1905年バルチック艦隊004
アレクサンドル3世が被弾!それは日本の潜水艦の魚雷攻撃であった。東郷ターンは敵に阻まれ、反航戦で日本海海戦の幕は上がった。
東郷「ちょうどいい、逆探で位置を特定せよ」
闇夜の灯台のように、バルチック艦隊の居場所があぶり出された。
進路は東北東。
だが艦隊はジグザグ運動をやっているようだ。
加藤友三郎「う・・・・・・持病の癪が」
加藤参謀長の腹痛が始まった。
日夜、作戦を立てては崩しを繰り返した心労だろうか。
加藤「正しい進路さえ定まれば・・・・・・痛ッ」
参謀秋山真之が心配して、医務室に連れて行った。
軍医「鎮痛鎮痙剤を処方したばかりでしょう」
吐き気を訴え、冷や汗をかき、苦痛に顔を歪ませる加藤参謀長。
これは後に胃がんであることが発覚している。
一方現場の駆逐艦隊では、旗艦からの伝達が途絶えていた。
加藤参謀長と秋山参謀がCIC(戦闘指揮所)を離れたからだ。
鈴木「加藤参謀長の腹痛はいつもの事だ」
「だが今回は相当に具合が悪いようだ」
どの方向に航行しているか遠巻きに並走しているのでわからない。
痺れを切らした第二艦隊第四駆逐隊の鈴木司令は行動に出た。
魚雷の高速近距離射法を持論に持ち、猛訓練を繰り返してきた鈴木。
朝霧以下駆逐艦4隻をもってバルチック艦隊の進行線上を横切った。
駆逐艦の最大船速29ノット、バルチック艦隊12ノットである。
鈴木「まちがいなく東北東、対馬東水道だ」
無謀かつ大胆な行動により、バルチック艦隊進路は定まった。
この行動を機雷敷設行動とみたバルチック艦隊。
右90度の一斉回頭を行って、海域を避けた。
その時、監視のロシア水兵は恐ろしいモノを見た。
それは日本海軍の第一型潜水艦だった。
ロシア水兵「うわおあうあっ!うわあああ!」
たちまち舷側には監視の水兵達が鈴なりになった。
艦長以下士官も艦橋から、その黒い影を確認した。
英国沿岸から恐れていた悪夢がとうとう現実になったのだ。
第一型潜水艦は45cm魚雷発射管一門を装備し、2本の魚雷を積載した。
まるでヨットに並走するイルカのような挙動だった。
そうしてスーッと離れていったのだ。
ズバアアーンッ。
二番艦アレクサンドル3世の艦尾に爆発の水柱が上がった。
アレクサンドル3世「ワレ操舵不能!ワレ操舵不能!」
舵を魚雷で破壊され、貴重なボロジノ級が戦列を離脱していく。
総攻撃のために8隻の戦艦が単縦陣で陣形を組んでいた。
ロジェストヴェンスキー「これでは祭りの射的のマトだ」
艦隊は魚雷から逃れるために輪形陣に移行し始めた。
戦艦を中心に駆逐艦や巡洋艦が円形に陣形を固める。
これにより対潜警戒が行いやすい。
だが砲撃戦には圧倒的に不利だ。
そこに日本連合艦隊が現れた。
東郷「ダンゴみたいになっているぞ」
秋山「そろそろZ旗を掲げてよろしいかと」
東郷「うむ」
秋山「Z旗を掲げよ!」
<皇国ノ興廃、コノ一戦ニアリ。各員一層奮励努力セヨ>
バルチック艦隊も連合艦隊の船影を認め、単縦陣に戻り始めた。
双眼鏡で見た戦艦薩摩は異様な形状である。
露天艦橋がなく、人影が全く無いのだ。
ロジェストヴェンスキー「めくら撃ちでもやるつもりか」
「日頃の猛訓練の成果を見せるいい機会だ!」
ロジェストヴェンスキー「先頭の薩摩に集中砲火を浴びせろ!」
旗艦薩摩の照準はオスリャービャかスワロフかで迷っていた。
山崎「主砲全自動射撃用意!」
東郷は第一艦隊が囮の丁字回頭、第二艦隊が直進する計画だった。
第一艦隊を追う敵艦隊を第二艦隊が撃破する。
だが思ったよりバルチック艦隊は機敏だった。
整備も出来ず、改修もならず、牡蠣殻だらけの低速艦ではないのか?
東郷「このまま丁字回頭してももう間に合わない」
ただちにCICで作戦を変更、すれ違いによる反航戦に切り替えた。
これを見てとったロジェストヴェンスキー。
「さすがだな、丁字回頭で来ると思ったが」
こちらの速度を東郷が見誤るのを誘っていた。
ロシアは丁字回頭した日本艦隊の頭を押さえるつもりだった。
高速で出し抜く逆丁字戦法とも言えた。
日本艦隊の前面に出て全砲門で十字砲火を集中する。
日本艦隊は壊滅的打撃を受けていたハズだ。
だが日本艦隊は距離11000mで艦砲射撃を準備。
ロシアのボロジノ級も最大射程が16000m以上あった。
だがロシア側の有効射程は8000mでまだ撃てない。
日本はアウトレンジ戦法により初戦で優位を得ようとした。
3基の連装砲が狙いを左翼先頭の戦艦オスリャービャに定めた。
この艦が日本軍から一番近い。
この艦が機能不全に陥れば、航続艦は減速せざるを得ない。
右翼は被弾爆煙に遮られて正確な反撃が行えないだろう。
逆向きの三脚檣にある巨大測距儀がグルリと回った。
戦艦オスリャービャへの斉射撃の照準を合わせた。
主砲は1分間に10発の連射が可能だ。
<注:ロシア側は1分間に12発可能>
仰角を水平に戻さなくていい新技術だ。
命中率はおおよそ20%である。
当時の命中率が5%の時代に20%の命中率はとんでもない代物だった。
船の揺動に対応したジャイロ機能付きスコープのおかげであった。
砲術長阿部少佐の号令一下、砲撃が始まった。
薩摩、安芸の12門の主砲が一斉に火を噴いた。
ズガンッ!ドカンッ!バシンッ!バゴン!
4発が第一斉射で命中した。
艦上建造物は吹き飛び、爆炎と爆煙が乗員の肺を焼いた。
ロジェストヴェンスキー「日本は一体どんな爆薬を使っているんだ!」
トリニトロトルエンはトリニトロフェノールの0.83倍の威力しかない。
だが不発弾が少なく、威力よりも安定した運用面が買われていた。
ロシアは強力なニトロセルロースを使用していたが不発も多かった。
ロジェストヴェンスキー「撃て!撃って撃って撃ちまくれ!」
スワロフの主砲が火を吹く。
だが当たらない、敵艦を飛び越えてしまった。
ロジェストヴェンスキー「クソ!照準が甘いのか!」
ダメージで照準器がメチャクチャに狂っていたのだ。
次々に命中する日本軍の砲弾が多すぎて、砲は無事だが砲員が多数戦死。
艦隊運動と斉射の連携が取れなくなってきた。
ズバアアーンッ!
今度は舷側に水しぶきがあがる。
艦橋観測員「日本軍の潜水艦です!」
ロジェストヴェンスキー「ジグザグを取れ!」
艦長「砲撃戦の艦隊運動はどうしますか!」
ロジェストヴェンスキー「各自独立撃ち方だ!」
潜水艦は実は発射管が1本しかない。
しかも予備魚雷は1本しかない。
日本軍の魚雷攻撃は今のが最後だった。
だがロジェストヴェンスキーがそれに気付く事はなかった。
次回は1905年バルチック艦隊005です。




