表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/51

抜け道から外へ

手で口を押えて静かに息をしようとするのに、自分の呼吸音が随分と煩く耳に届く。

心臓が痛いくらいに暴れる。


燭台を持って見回りをする兵士の影がゆらりと床に映った。

曲がらずに直進していれば、兵士と対面していただろう。

そのまま真っ直ぐに私が隠れている通路を通り過ぎるかと思いきや、兵士の影は動きを止めた。





こっちを、見ている。





兵士は歩みを止めて、私が隠れている側の通路を見ている。


緊張で、恐怖で、目尻が濡れる。

騒ぐ心臓の音が外まで響いていそうで、怖くてたまらない。


数秒の時間が何時間にも感じられた。

静止したかのような、静かで重苦しい時間。


それを壊して兵士が動き出す。




こつ、と音がしたかと思うと、兵士は直進して通り過ぎていった。

兵士の影と燭台の灯が見えなくなり、靴音が小さくなってようやく、口から手を離して満足に呼吸ができた。




荒く喘ぎながら、そういえばと思い出す。

紙にさっきの兵士のことが書いてあった。

見回りの兵士は足を止めて、今私が隠れている通路の様子を見るけれど、足を踏み入れることはない、と。


あの兵士はまた戻ってくる。

こっちの通路まで入ってくることはないけれど、できるだけ距離を取りたい。




まだ落ち着かない呼吸のまま、足を進める。


この先に階段がある。

階段には見回りが来ないと確か書いてあった。


そこで息を落ち着かせたい。





生きてきた中で、こんなにも苦しく怖い思いはしたことがない。

牢の中ではひたすら自分を責めて苦しい思いをしていたけれど、それとはまた違った苦しさだ。


拳を握って気合を入れる。



神様が、神の遣いだという人が、私を導いてくれているのだ。

それを信じて、この苦しさと立ち向かわなければ。













階段に辿り着いた私は大きく呼吸を繰り返して、落ち着きを取り戻そうとする。

階段をゆっくりと上りながら、紙を開いた。


3階まで上がったら、抜け道まではもう少し。

抜け道に入れたら兵士の目を気にする必要はない。




左右を確認して、正面の通路へと歩を進める。

もう少し。

もう少しだ。


いくら深く呼吸を繰り返しても、心臓は忙しなく跳ねたまま。

冷静さを失わないように、懸命に酸素を取り込んだ。




柱の陰に隠れて見張りの兵士をやり過ごし、更に進んで左の部屋に入り込む。


無人の部屋は灯りがついておらず暗い。

窓から差し込むぼんやりとした月明かりで、かろうじて見える中をそろそろと歩く。



仕事をするための部屋、なのだろうか。


机と椅子と、書棚。

質は良さそうだけれど、余計な飾りはついていない簡素な造りのそれらが並んでいるだけだ。


運のいいことに、机の上には筆記具や紙、燭台などが片付けられないまま散らばっていた。

ろうそくの火は当然消えているので、兵士に注意しながら通路の火をもらって戻ってくる。




真っ暗な抜け道を、紙の内容を覚えて手探りで進むことになるかと思っていた。

これで多少は前が見えるようになるし、紙の中身も確認できるだろう。





燭台を持ったまま壁に近づく。

窓が付いていない壁の、端の方。

軽く手を打ち付けていくと、音が高く変わる箇所がある。


そこを押し込むと、一部の壁が奥に凹んでいく。

押し続けていると、ある瞬間でするっと抵抗がなくなる。

かと思えば、抜けた壁が鈍い音を立てて倒れた。



目の前に現れるぽっかりとした空洞。

頭を下げれば入れる程度の、狭い入口ができた。


今の物音が外まで響いていたら兵士が来てしまう。


全ての物音が必要以上に大きく聞こえていた。

今にも私の存在がバレるのではないかという焦燥感。




すぐに足元に置いていた燭台を手に取り、空洞の中へ、抜け道の中へと入り込んだ。

抜けた壁を元に戻すと、夜で灯を付けていない箇所が多いこともあって、外からの光は遮断される。



偶然だけれど、燭台が手に入って良かった。

前が見えない状態で手探りで歩くのは、とてもじゃないが難しい。



ろうそくの灯りで足元を確認しつつ、小走りで進む。


部屋と部屋の間、壁の中に通路が出来ている形だろうか。

広くはないけれど、なんとかすれ違えるくらいには通路の幅がある。


進んで、曲がって、階段を降りて、曲がって、進んで、階段を降りて。

自分がどこを進んでいるのかわからなくなりながら、紙を信じて足を動かす。








牢を抜け出してから、どれくらいが経っただろうか。

もう私が抜け出しているのはバレているのだろうか。

城内で探されているのではないか。

もしかして抜け道の存在も知られて追ってきているのではないか。


ろうそくの灯りだけを頼りに暗い中を進んでいると、頭が考えなくていいことを考えてしまう。



あともう少しで外に出れる。

私以外の足音は聞こえない。

大丈夫。

大丈夫。


言い聞かせながら進む。


通路を曲がって、幾多にも分かれていた道が一本道となった。

この先に出口がある。

最後に数段の階段を上り、扉に手を掛けた。







木製の扉を開けると、丁度雲の切れ間だったのか、月が眩しく辺りを照らす。

暗がりを進んできた私には月明かりさえ眩しく感じられた。

少し目を細めてから、視界に入る姿を認識して今度は見開く。




月明かりに照らされて、なお一層輝く少女の姿。


光の当たり具合で白と金の濃淡を作る柔らかそうな髪の毛。

体が発光しているかのように白く明るい肌。

左右で違う色の瞳は謎めいていて、それでいて穢れなく澄んでいる。



透けるように神秘的でいて、はかなくも神々しい少女が私を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