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3度めの乗馬

「…先に図かなんか書けるもん書いとけ。こっちが終わったら書いてやる」


「やった!お願いしまーす」




ボールペンなどと違い、紙にひっかかる書き心地。

ガリガリと削るように線を描いていく。


ふと気づくと、先に書き終えたケッツが覗き込んでいた。

勤務地の、自分の知らない抜け道。


そりゃまあ気になるよね。


図にできる部分を描き終えて「うし」と独り言ちると、するりと紙を取られる。




「上が警備の配置で、下に描いてあんのが抜け道だな。これはどこのことだ?」


「これは執務室に繋がる廊下だね」




補足に加えて、不明点を聞いては書き加えていくケッツ。




「城の抜け道ってのはこれだけなのか」


「え、内緒」




それ以外も聞き出そうとしてくるけど、そこは教えません。

何の情報が切り札になるかわからないもんね。

大盤振る舞いなんてしませんよ。



一目見て伝わる情報をケッツが書いてくれたと信じて、書き終えた紙を受け取った。


これをラピスィの手からヴェータに渡してもらうのだ。

持ち歩きやすいように紙を折りたたむ私の横で、ケッツは伝書鳩の足に自分の手紙を括りつけている。





基本的に伝書鳩は同じ人とのやり取りしかできない。

ある特殊な石を目印に、石所持者の間を鳩が行き来するからだ。


もちろんその石を違う人に託せば託された人の方へ伝書鳩は飛んでいくのだけど、特殊な石にプラスして持ち主の体格や声も合わせて、鳩は目的地かどうか判断する。

あまり石の譲渡を繰り返すと、伝書鳩が混乱して任務を放棄してしまうこともあるのだ。


だからケッツが今送った伝書鳩は、この森に来る前に送った相手宛のはずだ。




相手は誰だろ。

兵士仲間か、城の官僚とか…。


塔の出入口を警備する兵士を外させる指示のはずだから、同僚か部下の立場に当たる人なのは間違いないんだろうな。












土楼に戻ってお風呂を借りた時点で、私の体力は尽きてしまったようだ。


幼児の体力でよく頑張ったよ。

うん。



朝になって布団の上で目覚めて、記憶が途絶えていることに気づく。

自分の意思で風呂を出た記憶もないから、お風呂で寝落ちたんだろう。


幼い子どもだからと小人族の女性が付き添ってくれてたんだけど、驚かせたに違いない。

ごめんなさい。






でもぐっすり充電できたおかげで元気満タンである。


部屋を飛び出ると、ケッツは既に起きていた。

立って私が寝ていた部屋を見ていたため、すぐに目が合う。




「おはよう」


「おう」




不愛想ながらも返事は返してくれた。

朝食の準備が始まっているようで、胃を刺激するいい匂いも漂っていた。



土楼の二重丸内側の円に、共同設備として台所がある。

話声の聞こえるそこに飛び込んで準備を手伝おうかとも思ったけど、すでに出来上がった料理を持って出てきてしまった。


朝食をもらって出発の準備をして、時間に余裕があったためお茶で一息。

これから脱獄(させる)イベントが待っているというのに、今のところそんな空気は欠片もない。



緊張感なくお茶をすすっていると、伝書鳩が戻ってきた。

すいっと迷いなくケッツの肩へと降りる。




「どう?良い返事もらえた?」


「ああ、問題ない」




紙から目線を外さずに答えるケッツ。

ケッツが出した要望に対しての返事なら短い文で済みそうなところなのに、読んでいる時間が長い。


それ以外についても書いてあるのだろうか。

後ろに回ってちらりと覗いてみる。


何か長々と書いてあるのは見えるけれど、読めない私には意味を成さない模様。

私が文字を読めないと分かったからだろう、ケッツは隠そうともしない。



見上げた視界には自然と空が入る。

曇っていて今日は太陽の動きが分からない。


気温も上がらなくて寒いから、土楼内の至る所で火鉢が準備されている。

火鉢に当たって暖を取っていれば、もう出発の時間すぐそこだった。









ラピスィを見送るため、大門に小人族の人たちが集まる。


気を付けて。

無事に帰ってきてね。


口々にラピスィへ声がかかる中、クーマカーヴァのよく通る声が響く。




「ケッツとやら。ラピスィのこともミコトのことも、くれぐれも頼むぞ」




私のことも案じてくれるなんて。


感激に心ときめかせる私とは反対にドライなケッツ。

土楼へ入るときに外していた武具を身に付けながら、返事代わりにひらひらと手を振っている。


反応をするだけマシ…、か?

中高生くらいの碌に反応しない思春期男子を見てる気分になってくるな。







私とラピスィを馬に乗せ、その後ろにケッツが飛び乗れば出発である。

後ろに座るラピスィが私の体を抑え、更に後ろに座るケッツの腕も腹に軽く回っている。



間にラピスィが挟まると何とも快適な馬上だった。



ケッツと違い、ラピスィはきちんと体を固定してくれる。

馬の些細な揺れでも浮く私の体。

落ちそうな不安に襲われていた今までとは違って、とても安心感がある。


3度目にしてようやく、少しは乗馬を楽しいと感じられた。





そんな私とは違って、ラピスィは恐怖と緊張で縮こまってたみたいだけど。

恐怖の対象が後ろに座っているわけで、当然の反応ではある。


でも私が話しかけている内に少しは解れたみたいだ。






ラピスィとちょこちょこ雑談を交わしながら城への道を進んだ。

何度かの休憩を挟み、林を抜けて、城に一番近い町が見えてくる。


ちらほらと町を出入りする町民や商人の姿。

町を迂回するためにそれを横目にしながら、ラピスィがフードを目深に被りなおした。



兵士が同乗しているし、突然石を投げられるとかは無いだろう。

けれど一度酷い目にあっているのだ。

人目を避けたいと思うのは当然だし、用心するに越したことはない。






「わっ!?」






ラピスィの様子を窺っていたら、突然真っ暗闇に襲われた。

一瞬の後にフードを被せられたのだと気づいて慌てて取り払う。

後ろを振り向いているときに被せられたため、フードで視界が覆われてしまったのだ。



犯人はケッツだ。

いきなり何を、と声を上げる前に、ぐりんと顔を前に向けられ再びフードを被せられる。




「お前も奇抜な容姿してんだ。変な目つけられる前に隠しとけ」




金髪に白い肌、加えてオッドアイ。

この世界のどこを探しても、透けるような色合いを持つ生き物は私ただ一人。



輩共にも恐らくこの見た目のせいで襲われたのだし、ケッツの言うことは一理ある。

間違ってはいない。


だけど何も言わずにフードを被せることはないんじゃなかろうか。

ムッと顔を歪ませつつも口をつぐんでおいた。




今は馬の上。

さっきは咄嗟に怒ろうとしちゃったけど、ここでケッツに噛みつくのは得策じゃない。


もしも気分を損ねたケッツに馬でぴょんこぴょんこ飛び跳ねられたら私死んじゃう。

口から飛び出た心臓がそのまま家出しちゃう。





ちなみにフード付きの防寒具は小人族の人たちが貸してくれたものだ。

鍋用の保温カバーよりも暖かくて、なおかつ当然の事ながら動きやすい。

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