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ラヘッラにて

宿を確保して、狭い部屋の中に6人が顔を合わせる。

ちょっと狭い。



1人拘束された状態でやって来た私たちに、宿の店主は疑惑の目を向けていたけれど、ケッツがうまいこと話して信用を得ていた。


いや、ケッツは兵士だし、あやつは私を誘拐した悪党だし、悪いことはなにも無いんだけどね。








「さて。ここにいる全員、目的は一緒だと思うのよね」




手を合わせて口火を切る。



「オウタは危うい国を立て直したい。ヴェータは捕まった家族たちを助けたい。どっちも王をなんとかする必要があるよね」




言いながら目線を合わせると、オウタとヴェータは頷く。




「私も国が傾くのを阻止したい。王は引きずり降ろさないといけないって思ってる」




私の横や後ろの方に座ってたラピスィとケッツを指さす。




「2人には私が協力を頼んだんだ。ラピスィはヴェータを助けるために頼んだんだけど、小人族の状況を改善するって目的もある。ケッツも城に勤める兵士だけど、国が駄目になるくらいならって、協力に応じてくれた」




私の言葉にラピスィも頷いてくれる。

ケッツは肯定も否定も無く、黙って腕組をした状態だ。

反論が無いなら良しとする。




「みんな方向性は同じ。だから、何か協力してほしいことがあったら言ってほしいと思うし、逆にお願いしたいことがあったらこっちからも頼みたい」




未来がプロット通りに進むなら、私たちの助けはいらない。

様々な手を駆使してオウタが着実に進めてくれるだろう。


だけどプロットよりも悪い方向に転がっていく現状。

オウタの力だけではどうにもならないことが起こるかもしれない。

その際には、迷わず私を頼ってほしい。



幼児で非力な私に何ができるのかっていう問題はあるけど、力になれると思うのだ。

いや、力になりたいのだ。


この世界を生み出した者として、何もせず手をこまねいているだけなんて嫌だし、作者しか知らない情報で助け船が出せるかもしれない。



そのためにも、助け出して終わりの関係にはなりたくない。








私の言葉を聞いて、考えるように目を伏せてからオウタは口を開いた。




「…助けていただいたことに関しては、感謝しております。ヴェータから大略は伺いました。けれど、貴女のような庇護すべき幼子を危難な目に合わせることはできません」




王を現在の地位から引きずり落とすということはつまり、国の頂点に逆らう行為だ。

場合によっては命の危険さえある。


ただでさえ、何をしたわけでもないのに捕らえられた直後なのだ。

他者を巻き込みたくないと考えるのも当然だろう。


ましてや、見た目は齢4つ程度の小さな女の子。

協力を頼むどころか、事態から遠ざけようと考える方が普通だ。





「危ないってことは理解してるよ。でも、私をただの小さな子供だと思わないでほしい。ある程度知識は持ってるし、オウタたちに助言はできると思うんだ」






まがりなりにもこの国の創造主である。

人攫いが多かったり、私が知る情報よりもちょっと治安が悪いみたいだけど、大抵のことは知っている。


過去のことを。

確実じゃないけど未来のことも。






「失礼てすが、風姿からは幼子だとしか…」


「ミコトさんは特別な方なのですよ、オウタ」




オウタの言葉を遮って、ヴェータが援護してくれる。




「私たちの力にきっとなってくれます。子供だからと思わないで、困った時には助力を願うべきです」


「ヴェータ。ミコトさんの風姿は紛れもなく幼子のものでしょう。幼子を危険に晒せと仰るのですか」


「決して危ない目に合わせたいわけではありません。けれど、ミコトさんの助力はきっと手助けとなります」


「ミコトさんが特別だと仰る、その理由をまずは説明していただきたい。でなければ何も納得できません」


「それは…」




付き合いが長い故に遠慮がない2人。

若干声を荒げつつの応酬は、ヴェータが言葉に詰まったことで打ち止めになった。


“神の遣い”だとは言わないでほしい。

そう私が言ったからだ。


それ故に、ヴェータは“特別”の理由が説明できない。








「はいっ」



勢いよく挙手しながら、空気を壊すように声を上げる。




「何もできないけど、知識はあるよ。何でもは知らないけど、皆が知らないことを知ってる。そうだなー…」



例えば、と人差し指を立てる。




「ヴェータとオウタは寄宿学校で友達になった。

始めは仲が悪かったよね。文字も読めない、計算もできないヴェータに、オウタは苛つきもしてた。


でも複数人で組んで成績を競うってときに、同じ組になっちゃった。足を引っ張られたくないオウタは仕方なしにヴェータの勉強を見るようになって、貪欲に知識を得ようとする姿にヴェータへの見方を改める。


周囲の子たちは親の地位に胡坐をかいてて、なあなあな勉強しかしてなかったもんね。上昇志向が強いオウタにはヴェータの姿が好ましく映ったんだ」





数年前の、本人たちしか知らないであろう情報。

その時期には産まれていないはずの子供の口から、それが飛び出す。



「“特別”の意味、ちょっとは伝わるかな」



軽く首を傾げて言うと、オウタはヴェータに顔を向ける。



「ヴェータが前もって伝えたとも考えられますが」


「違います。そもそも、始めは私に苛ついていたなんてこと知りませんでしたよ。オウタ、私のことをそんな風に思っていたんですか?」


「仕方ないでしょう。文字が読めないなんて赤子同然です。本来なら入学する資格がないと判断される非常識な事態でしょう。場違いな人だとは思っていました。……なるほど、どういう事情かは知りませんが、ミコトさんは情報をお持ちだということですね」



むくれたヴェータを横に置いて、話を戻したオウタ。



「…わかりました。いざという時には相談させていただくかもしれません」




完全に納得したという感じではないが、及第点の返事だろう。

うんうん首を偉そうに縦に振り、話を次に進める。





「うん。待ってるね。とりあえず見てる方向は一緒だよって伝えたかったんだ。オウタ、早く取り掛かりたいことがあるでしょう。始めていいよ。私たちはここを出てラピスィを送って…、捕まえた人を城に届けることになるのかな」




途中からはケッツへの問いかけとなった。


痺れ薬がそろそろ切れるだろうと、手も足も縛られて部屋の端に転がされている誘拐犯。

現代で言うなら、取り調べの後に裁判だ。


この世界だと、牢に捕まえて取り調べだろうか。

現行犯だったし。




「そうだな。城に連行する。話が長引くようなら、今日はこいつと同じ部屋で夜を過ごすところだったぞ」




え、それは嫌だ。


ツフマの家から今いる町、ラヘッラまでは4、5時間くらいかかるだろうか。

ツフマの家と城は近いから、今出発すれば陽が落ちるギリギリには城へ辿り着ける。


しかし、途中でラピスィを送り届けるため、行程は少し遠回りに。

あまり遅い時間になると城門が閉じて中に入れなくなるのだ。


今が閉門時間までにたどり着けるかどうかの瀬戸際らしい。






「よし。じゃあ私たちはお暇しよう。ヴェータは戻れないし、オウタのこと手伝ってあげてよ」




本来のプロットでも、ヴェータはオウタと共にラヘッラに留まる。

しばらく傍で様子を見れないのはちょっと心配だけど、オウタがうまく事を進めてくれることを信じよう。




「はい。道中、危険がありませんよう」


「ありがと。この町なら大丈夫だろうけど、見つからないように気を付けてね」




オウタとヴェータを置いて、私たちは宿屋を出発した。

攫われたばかりなのもあって、宿屋を出る前から目深にフードを被った。



この世界の治安が悪いのは理解したからな。

もう油断しないぞ。

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