表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日露大戦  作者: 登録情報はありません
31/67

1902年奇想兵器たち

奇想天外な兵器、略して奇想兵器である。想像の延長線上にない異常な性能を持つ特異な形状が見る人を驚かせる。だが実際の戦果は甚だ疑わしい残念な超兵器というカテゴリーになる。

大坂砲兵工廠は秘匿兵器の製造に着手した。

全長75mにも及ぶ砲身を持つ多段薬室砲である。


射程8万8500m、口径150mm。

陸軍参謀でさえ「どうかしている」と口を揃えた。


だがこの砲は実はすでに米国で設計段階にあった。

1881年の試作に向けて研究が進められていたのだ。


薬室への点火タイミングは機械制御では誤差が多い。

そのため継電器(リレー装置)による電子制御を利用する。


継電器(リレー装置)は1835年にジョセフ・ヘンリーが既に発明している。

彼は強力な電磁石を試作し、1tの鉄塊を持ち上げる実験も成功している。


19世紀後半は「発明の萌芽」の時代であった。

継電器とスーパーガンは一見関係が無いように感じる。


だがそれを統計的にまとめ上げた者が勝利者となるのだ。

1883年多段薬室砲(後の奉天砲)が完成。


あまりに大型であるため、山や丘陵地帯の斜面を利用して構築する。

斜角は固定で要塞攻略砲としてのみ機能する。


試射は家島諸島男鹿島(当時無人島)に決まった。

大坂から男鹿島まで距離は77km。


「発射!」

バシュバシュバシュッ、スポーンッ。


拍子抜けするような発射音とともに砲弾は大気圏外に上昇し再突入。

大阪湾の上を過ぎ、明石海峡を越え、淡路島の向こうに落下した。


男鹿島は御影石の産地でもあり、堅い岩盤に激突した砲弾はキチンと炸裂した。

だが戦場は雨が降れば泥まみれの状態になり、信管が作動しない事もありえた。


大坂砲兵工廠はそのための弾底信管の研究に着手する。

弾頭の着弾時の衝撃ではなく、着弾時の急激な速度低下を利用する。


これは慣性力を利用するため、慣性信管とも呼ばれた。

これは後の奉天の会戦で役に立つ事になるのだ。


多段薬室砲は分解され、神戸港の倉庫に仕舞われた。

日露大戦になれば、その姿を現すだろう。

日英同盟の英国からも奇想兵器がもたらされた。

地面効果翼機とホバークラフトだ。


日の目を見なかった発明に、日本は目を付けた。

1877年英国海軍建築海洋工学部に一人の天才が生まれていた。


その名はジョン・A・ソーニクロフト。

彼が水の抵抗をなんとか低減しようとした結果「地面効果」を発見した。


水鳥は羽ばたかず、翼の向かい角を調整しながら、滑空を長時間続ける。

これを観察したソーニクロフトは実験によって地面効果を見つけたのだ。


だが当時の推進器は蒸気機関であり、実機は飛ばなかった。

また自然条件にも大きく左右され、凪で無いと飛ばなかった。


航洋性能は小さな漁船にも劣るのだ。

だが初見の異常な雰囲気は、奇想兵器の名にふさわしかった。


これに目を付けた明治政府はさっそく英国技術者を招待した。

ソーニクロフト「え?私の発明に日本が研究費を?」


ただし日本での研究と開発が条件だった。

ソーニクロフト「極東の島国で研究かあ」


彼は自分の発明に見切りをつけ、ボイラー改造に主旨替えしようとしていた。

ソーニクロフト「発明ではメシが食えんからね」


二の足を踏む天才発明家に明治政府は言った。

「英国租借地彦島は英国の治外法権が効きますよ」


日本「貴方の名前の研究所を建てて、お待ちしますよ」

「ダイジニシマスヨ」


こうして天才発明家は日本にやって来た。

英国租借地の彦島に専用港が築港された。


そこにはソーニクロフト研究所が建っていた。

専用の研究員には二宮忠八(にのみやちゅうはち)徳川好敏(とくがわよしとし)がいた。


二宮は航空機の専門家で、同じ着想から航空機を製作した。

徳川は航空機の内燃機関の専門家だった。


夢にまで見た専用の研究所に有頂天になるソーニクロフト。

ここで日本人技術者と擦り合わせを行い、提携を結ぶのだ。


ソーニクロフト「エンジンが問題なのだ」

二宮忠八「ウチには超才がいますから大丈夫です」


超才とは矢頭良一の事だった。

彼は今、イタリア留学中で不在である。


彼の設計したエンジンは高回転高出力であった。

まだ日本の工作技術が追い付かず難儀していた。


だがまもなくそれも突破出来るだろう。

航空機用星形エンジンは既に実用化寸前だった。


このガソリンエンジンを実験用に提供した。

ソーニクロフト「このエンジンなら!」


試作段階の5気筒のエンジンが提供された。

ブルーンッ、ババッ、ババババッ!


