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日露大戦  作者: 登録情報はありません
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1906年モスクワ進攻

日本軍はモスクワを目指す。しかしロシアは皇帝を誘拐され、内部闘争で揉めていた。多民族による帝国は一枚岩ではなかった。

飛行艇の航続距離は短い。

ニコライ二世はチェリャビンスクで爆撃機に乗り換えた。


挿絵(By みてみん)


ニコライ二世はその技術差にあきれかえってしまった。

与圧操縦室ではパイロットが薄着でくつろいでいる。


外の成層圏は気圧は1/10、気温は零下50℃だ。

ニコライ二世「信じられん・・・・・・」


しかも2日後には日本国東京に着いてしまった。

そこから捕虜収容所のある松山に空輸された。


そこにはロシア兵捕虜40万8千人がひしめいていた。

「ウラー!ウラー!ウラー!」轟音のような万歳の声が上がった。


次は神よツァーリを護りたまえ(ロシア帝国国歌)の斉唱だ。

皇帝が我々を助けに来てくれたという有様だった。


ロシア帝国はここに崩壊したのだ。

皇帝は捕虜になったのである。


ニコライ二世「帝国が・・・・・・、臣民が・・・・・・」

「これからどうなるのだ、どうすればいい?」


オリガ「отец(アチェーツ)!」

アレクセイ「アチェーツ(おとうさま)!」


ニコライ二世「おお、お前達もここに?」

家族と従者全員が、ここ松山に到着していた。


サンクトペテルブルク空爆でロシア帝国は沈黙した。

皇帝が捕虜となった事は秘密にされ、報道されなかった。


皇帝ニコライ2世の叔父でモスクワ総督のセルゲイ大公。

おなじく従弟のドミトリー大公まで行方不明である。


これはやはり同じく明石元二郎とアゼフによる誘拐だった。

一族郎党ニコライ二世の血縁者すべてが一瞬にして消え失せた。


彼らは順次松山の捕虜収容所に送られていった。

だがロシア帝国にそんな事が分かる筈も無かった。


宮殿爆破は反政府テロリストのしわざとされた。

残された官僚が臨時政府を立ち上げ、軍の指揮を執った。


ここで台頭してきたのがセルゲイ・ウィッテだ。

ロシア帝国首相である。


日本を打ち破った暁には中立国アメリカで戦後交渉を行う。

そういう手筈だった人物だ。


かつて国内資本が枯渇し、国民貯蓄がまったく無かったロシア。

その中で外資を呼び込んで戦争準備期を蓄えた経済の達人だ。

鉄道建設に力を入れ、シベリア鉄道も彼の肝いりで始まったのだ。


ロシアは鉄道網により産業を復興させた実績があった。

鉄道により流通は活発化し、産業はよみがえった。

鉄鉱石、石炭、木材がシベリアから続々と輸送されてきた。


流通が重機械生産の活発化を促し、工業成長率は跳ね上がった。

この時期のロシア工業成長率は世界最高水準の8.1%に及んだ。


ウィッテのおかげで、ロシアの鉄鋼業は遂に世界第4位。

なんと石油生産は世界生産の50%を示した。


シベリア鉄道の伸延にフランスの外資を投入したのも彼であった。

鉄道によってロシアの経済が増長したのを知ったフランスは快諾した。


ウィッテはさらなる経済発展を目指した。

それにはロシアの専制君主制が邪魔だった。


社会改革を行うには、王制や貴族が公の場を占めていては自由にはならない。

そこから徐々に締め出していく事がどうしても必要だった。


そうやって資本家や実業家がその空いた席を占める。

貴族や皇帝の手を仲介せず、工業化や金融改革を自由化してゆくのだ。


だがその手法は帝政ロシアの超保守主義と真っ向から対立した。

ウィッテはその過程で皇帝ニコライ二世と対立していく事になった。


かつてのニコライ二世も困っていた。

帝国の発展には経済発展は欠かせない。


自国だけで発展するには国民貯蓄が底を突いている。

<逆さに振っても血も出ません>という有様だ。


ニコライ二世「外国の投資を促し、国庫を潤したい」

「しかしその為には、我々専制君主が邪魔なのだ」

専制君主制では自由な市場なんぞ夢のまた夢である。


だが日本人のニコライ二世誘拐によって、突然帝国は崩壊した。


セルゲイ・ウィッテ「今しかない!」

臨時政府は国会(ドゥーマ)の設立、選挙制の拡大、集会言論の自由を国民に約束。

それを詔書(しょうしょ)にまとめ、セルゲイ詔書を発布した。


イワン・ゴレムイキン「そうはさせんぞ、売国奴めが!」

ここで立ちはだかったのが内務大臣ゴレムイキンである。


超保守主義者であり、ニコライ二世に忠誠を誓った忠実なる志士であった。

アレクサンドラ皇紀にも一目置かれる王権神授信仰者でもある。


彼はセルゲイ詔書に修正を加え、専制君主制を再規定する項目を加えた。

国会(ドゥーマ)と対立し、ウィッテと真っ向から争った。

せっかくの農地改革案まで巻き添えを食って否決となった。


臨時政府は内部闘争で揉めに揉めていた。

日本と戦争中であるのにも関わらず、である。


チェリャビンスクまで兵を進めた日本軍は唖然としていた。

日本軍「どうなんだろうね、この有様は」


日本軍はチェリャビンスクを越え、カザンに軍を進めた。

ここはタタール人のロシアにおけるイスラームの復興拠点だった。


挿絵(By みてみん)


