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隊長とケッツと私

土楼に寄ってラピスィを送り届け、ゆっくりする間もなく城へと向かう。

誘拐犯を括りつけた馬を引きながらだったため、思い切り飛ばすことはできなかったけれど、閉門時間前に滑り込むことができた。


馬を厩舎に繋ぎ、ケッツは誘拐犯を半ば引きずるようにして城の拘置所に連れていく。

情報を聞き出したり、牢へ移す前の短期拘束に使われたりする場所だ。

誘拐犯を放るように押し込み、檻に鍵をかける。


ケッツは拘置所の番に就いていた兵士に何事かを言い、誘拐犯を見張るのか、兵士は牢の前へと立った。



通常は特定の檻の前で見張ることはないと思うんだけど。

なんだろうな。







特別対応に頭をひねらせていると、ケッツから声がかかる。



「おい、ミコト。こっち来い」




半地下となっている拘置所の出入口階段で、私を待って足を小刻みに揺らしているケッツの姿。

急かされている気がする。


言われるがまま短い手足で駆けるものの、お気に召さなかったらしい。

遅いという小言と共に抱え上げられた私。

ケッツはぐんぐん移動していく。


着いた先は、城内に用意されている隊長の部屋だった。




兵士は皆、城外に住居を持つ。

通常はそこから日々出勤するし、配偶者や子供などの家族もその住居に住んでいる。

けれどある程度地位が上がると、城内にも部屋がもらえるのだ。


広くはないが、そこまで狭くもない広さ。

寝泊まりができ、少しなら私物も置ける。


城内での有事に、腕の立つ兵士がすぐ駆けつけられるようにするためだ。

部屋持ちの兵士は城内待機日が決められている。


もちろん、休憩や夜勤の仮眠にも使えるし、出勤時間を減らす目的で城内に住み着く兵士も稀にいる。

まあ、本当にワーカホリックな極一部だけども。






私を床に降ろして、ケッツは緩く姿勢を正す。




「ケウニス、いま戻った。待たせたが、これまでの仔細を報告する」


「ああ、頼む」




ケッツが隊長を呼び捨て、ましてやタメ口を利いたことに、目を見開いて2人の顔を見る。


驚きで目が飛び出るかと思ったぞい。

どういうことなんだい。








兵士間の上下関係は厳しいものだ。


兵士は貴族出身者が多いということ。

団結を乱さぬ必要があるということ。


城に勤める者としての品位を高めるという意味もある。

隊長に対してタメ口を利くなど、言語道断である。



しかしケウニス隊長は貴族出身者には大変珍しい、実力主義者。

現在は閉門後の時間であり、いま居るのはケウニス隊長の城内部屋。

時間的にも場所的にも、職務外と言ってもいい。


ケウニス隊長がタメ口を許すほど、ケッツは実力者だということなのだろうか。








「ミコトからの話も聞かせてほしい。良いかな」




蚊帳の外だと思っていたら急に矛先が向いて、心臓が飛び跳ねる。


ああ、顔面国宝と目が合ってしまった。

気分はアイドルのコンサートで目が合ったときの舞い上がる気分である。


どっこどっこ心臓が踊り狂うものの、必至に宥めて口を動かす。




「は、話って、なんですか。な、何に対する…」


「お前態度おかしくないか」


「ううう、うるさいっ」




ケッツに突っ込まれてしまった。


何を隠そう、いや隠れてないだろうけど、自作キャラの中での最推しがケウニス隊長なのだ。

好きな舞台俳優がこんな振る舞いをしたらたまらない、という妄想から生まれたキャラなのだ。


ああ、夢が現実に。

妄想が目の前に。




様子がおかしい私のことは気にも留めず、ケウニス隊長は平然と話を進める。




「ケッツから簡単な報告は受けているんだ。君が普通の幼子ではないことは知っているよ。私が馬を愛していることも、その世話を任しているヴァケアの存在も知っていると。君は、我が国を救うために現れたそうだね?」




