無事に合流
助けてくれた感謝と勝手に裏切られた気分と、感情がごちゃ混ぜになる私。
埒外の様子に気づくはずもなく、ケッツと誘拐犯を取り巻く空気はどんより悪くなっていた。
ケッツは試験管に似たビンを見せつけながら言う。
「選ばせてやろう。息苦しさに悶えるか、吐瀉にまみれるか、幻覚に狂うか」
手に持つビンを揺らす様は、ファンタジー作品に出てくる悪役やマッドサイエンティストのよう。
さらにわざとらしく、さも今気づいたかのように、短刀を手に取り付け加える。
「ああ、純粋に痛みに苦しむ案もあるぞ。行きつく先は全て同じだけどな」
何でもないことのように、世間話でもするかのような気楽さで、さらりと発せられる言葉。
死の宣告。
それが異様さを際立たせて、余計に恐怖を煽る。
ぞわぞわと肌が泡立った。
こっわ!
ケッツ一応正義側でしょうに!
正義が回れ右して逃げちゃうわよ!
「ま…、待て。話そう。話すよ。だからその手の物は放して」
「素直なのは良いことだな。誰の差し金だ」
痺れのせいで呂律が回らない中、ケッツのやばさを感じて言葉を紡ぐ誘拐犯。
最後まで聞かずに話を進めるケッツに口を引き攣らせる。
「さ、サーニミだ。そう名乗ってい」
「あいつを攫ってどこへ行く気だった」
「森の中に小屋があると言われた。そこに閉じ込めろという指示」
「それで終わりなのか。報酬はどう受け取る流れだった」
「ガキと引き換えで小屋に報酬が置かれる。明日確認しに来いと指定が」
「サーニミとは頻繁に接触してるのか。どう連絡を取っている」
ことごとく食い気味で問い詰めていくケッツ。
上からじっとりと誘拐犯の顔を観察していて、それがまた圧を感じる要因となっている。
一通り聞き終えたらしいケッツは、一呼吸置いて足を避けた。
「まあいいだろう」
誘拐犯をまた足で転がしうつ伏せにして、後ろ手に縛る。
そして、ちょっと前の私のように馬にひっかけた。
座る私の後ろにひっかけられた誘拐犯。
後ろ手にされた状態だし、これは相当苦しいのでは。
ケッツは馬を引いて横を歩いていたが、少しして誘拐犯の乗っていた馬を発見。
遠くへ逃げずに草を食べていた。
誘拐犯をそっちの馬に乗せ替え、ケッツは私の後ろに乗る。
誘拐犯に配慮するわけがなく、容赦なく走り始めた。
痺れた体では振動で落ちること必至なため、紐で馬に縛り付けられた状態だ。
攫われた地点に戻ると、ヴェータもラピスィも今にも泣きそうな顔で待っていた。
馬が足を止めるやいなや、即座にヴェータに抱きしめられる。
「ミコトさん、ご無事で良かったです…っ。心臓が潰れるかと思いました」
「心配してくれてありがとー」
よしよしとヴェータの頭を撫でる。
ラピスィにも声を掛けようとして、状況を掴み切れていないオウタの姿が目に入った。
「良かった。問題なくオウタを連れ出せたんだね」
「はい。特に疑問に思われることもなく円滑に…。けれどラピスィが呼びに来て本当に驚いたのですよ。お怪我も無いようで安心しました」
抱きしめていた体を放して、私に傷が無いことを確認しながら言う。
攫われる心配が的中してしまったのだ。
仕方なかったとはいえ、攫われやすい状況を作ってしまったことに罪悪感があるのかもしれない。
ヴェータはなんにも悪くないんだよ。
気にしないでおくれ。
馬から降ろしてもらってラピスィにもお礼を言う。
「ケッツを呼びに行ってくれてありがとう」
「…ううん。ううん……っ。…僕、何もできなくて、…ごめんね」
顔に皺を寄せて、ぶんぶんと横に振るラピスィ。
ああもう。
何も悪くないのに気にする良い子ちゃんたちだよ、まったく。
「そんなことないよ。ラピスィがすぐにケッツを呼んでくれたおかげで助かったんだよ。本当にありがと」
