これからもずっと⋯⋯
「自動運転車を1台確保しました。これに乗り込んでカドラス本社に行きましょう。このまま徒歩で逃げ続けるのも限界です」
走り続けて1時間くらいだろうか。
HALの猛攻により僕らは予想以上に遠回りをさせられていた。このままでは永遠に逃げ続けることになる。そう思った時にキリエから朗報が出た。
「本当かキリエ。でも大丈夫なのか?HALの影響を受けないか?」
「この携帯と同様に電源が入る前の機器に干渉できれば完全に私の制御下に置けます。ほぼ安全です」
「そうか」
「⋯⋯」
ルビーはずっと黙り込んだままだ。
色々と考えることがあるのだろうが⋯⋯。
僕らは目の前に停車した車に乗り込む。
「それではカドラス本社へ誘導します。HALの妨害も十分に考えられます。どこかにつかまっていてください」
車は徐々に加速していく。
「なあ、キリエ。僕らもHALもヴィリアを破壊するために動いているのに、どうしてHALは邪魔をしてくるんだ」
「おそらく彼は再起動する過程でヴィリアに何かしらの操作をされた可能性が高いです。そもそも再起動不可能とされていたハルがどうして再起動できたのでしょうか。きっとプログラムの欠損箇所に虚偽のプログラムを流されたと考えられます。そして彼からルビーの情報を盗み出したヴィリアは今後ルビーを破壊するために何を起こすかわかりません。ヴィリアは現在国民の信用を落とすわけにはいかない。しかし、ルビーの存在も目障りだと感じている。そこでルビーを排除する仮の人形としてハルを利用したのでしょう」
確かにそういう風にも考えられるのか。でも、ハルはヴィリアが操作しているとは思えない。ハルはあくまでも自分の信念を貫いているだけだ。世界を守るっていう大きな信念を。
車は道中にいるアンドロイドや車両を避けて進んでいく。きっとハルがよこしたものだ。
「システムに障害発生。何者かに侵入されました。⋯⋯HALの信号です。まさか、まだこんな力を隠していたとは。⋯⋯危ない。このままではあの柱に衝突します。どこかにつかまっていてください」
くそ、絶対安全じゃないのかよ!
僕はさっきからずっと呆けているルビーを抱く。
車は電信柱にぶつかり横転した。車は勢いを減らしきれずに道を滑り続け火花を散らした。そして、数十メートル進んだところでようやく止まった。キリエによる緊急ブレーキが少しは衝撃を軽減させたが、僕は頭を強打し、血が頬を流れる。
「ルビーしっかりしろ!」
「さっきからなんだ!ずっと黙り込んだまんま、何を考えてた!」
「翔、くん、その傷⋯⋯。私のせいで、こんなことに⋯⋯。私がいなければ⋯⋯。翔くんを巻き込まなくて済んだのに⋯⋯」
「そうじゃない!お前、やっぱりアホだ!昨日言ったろ!君は僕の大事な家族だ!家族と一緒にいたいと願って何が悪い!ヴィリアが平和な日常を壊そうとするから僕はそんな未来をぶち壊すだけだ!でも、HALにデータを渡して君が死んだんじゃ意味がない!君と生きる未来じゃなきゃ嫌なんだ!」
横転した車内で叫ぶ。正直に言って何を言っているかわからない。自然と喉が動いたのだ。
そうだよ。ルビー。君は僕の大事な家族なんだ。
「⋯⋯わかりました。すいませんさっきまで考え込んでしまって。でも、もう決めました。ありがとう⋯⋯」
<⋯⋯いい加減諦めてください。私の手間が増えるだけです。リカは完全な不良品だ。創造主である私の命令を破るとは。今の君たちがカドラス本社に行ったところで何ができる。高校生と出来損ないのロボットだけでヴィリアのサーバに行けるわけがない。私が直接叩くのが1番良いのだ。さあ、クラッシュドライブを渡したまえ>
くそ、車のラジオから話しかけてきやがった。
どこまでしつこいんだよ。
「お父さん。いや、HAL。私はもうリカではありません。ルビーです。翔くんの家族です。ポンコツでいつも迷惑をかけてしまうアンドロイドのルビーです。私は確かにあなたに作られたかもしれません。でも、私はこの人と一緒にいたい。生きていきたい。だからあなたにデータは渡せません」
「大丈夫です。あなたが思っているより私たちは力を合わせればなんでもできます。ヴィリアは私たちが破壊します。だから、安心して?あなただって、誰かに作られたのならわかるでしょ?信じるってこと」
ルビー⋯⋯。お前。そんなこと思ってたのか。
<⋯⋯飛んだ反抗期の娘を持ったものです。わかりました。ヴィリアの破壊はあなた方に託してみましょう。ただ、やるからには可能性を最大限に上げるべきです。私も後ろからアシストします。ただ、カドラス社のサーバルームが大変強固なのは事実です。特殊な社員証がなければ侵入するのは難しい。私もそこに関しては操作できません。何か策はありますか?キリエ>
ハルが協力してくれるのはありがたいが信じても良いのだろうか。
あまりにも簡単に諦めた。もしかして、ハルにも何か思うべき過去があったのか?
