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日露大戦  作者: 登録情報はありません
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1905年バルチック艦隊006

ついにバルチック艦隊は壊滅した。もはやロシアに極東に派遣する艦隊は無い。日本海の制海権は日本のものだ。全世界はこの意外な結果を疎む国、歓迎する国と様々であった。

次々にバルチック艦隊の艦船は被弾し、炎上していく。

第三太平洋艦隊司令ニコライ・ネボガトフ「万事休すか・・・・・・」

 

炎上中だった第二艦隊旗艦オスリャービャは遂に沈没した。

第二太平洋艦隊司令の座乗艦だった。


第二太平洋艦隊司令ドミトリー・フェルケルザムは?

どうなったのかの情報が全く入ってこない。


バルチック艦隊旗艦スワロフはボロボロだった。

まだ浮いていたが夕方まで持つかどうか。


バルチック艦隊司令ロジェストヴェンスキーは負傷し戦線を離脱した。

ロジェストヴェンスキーが負傷した場合、彼が指揮を執る事になっていた。


直ちに全艦にその旨が通達されたが、了解の返事が無い。

自艦の排煙と火災と敵の砲撃で発光信号は判別しにくい。


第三艦隊だけは辛うじて了解の信号を得た。

他艦隊はどうやっても連絡がつかないのだ。


ネボガトフ「もういい、連絡は中止してくれ」

彼は第三艦隊だけでも作戦行動を取ると決めた。


しかし我が第三艦隊は旧式艦の寄せ集めに過ぎないのだ。

最新艦のボロジノ級でさえ敵わなかった日本艦隊に勝てるのか。


ネボガトフ「だめだ、勝てるわけがない」

彼はウラジオストクへ全速で向かう事を決めた。


「真の目的地はウラジオストクだ」

「ここで全滅する訳にはいかん」


「第三太平洋艦隊だけでもウラジオストクに着かなければ」

「全艦離脱せよ!」


ドッカアアーン!バキバキッ!

