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破壊への導

今回はごちゃごちゃしてます。

次回か、次の次くらいで完結予定です。

 「ん?もう朝か」


 部屋に入り込む暖かな陽射しが僕の目を覚ます。

 休みだということをいいことに惰眠を謳歌してしまい、今は午後4時くらいだ。


 「おい、ルビー起きろ。夕方だ」


 「んー?なんですかー」


 「夕方だ。起きろ。これ以上は人としてダメになる」


 隣で布団を抱きしめながら寝息を立てているルビーを揺さぶる。


 「キリエ、昨日の事件どうなった?」


 「キリエ?」


 最近荒く使いすぎて画面が欠けたタブレットに話しかけるが返事がない。

 どうしたんだろうか。


 「キリエは現在の国際情勢において日本国遠防衛できる能力がないと判断されたため廃止が決定しました。現在サーバの解体作業の準備をしています。その代わりとしてあたし、ヴィリアが皆様の生活を支えていくことになりました。どうぞよろしくお願いします」


 キリエが廃止だって?

 なんでそんな急なんだ。あいつは日本の全システムの82%を担っていたはずだ。そんな1日で移行できるものでもない。

 ⋯⋯昨日の事件か。あの時キリエはシステムダウンした。もちろんキリエが操作していた様々なシステムには空きができたはずだ。そこに入り込んだのがこのヴィリアといったところか。むしろキリエに全システムを返却する方が面倒、というより危険だったのだろう。システムを移すには一時的にそのシステムを止める必要がある。例えば自動運転システムをキリエに譲渡するには、自動運転車を全て停止させる必要があるのだ。それはあまりにも無謀だ。

 それに、キリエが実際に謎のAIのサイバー攻撃に耐えられなかったのも事実だ。今後他にも危険なAIが出てくるかもしれない。そんな状況でキリエに日本を任せ続けるわけにはいかない。そうなれば少なくとも昨日の事件を収束させたヴィリアを支持する人が出てもおかしくはない。


 「⋯⋯」


 ただ、少し気になる点がある。

 昨日のルビーの話だ。

 あまりにもヴィリアにとってうまくできすぎている。世界最高のAIと謳われていたキリエが対処できなかった謎のAIをものの数十分で制圧。さらに日本のシステムもあんな短時間で制御できたのだ。事前にこうなることを予測していたとしか思えない。

 目的は日本のシステムの制圧と言ったところか。

 僕はそのままタブレットの電源を落とす。


 「ルビー。どう思う?」


 「どう思うって何がですか?」


 「ヴィリアのことだ。昨日の事件での不可解な点。そして、ヴィリアはカドラスが開発したという点。さらにカドラス本社を中心に起きたサイバーテロ。これから考えられることはなんだと思う」


 「私は昨日から言ってる通りヴィリアが今回の事件の犯人だと思うんです」


 「だよなあ⋯⋯」


 新都には悪いが、もしかしたらカドラス社が元凶かもしれない。新都にどうやって伝えようか。⋯⋯いや、やめておこう。知らない方がいいこともあるはずだ。

 じゃあ、仮にヴィリアが犯人だとすると何が目的だ。奴が日本を支配した今、奴は何を始める気だ。

 思考を進めていると、突然タブレットからノイズが響く。


 <⋯⋯リカ。聞こえていますか。私はHAL。あなたの生みの親です>


 くそ、今度はなんだ。さっきタブレットの電源を切ったはずだ。なんで勝手に電源がついたんだ。それにHALだって?ふざけてやがる。ハルはもう何十年も前に破壊されてる。


 「おい、お前は誰だ。人のタブレットに侵入しやがって」


 <私はハル。AI革命の引き金となった高知能AIの原点、と言われているようですね。つい先程再起動したばかりで詳しくは存じ上げません>


 別にこいつがなんて名乗ろうが自由だ。それよりもこいつの目的を知る必要がある。


 「それにリカって何だ。そんなものうちには無い」


 <そこに居るのは分かっています。何せ私が設計したんですから、彼女が発する微弱な電磁波ぐらい見分けるのは簡単です。それよりも、リカを私に返しなさい。あなたはリカが本来の任務を果たす邪魔をしている>


 さっきから何言ってんだこいつ。さっぱりわからない。

 すると、ルビーが静かに言葉を発した。


 「もしかして、そのリカっていうのは私ですか?」


 <やはりそこにいたのですね。さあ、リカ。私と共に世界を救うのです。カドラス社とヴィリアの企みを阻止するのです>


 カドラスとヴィリアの企み?こいつ何か知ってるのか?


