口に出してしまった悪手
「小窓はどうやって入る?俺らが手を伸ばして届く位置にはないだろう」
小人族の伸長は大人で100cm前後。
手を伸ばして届くのは130cmとかそこらへんだろうか。
人間の建築物では、そんな低い位置に小窓は付けない。
「2mかもうちょっと高いくらいの位置かな。当然手が届かないから、ケッツに持ち上げてもらう」
「えっ」
「無許可で俺を使うな」
ラピスィの小さな戸惑いの声と、ケッツの不満の言葉。
ごめんねえ。
こんな態度の悪いやつに持ち上げてもらうとか怖いよねえ。
ただでさえ異種族恐怖症なラピスィ。
怖い兵士と関わるなど確実に避けたい案件だろう。
でも他に使えるものがないから仕方ないのだ。
ラピスィには申し訳ないが我慢してもらうのだ。
それよりも、不満を表したケッツに向き合う。
「協力するって言ったんだから文句言わないでくださーい」
「協力はするが俺はお前の従者じゃない。何でも命令を聞くと思うな」
「ヴェータが外にでないと国が滅ぶって言ってんじゃん。国のためなら協力するってケッツ言ったじゃん。文句言わずに付き合ってよ」
「計画が幼稚すぎるんだよ。それで本当にうまくいくのか疑わしいな」
「絶対うまくいくもん。そういうシナリオなんだから」
更新される予定だった先の話では、ツフマとラピスィでこれをやり遂げるのだ。
失敗するはずがない。
「は?シナリオ?」
「あー…、神のお告げ的な?だからうまくいくの」
聞いたことのない単語に顔をしかめたケッツ。
適当にあしらうと、ざわりと空気が乱れた。
「神?」
「神のお告げだって?」
話に参加していたラピスィや眉毛の逞しい小人たちはもちろん、聞き耳を立てていたらしい周りの小人たちもざわつき始める。
あ、しまったかも。
深く考えずに口にしたけど、悪手だったかもしんない。
神に対する信仰心が小人族は強いのだ。
というか、この国の人間が神を疎かにしすぎなんだけど、今は置いておこう。
神が創り賜うたこの世界。
神を経由して季節は移り替わり、神の恩恵によって作物は育つ。
神こそが世界であり、神無くば世界は成り立たない。
そういった宗教観が主流なのが小人族だ。
神のお告げなんて聞いてしまったら…。
「神の御言葉を聞くことができるのか?」
対等に見てくれていた態度から、窺う姿勢へ。
声が遠慮がちになった。
「えー…と」
肯定しておけば、言うことを素直に聞いてくれて楽かな。
それとも、神の言葉を聞ける存在として土楼内で祀られてしまうだろうか。
いや、でも種族違うしなあ。
対応を考えている間に、ケッツが口を挟んだ。
「神に遣わされたんだと言ってただろ」
瞬間、爆発的に煩くなる。
「遣わされた?神から直接?」
「神の代理にも等しいんじゃないか?」
「だからあの見た目なのか?」
話声ひしめく雑踏の中にいるかのような、音の洪水。
そして突き刺さる視線。
おいいい!
何してくれとんじゃいケッツさんよお!
ヴェータ救助作戦を話し合う雰囲気は彼方へ吹っ飛んでしまった。
「神の遣いなら、わかるか?俺たちは一生変わらず、ここで巨族に怯えて暮らしていくんだろうか」
クーマカーヴァは逞しい眉毛を八の字に垂れさせて、縋るように聞いてくる。
先祖代々引き継いできた土楼。
今後も守っていくべき、一族の誇りも伝統も内包した土楼。
土楼を手放したいわけではないが、しかし森の外には人間の、小人族からしたら巨族の、寄宿学校がある。
森の奥深くに隠れているとはいえ、人間が来ないという保証はない。
ラピスィのように、時には人間に見つかってしまう場合もある。
他国では人間と小人族が仲睦まじく暮らす地だってあるのに、自分たちは土楼の外を自由に出歩けない。
閉塞さを感じもする。
打破できない状況に苦しさを感じもする。
一生、永遠に、代を経ようとも、この状況は変わらないのか。
問いかけに対して、私は肯定も否定もできなかった。
この先、ヴェータが交信者に就き直して国を立て直していく。
ヴェータ自身が半人族の血を引いているし、私も大団円が好きだから、種族による差別をなくしていく方向で話の流れは考えていた。
けれど細かい筋はまだ未定。
大団円に向けての意図的な伏線は張っていない。
後から良い感じに話が繋がって伏線だったように見えるのは創作あるあるだけど、どうやらこの世界はすぐ悪い方向に逸れていく。
そんな都合がいいことが起こるとは思えない。
口ごもった私を見て、さらに眉毛が下がる。
「…そうか。変わらないのだな」
ほのかな希望が潰えた呟き。
作者としては心が痛すぎて黙っていられなかった。
「そんなことない。状況は改善する、改善してみせる。この国はいつまでも人間一強じゃないし、そんなことにはさせない。ヴェータは半人族の血を引いたハーフだし、ラピスィのことだって助けたでしょ?今の王は退く。国教だって変わる。いつまでも同じ状況は続かない。籠って、隠れて暮らさなくてもよくなる未来がきっとくる」
神が私を呼んだのだ。
放っとけば悪い方向へ進むこの世界に、創造神たる作者の私を。
この世界を良い方向に導きたいから呼んだんだろうし、大団円は決して不可能じゃないはず。
我が子たる自作キャラを悲しませる終わりなんて迎えてたまるか。
何の根拠もない。
ただの希望的観測だ。
勢いで言い切った私の言葉に、縋るように小人たちが乗っかる。
「聞いた?良くなるって」
「神の言葉だ。神が希望をくれたんだ」
私の声が届いた人たちは沸き立ち、聞こえなかった人たちは内容を聞き出そうとする。
ざわめきが収まらない中、クーマカーヴァが言った。
「変わるために、未来のために、ヴェータを助け出す必要があるのか?」
「うん。それは必須事項」
ヴェータの存在は不可欠だ。
主人公が幸せになるシナリオに戻ってくれないと、付随事項も良くはならない。