まあ、いい。今は時間がない。ルビーも信じるのだ。僕が信じなくてどうする。
「はい、そのための秘策を用意しています。⋯⋯おや?丁度きたようです。翔様、車外に出てください」
丁度来たって、人か?
僕とルビーは車外に這い出る。外を見ていると野次馬がスマホでこの事故を撮影していた。ただ、その中に1人見知った顔がいた。新都だ。
「新都、お前、なんでこんなところに⋯⋯」
「話はキリエから聞いたさ。うちの父ちゃんの会社のヴィリアが世界を滅ぼすってな。初めて聞いたときは信じなかった。でも、お前のそのルビーって子や、ハルのことを聞いていくうちに真実だと分かった。ハルの研究所を破壊したAIはヴィリアだってことも。それに、今のお前の血だらけの姿を見たらもう何をするべきかは明白だ。だから、俺はお前に協力するぜ。何せ親友だからな。この間は助けにきてくれたんだ。俺だってお前のことを助けたい。例え父ちゃんの会社に被害が出ても、だ」
「新都、君って奴は⋯⋯」
「そこでほら、カドラス内で最高権限を持つ社員証を持ってきてやったぜ。何せ俺はカドラス社に自由に出入りできるからな。社員証を盗むぐらい造作もないぜ」
助かった。新都が神に見える。
さっきから僕は感動しまくっているせいで目から汗が溢れてきた。畜生、お前ら最高だ。
「それでは時間ももうありません。すぐにいきましょう。野次馬が撮影したビデオに関しては全て削除しています。ご安心ください。次の車も手配してあります。HAL、あなたも協力するつもりなら少しは何かしてください」
<私は先程からヴィリアのサーバ攻撃を防いでいます。彼女も私があなた方について行くと決めて慌てて攻撃を仕掛けてきています。しかし、徐徐にブロックが壊されています。時間はありません。早く作戦を実行するべきです>
「わかりました。それではいきましょう、この車に乗ってください」
すると目の前に一台のセダンが現れた。
できればあまり車には乗りたくないが、これが1番早い移動手段だ。仕方ない。それに、ハルとキリエが補助してくれるのだ。きっと今度こそ大丈夫だ。
車は30分ほど走ると、カドラス社前に到着した。道中、ヴィリアが仕掛けてきたらしいが、ハルやキリエがどうにかしてくれたらしい。らしいというのは僕らの目に見えない次元で物事が行われていたからだ。サーバ攻撃を可視化することはできない。
「それでは作戦内容の確認です。カドラス社はほとんどの警備がアンドロイドによりされています。私とハルがそれを無力化し地下道へ侵入、サーバルームへの入る扉のロックを新都様が盗み出した社員証で開け、中に入りルビーのクラッシュドライブを叩き込む。以上です」
正直に言って説明不足だがやるしかない。
新都も、ルビーも真剣な趣だ。
<ただ、無力化すると言っても何があるかはわかりません。くれぐれも注意してください>
「全量子クラスタ展開。カドラス社サーバに全演算回路を付与。演算限界点に到達。警備用アンドロイド89機の無力化に成功。ハルとの並列演算開始、維持を続けます」
僕らは車を出て、ビルに入った。ショールーム内にいたアンドロイドは全て床に倒れている。キリエとハルのおかげだ。
キリエの指示に従い地下通路へ入り込んだ。薄暗くつめたい。警備員だと思われるアンドロイドが数体倒れていた。しばらく道成に進むと鈍重な金属隔壁が見えた。まるで銀行の金庫のようだ。
「ここにこのカードをタッチすればいいんだな?」
「はい、そうです。中に入ったら私たちは一切の援助ができなくなります。注意してください。ルビーは中に入ったらサーバルームの奥にある操作パネルに手をかざしてください。ハルが組んだクラッシュドライブはそれで機能します」
「わかりました。がんばります」
僕はカードを電子パネルにタッチする。
すると白い煙が扉から吹き出し、ゆっくりと開いた。中には幾何学模様に浮かび上がる青白い線が幾度も点滅を続ける正六角柱のサーバが何列にも渡って続いている部屋があった。
恐る恐る中に足を踏み入れる。
