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貴族の装い

オウタは城の官吏として働いていた。

住居は城から一番近い町の中にある。


軽率に職場へ復帰すれば、オウタを捕らえた兵士たちと顔を合わせてしまう。

のこのこ住居へ戻れば、オウタが特別牢から出たと露見した場合にすぐ捜索が入るだろう。


ヴェータと同じく、しばらく身を隠す場所が必要になるだろう状況。



けれど。



「大丈夫。オウタ自身で考えがあるはずだから」




私の脳内プロット、本来進むべきシナリオでは、オウタは特別牢の中に大人しく捕らわれてはいない。


なぜ自分が捕らわれたのか。

出るためには、出れた場合には、どう動けばいいのか。

限られた中でも情報収集をし、策を練っている。



私が何か道を示すまでもなく、向こうから動くはずだ。

オウタを出せばきっと、本来のシナリオに近しい形で動いていく。


もしかして私が手を回す必要もなくなるかも、なんて。

様子を見て微修正はしますけどね。

ええ。






「そうなのですね。わかりました」




私の説明を聞いて、ヴェータはすんなりと納得して頷いてくれる。


それに対して、向かいに座るケッツは白けた顔だ。

また幼稚な計画を…、とか思っているに違いない。


見なかった振りをしてラピスィに顔を向ける。




「オウタを助けたら、ラピスィを土楼に帰すね」




オウタまで助けたら、一旦動けることがなくなる。


この国を何とかするためには、ヴェータを交信者に戻して王を引きずり下ろす必要があるのだけど、その下準備が必要だ。

といってもオウタがほぼ動いてくれるはずだから、私は然るべき時を待つだけだけど。




スープに浸したパンを口に運びながら、簡易地図を頭に思い浮かべる。


オウタを助けてから土楼まで移動することになる。

今日中に行けるかな。

到着は明日になる可能性もあるなあ。


ラピスィを長く借りてしまったから、クーマカーヴァは心配してるかもしれない。











朝ご飯を食べ終わり、4人でツフマの家の中を捜索した。

見つかった貴族風の服は大人用2枚。




「人数分ありませんね」


「ううん。問題ないよ」




ヴェータが貴族を装えたらそれで十分だ。




「兵士のマント付けたケッツと、この貴族風の服着たヴェータで話をしてきてほしい。私とラピスィはどっかで待機してるよ」


「危なくはないですか?」


「ケッツが付いてるから大丈夫だよ。問題なく話を聞いてくれるはずだから。心配しないで、ヴェータ」


「あ、いえ。私の話ではなくて…」


「お前らの話だろ」


「え?」




“お前ら”で私とラピスィを示すケッツ。

看守から邪険な扱いされるとか、揉め事になる心配をしてるわけじゃなかったらしい。




「人攫いが出るという話も度々聞きました。お二人が離れた場所にいるのは危なくないですか?」





人攫い。


すでに攫われそうになった前科があるため、笑って流せる話ではなかった。


特にラピスィは人間相手にトラウマ級の怖い思いをしているわけだし、クーマカーヴァから無事に送り届けるようにも言われている。

軽視はできない。





「じゃあどうしようか。小間使いを装って傍に居てもいいんだけど」





小人族を小間使いとして雇う人も中にはいる。

ラピスィが傍に控えることは不自然じゃない。



けど、私はどうだろう。



どの種族にも馴染まない色合い。

どう種族を装ったって稀有な目で見られる。


珍しい見た目の者を趣味として所持する貴族も存在するけど、外に出歩かせることはまずない。

盗みに合うなどトラブルの元になるからだ。




「あ、でも馬車に乗るわけじゃないし、やっぱり不自然だな」






馬2頭で特別牢に向かうことを思い出して、考えを改める。



私やラピスィの身長では、自分自身で馬の乗り降りができない。

つまり、小間使いが主に乗り降りを手伝ってもらうという状況になってしまう。

そんな状況はあり得ない。



小人族を御者として従事させる貴族も稀にいるため、馬車ならばラピスィが傍に控えていても不自然ではないのだけど。

小人族の身長でも、1人で乗り降りできる馬車が存在するのだ。

けれど今回は馬車移動ではない。



やはり私とラピスィは少し離れて待機していた方がいい。






「多少危険でも仕方ない。馬移動なのに私たちが控えてるのは不自然だもん。看守に変な目で見られたくないし。2人で話してきて」


「ですが…」




納得いかないらしいヴェータ。

私も不安だけど仕方ないんだよー。


どう考えたって、私とラピスィが傍にいるのはおかしい。

フードで顔を隠せば訳アリの人になって、変に疑いの目を向けられそうだし、ラピスィに肩車してもらって余ってる貴族服を着ることもできるけど、幼児の顔で大人の身長があったらそれも変。


離れて待機しておく他ない。












「これ持っておけ」




ケッツが唐突に、何かを私の首に掛ける。

丸い石に紐が通されていて、首飾りのようになっているもの。

石には、メノウに似たマーブル模様が入っていた。


伝書鳩用の特殊な石だ。



なるほど。

仮に攫われたとしても、伝書鳩がこの石を追える。

すぐに居場所を特定できるというわけか。





「なら私じゃなくてラピスィに…、いてっ」




首から外してラピスィに渡そうとすると、即座に手刀が下りてきた。

戯れのような軽い勢いだったものの、私は頭に手を当てて痛いアピールをする。

手刀を落とした人物、ケッツは呆れ顔だ。




「お前の方が希少価値が高い。お前が持っておけ」




希少価値って…。

なんか私モノみたいじゃん。


むっと口をとがらせる。




「…僕も、ミコトに持っててほしい」


「ラピスィ…」




おずおずと、胸の前で指を絡めながら言ったラピスィ。

ラピスィにまで言われてしまうと、受け入れるしかなかった。

私としてはラピスィの方が心配なんだけど。




「わかった。私が持っとくよ」





話がまとまったところで、特別牢へと向かうべくツフマの家を出る。



そういえば、石があっても鳩がいなくない?、と思ったら鞄の中に居た。

ヴェータを助ける前、馬を一旦戻しに行ったときに鳩の姿が消えていたから、鳩も戻したのだと思っていた。


鞄の中で潰れないように、うまいこと他の荷物で空間を作ってある。

本来は持ち主でない私が石を持ってることに首を傾げたけど、大人しく鞄に収まっている。



ふっくらと毛並みがよくて、きちんとお世話されている鳩だ。

かわいいなあ。

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