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礼拝堂へ突撃

がさがさと葉をかき分けながら隠れるように森を進み、礼拝堂の傍まで移動した。


城とは違って、礼拝堂に警備をしている人はいない。

しかし、儀式に使う火を絶やさないように、番をしている人はいる。

勝手に礼拝堂内に入られないよう、施錠もしてある。


窓を壊しちゃうのが一番手っ取り早いけど、ガラスは高価だ。

勿体ないし、ガラス片で怪我でもしたら大変。

扉をぶち破る方向でいきたい。








「4人で体当たりして、扉をぶち破りたい。中には火番が1人いるはずだから、邪魔されないようにケッツは速やかに拘束してくれる?」


「随分と力技だな」


「うん。相手は1人だし。あ、でも絶対に怪我はさせないでね」




話していて、ラピスィにはヴェータ救出作戦の手伝いだけを頼んでいたことに気づく。

このまま付き合わせ続けるのは悪いかもしれない。


でも戻るには馬が必要だし、馬に乗るにはケッツが必要。

いまケッツを手放すことはできないのだ。





「ラピスィ、あの…」



どうしようかとラピスィに顔を向けると、すぱっと解決してくれた。





「…大丈夫。僕、迷惑じゃないなら、最後まで手伝いたい」


「いいの?」





異種族恐怖症のラピスィからすれば、土楼の外は地獄だ。

天敵しかいない。

ヴェータ救出作戦を頑張ると言ったときだって手は震えていて、怖くないわけがないのに。





「うん。…僕より小さなミコトが、頑張ってるんだし、あれだけでヴェータへの借りが返せたとも、思わない。それに、小人族の未来にも繋がるんだ。僕も、手伝いたい」





きゅっと顔を引き締めて言うラピスィ。

なんだか男の子の成長を見ている気分だ。



私は見た目年齢が確かに幼いけど中身はいい大人だし、なによりこの世界を生み出した者としての責任がある。

私とラピスィで比べることじゃないのに。





「ラピスィありがとう~!」




感動で抱き着くと、私の勢いに負けてラピスィは尻餅をついた。


この世界で目が覚めてから、ほぼずっと一緒にいるケッツは意地悪だ。

素直に話を聞いてくれないし、対応は粗雑だし、口も目つきも悪い。

そんなだからラピスィの優しさが余計に沁みる。











ラピスィとじゃれる私に、申し訳なさそうにヴェータは声を掛けてきた。




「あ、あの、ミコト様…」


「様は止めてください様は!」




俊敏にラピスィから離れてヴェータに向き直る。


幼女に様付けとか何事かと思われるでしょう!

