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狐顔の兵士

スラっと背の高い、狐顔の兵士ことケッツが、腰を折って顔に笑みを作る。



ひい。

何か胡散臭い笑顔だよお。


漫画の登場人物ならきっと悪の手先だ。

味方側にいても裏切り展開がきそうな雰囲気がある。


あの顔面国宝の美麗隊長の下になんて部下を配置してんだ私の脳。







「ミコト、と言ったね。いくつかな。ミコトの親は?」


「え…っ、と」




この夢の空間でどこまで適当に話していいものなんだろう。

夢だからこそなんだって好きに話していいんだろうか。


加減がわからないよー!


親はいるわけがない。

年は…、幼女って何歳を指す?

4歳くらいかな。






迷いながら、右手で4本指を立てて前に出す。



「…4つ。親は…、いない」




幼女にふさわしく、ちょっと子供ぶってみた。


かわいこぶりっ子してしまった気分だ。

恥ずかしさで頬が熱くなる。



傍から見た分には何の違和感もない、幼女の反応だったのだろう。

ケッツは会話を続ける。





「親いないの?誰にお世話してもらってたんだ?」


「わかんない」


「夜寝る家はどこ?」


「わかんない」


「どうしてここに1人でいるんだ?」


「わかんない」




質問にわからない、で返答する私。

年齢と名前以外何も情報を得られないケッツは、溜息をつきながら一旦腰を延ばした。



厄介なもんを押し付けられたって顔だ。

悪かったなー!

私だって状況を掴めてないんだよー!



とりあえず、自分で創作した世界の中、っていうのは間違いない。

顔面国宝の隊長がいることだし。


そんで、白い空間で神様らしき声は言った。


私がいなくなったから、この世界の人の人生が途切れてしまう。

だから導いてほしい、と。



つまり?






物語の更新が止まってるから、その先に導けばいいってこと?


最後に更新したのは今朝だ。

主人公ちゃんが牢に捕まってさめざめと悲しんでるところで終わってる。



この夢の中で、プロット通り進むよう手を回せばいいってことかな。

つまり、主人公ちゃんを助け出さないといけない。


主人公ちゃんは城の牢の中。

お城に向かえばいいのかしら。








「私、お城に行きたいです」




ケッツは数秒思案した後、また胡散臭い顔で笑う。


「うん。じゃあ城に行こうか」




脇の下に手が入り持ち上げられた。

ぐんと高くなる視界。


うわわわ。

普段なら何でもない高さのはずなのに、幼女サイズだと恐怖を感じる!



馬の上に下ろされて、ひしっと馬の首にしがみつく。

でも腕が短すぎて全然心許ない。


滑り落ちるやつだわコレ。

絶対振動に負ける。



ケッツも馬に跨り、前触れもなく後ろに引っ張られた。

馬の首から引き剥がされる。


何をするんだと文句を言おうとしたところで、ケッツの左腕で体を固定される。

ケッツを背もたれに、お腹に回った左腕で固定されている状態だ。




「ゆっくりめで行くけど、落ちないでね」


「はい」




注意するのは私ではなくお前さんでは?



そう思いつつも素直に頷いておく。

夢の中とはいえ、初乗馬である。

経験者の言葉には従っておこう。


ケッツの腕に支えられてはいても、何も掴まない状態では落ち着かない。

ジェットコースターの安全バーを掴む心境で、腹に回ったケッツの腕を掴んだ。




心の準備とかへの配慮は全くなく、ケッツは馬を動かしだす。


ゆっくりめって言ってたけど充分怖い!

早いし揺れる!

あと風が冷たい!



力いっぱい狐の腕を抱きしめる。

体重が軽いせいか体が浮くのだ。

一応ケッツの腕が抑えてくれるが、がっちり固定はしてくれない。

落ちなきゃいいだろって感じの緩い支え。



おいこら!

何かの拍子で落ちたらどうしてくれる!

痛いのは勘弁だぞ!



この腕から手を離したら死ぬ勢いで、半泣きで腕にしがみ着いた。





喋ったら振動で舌を噛むからなのか、たんに話しかけるのが面倒なのか、ケッツは口を開かず静かに馬を走らせる。

速度と振動に恐怖を感じつつも、周りを見渡すことはできた。


馬上で高くなった視界からでも周囲に見えるのは木のみ。

とはいっても、馬上でようやく大人の目線だと思うけど。




今は雪解けの季節のはずだ。

根雪が解け、スノードロップが咲き始める季節。

だというのに、芽が出るどころか寒さに負けてないか?


生命力の感じられない、黒ずんだ葉っぱが目に付く。




吹き付ける寒さに耐えきれず体を震わせると、ケッツがマントを掛けてくれた。

甲冑の上から付けているマントを前に回して巻き付ける形だ。


分厚い布ではないし、ましてや防寒用でもないマント。

でも無いよりマシである。

有難くマントを引っ掴んで風が入り込まないようにした。

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