1907年講和条約001
ついに戦争賠償金の金額の交渉に入った。総額30億円(現60兆円)というとんでもない金額である。もちろんレーニンは一銭も払う気はなかった。
レーニンは穏やかに微笑んだ。
日本を誑かす陰謀を思い付いたのだ。
まず、渋々ながらシベリアを日本に引き渡す(渡さない)。
そして渋々ながら新生シベリア帝国の建国を認める(認めない)。
そうしてとりあえずシベリアをニコライ二世の手に委ねる。
そのあとで騙して、友好式典などでおびき出し、さっさと暗殺すればいい。
暗殺した後はアレクセイ皇太子を人質に使い、日本軍を牽制する。
後見人はレーニンであり、アレクセイは傀儡だ。
まず条約を結び、安心させ、隙を見て、ひっくり返す。
こういった駆け引きはレーニンが得意とするところだ。
何か青白い光がレーニンを包んだような錯覚を、伊藤は覚えた。
威圧の力というか、威光を一瞬だが感じたのだ。
交渉人伊藤博文は内心でぎょっとしていた。
レーニンの目に一瞬宿った冷酷な光を見逃さなかった。
<こやつ!ニコライ二世を暗殺しようとしている>
だが伊藤は眉1つ目尻1つ動かさなかった。
なんという穏やかな、そして恐ろしい会見であろうか。
1人は暗殺を目論見、もう1人は国の資源を半分奪おうとしている。
だが見た目には2人とも穏やかな微笑みをたたえている。
やがてレーニンが穏やかに口を開いた。
レーニン「致し方ない、あなた方は強力な軍隊をお持ちだ」
伊藤「よく調べておいでですな」
レーニン「既得権については、さらに交渉が必要だと思われる」
伊藤「ごもっともですな」
レーニン「国境線については私の一存では決められない」
「人民委員会議で協議し、解決に臨みたい」
伊藤「なるほど、では、吉報をお待ちしております」
レーニン「それでは後日、またお目にかかりましょう」
第二回会談は小村壽太郎が担当した。
ロシア代表はレフ・トロツキーであった。
ウラル山脈が国境線である事はどちらも承認済みであった。
だが既得権ではロシアは譲らなかった。
日本は貴金属や宝石類に興味は無い。
ロシアはなんとしても手放すつもりはない。
小村「いいですよ、権利を放棄します」
トロツキー「えっ、ええええーっ!」
レーニン「よくやった、トロツキー!」
交渉会議から帰ったトロツキーをレーニンは褒め称えた。
レーニン「貴金属と宝石類こそ至高」
「卑金属は50%50%なのだな?」
トロツキー「ええ、それはもう」
「でも腑に落ちませんなあ」
レーニン「何がだ?」
「ロシアの巨富を支える至宝の山は守られたのに何が不満なのだ」
トロツキー「日本人の考えている事が分からないんです」
「そもそも我々なら放棄なんぞ絶対にしませんのに」
レーニン「極東の黄色い猿には価値がわからんのだろ?」
「バナナの方が価値があるんじゃないのかね」
トロツキーはレーニンのこういう所は嫌いだった。
自分の都合の良い事にしか考えが及ばない。
革命家である限り、それはいい方向に作用し、彼を有利にした。
だが国の指導者としての彼の資質はどうだろうか?
第三回会談は高橋是清が担当した。
ロシアはイヴァン・スクヴォルツォフ=ステパノフ代表である。
いよいよ敗戦国となるロシアへの戦争賠償金を決める日が来た。
賠償金金額は30億円(現60兆円)というとんでもない金額であった。
ステパノフ「どんでもない金額だ!」
高橋「それをこれから突き詰めるのだよ」
あろうことか、ロシア側はこの金額を全世界に公表。
ステパノフ「日本は償金の為には世界大戦も辞さない構えである」
こう喧伝して憚らないしたたかさであった。
秘密交渉の内容を公表され、日本も負けてはいなかった。
高橋「第二回会談でロシアのウラルの巨富を譲ったではないか」
「40億円でも支払いは可能なはずである」
金の問題が拗れる事は分かっていた。
カネの事になると、もはや恥も外聞も無い。
ステパノフ「極東の猿めが、ペッペッ」
高橋「うわ、汚ねえな、ペッペッ」
実は日本は賠償金は最初から諦めていた。
社会主義国家が決して払わない事は分かっていた。
そこでウラルの卑金属既得権を期限付きで100%に上げる事で償金を破棄した。
期限は2年である。
ステパノフは2年では何も出来ないと考えて承諾した。
高橋は2年あれば採り尽くせると踏んでいた。
これはほぼ鉄で出来たウラル山脈南部のマグニトナヤ山の事だ。
磁鉄鉱の豊富な鉱山でアメリカのメサビ鉄山と肩を並べる。
ステパノフ「山だぞ、2年で何が出来る」
「表面をこそこそ削り取るぐらいだろ」
高橋「鉱山機械は日本の十八番だぞ」
「バケットホイールエキスカベータ(BWE)を知らんとみえる」
ステパノフはのちに後悔する。
2年後山は露天掘りの盆地になっていた。
日本の技術は狂っている。
こんな国と戦争したのが間違いだった。
このセリフを何回聞いただろうか。
日本人を見下した者の末路だった。
こうして講和条約は全て締結され、日露大戦は終戦を迎えたのである。
日本国内は戦争終結に沸いた。
だが戦争賠償金には不満が残り、日比谷で暴動が起きた。
国民A「もっと取れるはずだろ、戦勝国だぞ!」
国民B「ニコライ二世の身代金も取れるはずだ」
国民C「シベリアの木材と毛皮だけかよ」
戦争賠償金が取れない事に日本国民は激怒していた。
シベリアの広大な土地を不毛だと思っていたからだ。
シベリアは湿地帯と原生林と河川しかない。
産業は森林伐採と野獣の毛皮、河川で採れるサケマスだけだ。
そのため流刑地となり、政治犯が罪に服していた。
囚人たちはシベリアの鉛鉱山行きは死刑宣告と受け止めていた。
しかしシベリアの地下は別の面を見せる。
これは日本が国民にも明かさない最高機密だった。
次回は1907年新生シベリア帝国です。




