兵士を信頼できるのか
暫しの沈黙の後、返答があった。
「……わかった。ラピスィを連れてこよう」
納得してなさげな横の2人に指示を出し、その人は残った。
人間に比べて長い耳たぶに付けられた、木のピアスが揺れる。
心なしか鋭くなった目線で問われる。
「“借り”のことを何故知ってる?」
「えーー…と、…ヴェータの関係者なの」
「ヴェータ?」
「ラピスィを助けた人間だよ。大丈夫。安心してよ。私は力も何もない、ただの子供だから。危険なことなんて無いよ」
警戒心をちょっとは緩めようと、無害アピールをしてみる。けど効果はなかった。
立派に生えた眉毛に力が籠る。
あれか。
まだ片言で話しててもおかしくない幼児が、こんなペラペラ喋ってたら怪しいってか。
いや~、幼児擬態しながらきちんと説明できる気はしねえわ。
どう対応したものか、と考えているとラピスィを連れて先ほどの2人が戻ってきた。
「ラピスィ!」
私が名前を呼んだら、びくりと体を揺らす。
寄宿学校でのトラブル以降、ラピスィはすっかり異種族恐怖症となっている。
大丈夫だよ~怖くないよ~。
少しでも恐怖感を和らげようと、笑顔を作る。
「ヴェータに“借り”を返しに行こう」
びくついた拍子に小人の背に隠れていたラピスィが、ちらりと顔をのぞかせた。
「ヴェータに?ヴェータの知り合い…?」
「ヴェータの関係者なの。ヴェータを助けたいんだ。そのためにラピスィの手助けが必要なの。協力してくれない?」
幼女の可愛さは小人族にも有効だろうか。
話を聞いてほしいな、と可愛らしく首を傾けてみる。
幼女パワーが効いたのかはわからないけど、間を開けてラピスィは承諾してくれた。
「…借りはずっと返したいと思ってた。ヴェータのためになるなら…。話を聞かせて」
柵越しにヴェータの現状を話した。
牢に囚われてること。
そのせいで季節が狂ってること。
ヴェータを解放したいけど正攻法は無理そうなこと。
「国のためにも、ヴェータのためにも、牢から出したいの。牢からヴェータを出す手伝いを頼みたい」
「何か策はあるのか。ばれればラピスィが人間どもに掴まるだろう」
ラピスィに向かって話していたら、ヴェータとラピスィの関係を把握しているらしい小人が口を挟んだ。
「大丈夫。ばれずに遂行できるよ。ラピスィには最後の少しを手伝ってもらえたら充分」
難しいことは考えてない。
主人公ちゃんこと、ヴェータが捉えられてる牢には、2mくらいの高さに小窓がある。
そこの小窓からラピスィが侵入して、牢の錠前を壊す道具をヴェータに渡すだけでいい。
まだ話してないけど、小窓にはケッツに運んでもらう予定。
持ち上げてもらえば小窓に手が届くはずなのだ。
体の大きさ的には私でも小窓に入れるけど、いかんせん幼児の筋力だ。
自分の体を支えたり引き上げたりができないと思う。
その点、ラピスィなら筋力は大人の人間同等についている。
小窓に入れる体の小ささと、自重を支えられる筋力。
加えて、ヴェータと顔見知り。
ラピスィ以外に適任はいないだろう。
「その自信はどこからきてる。大丈夫だという根拠は?」
「へ?ええっと…」
しまった。
なんて説明したものか。
私がそう設定したから、なんてのは論外。
牢までの抜け道や兵士の見張り配置を知ってる、てのは私みたいな子供が言っても嘘くさいかな。
ええい、ケッツを巻き込んでやれ。
「兵士に協力者がいるの。だから、大丈夫」
「その兵士が裏切ることはないのか?信頼できるのか?」
その言葉にどきりと心臓が跳ねる。
痛いところを突かれた。ケッツのことを信頼して、本当にいいのか。
自分で創作したキャラクターなら、我が子なら、その性格や思考を把握している。
何を基準に考え、何を以って行動するのか。
裏切る可能性があるのか、ないのか。
確信を持てる。
安心して信用できる。
けど、ケッツは我が子じゃない。
これまでの人生。
性格。
何をもって判断し、行動しているのか。
私が知ってることなんてほぼ無い。
我が子を探してる余裕なんてなかったから、目の前にいたケッツに協力を仰いだけど、その判断は本当に合っているのか。
問いかけられると不安になってしまう。
「お前も信頼できてないみたいだな。ならこの話は無しだ」
「ちょ、ちょっと待って!違う!信頼できるよ!」
中に引き返そうとする仕草に、焦って口を開く。
私だって、いくらなんでも信頼できない相手に協力を仰いだりしない。
大丈夫だと判断したからケッツにいろいろ話したんだよ。
そうだよ。
その判断理由を思い出して、私。
「あの、冷静なの!どこからどう見ても子供の私を、怪しいから拷問しようとしたり、もしかして小人族なのかもって思って、襲われてる私をギリギリまで観察してたり、とにかく冷静なの!正しい情報を論理的に説明すれば、偏見とか感情論とかに左右されないで、ちゃんとした判断してくれるって思ったの!だから大丈夫!信頼できる兵士だよ!」
言い終わって、どこか哀れんだ視線が注がれていることに気づく。
あれ?
テンパったせいで、自分が何を口走ったのか覚えてないぞ?
余計なことを口走ってないだろうな。
自分の発言を思い出そうとするも無駄だった。
覚えてないものは覚えてない。
更なる不安に襲われる私に、立派な眉毛を生やした小人が溜息をつく。
「…わかった。あんたのことを信じよう」
え、本当に?
軽く涙目になりながら小人たちを見つめる。
「間違えるなよ。あんたのことを信じるんだ。ラピスィが傷つくことがないよう、あんたが気を付けてくれよ」
指さされて念を押される。
人のこと指さしちゃいけないって教わらなかったかい兄ちゃん。
いや、この世界にそんな常識は無いか。
OKわかったよ兄ちゃん。
ラピスィのことは俺に任せろ。
頷いて応える。
「わかった。無事にラピスィを送り返すって約束するよ」
目を見つめて、真剣に返答をした。
私が適当に答えてないか確かめるように、目の前の小人は私を数秒凝視してから頷き返した。




