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日露大戦  作者: 登録情報はありません
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1905年ボスボラスの怪物

ホバークラフトによる攻撃は単なる露払いだった。次に現れたのが巨大地面効果翼機、通称「ボスボラスの怪物」だった。

ウラジオストクの港湾司令官ニコライ・グレーヴェは唖然としていた。

なぜ機雷原をあっさり突破されたのかが分からない。


グレーヴェ「俺は夢でも見ているのか」

「だが魚雷では陸は攻撃できんぞ!」


そう言ってから彼はふと疑心暗鬼に陥った。

グレーヴェ「できないよな?」


第三艦隊から次々にホバークラフトが発進した。

片岡司令「次はホバークラフト攻撃だ」


最高速度の100km/hで海上を突進するホバークラフト。

ロシア水兵がその姿を認めた。


ロシア水兵A「またあの奇想兵器だ!」

ロシア水兵B「馬鹿な奴め、スピードの出し過ぎだ」

ロシア水兵C「地雷原の砂浜にぶつかるぞ!」


だがホバークラフトは滑空しながら波打ち際をヒラリと乗り越えた。

ロシア水兵ABC「えええええっ」


ホバークラフトに地雷は効かない。

砂浜の地雷原を軽々と突破したホバークラフト。


機銃掃射しながら敵の海側陣地を通り抜け、さっさと海に引き上げた。

この奇行に、もうロシア兵は、阿鼻叫喚のるつぼとなった。


ロシア兵A「海の上を滑空してきた!」

ロシア兵B「そのまま陸に突っ込んできたぞ!」

ロシア兵C「ああ、もうおしまいだ!」


その時だった。

恐ろしいモノがボスボラス海峡に入ってきた。


それは12発(後部8発前部4発)エンジンの地面効果翼機だった。

その巨大さから後に”ボスボラスの怪物”と呼ばれる事になる。


日本の工学技術は、科学は遂にこんなものまで作り上げていた。

羽根の地面効果で水面上1mを速度400km/hで滑空してくる。


構造上、大きくバンクして向きを変える事(反転など)は出来ない。

だがもうそんな事はどうでも良かったのだ。

ロシア側の恐怖はもうピークに達していた。


対岸のルースキー島の海岸砲陣地もパラパラと撃ってきた。

だが速度400km/hでは、どうやって当てるのか見当も付かなかった。


やがて主翼の付け根あたりから何かが放たれた。

バシューンッバシューンッバシューンッバシューンッ。


耳を聾せんばかりの轟音と閃光だ。

やがてそれは市街地に着弾した。


ボンッブワアア~ッ。

炎が広がる。


待機していた戦時消防隊が迅速に行動を開始!

