土楼内にて計画開示
クーマカーヴァが土楼の中から出てきて、武具を外し終えたらしきケッツの体を確かめる。
そしてようやく土楼の中に入ることが出来た。
2mもの、短いトンネルのような大門を抜けて土楼の中へと足を踏み入れる。
灯りと人の熱量で、幾分か中よりも温かい気がする。
壁で囲われてるからかな。
なんとなく空気が柔らかい。
が、ケッツの姿を確認して小人たちがざわつき始める。
小人族にとって、人間は敵に等しい種族である。
それが自分たちの陣地に入ってきた。
隠れられる小人は近くの部屋に隠れ、親は子を抱き捕まえ、隠れられない小人は壁に張り付いてケッツを見つめる。
ケッツが怪しい動きをしたら、すぐにでも攻撃してきそうな雰囲気だ。
ケッツの裾を引っ張って「耳を貸せ」とジェスチャーする。
「ね、両手上げて無害だって主張してよ」
「は? 俺が捕虜みたいじゃないか」
こんにゃろう。
ちょっとは平和的に事態を持ってく気にはならないのか。
性格が悪いからそんな胡散臭い笑顔なんか?
ああん?
ガンを飛ばすも睨み返され、即座に目を逸らす。
戦闘経験ある人のガチ睨み怖い!
俺が悪かった許してくれ!
ざわついた空気はクーマカーヴァが取り成してくれた。
「不安にさせてすまない。一時期ラピスィが行方不明になったことがあっただろう。その時ラピスィを助けてくれた者へ、恩返しするために話し合う。落ち着かないだろうが普段通り過ごしていてほしい」
クーマカーヴァは、この土楼内の警備隊長とかそんな感じなんだろう。
眉毛のふさふさ加減は権威の表れか?
この発言によって、止まってケッツを凝視していた小人たちは、躊躇いつつも動き始めた。
充分な距離を取った状態で。
「おいお前」
「は?」
ラピスィを呼びに行った片方、菱形のピアスを付けた小人が強気に声を掛けるも、喧嘩腰に応えるケッツ。
柄が悪い!
チンピラかヤンキーみたいだ。
城勤めの兵士がそんなんでいいのか。
菱形ピアスの小人はケッツに若干怯えつつも、強気な態度は改めない。
「お前は俺とここで待機だ。変なことはするなよ。いいな」
腕を組んで顔を逸らすケッツ。
返事もしない。
でも大人しくその場を動かないから、従ってくれるのだろう。
「我々は上へ行こう。ここよりも暖かい。熱い茶も出す」
「お茶!?」
わあ嬉しい!
この世界に来てから暖かいもの口にしてない。
何よりお茶って落ち着くよね。
るんるん飛び跳ねたい気分で小人たちの後を付いて行く。
土楼の階段は4ヶ所。
内側に張り出す形で付いている。
階段を上って、2階の住居部分へ。
住居部分はどこも同じ作りだ。
家族毎で不平が出ないようになっている。
壁も床も布で覆われていて、カラフルな室内だった。
椅子を置いてくれて、外に立っているケッツと顔を合わせて話せる状態に。
室内中央に置いてあった火鉢も移動させ、温石も持たせてくれた。
暖房は完璧である。
加えて、熱々のお湯で抽出したお茶をもらう。
はああ、ほっとする。
「では聞かせてもらおうか。ヴェータとやらを助け、ここまで戻ってくる計画を」
クーマカーヴァが口火を切る。
口を付けていたお茶を膝に降ろし、話を引き継いだ。
「さっきも言ったけど、ヴェータは城の牢に囚われてる。まずそこまでは、ケッツに馬で運んでもらう」
私とラピスィ。
子どもサイズだから一緒に馬で運んでもらえるんじゃないかな。
ちらりとケッツの反応を確認する。
反論は来ない。
表情も普通。
多分可能なんだろう。
そう判断を下し、話を続ける。
「塔の外側は警備してないから、そこは安心していいよ」
塔の出入口にはもちろん兵士がいる。
が、外側からの警備はしていない。
塔の窓は小さくて大人ではどうもできない、ということ。
外側の警備をしないことが通常なのに、警備を増やせば誰か重要人物を捕らえているという情報が漏れかねない、ということ。
加えて今の状況を鑑みると、兵士の人手も足りてないはず。
怒りに任せた王の命令、ヴェータの関係者は全員捕らえる指示が出ている。
十数年生きてきた中で関係のある人物。
それはどれだけの人数になるだろうか。
ヴェータの職場関係の人物。
寄宿学校時代の同級生や教師。
交信者としての素質を見出した官吏。
育ての親や家族、その村の人々。
片っ端から捕らえるには牢の数が足りない。
かといって誰も捕えないわけにはいかない。
関係を調査し、居場所を特定し、捕らえていく。
そこに兵士が割かれているため、塔の外側も警備するなんて手が回らない。
後から思い至ったけど、厨房の人の後付けるときに城内で兵士の数が少なかったのもそういうことだ。
「でも堂々と塔に近づくのは危険だから、夜中に決行したいな。それで、ヴェータが捕らえられてる塔には小さな窓が付いてる。大人じゃ通れないけど、私とかラピスィなら通れるくらいの小窓。ラピスィにはそこから中に入ってもらって、ヴェータに錠前を壊す道具を渡したい」
この世界の鍵は弱い。
元世界のような、頑丈で守りの強いものは存在しない。
ちょっと鍵の仕組みを理解していれば合鍵は簡単に作れるし、ピッキングだって楽にできてしまう。そもそも錠前自体が弱い。
素手はさすがに無理だけど、手近な道具で容易に破壊できる。
「その道具ってのは何だ?」
「ただの石だよ。そこら辺にごろごろしてるのを後で拾おうと思ってる。そのままじゃ音が煩いから、包む布が必要だけど」
イメージはブラックジャックである。
革袋に砂などを詰めて棒状にするブラックジャック。
出血させずに体の内側に打撃を与えることができる暗殺武器。
まあ暗殺なんてしないし、革袋でもないし、なんちゃってにも程があるけどね。
錠前を壊すだけだから充分でしょ。