ホバークラフトはついに浮き上がった。

だが積載荷重は人一人がやっとの貧弱さだった。


徳川好敏(とくがわよしとし)「エンジンが出力不足なのです」

徳川は弱冠18歳の航空機の天才だった。


ホバーには推進用と浮上用の2つのエンジンが必要だ。

実験機は1つのエンジンから出力を供給されていた。


この伝達機構の仕事損失が出力低下の原因の1つだった。

工作精度が悪く、ロスが多かった。


徳川はこれを独立機構にまとめた。

推進エンジンと浮上エンジンを独立にしたのだ。


ついに3人乗りのホバークラフトが浮き上がった。

二宮「3人では攻撃部隊にはほど遠いなあ」


徳川「せめて40人は歩兵が乗れないとなあ」

上陸用舟艇として最低は40人乗せる予定が3人ではどうしようもない。


徳川「400馬力は必要かな-」

二宮「今50馬力なんですけど」


徳川「9気筒100馬力を連結して200馬力が限界です」

二宮「さすがは徳川機関長」

徳川「機関長ゆーな!」


ホバークラフトは機銃掃射艇となり、敵を攪乱する役目を担った。

操縦士1人、機銃手1人の2名が登場する。

機関砲は重いので乗員は2名だった。


地面効果翼機も滑空に成功した。

二宮「これはオレも考えていた、滑空機だ」


徳川「凪の日しか使えないが、使ったらスゴイよなあ」

こちらは3人乗りで時速200km/hで滑空が出来た。


これは強襲用ミサイル艇に仕様変更され、パイロットは1名となった。

ミサイルは多連装ロケットランチャーで無誘導だった。


1864年下関戦争では英国がこの兵器を使った。

長州藩の藩士がこの兵器の破壊力を覚えていた。


無名の藩士は自分の研究を論文にして残していた。

40年後、二宮はこのロケットランチャー論文を発見した。


二宮「著者は20年前に亡くなっているとか」

徳川「装備した兵器を見たかったろうなあ」


このロケットランチャーを機体の背中に背負う格好だ。

ミサイルを積載する関係上、乗員は1名である。


地面効果翼機の見た目の異様さはホバークラフトの比ではない。

二宮「こんなのが海上を滑空してきたら、裸足で逃げ出すわ」


日本第3艦隊司令長官の片岡七郎中将が奇想兵器の噂を聞きつけてきた。

彼がウラジオストク攻撃に奇想兵器を使おうとしていた。


片岡「どうしても奇想兵器が必要です」

ウラジオストクはやはり数日で落とさなければならない。


ウラジオストクは帝政ロシアへの橋頭堡だった。

そこから帝都サンクトペテルブルクまで9300km余。


シベリア鉄道はロシア軍撤退の際に徹底的に破壊されるだろう。

それを修理しながらの進軍となるだろう。


シベリア衛星都市を順次占拠しながらの進軍である。

伸び切った兵站を支える為には、鉄道は絶対に必要だった。

シベリア鉄道がロシア側の無限の供給を支えている。


ウラジオストクは大陸で日本海は海だ。

日本の補給は貨物船が命の綱だ。

遠征軍の日本海軍は兵站の面で圧倒的に不利であった。


長期戦になれば、ロシア軍はどんどん増強される。

日本軍はますます疲弊し、兵站が底を突いてくる。


奇想兵器は1回こっきりの使用である。

この奇想兵器で攪乱している間に上陸作戦を行う。


片岡中将「ギリギリまで性能向上に努めてくれ」

片岡はあと2,3年でロシアと戦う事になるだろうと踏んでいた。


その時までに形になってくれればいい。

ウラジオストク守備隊の度肝を抜いてやろう。

片岡は実験場で奇想兵器を眺めていた。

奇想兵器たちが凄まじい性能試験に明け暮れている。


打ち際で止まらず乗り越えてくるホバークラフト。

時速200kmで海上を突進してくる地面効果翼機。


そして、彦島から関門海峡を通過する軍艦を眺めた。

それは最近完成したばかりの全通甲板を持つ航空母艦だった。


片岡「ついて行けんわ」

彼は首を横に振りながら、海軍迎えの車で実験施設を後にした。

多段薬室砲は「Takeda Kingdom!甲斐国は世界を目指す」のモノの再掲載です。


次回は1904年日本の戦費調達です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