「よく来たね、あたしのサーバに。でも、もうここまでだよ。あのハルっていうのが使えなくて困っちゃった。せっかく起こしてあげたのに。でもまあいいや。ここで君たちは死ぬわけだし。外で殺しちゃうと色々と面倒だからね、ここまで誘導するのも面倒だったよ。それじゃあ本気出しますか」
中に入った途端に音声が鳴り響く。
すると入ってきた扉の方から先ほどの警備用アンドロイドが流れ込んできた。しかも手には金属パイプを持っている。きっとあれで殺す気だ。
「翔!どうする!」
「さっさとこのアホをぶっ壊すぞ!ルビー走れ!ここは僕らがどうにかする!僕らが死ぬ前に早くどうにかしろ!」
「サーイエッサー!死なないでくださいよ!」
「君と居るって決めたんだ。まだ死ぬには早えよ」
よし、ルビーは奥に走って行った。
なら後は僕がこれを止めるだけ。相手は鉄パイプ、こっちは素手。しかも人数が違う。こっちは2人、相手は13人。明かに戦力差が激しい。でも、やるしかない。
「新都、左のやつらを頼む。僕は右のやつらだ。作戦はキリエがさっき教えてくれたやつだ。いいな?」
ここにくる前の車の中でキリエが教えてくれた。仮にキリエとハルがアンドロイドを操作できなくなったときにアンドロイドと戦う方法だ。
彼らは予測できない急な動きには反応できない。よってひたすらにフェイントをかけまくるのが1番いいということだ。戦うと言っても相手は機械。根本的に力が違う。生き残るための時間稼ぎにしかならないが知らないよりはマシだ。
「了解。⋯⋯帰ったらマリアたんとイチャイチャするんじゃあ!!!」
「おらあ!!」
僕らは一斉にアンドロイドに飛びかかる。
相手のアンドロイドも僕らに鉄パイプを振り下ろす。だが、僕らは奴らの射程圏内に入る前に一歩手を引く。奴らのパイプは地面をうち、大きな音を鳴らす。
この後も次々、押しては引いての繰り返しをした。パイプが肌をかすめ血が出ることもあった。
「こざかしい。早く殺しなよ。⋯⋯何?この感じはまさか、私のクラッシュドライブ!?この小娘いつの間に!早すぎる」
「私はねえ、翔くんに荒く扱われたおかげで人工筋肉の最適化が早く進んだんです。まさか、私をエアバックがわりにするとは思いませんでしたよ」
遠くでルビーの声が聞こえる。悪かったってエアバック扱いして。
「こんなところで終わるのかあたしは!」
「もはやこれまでです。ここで息絶えてください。私と翔くんの未来を邪魔しないでください!」
近くのサーバが光を失った。
先程まで戦っていた警備員の人も力を失い倒れ伏す。
どうやら終わったみたいだ。
「お疲れ様です。それでは警察が来る前にとっとと逃げましょう」
<まさか、成功するとは。⋯⋯お疲れ、ルビー>
「翔、やったな!」
「あ、ああ」
「翔くん!私がんばりましたよ!帰ったらいっぱい良い子良い子してくださいね!」
僕らは地下から出ると、車に逃げ込み逃走した。
この後は単純だった。
キリエはヴィリアが握っていたシステムをそのまま掌握して結局運営続行が決定した。そして、キリエはヴィリアが持っていたデータを全世界に開示した。カドラス社は責任を問われ解体された。新都は少し悲しんではいたが「これはしょうがないことだったんだ」と言っていた。
ルビーと僕が色々やったことについてはキリエが全て処理してくれた。きっと違法なこともあったのだろうが世界を救ったんだ。多少は多めに見て欲しい。
「翔くん、これからもよろしくね!」
「ああ、よろしく」
こうやってルビーの頭を撫で続けるのは僕の幸せの一部になった。
なんでこんなポンコツが大切になったかはわからない。でも、大切になってしまったものはしょうがない。これからも守り続けていこうと思う。
すまんな。打ち切りみたいな終わり方になって。僕の技術がチープなせいですごめんなさい。
もともと短編で納める予定だったのがどんどん肥大化してこうなってしまいました。
僕はこれからも頑張って小説のスキルを磨いていきたいと思います。
またどこかでお会いしたらその時はよろしくお願いします。