衝撃の事件発覚
私からケッツに協力をお願いしたわけだけど、私の傍にいることは情報収集活動になっていたらしい。
連行してきた誘拐犯も、微少ながら情報源として役立っているみたいだ。
なんだか複雑。
囮にされていた気分。
「ミコトは全てを把握しているのかい?」
ケウニス隊長に話を振られて、きょとんと目を見開いてしまう。
全て?
全てとは、何を指しているんだい?
ケッツとケウニス隊長の報告を、私はたぶん半分も理解してないが?
「えっと……、わかんないことばっかです……」
「ふむ。神に遣わされたと言う話だが、神も全てを把握しているわけではないというわけかい?ミコトは、この国の状況をどこまで把握しているのかな」
「ええっと…、大まかに。王は異種族嫌いで偏見持ち。視野狭窄で国が傾いてることには気づいてない。王がヴェータを捕えたことで春が来なくて、寒さで作物が死ぬ寸前だった」
「…人身売買については?」
「じん…!?」
さらりと告げられた衝撃に、まともな単語が出てこなかった。
この国に、何が起こっているんだ。
私が書いていた小説の中では、そこまでの悪事は存在しない。
ちょっと主人公が苦しんだりするけど、基本的には軽めのファンタジーなのだ。
それなのに、人身売買だって?
放っといたら悪い方向に転がるにも限度があるぞ。
我は創造神、なんて調子に乗ってる場合じゃない。
真面目に情報が必要だ。
「その様子では知らなかったみたいだね」
まだうまく言葉が出てこなくて、口をはくはくさせながら頭を上下に振る。
人身売買なんてものが起こってるなら、人攫いが多いのも納得できる。
もしかして私、人身売買の商品になるところだったんだろうか。
ひいい!
なんて恐ろしい!
「じん、人身売買なんて、誰が…」
私の質問に答える前に、ケウニス隊長はケッツを一瞥した。
ケッツが頷いたのを見て、隊長は薄い唇を開く。
「王だよ」
王。
この国の王様が、人身売買を働いている。
ちょっと待ってくれ。
頭が追い付かない。
確かにこの国の王様は決して良い王様じゃない。
異種族に対して排他的。
独善的な政治で周りが見えてない。
でも、そんな。
“人身売買”という単語が重くのしかかる。
私の脳内には、酷い有様が浮かんでいた。
人を人と思わない扱い。
死んでも他がいる代替性。
数が足りなくなれば捕獲しての補充。
そんな酷いことが、この国で行われている?
いや、待て。
人身売買と言っても、程度は様々だ。
王室で働く下僕として買われたなら扱いはそこまで酷いものじゃない。
古代社会の奴隷みたいに、移動の自由はなくても経済的には独立して制限が少ない状態もある。
「人身売買って、どういう…。どうして、王はそんなことを」
「端的に言えば、他に商品が無かったからだろうね。わが国の国力は弱る一方だった。長らく季節が不安定で食料も心許ない。軍事力も経済力も上がらない。手っ取り早く使える手段が人身売買だったのだと予測しているよ」
「他国に売られてるってこと…?売られた人たちはどうなってるの…?」
「そこまでは把握できていないんだ。子供が攫われているのは間違いない。しかし、どこへ売られているのか、売られた先でどういう扱いを受けているのかはまだ掴めていない」
こども、が、売られている。
声を揺らして尋ねる私に対して、ケウニス隊長は淡々とした返答だ。
至極真面目な顔をして返答しているだけだとわかっているのに、端整な顔が真剣な表情をしていると、責められている気分になる。
押しつぶされそうだ。
ぺしゃんこに。
ぺらぺらに。
私の生み出した世界で、私の生み出したキャラのせいで、苦しんでいる子供たちがいる。
ヴェータだって苦しんでいた。
ラピスィだって苦しんでいた。
でも、あの子たちには救いがある。
ハッピーエンドが待っている。
商品として売られていった子たちはどうなったのだろう。
異国に連れていかれて、人として生活できているだろうか。
悲しい思いは、痛い思いは、していないだろうか。
ごめんなさいと泣いて叫びたい。
そんなつもりは無かったのだと許しを請いたい。
決して違うのだ。
苦しむ子供たちを生み出したかったわけじゃない。
傷つけたかったわけじゃない。
フィクションとしてなら楽しめていたのに、それが目の前で起こるとこんなにも苦しい。
「ミコト。大丈夫かい?顔色が芳しくないよ」
視界に自分の膝が映っている。
いつの間にか下を向いていたみたいだ。
「だい、大丈夫」
私が傷ついている場合じゃない。
苦しんだって、悲しんだって、状況は何も変わらない。
改善しない。
考えろ。
情報を手に入れて、模索するのだ。
攫われていった子供たちが解放される方法を。
売られていった子供たちが幸せになる未来を。
一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
この世界の創造神が、作者が、私が、明るい未来へと導かなくてどうする。
「国が傾いているのはわかってたけど、王がそこまで悪いことをしてるとは思ってなかった。…だから、私は攫われたんだね?商品として他国に売られるところだったんだ」
「そうだね。捕まった当人にはそこまで知らされてなかったようだけれど。そうだろうと思うよ」
顔も名前も、正確なことは何も知らされていなかった誘拐犯。
何も信用されちゃいない、下っ端への発注だ。
馬に乗っていたから誘拐犯はそれなりにお金を持っているのだろうと考えていたけど、とんだ勘違いだった。
馬もサーニミとかいう奴から渡されたに違いない。
冷静に考えたら、自分で馬を所持できる経済力にしては、誘拐犯は薄っぺらい体に小汚い服だった。
貧相な見た目の誘拐犯。
それに見合わない毛艶のある馬。
誘拐犯が馬の所持者だと結びつけるのはちょっと苦しい。
馬を所持している、かつ、他人に貸し出せる程の頭数を揃えている人物となると、当てはまるのは貴族だ。
おそらく、王が主導となって、貴族の手も借りて、人身売買は行われているのだ。
2人は、この大きな問題を解決するために調査し動いているのだろう。
ケッツに関してはわからないけど、ケウニス隊長は善人だ。
不正を叱責し、不義に憤慨する真面な人間。
人を物として扱うことに憤り問題解決に動いてもおかしくはない。
以前から調査していた人身売買。
その絶好の餌となる私。
何か情報を掴めそうだと、ケッツは私の傍に付いていたのだろう。
そして案の定、ささやかではあるが情報を掴んだ。
「売られていく子供っていうのは、人間の子供だけなの?」
「いいや。人間に限らず、小人族や半人族の子も売られているみたいだね」
「王が主導で、周囲の貴族たちも人身売買に関わってるってことなんだよね。2人は、どの貴族が関わってるのかをはっきりさせようとしてる」
「理解が早いね」
真面目な表情は変わらないけれど、感心するようなニュアンスがにじむ。
ベッドに姿勢よく腰かけて、私を静かに見ている隊長。
ケウニス隊長は慎重な性格だ。
根拠のないことは信用しない。
情報を与える相手は選別し、時には信用できるまで徹底的に調べたりもする。
調査を任せていたケッツのことは全幅の信頼を置いているのだろう。
その調査報告の場に私を立ち会わせたということは、私のこともそれなりに信用してくれたのだ。
ただの子供じゃないと。神に遣わされた身だと。
100%信じた訳ではないだろうけど、それでも、害はなさないと判断された。
そして、私の知識を必要とされている。
いや、役に立つかもしれないと期待されている。
私としては仲間が増えれば万々歳。
好都合な展開といえる。