隊長の品の良い口元が弧を描く。

特別な行動はしていないのに優雅な雰囲気を纏うケウニス隊長。

対して、供給過多に爆発しそうな私は、固まりそうになる脳を必死に回転させる。


落ち着け。

我が子の麗しさにやられてる場合じゃないぞ、私。



静かに深呼吸をする。



味方を、増やせるかも。

想定よりもずっと悪い治安について、きちんと把握できるかも。

これは良い機会かもしれない。




「そう、です。…この国を救うために、私は今ここに居る。私の魂は大人だし、過去も未来もある程度知ってる。けど私1人じゃ何もできないから、協力してくれる人が欲しいんだ」




ケウニス隊長なら諸手を上げて信頼できる。

私が設定を考え、描写し、育ててきたキャラクターだ。

この世界産のケッツとは違って不明点が少ない。




「うん。互いに、建設的な情報交換をしたいね。長くなるだろう。そこの椅子を使って構わないよ」




部屋の隅に、背もたれも肘掛も付いていない腰掛が置いてある。

1つしか置いていないため、遠慮なく座らせてもらった。

隊長は自分のベッドに腰かけており、ケッツは立ったままの状態だ。


ケウニス隊長がケッツに目線を向ける。




「まずは先に、ケッツから仔細を聞きたい」


「ああ」




そうして、ケッツは私と共に行動していた間のことを報告していく。


小人族の住処である土楼に行き、ラピスィを連れてヴェータを外に出したこと。

礼拝堂での春を呼ぶ儀式。

オウタを特別牢から出し、私を誘拐した罪人を連れ帰り、そして現在。




口ぶりから、どうやら簡易報告は何度かしていたようだった。

ケッツが伝書鳩を送っていた相手は隊長だったのだろう。




「捕まえた奴は、サーニミという人物の命令でミコトを攫ったと言ってたが、恐らく偽名だと思う。指示は貰うが直接顔を見たことはなく、ミコトや報酬の受け渡しも間接的な方法だった。手を引いてる人物は相当慎重だ」


「なるほど。偽名だというのは間違いない。拘置所には何か対応しているか?3日前に捕まえた者が殺されていたことは伝えただろう」




3日前。

3日前といえば、私がこの世界に来た日だ。

輩に絡まれて殺されるかもってなった日。

ケッツを味方につけた日。




「問題ない。ウィスターヴァに見張りを頼んできた」


「ウィスターヴァなら間違いないな。良い判断だ」


「報告は以上だ」


「わかった。こっちは黒が1名判明した。一昨日の夜、積荷が減っているようだと声を掛けたら確認しに行っていた。現在、イェテーヂョにそいつの周辺を調べさせている」




一昨日の夜といえば、ヴェータを外に出すために城へ行っていた日だ。

ヴェータが脱出できるように、城の牢出入口を監視する兵士をその場から外す手配をケッツに頼んだ。


もしやケッツめ、自分の上司である隊長に頼んだということか。





ケッツとケウニス隊長が互いに報告する内容を、私は一先ず、おとなしく聞いていた。


治安の悪さについて掴む情報があるかもしれないし。

情報はあるに越したことはない。



しかし報告を聞いていると、なにやら利用されていた感が浮上する。


ケッツに協力を頼んでいたと思ったら、いつのまにやら私がケッツに協力していた…?

何を言っているかわからねえと思うが私にも…、なんてふざけてる場合じゃない。

真面目に働いて私の脳。






ヴェータを外に出すために、城の牢出入口の見張り兵士に場を外させた一昨日の夜。

報告の内容や流れから、場を外させるため兵士に声を掛けたのはケウニス隊長だったと判断できる。


“積荷”が減っていると声を掛けて、その兵士が積荷の確認に行ったら、その兵士は“黒”。

…何の話かさっぱりだ。


でも、嫌な予感だけはする。

放っておけば悪い方に転がるこの世界で、作者たる私の知らない情報。



悪いものが隠されてそうじゃん!

ちょっと神様!

裏情報は知らせといて!

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