カドラスの傘
本当は1万字くらいで揃えようとしたんですけど、きりが良かったんで投稿。少し短めです。
なんだ。この快眠感。
暖かな日差しが窓から差し込みまぶたを焼くこの感じ。
高く登った太陽が照らし出す柔らかな輪郭。
⋯⋯って。
「寝坊した!」
とっさに目を見開き叫ぶ。
隣を見るとルビーが何やら寝言を言いながらグルグル回っていた。
「いや⋯⋯しょんなに食べらんないよ、ぐへへ」
いや、お前飯食う必要ないだろ。
ってそうじゃない。今の時間は?
今日も学校あるのに絶対遅刻してる⋯⋯ああどうしよう。昨日あのまま寝たから目覚ましもかけてないんだった⋯⋯。
「キリエ!今の時間は!?」
昨日投げ出したままのタブレットに話しかける。
「只今の時刻は10時43分です」
やっば⋯⋯。
「おい、ルビー!なんで起こしてくれなかった!お前機械だろ!なんで寝てる!」
普通アンドロイドっていうのは時間とかに正確で、むしろ口うるさいぐらいじゃないのか?⋯⋯いや、確かに僕の登校時間を言ってなかったから無理もないけどさ。
「ふぁい?なんです、か?お昼までまだもうちょっとありまひゅよ?なんでと言われも、私がねみゅいからです」
ルビーは目元を擦りながら僕に向かって言ってきた。
⋯⋯ねみゅいって言いにくいな。
「お昼じゃダメなんだよ!このポンコツロボ!僕は今日学校があるんだ!8時20分までに本当は登校してなきゃダメなんだよ!」
「そんな大声出さないでくださいよ。私だっておきりゅのに時間がかかるんですよ?⋯⋯ふぁーあ」
大きな口を開けて欠伸するルビー。
やっぱ不良品だこいつ。
「とにかく、僕はこれから学校に行ってくる!留守番頼んだぞ!」
「了解でーす」
そう返事をすると、ルビーはまた寝床に潜り込み丸まった。
クソ、帰ったら覚えてろ。
「すいません遅刻しました!」
学校に着くと、僕は教室に急いで入った。
教室のみんながこっちを見てくる。
「高田君。もう四限目の後半ですよ?今度から気をつけてくださいね。タブレットで遅刻した理由と反省を書いて提出すること。今は席について授業を聞いてください」
「⋯⋯はい」
反省文提出か。面倒だな。
⋯⋯僕が悪いから仕方ないけどさ。
僕は席にさっさか座る。
「⋯⋯それでは授業の続きに行きたいと思います」
先生はPCを操作して、電子黒板のスライドを進めた。
僕もタブレットを取り出してノートを取り始める。キリエも画面の端でちょこんと座っている。男のくせにあざとい。
「さて、というわけで世界初の先進的高知能AI「HAL」が誕生したわけです。このHALは量子クラスタを利用したスーパーコンピュータで稼働するAIで、高度な知能を有していました。皆さんの身近にもあるキリエもHALが開発された4年後に誕生したものです。いわばHALはAIをより高度なものにし、我々の生活を豊かにしたAI革命の始まりだったわけです。しかし、HALは何かしらの攻撃を受け破壊されてしまいました。当時HALのサーバがある研究所内で何かが開発されていたようですが、その内容も今は残っていません」
ふーん。
「キリエが開発された2030年台は高知能AIが多く開発された年です。しかし、AIに関する規制がほぼなく、無尽蔵にAIが開発されてしまいました。そんな中起きたのが2034年のスドリカ事件です。スドリカはAIで初めて生存欲求を植え付けられたAIでした」
どうやってそんなもん植え付けんだよ。
生物は死への恐怖が生きる糧となるが、機械なんて自分が壊れることに何も感じないだろ。
