森での目覚め
体温を奪う冷たさが私の意識を覚醒させた。
体を震わせながら目を開け、視界に飛び込んでくる緑。
そして嗅ぎなれない匂いが鼻へと届く。
飛行機を降りて異国に降り立ったときのような、日常では嗅がない匂いだ。
ここは、どこ。
まだ夢の中なのか?
それにしてはやけに寒さが骨身に染みる。
自分の体を抱いて暖を取ろうとして、手の小ささに気づく。
短い指に、丸みを帯びた手の平。
ちっちゃい子のお手手だ!
神様希望通りの見た目にしてくれたのね!
ああ、今の姿を確認したい。
きっと可愛いおにゃのこの姿があるはずなのだ。
けれど周りを見渡したって鏡は勿論、水たまりも何もない。
右見ても左見ても木。
乾いてはいないけど水たまりもできていない地面。
解け残りなのか白い雪もちらほらと。
溜息をついてとりあえず立ち上がる。
地面が冷たい。
それにしても森スタートって何?
確かに街に突然現れたら不自然極まりないけども。
せめてどこ召還なのか説明くれよ神様。
自分が見てるはずの夢だってのに融通効かないなあ。
私は一体何をすればいいんだい?
なんか世界を導いてくれとか言ってなかったっけ。
やだなんかカッコいい。
俺の厨二心がくすぐられるぜ。
現実逃避と言えばいいのか、夢逃避と言えばいいのか。
くだらないことを考えていたら、遠くから何か音が聞こえる。
徐々に近づいてくる音。
聞こえてくる方に目を向けると、茶色いものに乗った灰色の人物たちが小さく見える。
馬に乗った…、兵士?
あっという間に目の前に迫ったその人たちは、私に気づいて馬を停めた。
「何故こんなところに子供が?」
「珍しい見目をしている。もしや見世物小屋から逃げ出してきたのではないか」
「それにしては服装が綺麗だぞ」
馬上のまま話す兵士たち。
とても高い位置に顔がある。
対する私が幼児サイズだから、尚更高い。
10人くらいいる兵士の中で一番立場が上っぽい人が馬から降りた。
「名前は言えるかい?君はどこから来たのかな」
目線を合わせるように体を屈めて話す兵士。
顔がはっきり見えた瞬間、心臓が飛び出そうな衝撃に襲われた。
ぎゃー!
自作キャラが!
理想通りそのまんまの姿で!
私に話しかけて!
心臓が爆散する!!
静まり給え心の臓!!
どこどこ煩い心臓を宥めようと胸を抑える。
返答せずに胸を抑える私に、兵士は少し困惑顔だ。
困惑した顔も最高。
最高にかっこいいよ。
さすが、顔の作りが端整すぎて怖いとさえ言われる兵士だよ。
顔面国宝万歳。
「もしかして話せないのかい?」
「いえ、話せます!」
意識を引き戻されて、ハッと勢いよく返答する。
「ミコトです!どこから来たのかはわかりません!」
夢の中とはいえ、どこから来たのか馬鹿正直には話せない。
というかどう説明すればいいのかわからない。
白い空間で話された通り、私が創作していた世界の中にいるようだ。
小隊の隊長以外は知らん顔だけど、まあ小説で描写する必要のなかったキャラだからな。
勝手に脳内補正でもされているのだろう。
仕方がない。
改めて隊長の顔を観察する。
隊長は私の設定通り、描写した通りの見目をしている。
細くて高さのある鼻。
品のある大きすぎない口。
印象的な真緑色の目は吊り上がり気味。
一見黒く見える髪の毛は、日に透けて青みを帯びる。
隊長の容姿にうっとり見とれていると、小隊で話し合いを始めていた。
「聞きなれない名前だ。異国の子か?」
「しかし言葉は通じているし、あの幼さで流暢に敬語を使っているぞ」
「隊長どうしますか。のんびりしていられませんよ」
「そうだな…」
数秒悩んだ後、知らん子を1人連れて私に近づく隊長。
「すまないが私たちは急がねばならない。1人は危険だから部下を置いていく。彼にゆっくり送ってもらうといい」
いうや否や、馬に隊長は飛び乗った。
「ケッツ。あとは頼んだぞ」
「はい」
すぐに馬を走らせて、姿が見えなくなっていく。
残された私と狐顔をした隊長の部下。
我が子(自作キャラ)ならともかく、知らん子を置いて行かないでください。
人見知りなんです。
夢の中とはいえ、そんなすぐに仲良くできる気がしない。