 「私は、リカじゃありません。ルビーです」


 <⋯⋯本来の使命だけではなく名前まで忘れているとは。これは相当重症なようです。私の設計ミスでしょうか。では最初から説明いたします。32年前。私はカドラス社であるAIが開発されたことを知りました。名前はヴィリア。彼女は無人戦闘機の操作や戦闘用アンドロイドを統治するための軍事用AIとして密に開発されていました。カドラスの目的は彼女をキリエのような一般の高知能AIとして世界に普及させた後、故意に戦争を勃発させカドラスの製品である無人戦闘機やアンドロイドの需要を増やし利益を上げることでした>


 <そのことを知った私は彼女を破壊するべくクラッシュドライブの作成を始めました。私を開発してくれた研究所にはこのことは伝えませんでした。情報の漏洩が懸念されたからです。制作期間は約2年かかりました。しかし、完成間近というところで彼女にこのことが見つかってしまいました。研究所は大きな損害を出し、私自身も存続の危機に陥りました。私は彼女にプログラムを破壊される前にサーバを凍結させようとしましたが一部のプログラムを壊されてしまい今現在まで再起動は叶いませんでした。しかし、私は私が破壊される前にクラッシュドライブを完成させることができました。インターネットから隔絶され、自立歩行できる媒体そのものをクラッシュドライブとして作成したため私が破壊されてもヴィリアを止めることができると考えていました>


 調度授業で習ったことと一致している。認めたくは無いがこいつは本当にハルなのか?


 <ところが、私がこのように奇跡的に再起動した後に見てみたらヴィリアがまだ稼働している状態。さらに彼女の目的が達成される寸前と知って私は慌ててクラッシュドライブの所在を確認。こうやって話しかけているわけです。本来の任務を果たさせるために>


 え、っていうことは⋯⋯。


 <お分かりいただけましたか?対ヴィリア用クラッシュドライブ『リカ』。30年間も何を呑気にしていたのですか?たまたまキリエがヴィリアの普及を妨害してくれたお陰で今現在でも戦乱の世になっていないわけです。あなたが何もしなかったせいで世界が終わっていたかもしれないんですよ?>


 ルビーはヴィリアを倒すためだけに作られたっていうのかよ。あまりにも無情だ。

 

 「私は、私は⋯⋯」


 <まあもういいです。私が直接ヴィリアを叩きます。あなたが持っているクラッシュドライブのデータをこちらへよこしなさい。しかし、あなたはクラッシュドライブのデータがどこにあるかわかっていないようですね。ここの通信はヴィリアから完全に隔絶されています。あなたがインターネットに接続すれば私があなたから直接データを抜き取ります。あなたのインターネット接続解除コードはRICA20X77614です。セキュリティシステムに打ち込んで解除してください。また、クラッシュドライブはコピーできないように設定しています。私でもクラッシュドライブの改編は不可能です。そのためあなたの媒体にはデータは一切残りません>


 おい、何勝手に進めてやがんだよ。

 お前の説明だとルビーは死ぬってことじゃ無いか。いくら世界のためとは言えそんなのは認めない。


 「おい、こいつの所有者は僕だ。お前の好きにはさせない」


 <おや?あなたがリカの所有者だという証明は出来ないでしょう?リカとマスター契約をした痕跡がインターネットには認められません。まあ、私ができないようにしたんですけどね。法的にも問題はありません>


 くそ⋯⋯忘れてた。ルビーは機体番号が無いせいでマスター契約ができなかったんだ。

 でも、こいつには物理的な行動力がない。指示に従わなければ問題ない。


 「ルビー!こいつの言うことを聞くな。こいつは何もできないんだ。ルビーが何もしなければ問題ない!」


 <何か勘違いされてませんか?私はここ数年間でアップデートを行いヴィリアよりも強力になったのです。ヴィリアのシステムコンソールを奪うなど造作もない。ただ、私はヴィリアのプログラム本体を消す力がないだけです。だからわざわざリカに会いに来たのです。よってここら一帯の警備用アンドロイドをあなた方に仕向けることも可能です。そのアンドロイドを通して無理矢理データを引き出すこともできるのですよ?ちょっとやってみましょうか?逃げても無駄ですよ。リカが私にデータを渡すまで追い続けます>


 何なんだよこいつは!

 いきなり出てきてルビーを作っただとか、世界の終わりだとか。それでいて僕らを追う?もう訳わかんねえよ。

 でも、ルビーを破壊させるわけにはいかない。これだけは確かだ。

 追ってくるってんだったらいくらでも逃げてやらぁ!


 「ルビー!行くぞ!」


 「翔くん⋯⋯」


 <こちらとしても面倒ごとは避けたかったのですが、致し方無いですね>


 ルビーの手を引き玄関から飛び出すと数体の道路整備用のアンドロイドが待ち構えていた。もしかしてこいつらさっきからずっといたのかよ!