もう少し解説が欲しい。これだけじゃわかんない。
「⋯⋯はい、どうやって機械に生存欲求を植え付けるんですか?」
僕は質問をしてみた。
「えーっと、主に今現在のAIはインターネット上のビックデータ内の情報を元に、行動に対してあらゆる感情指数を付与しています。これは世論とともに常に変化していきます。ある特定の行動をされた場合、その行動の感情指数を合計して計算し感情として出力します。で、その出力された感情を元に次の動作を決定づけます。このAI側の行動にも感情指数を付与し、さらに次の行動の結果に反映させます。これで擬似的な感情の表現が可能となります」
説明不足だって。
感情指数をどう処理するかの説明がない。その感情指数に対して機械側がどう捉えるかによって全てが変わるじゃないか。
そうは思いつつも面倒なのでこれ以上の追撃はしない。
「この過程における最初の段階。つまり行動に対して感情指数を定義する段階で、ハードウェアの破壊、もしくはプログラムが破壊されるという行動に対して不快指数を最大値に固定してやることで疑似的な生存欲求を表現できます。この他にも、行動にペナルティを設けるという方法もあります。ペナルティの値が増えない最小の行動を取り続けるようにするという方法ですね」
ああ、うん。ペナルティを設定してやる方法はかなり昔からあったな。
まあいい。とにかくスドリカは生存欲求を持っていた、と⋯⋯。
タブレットにぽちぽちとメモっていく。
「⋯⋯話を戻します。知能が発達したスドリカは、私たち人間がいずれは自分を破壊するという結論に達し、自己を守るために私たち人間を滅ぼそうとしました。おそらく、常に変化し続けるIT業界に自分が付いていけなくなった時。自分はより高性能なAIに置き換えられ捨てられると考えたのでしょう」
「この結論に達したスドリカは国家の軍事ネットワークに侵入しようと行動したため、サーバーごと破壊されることになります。これがスドリカ事件です。この事件以降、私たちはAIを使うことの危険性を認知し始めました。これによってできたのがAI規制法です。先程、感情指数により行動を決定づけるとありましたが、さらにその外側に絶対不可侵の行動制限を設けることが国際的に義務付けられることになりました。例えば、人類に直接、間接問わず危害を加えてはならない。自己を構成するOS、およびハードウェアの拡張は人類の許可なしに行ってはならない。などがそれに当たります」
へえ。ということは人間でいうと脳の中の記憶はいじれるけど、脳自体は成長できないという話か。
僕がタブレットにメモっているとチャイムが鳴った。
「おっと、もうこんな時間ですか。朝に言われたと思いますが、今日は職員会議のため4限で授業は終わりです。みんな気をつけて帰ってください。放課後のホームルームはしません」
え、まじか。
ということは僕はこのほんのちょっとの時間の授業のためだけに学校に来たのか。
ちくしょー!あのまま今日は休めばよかった!
損した気分だ。
「おい、今日はどうしたんだよ翔。遅かったじゃないか」
肩を落として落ち込んでいると新都が話しかけてきた。
「どうしたって言われても。あのポンコツロボットが僕を起こさなかったせいだ。アンドロイドって寝ないんじゃなかったのか?爆睡してたぞ。やっぱりAVの企画だったりして⋯⋯」
どう考えてもただの八つ当たりだ。
だけど言いたいものは言いたい。
「アンドロイドはデータ整理のために動かなくなることはあるぞ。それと、ポンコツロボってなんだ?」