タタール人A「タタール文化を取り戻せ!」

タタール人B「カザンからロシア兵を追い出せ」

タタール人C「なんちゃらかんちゃら」


帝政時代に抑圧されていたタタール人の逆襲が始まった。

もう命令系統も武器弾薬の兵站もめちゃくちゃだった。


現地徴兵のタタール人が反乱を起こしたのだった。

人口13万人(1887年当時)の50%余がタタール人である。


タタール人「タタール人文化を取り戻せ!」

日本軍「いいよ」


カザンはあっという間に日本軍の手に落ちた。

ロシア軍はモスクワに撤退した。


ニジニ・ノヴゴロド(現ゴーリキー)も陥落した。

ここはロシア最大の商業都市である。


挿絵(By みてみん)


豪商ストロガノフがこの地に拠点を置いた事は有名だ。

ヴォルガ川畔の街だったので、工業産業も発展した。


モルドヴィン人が支配層の州都である。

モルドヴァ共和国の建国を夢見る屈従民族だ


商都なので防衛隊が僅かに駐留するのみであった。

つまり単なるロシア軍の撤退を援護する足止めだった。


モルドヴィン人「モルドヴィン人文化を取り戻せ!」

日本軍「いいよ」


モスクワはもう目の前だ。


とうとうモスクワまで来たのだ。

日本軍は兵站と装備を充分に調えていた。


挿絵(By みてみん)


またカザンを無血開城しており、タタール人の後方支援も得ていた。

たとえロシア軍が焦土作戦を決行しようとも、準備は万端であった。


だがロシア軍の粘り強い戦闘はバカにできない。

その日も夜襲があった。


夜間戦闘が一頻(ひとしき)り終わった後、敵味方の戦傷者が運ばれてきた。

敵兵士の検死によって得られる情報は多岐に渡る。


栄養状態から食糧事情が、装備品から兵站供給状態が分かるのだ。

ロシア兵の戦死者が日本陣地で並べられている。


その装備はスコップと銃剣だけだった。


日本兵A「正規兵がこれだけの装備なのか?」

日本兵B「奴らはスコップと銃剣だけで襲いかかってくる」

日本兵C「スコップに気を付けろ」


日本側陣地の損害は軽微だが、うまく破壊工作されていた。

日本兵「こりゃあ、やられたなあ」


戦車は履帯のピンを抜かれてバラバラ。

装甲車のタイヤはパンクさせられていた。


飲料水タンクの蛇口に毒を塗られ開栓出来なくされた。

缶詰の蓋部分にクギで穴を開けられた。


いままでの正面切っての総力戦ではない。

ロシアはこういう戦い方も出来るのだ。


日本軍「卑怯なら負けんぞ」

モスクワにはモスクワ川がある。


そのモスクワ川を堰き止め、モスクワを水攻めにする。

秀吉の備中高松城水攻めにあやかったのだ。


モスクワ川は、ヴォルガ川の支流オカ川で、流量はたっぷりある。

航空爆撃隊がモスクワの堰堤を爆破した。


モスクワの町中にひたひたと水が入ってきた。

静かだが、容赦ない水かさだ。


1cm・・・2cm・・・3cm。

2週間後、モスクワは水没、ロシア軍は降伏した。


その投降したロシア兵はボロボロだった。

極限の飢餓状態に餓鬼さながらの醜態を呈していた。


日本兵のお粥の炊き出しにロシア兵が群がった。


日本兵A「鳥取の(かつ)え殺しかよ」

日本兵B「あ、おい、そんなに食べちゃイカン!」

日本兵C「空腹でメシ食うと死ぬぞ!」


リフィーディング症侯群だ。

ロシア兵はバタバタと倒れ、動かなくなった。


この症候群は経静脈栄養は禁忌で、経腸栄養投与しか方法がない。

点滴はこの症候群では、死を招く恐れがある。


こんな状態で戦闘もへったくれも無い。

もうロシア側の抵抗はなかった。

抵抗する力がないのだ。


いやそれよりも、中央の政界闘争が混乱に拍車を掛けていた。

ロシア帝国はもう一枚岩の盤石な帝国ではないのだった。

次回は1907年帝国の崩壊です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウラルから東にロシアの味方がほぼ皆無とか、これもう独立国家乱立からの日本連邦帝国爆誕不可避では?
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