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土楼の中に入るために

ふさふさ生えた眉毛が逞しい小人は、クーマカーヴァと名乗った。

私も名乗り返し、クーマカーヴァは大門にかけられた木の柵を開けようとする。





「中で詳しく話そう。城に行って、ヴェータとやらを出して、戻ってくるまでの計画を聞かせてもらうぞ」








陽は完全に落ち、徐々に気温も下がってきた。

このまま話し込んでは体温が奪われるし、野犬に襲われる危険もある。


中で、というのは有難い申し出なんだけど、後ろに隠れてるケッツはどうしよう。





「あの、実はさっき言った協力者の兵士が後ろに控えてて…」




小人族の住まいである土楼は、もちろん小人族の身長に合わせて作られている。


天井の高さは大体160cmくらいだ。

背の高いケッツが中に入るのはきついものがある。








「兵士?巨族か…」




空気に不穏さが混じる。


どうとでも出来そうな幼児に住まいがばれるのと、体格に差があり差別意識も強いであろう兵士に住まいがばれるのとでは、状況が変わる。

小人族を引っ捕らえようと、仲間を連れて戻ってくる可能性も考えられるからだ。



でも、ケッツならその心配はいらないと思う。






「後ろの兵士は危なくないよ」






ケッツは私を保護してくれているのだ。

二つとない奇抜な見た目をしている上、神に遣わされたとか怪しい発言する幼児を。


まあ、怪しいって思ったら、幼児にも容赦なく拷問しようとしだすんだけど。



それでも、害は無さそうだと判断したらそれ以上は無い。

王や国を害する行動をしない限りは、この住まいも秘密にしておいてくれると思う。





ラピスィや、ラピスィを連れてきた2人は不安気にひそひそ話し合っている。

しかし、逞しい眉毛を少し吊り上げ、クーマカーヴァは言う。




「あんたを信じると言ったんだ。信じよう」




私の意見を尊重してくれた。


良かった。

早くプロットに追いつきたいし、いざこざするのは避けたい。

ほっといたら悪い方向に突き進んでいくんだもん。

早く軌道修正したいわ。




「ただ、部屋の中に入れるのは難しいぞ」


「うん、そうだよね」




それは身長的にもそうだし、人間の兵士を信頼しきれないという警戒感からもそうだろう。

けど、今後の作戦について話すなら一緒に聞いてほしい。


何度も同じことを話すのは面倒だ。










「土楼内の外は?室内じゃなくていいよ。兵士にも作戦に協力してもらうから、同じ場で話を共有したいな」




野犬の危険がなくなれば、外に立つことなんて兵士には然したる問題ではない。

一晩眠ることだって楽にできるはずだ。




土楼という建物は、建物そのものが村のようになっている。

外側の厚い外壁と、内側に環状の建物。

さらに中心には祖廟がある。

二重丸に建物が建ち、中心に祖廟という形だ。


厚い外壁は中が2階建てになっており、2階が住居だ。



“中で話す”というのは、住居内で話すということだと思う。

小人と同サイズの私は問題ないけど、上背があるケッツには厳しい。


そこで、だ。

私たちは2階の室内に。

ケッツには外壁と内側建物の間の通路に立ってもらえば、丁度いいと思うのだ。




なんなら朝まで泊めてほしい。











「……、わかった。いいだろう」






渋い顔でしばらく悩んでいたけれど、了承してくれた。



「ありがとう!じゃあ兵士連れてくるね!」






後ろを振り返って木に隠れるケッツを探すと、思ったより近くに居た。

背後からは話し合う小人たちの声がばっちり聞こえる。



ケッツめ。

さては盗み聞きしてたな?






その証拠に、私が何か言い出す前にケッツは動き出した。




「小人族の住処に入れるなんてな。貴重な経験だ」




どこか楽し気な様子だ。

念のため注意しておく。




「しないと思うけど、小人族の人たちに悪いことしないでね。あの家を口外するとかも無しだよ」


「…害のない存在ならな」




ケッツから返ってきたのは素っ気ない言葉。



不安が顔を覗かせるじゃないか。

問題起こさないでね?

大丈夫だよね?




嫌な感じに心臓をバクバクさせつつ、歩いていくケッツを追いかける。


姿を現したケッツに対して、小人族のみんなは顔を強張らせていた。

空気に緊張感が混じった、気がする。



ケッツの服の裾を掴んで、にへらと笑顔を作った。




「さっき言った兵士。ケッツっていうの。ここを口外しないって言ったから安心してね」




友好的にコミュニケーションを図ろうとしたのに、ケッツが台無しにする。




「お前らが変なことしなきゃな」


「こら威圧しない!怖い態度取らないでよ!」




もー!

警戒感強まっちゃったじゃん!

ラピスィに至っては隠れちゃったし!




「こ、こんなこと言ってるけど偏った考えせずに冷静に判断してくれるからっ。そりゃもう怖いくらい冷静に!」


「怖いは余計だ」




すかさずケッツが口を挟んでくる。



でも事実じゃん!

アウェイ側だってことケッツは自覚してくれるかな!


ラピスィがいないとヴェータを助け出せないかもしれないっていうのに。

国の命運がこれに掛かってるってケッツには話したじゃろうが。

邪魔しないでもらえるかな。







どう取り繕ったものか、必死で頭を回転させる。




「ケッツが危害加えられないように手縛っとく?あ、目隠しでもいいけど」


「それだと俺が不利だ」


「争わないから問題ないでしょ!」





話が聞こえるように耳さえ自由になっていればいいのだ。


いや、ラピスィたちと話を付けてからケッツに話をすればいいのか?

でも私の伝え間違いとか覚え間違いで齟齬が生じるのは嫌だしなあ。





「…目隠しも手を縛ることもしなくていい。ただ、武具は置いていってもらう」





動く度に小さく、金属がこすれぶつかる音がするケッツ。

見える位置に付けている剣以外にも、武器を隠し持っているのだろう。



「わかった!そうするね」


「おい」




ケッツが何か反論する前に、小人族が出した条件を了承する。


向こうから条件を出してくれたのだ。

これに乗っとこう。




「私に協力するって言ったでしょ!ほら武具全部外して!」




返事はなかったが、仕方なしにという態度で武具を外していく。


鎧と剣。

その他に細々と沢山の武器。




剣と上半身の鎧は当然として、どんだけ武器を隠し持ってるんだか。


小型のナイフに、先の尖った金属の棒。

何か液体の入っている試験管に似た容器。

何に使うのかわからない鎖や紐もある。




一介の兵士が装備するには多すぎる。戦闘に赴くわけでもないのに。




鎧と剣は城配給のものだ。

城所属の兵士なら全員持っているし、兵士として行動するときには常に身に付ける。


でも隠し持っていたものは違う。

たぶんケッツ個人の持ち物だ。


個人的に用意して、兵士の身分とは関係なく持ち歩く。

いついかなる時も用心して武具を持ち歩くスタイルなのかしら。

小隊の隊長はそんなことしてないのに?




あの国宝級に美しい顔をした隊長は、せいぜい小型ナイフを1、2本忍ばせる程度だ。

リーレィに向かっている今もそういう装備のはず。



ケッツの隠し持った武具たちは、過剰な装備に思えてしまう。

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