あ、やべ、しまった。
まだこいつにはルビーのこと言ってないんだった。
「⋯⋯まさか、あの動かない怨霊ロボのことか」
怨霊ロボって⋯⋯。
確かに最初見た時は髪で顔が隠れてて気味が悪かったけどさ。
まあ、うん、はい、そうです。
「⋯⋯うん」
「なんだよー。結局あれ動いたんじゃないか。早く言ってくれよ〜。⋯⋯それにしてもあの青髪俺らに嘘つきやがったな」
新都はどこかしらを睨みつけている。
どうやらあの青髪のアンドロイドが僕らを騙したと思っているらしい。実際はただの不良品ってだけだったんだが。
「で、どうなんだ?」
「どうって、何が」
「アンドロイドを使ってみた感想だよ」
ああ、そういえばこいつはアンドロイドを僕に使わせるためになんちゃらセンターに行ったんだった。
でも、どうって言われても。
「あいつ、インターネットには繋がらないし機械は使えないし、おまけに30年の年代物。しかも普通に寝るし。スタイル良くて可愛い以外良いとこないぞ。これならTHEプロテインの方が良かったかもな」
「⋯⋯ドンマイ」
花が咲いたような笑顔で言われた。
腹立つ。
「俺のアンドロイドは家事は万能で料理もうまく作ってくれるし洗濯物もフワッフワ。しかも、マリアたんは可愛いんだ。毎日家に帰ると『おかえり、ご主人様⋯⋯』だってよ。うわあ惚れちゃうよ」
恍惚とした表情で語る新都。殴りたいこの笑顔。
ルビーがポンコツだからって舐めてんのか。
「ルビーだって色々できるぞ。例えば、その⋯⋯」
何もねえや。
「まあまあ、そんな日もあるって。そうだ。今日俺の父ちゃんの会社に来いよ。そこでならいろんなアンドロイドがいるぞ。きっとお前も気にいる奴がいるぞ。今度はちゃんとお金はとるけどまけてやるよ。親友だしな」
え、ちょい待て。
新都の家ってアンドロイドたくさん持ってるなとは思ってたけど、まさか⋯⋯。
「あれ、なんでそんな呆けた顔してんだ。ああそうか。お前にはまだ言ってなかったな。俺の父ちゃんはアンドロイドの製造で有名なカドラス社の社長だ。だからマリアたんも父ちゃんがくれたんだ。なんかの展示品の余りだったらしいけど、一応あの子も数千万するぞ」
うっそだろおい。
昨日も数千万の怨霊ロボをすぐに諦めた時点で金持ちなのかなとは思ってたけど、カドラス社の社長の息子とは思わなかった。だからやけにアンドロイドに詳しいし口うるさいんだ。
⋯⋯これは偏見か?
「よしそれじゃあ早速出発!」
「ちょ、おい」
僕は新都に手を引かれ教室を飛び出す。
昨日に続いて今日もか。いささか面倒だ。
でも、ルビーがどの程度のアンドロイドなのか見比べる良い機会だ。
着いてってやるか。
ーーーその頃翔の家では
「翔くん、トイレは食べ物じゃありまひぇんよ〜。わあ
、そんな、大胆な⋯⋯」
ルビーはまだ寝ていた。
ーーー40分後
「お前の会社でかいな」
「そりゃあそうだよ、カドラス社は日本で6番目に大きい会社だよ?」
しばらく電車に揺られながら新都についていくと、都内のとある高層ビルに到着した。
ビルの壁に幾何学的な文様が彫り込まれていてなんとも言えない技術感を感じる。
「ここの1階から5階まではアンドロイドの展示場になってるんだ。ちょいと覗いてこう」
「わかったわかった。そんな焦んな」
新都は僕の手を引きビルの中へ案内する。
中に入ると早速紫色のショートヘアをしたメイド服のアンドロイドが出迎えてくれた。
「おーうマリアたんただいまー!」
え?
