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硬いパンとスープの朝食

翌日、汚れた服のまま布団の中で目を覚ました。


隣には美しい寝姿のヴェータ。

体を起こして周りを見てもケッツとラピスィの姿はない。

別室で寝ているようだ。



ケッツとラピスィが同室なの?

ラピスィ大丈夫?

ちゃんと寝れてる?



瞬時に心配で気持ちがいっぱいになるけれど、今更気にしたって仕方ないと思いなおす。

もう朝だ。

どうにかして同じ部屋で寝たか、違う部屋に避難でもしてるだろう。



元世界よりもいささか硬いベッドから降りると、ヴェータが目を覚ました。




「ミコトさん、おはようございます」




まだ微睡みの中にいるような、まったりとした喋り方。

軽く目をこすり、あくびをしてからヴェータも体を起こす。




「よく眠れましたか?」


「ヴェータ、おはよう。うん。元気いっぱい」




答えた私を見るヴェータの目がとても優しい。




「お湯を沸かして体を拭きますか?汚れたままですから」


「そうするー」



ヴェータは寝る前に体を吹いたんだろう。

服は変わっていないけど、砂埃などは綺麗に落とされている。













隣室は調理場兼、食事処。

つまりはダイニングキッチン的な部屋である。


顔を出せば、すでに起きていたケッツが火を起こしていて、ツフマの家の物を物色していた。




「起きたか」


「おはようケッツ」




乾燥して硬くなったパン。

塩漬けした保存肉。

瓶で漬けられた野菜のピクルス。


いくつか駄目になった食材の中から、食べられそうなものをテーブルに並べている。




「ラピスィは?まだ寝てるの?」




姿が見えないので問いかけると、「さあ」というケッツの素っ気ない返事。


まあ、姿を現さないってことはまだ寝てるのかな。

先に体を拭いて、それでも姿が見えなかったら様子を見ることにしよう。





湯を貰って寝ていた部屋に戻った。


沸騰して熱々の湯を水でぬるま湯にして、浸した布を絞って体を拭く。

背中や腕などやりづらい部分はヴェータが手伝ってくれた。




「…少し、弟妹たちのことを思い出します」




落ち切っていなかったらしい顔の汚れを拭いてくれながら、ヴェータが言った。


ヴェータの弟妹。

血の繋がらない、ヴェータの3、4つ下の家族。



「私は、早くから寄宿学校に行ってしまったので…。ミコトさんくらいの姿の印象が強いんです」





6歳になったばかりの頃に、寄宿学校へ行くことを決めたヴェータ。

弟が3歳、妹が2歳になったところだった。




「妹の髪の毛を結んであげるのが、好きでした」




私の前髪を整えながら言うヴェータは、かつての妹を見ているかのようだ。




年に数日という頻度で家に帰っていた寄宿学校時代。

卒業してヴェータが交信者になってからは、更に家に帰れなくなっていた。


幼い弟妹たちの記憶から、自分の存在が薄れていく。

自分の後を追いかけていた弟妹たちとの距離が開く。


自分自身で選択した道であっても、拭いきれない寂しさがあった。

昔を懐かしんで、切なさの滲むヴェータの声。



私は一人っ子だから、兄弟姉妹が居る人の気持ちは正直わからない。

でも、親しかった相手と心の距離が出来てしまうのは、寂しいことだろうな。











ヴェータの手が止まって、にこりと口角が上がる。




「お顔の汚れも取れましたよ」


「ありがとう」




軽く服の汚れを払って、身嗜み完了とする。



再び隣室の調理場に行くと、ラピスィも起床していた。

ケッツの存在に若干おどおどしつつ、食事の準備をしている。




「ラピスィおはよー!」


「…おはよう、ミコト」




切り分けたパンを皿に分けていたラピスィが微笑みかえしてくれる。


ケッツが簡単なスープを作ったようで、パンとスープ、ピクルスが本日の朝食。

スープには塩漬け肉と、なけなしのジャガイモが入っていた。







「ねえ、今って何時くらいかな。城でももう朝食が出てると思う?」




言いながらピクルスに手を伸ばす。

ピクルスはキャベツやニンジンらしきもので作られていた。

橙色のそれを口に入れてみて、酸っぱさに体に電流が走る。


酸っぱい!

うええええ!

私ピクルスつまみに酒飲んだりしてたのにな!


幼児の舌は敏感らしい。

口直しにスープを飲む。

平凡で美味しいお味。





「正確にはわかりませんが…、朝食の用意をしている時間じゃないでしょうか」


「大体6時半だな」




パンをちぎってスープに浸しながら答えるヴェータと、太陽の位置を確認しながら言うケッツ。

時計が無くてもおおよその時間が分かるとはさすがだな。


硬くて食べられたもんじゃないだろうと避けていたパンを、皆の真似をしてスープに浸す。

おお、なかなか良いじゃん。




城の朝食は大体8時。

地位が上の者から配膳されて、徐々に下の者に行き渡る。

塔にまで食事が運ばれるのは8時半か9時か、それくらい。

つまり、夜中のうちに誰かが牢の中を覗いていなければ、ヴェータの脱走はまだ気づかれていない。


まあでも、早めに移動して城から離れたいことには、変わりない。




「朝ごはんが運ばれる2時間後には、確実にヴェータが居ないことがバレる。ご飯を食べ終わったら出よう。オウタを助けに行く」


「オウタを助けられるのですかっ」




姿勢よく食べていたヴェータが前のめりになった。

勢いでテーブルに当たり、スープに生じる波紋。




「うん。オウタを助けて、ヴェータが捕まったのは間違いだったって情報を広げる。家族を助けるための地盤を作ろう」


「…っ、はい」



私の言葉に、ヴェータの表情が華やぐ。



「場所は?」


「特別牢だよ。ケッツならわかるでしょ?」










貴族だったり、王族だったり、身分のある人たちが入れられる牢。


雑多に入れられる一般牢とは違い、1人1室。

食事もきちんと出て、嫌いなものを避けるよう指示することもできる。

特別牢に勤める医師も居て、病気への対応もばっちり。

貧乏貴族なんかは、むしろ入りたがる牢だったりする。



ケッツとラピスィには簡単に話していたけど、ヴェータも含めて改めて詳細を説明する。





「ツフマが用意してた、貴族風の衣装がどっかにあるはず。それを着て、貴族を装ってオウタを出す」


「それは、貴族からの命令だと偽って、オウタを外に出すということでしょうか」


「うん。いまの兵士たちは王の命令をこなすので精一杯で、詳しい説明を看守に出来てない。罪人だって言って、とりあえず牢に突っ込んでるんだよ。だから嘘の命令も信じやすい」




兵士に罪人だと言われて連れられれば、看守はそれに従って牢に捕らえておく。

兵士の仕事は、つまりは王の意思に繋がる。


詮索すれば知らなくていいことを知ってしまう可能性もある。

看守が能動的に罪人の咎について調べることはまず無い。




加えて、新聞など情報を広げる媒体がまだ存在しないこの世界。

ヴェータが半人族とのハーフだから捕らえられたことも、ヴェータに深く関わった人物だからオウタが捕らえられたことも、看守には伝わらない。


お金で示談したとか、王が心変わりしたとか、身分の高い人物が保護観察人として付いたとか。

適当な説明をしちゃえば納得させられる。



兵士であるケッツもいることだし、説得力はあるはずだ。






「出れた後はどうするのでしょうか。元の家には戻れないですよね?」

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