燃え広がらぬうちに、いまならまだ消せそうだった。


地区消防隊「放水開始、こんな炎はすぐ鎮火させるぞ」

だがそれは炎ではなかったのだ。


テルミット反応。

酸化金属の還元反応を利用した焼夷弾であった。


酸化物の酸素を奪い、燃焼するので水を掛けても土を被せても消えない。

金属溶接にも使う、その反応温度は3000℃以上である。


3000℃の熱でたちまち市街地は燃え上がった。

この兵器は多段装ロケットランチャーで後の”カチューシャ”であった。


無誘導かつ命中率も期待出来ない、いわゆる面圧兵器であった。

一気に16発を一定地域に集中的に撃ち込むので、命中精度は必要ない。


英国が下関戦争で使った焼夷弾の威力を日本人は覚えていた。

その化学知識を日英同盟で手に入れた日本軍。


大量にロシア軍に使うのは南山、旅順につぎ3度目だ。

だが一般市街地に使うのはこれが初めてだ。


ロシア兵A「だめだ、消火出来ない!」

ロシア兵B「あ足がすくんで動けねえ!」

ロシア兵C「ああ、もうおしまいだ!」


だがまだ破壊消火という手がある。

ロシア兵「気を確かに持て!」


兵士たちは可燃性の建物を破壊し延焼を防いだ。

自分たちの町を自分たちで破壊する。


だが火勢が強く、全然間に合わない。

市街地の大火災は周囲の空気を巻き込んでいく。


この時路地や大通りの微妙な差異から火炎に渦が生じる。

この火炎流は大火災中心から上昇火炎流の渦巻きを生じた。


これが市街地大火災における火災旋風メカニズムだと言われている。

この火災旋風が発生し、街が業火に包まれていく。


燃え上がる我が街に手の下しようが無い兵士たち。

厭世的気分が兵士たちの間に広がっていく。


ロシア兵A「なんか何やってもダメだな」

ロシア兵B「なんかどうでもよくなってきた」

ロシア兵C「ダーチャの菜園が懐かしい」


ボスボラスの怪物が去って行くと次は空爆だった。

双発重爆撃機が粛々と軍港上空に侵入してくる。


対空砲火は誰も撃ってこない。

無傷の銃座には誰もいなかった。


もうロシア軍の兵は軍隊ではなかった。

奇想兵器の連続攻撃に我を失って逃げ出した。


実は奇想兵器はこれっきりだった。

だがロシア兵にそんな事が分かるはずがなかった。


今度は大挙して総攻撃があるものと思い込んでいた。

実はソーニクロフトが彦島で研究していたのはもう一つあった。


水中翼船だ。

イタリアでは発明家エンリコ・フォルラニーニが熱心に研究していた。

アメリカではウィリアム・E・ミーチャムが研究していた。


これは機雷を突破できないため、今回は使用されなかったのだ。

後は通常の上陸作戦あるのみである。


グレーヴェ司令官はもう呆然喪失状態に陥っていた。

「俺は夢でも見ているのか」


何を命令していいか分からない・・・・・・。

頭の中が真っ白に、真っ白になってしまった・・・・・・。


ロシア兵は、我先にペルヴァヤ・レーチカ駅に群がった。

ここはウラジオストク最大の操車場がある。


ここからシベリア鉄道で撤退しようというのだ。

ここをやられればもはやどこにも逃げ道はなかった。


機関車運転士「出発するぞ!」

ロシア蒸気機関車X777(class"X")が発車した。


ロシア兵A「まってくれぇ~」

ロシア兵B「乗せてくれぇ~」

ロシア兵C「おいてかないでくれぇ~」


爆撃機が迫る中、列車にアリのように群がるロシア兵士。

もはや爆撃は時間の問題で、乗車を待たずに緊急発車だ。


そこに雨あられと爆弾が降ってきた。

線路は吹き飛び、兵士を満載した列車は粉々になった。


ロシア兵A「だめだ、もうだめだ!」

ロシア兵B「神様、仏様、マリア様!」

ロシア兵C「ああ、もうおしまいだ!」


そして最後が海軍陸戦隊の上陸である。

ウラジオストク司令本部に日本兵がなだれ込んだ。


もはや抵抗は皆無である。

ここにウラジオストクは陥落したのだ。

ここはサンクトペテルブルクのアレクサンドル宮殿。

ニコライ二世は「ウラジオストク陥落」の報をここで聞いた。


書斎の間でニコライ二世は聞き返した「まことか?」

サハロフ侍従武官長「まことでございます、皇帝陛下」


ニコライ二世は天井を睨んだ。

今にも日本の「航空機」が迫ってくる脅迫概念に囚われていた。


新兵器航空機の噂はサンクトペテルブルクにも伝わってきていた。

ウラジオストク-サンクトペテルブルク間は直線距離で6600km余。


どんなにあがいても届く距離ではない。

航続距離から考えれば、サンクトペテルブルクは安全だ。


ニコライ二世「シベリア鉄道を使って増援部隊を送れ!」

サハロフ「陛下、逆に日本軍が鉄道で進軍してくる危険が御座います」


ニコライ二世「では撤退だ、シベリア鉄道は爆破せよ」

サハロフ「御意」


こうしてシベリア鉄道は爆破される事になった。

困ったのは沿線のシベリア衛星都市群だ。


バイカル湖畔都市イルクーツク「おい冗談じゃないぞ」

トミ川河川都市トムスク「そんなバカな?」

ウラル工業都市エカテリンブルク「どうすりゃいいんだよ・・・・・・」


彼らは日本侵攻を防ぐ「防波堤」の役割だ。

いわゆる「時間稼ぎ」の犠牲となる運命だった。


電文「皇帝陛下の恩顧に報いる為、身を盾にして・・・・・・」

トムスク知事「中央政府も身勝手な事を言う」


クラスノヤルスク知事「我々は捨て駒か」

ロシア皇帝の命令は絶対だ。


だがそう簡単に納得は出来ないだろう。

シベリア鉄道は衛星都市群の命脈なのだ。


鉄路はロシア極東軍が撤退した後に爆破する手筈だった。

だが多くの都市がこっそり鉄路を外しに掛かった。


トンネルは爆破せず、レンガとコンクリで埋め尽くした。

鉄橋は橋桁、橋脚を爆破せず、桁材を全て取り除いた。


衛星都市の州知事は中央に爆破を報告した。


衛星都市A「爆破しました」

衛星都市B「爆破しました」

衛星都市C「爆破しました」


これらの極東の衛星都市は、実は政治犯の流刑地なのだ。

帝政に反抗した有力貴族達や革命家が流刑に処されていた。

中央から見捨てられ、孤立した衛星都市たち。


1905年1月に「血の日曜日」という事件が起こっていた。

この事件が発端となり「ロシア第一革命」が勃発。


革命か、騒乱かという全露にわたる大争乱となった。

だが専制君主主義は倒れなかった。


ロシアお得意の「権利を条約で認め、その場を収める」政治手腕だ。

後々に条約を反故にしいつの間にか破棄無力化するのだ。


だがこんな事がいつまでも許されるわけがなかった。

流刑地都市には革命と反乱の機運が高まっている。


帝政ロシアの内政治安が崖っぷちに立たされていた。

次回は1906年イルクーツク立ち往生です。

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