その時日本の斉射がこの旗艦インペラートル・ニコライ1世を捉えた。


ネボガトフ「今度はこの艦が目標か」

ついにバルチック艦隊最後の旗艦への斉射が始まった。


雨あられと降り注ぐ弾丸に為す術もなく、炎と煙に包まれる。

もはや逃れる事は不可能だった。


機関室に直撃弾があり、ボイラーや配管が傷ついた。

蒸気が漏れ、圧力が低下した。


戦艦は機関が停止して、もはや航行不能となった。

ネボガトフ「ここまでか・・・・・・」


海軍では兵科の貴族士官と機関科の平民士官が対立していた。

指揮権、階級、給与に大きな隔たりがあったからだ。


そのために機関科には平民の革命分子が数多く潜んでいた。

戦艦アリヨールの機関長ポリトフスキーは革命関係の書籍を隠していた。

それを乗員にこっそり貸し出ししていたりしていた。


折しも1905年1月に「血の日曜日」事件が発生。

立憲君主制を求めたデモに発砲して鎮圧した事件だ。


兵科の貴族士官たちは、機関科の平民士官に監視されていた。

ここで機関科士官がネボガトフに降伏を詰め寄る。


ネボガトフ「お前ら・・・・・・」

釣り上がった目つきの機関科員たちは詰め寄ってきた。


ネボガトフが降伏を命令した事は分かっている。

だが彼の胸中はとうとう分からなかったのだ。


ネボガトフはついにこの件について口外しなかった。

後日軍事裁判は戦闘放棄の罪でネボガトフに死刑を宣告する。


白旗が揚がり、ボイラーが停止し、降伏となった。

こうして日本海海戦は一方的に終わった。


ロシア側は日本側の驚異的技術に恐れを成していた。

人知を越えたマジックリアリズムであった。


薩摩と安芸の無窓艦橋の異様さもひときわ役に立っていた。

当時は見える範囲が全てであり、広大な有視界こそ必須だった。


ロシア水兵A「日本人は手品師か、魔術師か!!」

ロシア水兵B「科学技術があまりにも違いすぎる!」

ロシア水兵C「インドシナであんなに準備したのに!」


たった30分で日本海海戦は決着した。

東郷「圧倒的勝利は一回だけなのだ」


爆薬トリニトロトルエンはすぐに分かってしまうだろう。

石油が豊富なロシアはすぐに増産に掛かれるだろう。


爆薬の優位性はすぐに消えてしまうだろう。

軍機密で開発中の成形炸薬弾頭は別物だが。


計算機も最新だが機構はいままでにあるものだ。

歯車を手動でなくモーターで回して高速化しているだけだ。


すぐコピー品が作られ、機械式計算機の優位はなくなるだろう。

軍機密で開発中のリレー式電子計算機は別だが。


ロシアはすぐ対処してしまうだろう。

だがバルチック艦隊を全滅させた意義は大きかった。


掃討戦、追撃戦は夜間まで続き、徹底的に撃ち払った。

もうロシアには極東で戦う規模の艦隊はいない。

日本海はもう日本のモノだった。


ロシア人たちは戦意を完全に失っていた。

戦闘ストレス反応で笑ったままの者がいた。

うつろな顔で空をただ眺めている者さえいた。


司令ロジェストヴェンスキーは勝つつもりだった。

だがそんなのは夢物語だった。


日本の技術は狂っている。

こんな国と戦争したのが間違いだった・・・・・・。


ロジェストヴェンスキーは松島の捕虜収容所へ送られた。

そこで大手術を受け、術後は良好である。


こうして日本海海戦はあっという間に終わった。

日露大戦を体験したアルゼンチン武官がいた。


観戦武官ガルシア大佐である。

装甲巡洋艦日進に乗艦した彼が観戦記を書いている。


「この海戦の明暗を分けたのは愛国心の発露でも猛訓練の成果でもなかった」

「先見の明と技術革新が生んだ最新兵器が圧倒的だったのだ」


「そこには天佑も戦運もなかった」

「ペリー来航まで蒸気機関も馬車さえも無かった日本」

「その日本が超大国ロシアを打ち破ったのは真実だ」

全世界がこの日本海海戦の結果を注視していた。

日本勝利は多くの国が予想していなかったのだ。


同盟国の英国と中立国のアメリカは固唾を呑んで見守っていた

ロシアの南下を危惧していた両国は手放しで喜んだ。


一方ロシアに肩入れしていたフランスは立場が悪い。

フランスは日本が負けると思っていた。


ロシアは敵対する隣国ドイツを兵力で牽制していた。

ロシアが負けた事により押さえつけていた手が緩む。


結果的にドイツの軍事的脅威が強まり、フランスが脅威に晒される。

そうすればフランスはドイツの兵力に備えねばならないからだ。


急にフランスはロシアと日本の講和を口にし出した。

「そ、早急に講和のテーブルにつくべきです」

これも外交で、急に態度を180度覆したのだ。


ドイツは一辺倒に「海戦が終局した」としか報じなかった。

ドイツが恐れたのは戦後の「英仏露同盟」だった。


日本がロシアを下し、友好国になれば、日英露同盟だ。

フランスも態度を変え、急に講和条約を口にしだした。


これも加われば「日英仏露同盟」だ。

ドイツは英仏露に囲まれる形になる。


これはまずい。

それゆえ事を荒立てたくなかったのだ。


アジア、中東、アフリカ諸国は民族運動に沸いた。

極東の小さな島国が超大国ロシアを倒したと驚喜した。


そのほとんどがヨーロッパに屈従した植民地だったからだ。

小さな島国に出来て我々に出来ないはずがない!


植民地A「日本人は凄い!」

植民地B「日本人がまたやった!」

植民地C「オレたちの日本人!」


ポーランド立憲王国も動揺した。

ニコライ二世が国王を兼ねる「衛星国家」だったからだ。


オーストリア帝国はロシアの圧倒的兵力の前に日和見を決め込んでいた。

複雑な民族構成から日本勝利を一辺倒には喜べなかった。

ボヘミア系は疎まい、ハンガリー系、ポーランド系は歓迎した。


スウェーデン、フィンランド、ノルウェーも概ね日本勝利を祝福した。

オーストラリアやフィリピンは強国日本が攻めてくるのではと警戒した。


そして帝政ロシア。

ニコライ二世は講和を断固拒否した。


怪物ロシアは風刺画では蛸の絵として描かれる。

その触手は北欧や西欧、東欧、中東、そして極東に伸びている。


手痛い敗北だが、極東の触手がヤケドを負っただけだった。

ニコライ二世「海軍はいなくなったが、あれはいわば”助手”だ」


「主人たるロシア陸軍の主力は、常にヨーロッパ戦線にある」

「シベリア鉄道ある限り、いつでも派遣可能だ」


そして日本。

国内は大騒ぎとなっていた。


「バルチック艦隊撃破!」

日本国内はお祭り騒ぎである。


市民は提灯行列で練り歩き、日本海海戦の勝利を祝った。

ロシア焼きなるものが流行ったが、それは「お焼き」だった。


ドラーニキ(драники)というじゃがいものお焼きである。

ケチャップやバターがよく合った。


市民A「大勝利だ!」

市民B「いける!やれる!」

市民C「次はウラジオストクだな!」


国内はすでに次の戦勝地の話題で持ちきりだった。

だが戦場では弾薬・砲弾が底を突いていた。

次回は1905年ウラジオストク攻撃です。

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