っていた。




「王子連中も真っ黒だそうだ」




国王が関わっている時点で、その事業を引き継ぐであろう王子も人身売買に加担しているだろうことは、容易に想像がつく。

その情報に驚きはなかった。

しかし、国王には4人の子供がいる。




「4人共なの?」




次期王となる、国王と同じく差別的・排他的な第一王子。

次期王の補佐を期待されており、既に貿易に関わっている第二王子。

学業を高成績で修め、知識も豊富な第三王子。

そして、まだ初等教育を終えていない年の離れた第四王子。




「断定できるのは上2人だ。三番目は黒濃厚だが確たる根拠がない。四番目はまだわからないな」




伝書鳩に持たせる返事を書きながら、淡々とケッツは答える。




本来の流れでは、王の廃位と同時に、王子たちもその地位を降ろされる。


正式に王位を引き継いではいないが、半ば仕事に携わっていた第一王子。

国王と第一王子の意志に従い、協力し、専横的な政治に加担した第二・第三王子。


しかし末の第四王子は、学業に専念する身であり、幼く政治に関わる年齢ではなかったために責罰を免れる。




人身売買に関しても、国の事業と考えれば似た状況だろう。


人権を蹂躙する行為を事業とは認めたくないけど。

私は認めないけど。




「第三王子までが黒で、第四王子は白だよ」


「理由は?」


「外交や貿易の交渉事を直接するのは第一・第二王子が中心だけど、どの相手にどの情報を出せば効果的か、策を練ってるのは第三王子なの」




もちろん、前以て練った策通りに交渉事が進むことは少ない。

第一・第二王子がその場で臨機応変に対応しているだろう。


しかし、一番目ざとく頭がよく回るのは第三王子だ。

些細な情報からあらゆることを読み取り、次の交渉へと生かす。




「人身売買の相手がわからないけど、身分が高いことは間違いないでしょ?その人の趣味、望み、弱み、過去の貸し借りや経済状況、いろんなことを加味して、商品をより有利に取引してるはず。第三王子抜きで進めはしないよ。まあ、ずる賢いから黒だと断定するのは難しいんだけど」




交渉事に直接関与してる第一・第二王子なら、交渉相手からの証言や契約の書類など、何かしらで黒だと断定できる。

証拠を掴める。


これに比べて、口頭の指示ばかりで証拠を掴みづらいのが第三王子だ。

足を掬われることがないよう、他者からは自分の存在がわからないようにしているはず。



返事を書いていた手を止めて、ケッツが私に顔を向ける。




「お前なら、尻尾を掴むために何をする?」


「餌を、罠を撒く」




ただ調査するだけでは第三王子を追い詰める材料は見つからない。

おそらく、永遠に。


追い詰めたいのならば、こちら側から仕掛ける必要がある。





「…そうだなあ。例えば、とある貴族が人身売買の取引に参加したがってると、第三王子の耳にそれとなく入るようにする。


“とある貴族”は誰でもいいわけじゃないよ。本当に参加したがってる貴族じゃないといけないの。そこに、少しの嘘を混ぜるんだ。


本人は興味ないのに、ある香辛料を欲しがってるって嘘を混ぜるとか。本当はそうでもないけど、どこそこの貴族と懇意にしてるって嘘とか。


その嘘を元に第三王子が動いたら、黒だと確定できる」






大事なのは、真実にほんの少しの嘘を混ぜることだ。


とある貴族が人身売買に関与したがっている、という情報事態が偽情報だと、すぐにバレてしまう。

第三王子を引掛けることは到底無理だ。


誰かが罠に嵌めるために嘘情報を流したと、怪しまれる危険性さえある。

欲しい情報を引き出すのに、難易度が上がってしまう。


情報の9割方が真実であれば、必然的に事実と相違する場面が少ない。


そして、事実と真反対の嘘ではなく、事実を誇張した嘘を混ぜればよりバレにくい。

怪しまれる危険性を抑えて、違和感を持たれない程度のささやかな嘘を混ぜるのだ。





「罠を撒くってのは賛成だが……。……なるほどな」




否定的な言葉を述べようとして、何かを思いついた様子のケッツ。

伝書鳩に持たせる返事の続きを書き始めた。


今の発言が役に立つならいいんだけど。

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