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追いかけっこ

私を攫ったこいつはどこに向かっているのか。

度々起こるというその他の人攫いと行先は同じなのか。



つけられていたかもしれない衝撃に寒気を感じながら考えを巡らしていると、微かに足音が耳に届いた気がした。

後ろを見ると、小さく鳩が飛んでいる。



ケッツの伝書鳩だ。



もう少し後ろを見ると、木々に見え隠れするケッツの姿も見えた。

ラピスィが伝えに行ってくれたのか、オウタを連れ戻って私が居ないことに気づいたのか。

何にしろ助けに来てくれた。


逃げた体温が戻ってきた気がする。

背筋の寒気が消えた。









徐々に近づいてくるケッツに、誘拐犯も気づいたようだ。

舌打ちが響く。

腰に下げている剣を手に取り、枝を切り落として進路の妨害を始めた。


ケッツを撒こうとして馬の揺れが激しくなる。



ぐえっ!

内臓が潰れる!

胃の中身が出る!



それでもケッツとの距離は縮まっていく。

伝書鳩とももう随分近い。


手が届かない程度に距離はあけて、それでもすぐそこに来ていた。





圧迫と揺れにより襲われる吐き気。

視界が眩みつつも背後、追いかけてくる姿を見やる。

木の幹や枝などの障害物を避けつつ、蛇行少なく駆けてくる。


誘拐犯に猛追してくる勢いと比べると、私を乗せていたときのスピードは大違いだ。

初乗馬で比較対象がなくて、ゆっくりめとか言ったけど全然早いじゃん!、なんて思ってたけど間違いだった。


ちゃんと遅く走ってくれてたんだなあ。




揺れるし早いし気分も悪いし、誘拐犯の顔も見れないけれど、誘拐犯が何度も後ろを確認する感じがある。

ケッツが追い付いてきて焦っているらしい。


馬1頭強の距離となったケッツが何かを投げた。

どすりと小さく刺さった音。

それとともに誘拐犯が呻く。

大した傷じゃないらしく、落馬することも逃げる勢いが弱まることもない。



何をやってるんだケッツよ。

もっと大きな怪我とか馬を狙ったりして落馬させればすぐ足は止まるのに…。


いや、それをやられたら多分私が死ぬな。

比喩じゃなく物理的に。






ケッツの攻撃から数秒後、誘拐犯の動きが鈍くなってきた。


「!?くそっ…」





大きく蛇行し、枝を落として進路妨害をし、と悪あがきで忙しなかった誘拐犯。

剣を振るっていた腕が、馬に跨る脚が、勢いをなくして力が抜けていく。


疾走する命令も出せなくなったようで、馬が失速。

勝機が見えたぞ!、と思った瞬間、私の体は宙に浮いた。

投げ出されていた。



誘拐犯の体から力が抜けたことで、馬上に私を押さえつけていた縛りがなくなったのだ。







この世界に来て3日。

そんな短期間でこの命を終えるのか。


投げ出されて宙ぶらりんの体では何もできない。

流れる走馬灯も無い。


スローで流れていく景色。

近づく地面。




ぐしゃりと潰れる前に、急激な圧がかかった。

わしっと服を掴まれ、ケッツに引っ張られたのだ。

そのまま馬上に着地。


ケッツは馬の速度を落としつつ、進路を曲げて誘拐犯の元に向かう。


誘拐犯は落馬していた。

背丈がだいぶある男だった。

骨に皮が付いたような細い体。


右肩に細い金属の棒が刺さった状態だ。

力の入らなさが悪化しているようで、立ち上がろうともがくも地面に崩れ落ちている。






「何したの?」


「痺れ薬だ」





肩に刺さった金属の棒に痺れ薬が塗ってあったらしい。

怪我して数秒でこうも動けなくなるとは、なんて効き目だ。


ケッツは馬から降りると、まともに動けない誘拐犯を足で仰向けに転がす。




「…っ」




衝撃で小さく声を漏らす誘拐犯。


うわ絶対痛い。

仰向けになって金属棒がさらに深く刺さったでしょ。


痛みが容易に想像できて眉間に皺が寄る。

とどめに誘拐犯の右肩へと片足乗っけるケッツ。


無慈悲なり。






そのまま見下ろして、淡々と感情の乗らない声で問う。



「誰の差し金だ」






誘拐犯はケッツを睨んで答えない。

乗せた片足に体重をかけ、ケッツは傷口に圧をかけていく。






「朝から尾行していただろう。バレバレで拙い技術だったな」






なんだって?

聞き逃せない言葉だ。


痛みに顔を歪ませる誘拐犯から、踏みつけるケッツに視線を移す。




朝から付けられていたということは、ツフマの家を出るところからなのか。

ツフマの家からじゃなくとも、そのすぐ後には付けられていたということ。


ケッツはその事実に気づいていたのだ。




服の下に隠していた石を握る。


この石を渡してきたのは万が一の保険ではなく、誘拐されるとほぼ確信していたから。

誘拐犯を捕まえるところまで考えてだったのだろう。




なんだろうこの気持ち。

助けてくれて有難いって気持ちが萎えていくこの感じ。


2日前にも同じ感情を抱いた気がする。

やりきれない思いでいっぱいだわ!





確かに攫われた後でないと、事件が起こった後でないと問いただせない。


尾行については何とでも言い逃れできる。

私を攫う気だっただろうと問い詰めたって、言いがかりになってしまう。


犯人を捕まえて情報を聞き出したいっていうなら、誘拐事件が起きるのを待った方がいい。



確かにわかる。

理解はできる。

論理的に考えたらそうなるだろう。


でもだからって、少しは話してくれてもよくない?

心構えってものをさあ。


ケッツは人の感情に対してもっと配慮したほうがいいぞよ。

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