取るに足らないちっちゃな女の子なんですよ私は。

もっと気楽に扱ってください。




「っすみません。…では、あの、ミコトさん」




さん付けなら、貴族や位のある人たちの間ではよくあることだ。

それならいいだろう、と一安心して返事をする。




「はい、なんでしょう」


「この儀式を終えたら、私の父母を、家族を助けることはできるでしょうか」









ヴェータの父母、育ての親。

血の繋がらないヴェータの弟妹。




ヴェータが王の勅命逮捕状によってとらえられたのは、半人族の血を引いていると知れたからだった。


半人族の第二次性徴は人よりも遅い。

交信者として働くようになってから、半人族としての特徴が出始めたのだ。



その特徴は皮膚と髪の毛だ。


青みが透ける、血色が悪いようにも見える肌の色。

毛先に移動するにつれて明度が明るく、青色がはっきりとする髪の色。







異種族を、特に半人族を毛嫌いする王はヴェータの存在に憤慨した。



半人族なんぞに地位を与え仕事を任せていたのか。

半人族なんぞに城の地を踏ませ良い顔をさせていたのか。


今すぐに交信者の地位を奪い、牢へとひっ捕らえろ。

半人族なんぞを交信者へと就かせるに至った連中、半人族なんぞを育てた連中、関わった者全てを調べひっ捕らえろ。


我が国でのうのうと暮らし生きることなど許さん。



そうしてこの状況が生まれた。







ヴェータの育ての親や弟妹が捕まったのは、ヴェータが捕らえられて2日後のことだった。

行動基盤が家族のためであったヴェータにとって、一番の衝撃だったはずだ。

いま一番願うのは、家族を助け出すことだろう。





「助けるよ。絶対に助ける」




ヴェータはぱっと顔を明るくさせたけど、悲しませることを言わないといけない。




「でもごめん。今はまだ駄目なの。助け出せない」


「な…、何故でしょうか。まだとは、どれくらいの時間が必要なのでしょうか」



ヴェータの声が揺らぐ。







「あのね、いまヴェータは脱獄した身でしょう。今の状態を改善しないと、すぐに牢に逆戻りだよ。ヴェータの父母を助けたとしても、長く庇護できる環境がなきゃあ苦しい状況は一緒かもしれない。地盤をしっかりさせないと、守りたいものも守れないよ」






早く牢から出してあげたいという気持ちはわかる。

ヴェータが捕らえられていた牢とは違って、ヴェータの育て親や家族が捉えられている牢は、身分の低い人たちが一緒くたに入れられる牢だ。


衛生的に酷い環境。

貧しい食事。

雑魚寝状態の牢。


長く居続ければ、体調を崩すことは避けられない。

できるだけ早く助け出したいと願うだろう。


けれど、脱獄者が脱獄仲間を増やしたところで、うまく転ぶものなどない。






せめて身分の高い人物なら、地位のある人物なら、やりようがあったかもしれない。


別荘などの離れた地に隠れ潜む。

恩を売っていた人物に助けを乞う。


ひねり出せば方法はあるだろう。



けれどヴェータの家族は身分の低い一般人だ。

村民との関係は良好だけれど、王に、国に、逆らってまで庇護したいと考えてくれる人物はいるだろうか。


元の家に帰れば必ず兵士に見付けられる。

人数が増えれば移動するにも、どこかへ隠れ住むにも、見つかる危険性は大きくなる。




しかも、複数の人物で一緒くたにされている牢から、特定の人物だけを助け出すなど不可能だ。


看守ではなくとも、同じ牢に入っている人物に見咎められる。

場合によっては脱獄の邪魔をされる。

全員を一斉に牢から出してしまうという荒業もあるけれど、きっと全員が慌てて脱獄しようとするだろう。


混乱は事故を生む。

掛けるメリットは少ない。





今助け出すのは得策ではないのだ。










「脱獄者が…、地盤をしっかりさせることなどできるのでしょうか……」




牢から出てきたことは間違いだったのではないか。

不安に満ちたヴェータの心情を吹き飛ばす気概で、断言する。




「できるよ。絶対にそうする。そうしないといけないんだ」



潤み始めていたヴェータの瞳が私に向く。



「そのために、ここにいるんだよ」






王を引きずり降ろして、勅命逮捕状など意味のないものにする。

ヴェータは交信者の立場に戻り、何も罪など犯してなかったのだと知らしめる。



そのための第一歩が春を呼ぶ儀式なのだ。






私の言葉にぎゅっと顔を歪めたかと思うと、耐え切れなかったようにヴェータの頬を涙が流れた。


綺麗な人は泣き姿も美しいものじゃのう。

場違いな感想を抱く私。





ヴェータは物語の主人公、ヒロインである。

つまり?


私の理想とする女性像をぎゅっと詰め込んでいる。



細長い手足。

骨格の細いすらっとした体。

小さくて清楚な雰囲気漂う口元。

垂れても吊り上がってもいない綺麗な形の目。

鼻筋が綺麗に通った鋭角的な鼻。


何もしていなくても人の目を惹くような、華やかな容姿をしているのである。




涙を拭って表情を引き締めたヴェータ。

きりりと前を見据えて言う。




「…わかりました。春を呼びます」


「うん。お願いします」




気持ちが定まったところで決行である。

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