恐怖が舞い戻ってくる
~プロローグ~
「ーーあいつ、何か持っているぞ……テレビのリモコンのような、立方体なのはわかるんだが」
黒い影に覆われた空間では姿がはっきりとせず、人型のようなモノと怪しげな立方体のナニかしか把握できない。
「なあ一誠……ありゃなんだ、人間か? 」
確かに人間の形をしているがなにかおかしい。アンバランスな体格、そして不規則な呼吸音、不確定要素が多すぎて迂闊に近づくことができない
「……三浦さん、一先ずここは静かにやり過ごしましょう、奴は人の形をしていますがここで近づくのはさすがに危険です」
今にも飛び出そうとしている三浦さんを宥めてその場を凌ごうとする。場所は確かに覚えた。時雨町二丁目四番地の11。まさかこんな廃坑した工場に得体のしれない生物が住んでいるのかと思うと背筋が凍る。何故今までここを調査しなかったのだろうか。
ーーカツンッ!!
「しまっ……!スマホが……」
三浦さんが声を漏らす、落下音が室内へ響いた。それと同時に人型のモノがこちらに振り向く!
「見つかったッ!!逃げるぞッ! 」
一同が火花を散らすように走り出した!つかまったらヤバいッ! 思ったよりも人型のモノが早くこのままでは追い付かれるッ!工場の出口までおおよそ500メートル、なにかで時間を稼がなければ捕まるッ!!走りつつその場にあったネジの入った籠を人型のモノに投げつけたーー
すると当たり所が悪かったのか人型のモノはその場で膝をつき頭部を抑えていた。
「一誠!!なに呆けてんだよ、早く出るぞ」
おれは三浦さんに抱えられる形で工場を後にした。そして俺たちは工場から離れにある公園で状況を整理していた。
「結局、なんだったんだありゃあ……」
「まだ確定したわけではないのですが俺はあれを別の場所から転移してきた生物なのではないかと考えています」
「転移したって一体どこから来るってんだ? 海外からか?それとも異世界から? 」
「アノ服装はどこの国でもそう着ませんよ、超次元的な考えは嫌いなんですが異世界からきた……という線が濃厚です」
俺だってまだそうだとは思えない。ただあの時の身の毛のよだつ経験が、体が、この世の人間ではないことを感知していた。また工場に行けば奴が待ち構えているのだろうか。
そもそも何故奴は俺たちを追ってきたのだろうか?何かを見られたくなかったから?それともただ工場から追い出したかったから? 考えると共に滝のように疑問が連鎖して押し寄せてくる。疑問詞ばかりが浮かんでくる
「一誠? 一誠!! 大丈夫か! たくッ、お前ひとりで悩む癖があるな。ここに頼れるお兄さんがいるじゃえねえか!さあ!ドンと話してみろ! 」
「顔が近いですッて!わかりましたよ、わかったんで離れてもらっていいですかねえ! 」
「悪い、悪い」
「三浦さんはあのモノをみてどう思いましたか? 」
今は率直な意見が欲しい。意見や疑問を繋ぎ合わせることで少なからずあのモノについてわかることがあると今までの経験が物語っている。
「んー思ったことは不気味ってことと気づいたことはあのモノって奴は左利き、そんでえらい臭かったってことだな」
「なんで左利きってわかったんですか?奴の動作で? 」
あの短時間で奴の特徴を掴んでいる。それこそ感心したのだが一番気になる点は臭いについてだ。鼻かぜで鼻が利かなかったこともあるがそれほど強い臭いを発していたということか。
「奴がナニか持っていることはおれも気づいてた、その時にリモコンみたいなのを左手で持ってたんだよ」
「あの暗闇でどの手で持ってたかわかったんですか!?」
あの光すら入ってこない闇の中で目が利いたというのか、自分も目が悪いというわけではないがあの闇の中では体型ほどしか目に見えなかった。
「奴が振り向いた時に見ただけだ。操作するのに非利き手を使う利点なんかほとんどないしな」
「臭いはどんな感じだったんですか? 」
「お前は気付かなかったのか? 同じ場所にいて? 」
「鼻かぜで鼻が利かなくて……」
棘のある言い方で少し面食らってしまった。絶対友達いないだろこの人……
「なんてんのかな……腐卵臭に近い臭いだったかもしれないし同時に鉄の臭いもしたな」
「腐卵臭……鉄の臭い……あんまり考えたくないんですけど……」
「じゃあやめとけ」
「いやそれじゃ話進まないでしょうが! とにかく奴から感じた鉄の臭いっていうのは血液という線もあるのでは?」
奴は誰かを殺害後あの工場に転移してきたのではないだろうか、それとも負傷していたのか…… ネジの入った籠を奴にぶつけた時を思い出した。あの時は必至でどこでもいいから奴に当てようとして投げつけ胴体に命中させた。並みの者ならすぐに立ち上がるのだがなぜか動きが止まっていた気がする。そうなると奴が負傷していたという説もあり得るのではないだろうか