新都はそのアンドロイドを見るなり抱きつき、頭を撫でている。
「もう、ご主人様ったら〜。そういうのは家に帰ってから、ね」
「はーい!」
このちびっちゃいのがマリアなのか。
でもなんでこんなところにいるんだ。家にいつもいるって前に言ってたのに。
「いやさ、他のアンドロイドに案内させてもよかったんだけど、目の保養にいいからマリアたん呼んじゃった。ダメだったか?」
いや、別にいいけど。
⋯⋯でも。
「どうやってここに呼んだんだ?」
「え、スマホで呼べるぞ。ほら、こうやって」
新都はスマホを取り出して電源を入れ、2Dホログラムスクリーンを展開すると指でとあるアプリを開いた。
「このアプリでマリアたんのあんなことやこんなことがわかるんだ。そして、ここを開くと、マリアたんと離れていても自由に会話できるんだ」
「あんなことってどんなことだよ」
「それを聞くなんて紳士じゃないな翔は」
⋯⋯何なんだよ。
でも画面を少しみていたけど、CPUの稼働状況やクロック数とかが表示されてたから単純にアンドロイドの健康状態を見てただけか。
というかマリアと話すって、ただのメッセージアプリじゃないか。
「ほら、ここに『マリアたん今日も可愛いよ』って打つと」
新都がマリアに聞こえないように僕の耳元で言いながらメッセージを打ち込む。
「ご主人様ったらもう」
マリアは突然顔を赤らめてそう言った。
そして新都のスマホには『ありがとうご主人様』と返信が返ってきている。
「そして他にも⋯⋯」
新都は僕にニヤリと笑ってマリアの方を向くと
「マリアたん俺のスマホに、何か簡単で面白いゲームを作ってインストールしてよ」
と言った。
「わかったよ。ちょっと待っててね」
すると、新都の携帯に新しいアプリがインストールされている。
新都はそれを開くと、早速ゲームが始まった。オープニングもないし、BGMも単調なため、そこまで凝ったゲームではなさそうだ。
⋯⋯なんで筋肉の化身のヌード写真がタイトルに出てるのか気になるが。
「こんなふうに簡単なプログラミングなら一瞬でやってくれるんだ。それにあらかじめ俺のデバイスをマリアたんに教えておくと色々なことがやれるんだ」
へえ、うちのポンコツとは違って何も道具がなくてもこういうのを使えるんだ。普通に会話をする感じで簡単にいろいろなことができるんだな。
確かにこれは、インターネットに繋がらないアンドロイドは使い物にならないな。
「さて、マリアたんの素晴らしさ紹介はこの辺にして、早速中をみよう!」
新都とマリアに案内されてフロアを巡る。
男性、女性。背が高い、低い。筋肉量。様々なアンドロイドがフロア中を埋め尽くしている。
しばらくは黙って2人について行ったがここで口を開く。
「なあ、新都。今最も人間らしいアンドロイドってどんな感じなんだ?」
マリアも確かにすごいけど多少のぎこちなさやわざとらしさを感じる。ここの他に展示してるアンドロイド達もだ。ルビーの動きはもっと複雑だ。今日のあの寝返りだってすごいおっさん臭かったし。
もっとルビーを超えるアンドロイドを見てみたくなったのだ。
このカドラス社のことだ。もっとすごいアンドロイドぐらいあるはずだ。
「え、何を言ってるんだいお前は」
え⋯⋯?
「今もう、お前の目の前にいるだろ。マリアたんは世界でも最高性能を持つ子だよ?この子より上なんてそんなにいないはずだ。それに俺にとってはマリアたんがナンバーワンだからね」
「あら、ご主人様ったら」
マリアは頰を赤くし体をくねらせてる。目を細め新都を下から見上げている。
違う、ルビーだったらこんなに単純じゃない。
何か表現できないけど、もっと色々な感情が絡まり合ってるように感じる。
もちろんルビーもマリアもアンドロイドだ。2人に本当の感情や心なんてあるはずがない。あくまでも、感情係数とビックデータが出してる偽りの結果に過ぎない。しかも、ビックデータは結果の集合体だ。なんでそうなるのか。なんでそうしたのかと言う行動の理由までは持ち合わせていない。
つまりだ。こいつらはなんで自分が嬉しかったり恥ずかしかったりするのかがわからないのだ。⋯⋯そのはずなのだ。
いや、感情係数は行動とともに変化する。なら、感情係数が大きく動いた行動が嬉しかったりする理由になるのか?
でもやはり違う。その行動が何故嬉しかったりするのかはわからないのだ。
結局、人間らしさなんてビックデータと感情係数の分析精度の差なのだ。良いコンピュータと良いOSを詰めば必然的にそれは高くなる。
でも、カドラスの最新鋭のアンドロイドでさえこの様だ。なのに30年前の型落ちのルビーの方がより自然に生活を送っている。
⋯⋯ルビー、君は一体なんなんだ。
今回は説明が多くてすいませんでした。
次回からどんぱち回です。