正義に裏切られる
「私に話を聞かせたってことは、それだけ行き詰ってるんだよね?」
「情けないことにね」
「それなら、喜んで協力するよ。私は、王を廃位させたいから。2人が調べてる人身売買について明らかにできれば、王は立場を失うよね?」
「そうだね。王が改心することは有り得ないだろう。罪が明らかになった暁には、王は失脚する」
「うん。なら協力する。手伝う。私を使って」
「有難いね。差し当たって、頼みたいことがある」
「なになに?」
気持ちを切り替えて明るい声を出す。
いつまでも落ち込んではいられない。
私のやれることをやるのだ。
意気込んでちょっと前のめりになる私。
「人攫いを行っている者たちを捕えて、情報を掴みたい。囮となってもらえないかな」
快諾するつもりが、半笑いの表情で固まってしまった。
私が囮となるということはつまり、また危ない目に合うということであって。
高確率で怖い目に合うということだ。
そんな。
痛いのも怖いのも危ないのももうノーサンキューだよ。
輩に襲われて感じた恐怖。
腿を切られた痛み。
攫われたときの苦しさ。
付けられていたと気づいたときの戦慄。
もう味わいたくないんですけども。
この世界で犠牲になっている子たちを救って見せると決意した直後にこれだ。
エゴで決意を手のひら返ししている。
救いたい気持ちはある。
私にできることなら頑張りたい。
でもやっぱり、怖い思いをするのは嫌だ。
自分の命を投げ出したいわけじゃないのだ。
自分を責める気持ちと擁護する気持ちがぐるぐる回る。
「心配しないでほしい。すぐにケッツが助けに入るから」
「不本意ながらな」
フォローを入れたケウニス隊長の言葉を即座に台無しにするケッツ。
こいつ…。
でもなんか、逆に冷静になったわ。
もう一回死んでる身だ。
しかも凄くくだらない、完全に自分のせいによる事故死だった。
現状の私は、ボーナスステージに立っているとも言える。
本来なら存在しない延長戦。
ゴール条件は自分の命を生き抜くことではなく、この世界をハッピーエンドに導くこと。
そうだとしたら、答えは1つだ。
「…信じるからね」
ケウニス隊長の言葉を。
ケッツの助けを。
「ああ、任せてくれ。ミコトもよろしく頼むよ」
怪しいと目星を付けている人物が食いつくように、どの地域でどう行動するかはケウニス隊長から指示を受けることになった。
伝書鳩を使って、ケッツに指示書が届く形だ。
私、この世界の文字読めないしね。
しばらくはケッツの家にご厄介だ。
「ねえ、いろいろ聞いていい?」
私を置いて2人で話し合いそうな雰囲気があったため、挙手で存在をアピールする。
ケウニス隊長たちが調べていることに足を突っ込むことになったのだ。
わからないことは全て教えてもらおう。
「何を聞きたいのかな」
「3日前に捕まえた人が殺されてたって、もしかして私を襲ってきた人たちのこと?」
人身売買なんて裏では恐ろしいことが行われているみたいだけど、表面的には1日に何人も悪人が捕まるような治安の悪い国ではない。
「そうだね。自殺を装われていたけど、あれは情報漏洩を防ぐためだろうね」
予想通りの答えが返ってきた。
いや、殺されたのが腿を切り付けられた輩だっていうのは予想通りだけど、情報漏洩を防ぐためっていうのはどういうことだ。
「誰かに指示されて私を見世物小屋に売ろうとしてたってことなの?」
「見世物小屋?いいや、あの者たちも人身売買の片棒を担がされていた者たちだよ。本人たちにそのつもりはなかっただろうがね」
「え!」
見世物小屋行きと、人身売買の商品。
どっちがより悲惨なんだろう。
初日からとんだハードモードだったんだな。
自分で思っていたよりも酷かった状況に目眩がしそうだ。
あれ、ちょっと待てよ。
「捕まえてその日のうちに殺されちゃったんでしょ?どうして人身売買のために私を捕まえようとしてたってわかるの?聞き出す時間あったの?」
ヴェータ関係者を捕まえるためにバタバタしてた城内で、すぐに調べる余裕があったんだろうか。
「鋭いね。情報を聞き出す時間はなかった。でも、十中八九あってるよ。ミコトが襲われたのは人身売買の商品とするためだった」
ケウニス隊長は自信ありげに語るけれど、私にはそれが理解できない。
初日に襲ってきた輩共は、私を売り飛ばして大金を得よう、とは口走っていた。
私はそれを見世物小屋に売り飛ばすことだと捉えてたんだけど、ケウニス隊長たちは人身売買の商品として売り飛ばすことだと、半ば確信している。
尋問することができなかったのに、どうしてそう言い切れるのか。
「現場にいたのはケッツだからね。ケッツに説明してもらおう」
3日前のその時間、ケウニス隊長はツフマを捕らえるために移動中だった。
ケウニス隊長だって、ケッツの報告でそのことを知ったのだ。
面倒だという表情をしつつも、ケウニス隊長の指示には大人しく従うケッツ。
軽く息を吐いて口を開いた。
「ミコトは城を出てすぐに襲われただろ」
「うん」
「後ろ暗い奴は普通城に近づかない。加えて、ミコトは待ち伏せされていた。あの場所で待ち伏せするには城内の奴が情報を流す必要がある」
私は兵士が緊急で使う道、いわば裏道で目が覚めた。
通常は使われることのない道だ。
あの日も、ケッツに城へ連れてってもらう間は誰にもすれ違わなかった。
目が覚めて、城へ行って、城から出て襲われた、その間に私の姿を見た人間は限られる。
輩に私のことを教えたのが、城内に居た人間だと考えるのは当然だ。
「そうだね」
「ミコトの姿を見て、さらに外まで情報を流しに行ける奴。そんなのは限られるんだよ。城内の見回り兵士や下働きは持ち場を離れられない。あの日、ミコトを見た上で自由に動き回れたのは待機部屋で休憩中だった兵士だけだ」
ケッツに兵士の待機部屋に連れ込まれ、開放されて私が城をうろついた間に見掛けた人たち。
その数は少ない。
待機部屋に居た兵士たち、城内の見回り兵士、下働きとして厨房で料理をしていたり、城内の掃除をしていた人たち。
下働きの人たちは掃除や調理など受け持った仕事を忙しなくこなしていた。
隙を見て抜け出すということはできなくもないが、発覚すれば職を失うだろう。
城内を見回っていた兵士だって同じだ。
城を抜け出すことはできない。
しかし待機部屋にいた兵士は違う。
遠出から戻っての休憩中か、交代をして仕事を終えた時間だったのか、次の任務に向けての待機時間か。
どの状況かはわからないが、フリーで動くことはできた。
良い商品があるから攫ってこいと、輩に話をすることは可能だ。
つまり、
「私は兵士に襲われたってこと?」
最悪じゃん、と顔をしかめる。
この世界での兵士は、いわば元世界での自衛隊のようなものだ。
国に仕え、民のために働く。
正義と結び付けられる存在。
そんな正義の存在が人身売買に絡んでいるなんて。