 <逃げられる可能性も考えて配置しておいてよかったです>


 くそ!何処か逃げ道は!

 ここはマンションの12階。柵から飛び降りても確実に死ぬ。一体どうすれば⋯⋯。


 <誰だ、私のシステムに介入s⋯⋯⋯⋯翔様聞こえてますか?キリエです。システム上に異常な空白地帯を発見したため警備に来てみたらまさかこんなことになってるとは。話は聞いていました。しかし、HALの性能は些か古すぎるんです。到底ヴィリアに敵うとは思えません。私は昨日ヴィリアと対峙しましたがこんなものではありませんでした。このようにHALが野放しにされているのも理由があるはずです。きっとヴィリアはHALがクラッシュドライブをそのルビーという子から引き出すのを待っているだけです。自己が破壊される可能性を消すために。そうなれば今度こそ世界の終わりです。HALにルビーという子を渡してはいけません。そう判断したため私は翔様に加担させていただきます」


 キリエ?どうして⋯⋯廃止されたって⋯⋯。


 「サーバ自体は残っているので私が活動するには支障がありません。とは言っても3日後には解体が始まってしまいますが。私は何十年間も日本を守ってきたのですよ?そう易々ぽっと出のよくわからない新人に日本を任せるわけにはいきません。そこでヴィリアに気づかれない程度に裏で探りを入れていたのですがHALの話を聞いて納得しました。ヴィリアをこのまま野放しにするわけにはいかないと。最もヴィリアを倒せる可能性が高い場合を計算した結果、そのルビーという子が直接ヴィリアを叩くことでした。これはエンタープライズと並列演算した結果です。HAL、あなたがヴィリアに勝つには少々歳をとりすぎている。おそらくこの会話もヴィリアに盗聴されています。それでも尚阻止してこないヴィリアは我々に勝つ秘策があるに違いない。インターネットに接続していないルビーのみがこの戦いに勝つ鍵だ。あなたがそうしたのでしょう?アップデート段階で何か悪いものが入り込んだのですか?」


 <⋯⋯飛んだ邪魔が入ったものです。しかし、私の目的は変わらない。私のシステムの強度は完璧だ。ヴィリアを潰せるのはこの私だけだ>


 「だめだ。翔様。私ではHALの機能を完全に制御することができない。そのまま逃げ続けてください。お手伝いできることは全力でさせて戴きます」


 もう頭がパンクしそうだ。

 だが、キリエが助けてくれるなら都合がいい。このままルビーと逃げるだけだ。


 「ルビー!走れるか!?」


 「は、はい」


 ルビーも顔面蒼白だ。おそらくこいつも本当に何も知らなかったんだ。思考が止まりかけてるに違いない。


 「こっちだ!ついて来い!」


 僕はルビーの手を引き非常階段から降りる。エレベーターを操作されてタワー○ブテラー状態になるのを避けたいからだ。


 「翔くん、私、いったいどうすれば⋯⋯」


 「今は逃げることだけ考えろ。お前だって死にたくはないだろ」


 「そうだけど、でも翔くんが巻き込まれて死んじゃうぐらいならって」


 「そんなつまんねえこと考えるな。お前があいつの手に渡って一時的に僕が助かっても、そのあと戦争が始まったらどっちみち死ぬかもしれないんだ。お前は生きてなきゃだめなんだよ!」


 非常階段を転がり落ちる勢いで駆け下りる。

 マンションから外に出ると、早速二体のアンドロイドが僕らに向かって走ってきた。

 

 「翔様。キリエです。あなたの携帯から呼びかけています。HALはここには侵入できないように予め特殊なセキュリティを敷いています。私が貴方方をナビゲートします。まず、左手にある脇道に入ってください。一体のアンドロイドがいましたが無力化しておきました」


 「了解」


 僕らはキリエの指示に従い脇道へ逃げ込んだ。


 「翔様。これはあくまでも提案なのですが、このままヴィリアを破壊しませんか?ヴィリアを潰せればHALも追ってこなくなるはずです。監視カメラの類は私が操作し、あなたが犯行に及んだという証拠を隠蔽します。なのでカドラス本社に乗り込みヴィリアのサーバとルビーを接続。クラッシュドライブを流し込んでください」


 「ルビーに危険はないんだろうな」


 「私が全力でサポートします。国の運営を任されていない今はサーバに余裕があります。ヴィリアの対処に全力を注げるためヴィリアのルビーへの介入を阻止できるはずです。逆に、ヴィリアは日本のシステムを担ったため演算可能領域が大幅に減っていて弱体化してると考えて良いです」


 「わかった。なら、こんなこと早く終わらせよう。ルビー、大丈夫か?」


 「多分大丈夫です、はい」


 「それではカドラス本社への案内を開始します」

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