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寄宿学校への移動

ようやく厩舎に辿り着いた。

抱えていた私をそのまま馬に乗せ、荷物を括りつける。


厨房で用意してもらった水と軽食。

簡単な武具やお金、筆記具など。


そうして、ケッツは最後に馬を一撫でして城を出発した。




鍋用カバーに加えて、風避けにケッツのマントも巻き付けている。

防寒面ではとても改善された馬上。



しかし、だ。







「ちゃんと支えてよ!落ちる!」


「そんなヘマするか」





落ちなきゃいいだろ、の緩い支えは変わらなかった。



そっちは乗馬に慣れててこんな揺れは慣れっこかもだけどねえ!

こちとらまだ二度目なんじゃ!

しかも力も大きさも心許ない幼児の体なんじゃ!



緩い安全バー、もといケッツの腕に力いっぱいしがみつく。


私の命を握ってるのはお前なんだからな。

私が死ぬと同時に国の命も恐らく終わるからな。


恨み事を思うも口にだす勇気はないチキンな私。



ぎゃー!

跳ねないで跳ばないで体が浮く!










小高い丘の上に建っている城を出て、馬車が行き交えるほどの大きな通りを駆けていく。

石畳で整備されている大通りから、横道に逸れて町を迂回。

踏み固められて草も生えない土の道から、林の中へと進む。




林の中のひんやりとした空気が頬を撫でていく。


日陰に残った解け切らない雪。

春の兆しを感じない冷たい空気。


なるべく早く季節を元に戻さないと。

冬を越しきれない作物が出てくるだろう。





ヴェータが就いたおかげでここ数年は豊作だった。

それに油断して、国は作物の蓄えを減らしている。


下手したら餓死者が出る始末だ。

それは避けたい。





林を駆けている途中で、ケッツが馬の速度を緩め始めた。




「どうしたの?」


「馬を休める。走らせ続けるとむしろ到着が遅れるからな」


「そっか」




左へと舵を切り、少し歩かせて小川へとたどり着く。

馬から降りて揺れない地面に一息ついたところで、丁度正午の鐘が聞こえてきた。



腕時計などの、各自で時間を確認する機械は存在しない。



都市の中心に建てられた時計台を見るか、決まった時間に鳴る鐘を聞いて行動することになる。

時計台が見えず、鐘の音も聞こえない地方では太陽の動き頼りだ。





正午の鐘が聞こえたこともあり、川の水を飲みに行く馬を見ながら昼食となった。

厨房の人が作ってくれたサンドイッチを口にする。


少し硬くなったパンにチーズと干し肉、葉野菜を挟んだサンドイッチ。


まずくはないけど、元世界の柔らかしっとりパンで作られた美味しいサンドイッチを知っていると、ちょっと味気ない。


口の中の水分が持っていかれる。

一口で噛む量を減らして必死に飲み込む。







「そういえば、どうして助けてくれたの?」




不用意な発言をして、拷問紛いを受けそうになったところを逃げ出した私だ。

相手がいかにもな輩だったとはいえ、ケッツが私を助ける必要があったのかどうか。


いや、助けてくれなかったら私死んでたかもしれないけど。

とても、大変、心から助けてくれて感謝してるけど。




そもそもタイミングが良すぎる。




城勤めの兵士なんだから、命令がなければ城から出ることはないだろう。

ヴェータの関係者、ツフマを捉えに行く本来の任務から外れたとはいえ、ケッツは勤務中のはずだ。


城の警備とかに戻るもんじゃなかろうか。

それなのに、城の外で危機に陥ってた私を助けてくれた。なんでだろう。


あれ、そう考えると今の状態ってサボリに該当するんだろうか。




…ケッツが協力するって言ったんだもん。

私しーらない。







「ほっといて欲しかったか?」




そんなわけないと解りきってる質問をする。

意地悪い顔で笑って、水を飲むケッツ。




「助けてくれて感謝してますー!そうじゃなくて、いい時に来たなと思って」




あの瞬間のケッツはヒーローだった。


軽い身のこなしで瞬く間に輩共を倒していく。

待ってました!って声を掛けたくなるくらいの良いタイミングだった。






「後を付けてたからな」


「へっ!?」


「放置できるか。隊長から送り届けるよう言われた任を放棄するわけにはいかないし、怪しい人物ならなおさらだ」







無害な子供なら、隊長から課せられた任務を最後まで遂行しなければならない。

有害な人物なら、事情を調べて然るべき対処をしなければならない。




真っ当な意見ではある。

真っ当だからこそ、その考えは冷酷にも映る。


子供相手でも容赦ない考えだ。


感謝の念が弱まってしまった。

つい責める言葉が飛び出す。




「だったらもっと早く助けてくれればいいのに」




殺意の籠ったあの目線。

思い出すだけで背筋がゾッとする。

二度と味わいたくない。




「お前が仮に小人族なら、抵抗できるだけの力があるだろ。小人族は常に集団で行動するとも言われてるしな。危機に陥れば仲間を呼ぶかと思った」




ケッツはどこまでも冷静だ。


国の重要職務者である交信者を捕らえるなど、大々的に広げることではない。

ましてや、捕らえている場所は固く口外を禁止されている。


にも拘わらずその事実を知っていた私。

情報を聞き出す前に逃げられ、突飛な容姿からは人間だと断言することも難しい。



人間の幼い子供だとすると、言動に怪しさが残る。

しかし小人族なら、幼児サイズの成人は有り得る。





そのうえ異種族を迫害するこの国では、偏重し誇張された情報が広まっている。


人間の子供程度にしか成長しない体で、人間の2倍3倍もの力を発揮するという筋肉。

1人姿を見れば周囲に5人は隠れているという、常に集団で行動する習性。


襲われたあの状況を、小人族なら突破できるだろうとケッツが考えても納得できる。





実際は人間とそう変わらない筋力だし、1人で行動する小人族だってそれなりにいるんだけど。





「仲間も来ないし無力にやられてるし、あのままじゃ死ぬって瀬戸際でようやく助けてくれたってわけね。そういうこと。へえー、なるほどね? はあーあ。切られた足が痛いなあー」




私が襲われてるところをギリギリまで静観していたわけだ。

これ見よがしに足をさすりながら溜息をつくと、ケッツは視線を逸らす。


悪いとは思っているようだ。





「怪しすぎるんだよお前。いま生きてるだけでも有難く思え。食い終わったなら行くぞ」


「はーい」





馬を連れ戻して、移動再開である。

何度か休憩を挟みつつ馬を進め、陽が傾き始めた頃に寄宿学校へとたどり着いた。

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