ラピスィが落ち着くように、抱きしめて背中をとんとん叩く。
あの時、ラピスィが手を伸ばしてくれて嬉しかった。
それだけで十分だ。
それに、もしあの手を掴めていたとして、体重の軽いラピスィでは被害者が増えるだけだったかもしれない。
私が攫われてすぐにケッツを呼びに行ってくれたのだろうし、周りが敵だらけの中に1人という状態で、ラピスィは脚がすくんで仕方なかったはずだ。
それでも動いてくれた。
ケッツを呼びに特別牢の方へ走ってくれた。
ラピスィは十分な仕事をしてくれたのだ。
落ち着いた頃合いで体を放して、オウタに向き合う。
一瞬、たじろぐ気配があった。
私についてどう説明されてるんだろう。
それとも誘拐騒ぎで説明どころじゃなかったかな。
「初めまして、オウタ。私はミコトって言います。この国が駄目になるのを食い止めたくて、ヴェータとオウタを外に出したんだ。でも御覧の通り私は子供で、何をする力もない。オウタにはオウタの考えている通りのことを行動に移して、この国を良い方向に導いてほしい」
「貴女は……。全てを知っておられるのですか?」
「知らないことばっかだよ」
つい笑いが漏れた。
この世界の創造主ではあるけれど、全能の神ではない。
私が生み出していないキャラ。
知らない事件。
私の創造の産物だけれど、もしかしたら全体の半分も知らないかもしれない。
未来がどうなるかだって私にはわからないのだ。
「とにかく詳しいことは置いておいて、先に移動しよう。ここから近いラヘッラに向かう?」
立ち話もあれだし、腰を落ち着けて話したい。
特別牢に捕まっていた間、オウタは何をどう行動するかを考えていたはずだ。
以前から差別・偏見の強かった王だが、ヴェータ・オウタ自身と捕まったことで、王の考えは国に害なすものだと実感した。
罪を犯していないのにオウタが捕まったことに関しては、良くはないが、他にもままあることだ。
納得できるわけではないが、運が悪かっただけだとも言える。
しかし、ヴェータに関してはそうは言えない。
長いこと四季の移り変わりが不安定で、度々の災害を起こす気候。
幾人もの交信者を探して、ようやく安定した季節を呼べる交信者として現れたのがヴェータだ。
ヴェータが季節を司る役に就いて数年。
災害に見舞われることもなくなり、国が上向きになってきたところだった。
ヴェータを捕まえる理由などありはしない。
むしろ、ヴェータが職務を全うできなくなって如実に、季節は逆行するかのごとく寒さを増したのだ。
悪行でしかなかった。
王をこのままにはしておけない。
ヘタしたら自分の国が亡くなる可能性さえある。
オウタは単なる一介の民だ。
王族でも何でもなく、貴族としてそれなりの身分はあっても、所詮は民。
王に苦言を述べることもできない。
王を今の地位から降ろすには、元老院を動かす必要がある。
一介の民でしかないオウタが取れる、一番可能性が高い方法だ。
王に王たる地位を認め、国を治める権限を与える機関、元老院。
現状の元老院はまだ、王に不適格だという烙印は押していない。
多数の民による訴えがあれば、元老院を動かすことができるだろう。
そのためにオウタはまず、信頼できる同僚に連絡を取ろうとする。
住居に戻ることも職場に戻ることも今はできないため、宿屋から手紙を送って連絡を取る形だ。
手紙を送るのは早ければ早いほどいい。正式に釈放されたわけではない身だ。
もたもたしていたらまた捕まってしまう可能性もある。
特別牢から一番近い町、ラヘッラから手紙を出そうとオウタは考えている。
誰からも異論はなく、荷物と化した誘拐犯も連れてラヘッラへと向かった。




