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ポンコツアンドロイドのルビー

こんな感じの作風で続けたい。

 「翔、お前アンドロイド持ってないんだって?」


 学校の帰り際、新都(あらと)が突然僕に話しかけてきた。

 アンドロイドを持ってるかって聞かれても、両親がいない僕にとっては無駄な出費を減らさないと生活できない。アンドロイドなんて買う余裕はない。


 「確かに持ってないけど」

 

 新都はこの世のもので無いものを見たかのような顔をした後、再び口を開いた。


 「今はAIとロボットの時代だよ?そんなんじゃすぐに時代遅れになるよ?」


 そんなこと言われても、無いものは無い。アンドロイドは安くても一体10万。高いと数千万円かかる。貧乏人には買える代物じゃ無い。


 「僕には両親がいない。アンドロイドなんかに払うお金はないんだ。君だって知ってるだろ」

 

 「そうは言っても、アンドロイドの所持はほぼ義務みたいなもんだろ。昔で言うとスマホみたいなもんだ。別に持ってなくても犯罪じゃ無いけど、持ってないとクーポンとかのお店の機能が制限されたりするのと同じだ。アンドロイドだって持ってないと色々不便だろ?」


 確かに、このご時世自分で家事する人なんていないよな。それに役所のめんどくさい手続きとかも代わりにやってくれるし。それを考えるとアンドロイドは現代にとっては必須なのかもしれないけど、僕にとっては必要じゃ無い。苦労したことなんてない。


 「確かに不便だけど、お金払う価値はないと僕は思ってる。それに、買ったら終わりじゃないだろ、電気代とかかかるし」


 「そんな金払うのが嫌ならアンドロイドは無料で貰えるぞ。まあ維持費までは無理だけど、月たかが数千円だろ?そんなの安い安い。一度使えば手放せなくなるぞ。ほぼ人間と変わらないんだ。見た目も可愛いし、癒されるよ」


 「かわいいって言っても、それは嘘の可愛さだ。アンドロイドに心はない」


 結局、ビックデータから人間が喜びそうな結果を検索して模倣してるだけだ。


 「ひっでえこといいやがる。⋯⋯ええい、とにかく使ってみろ。アンドロイドリサイクルセンターってとこで無料でもらえる。少し型落ちになると思うけどほとんど今のと変わんないと思うよ」


 このまま断り続けてもめんどくさくなるだけだ。一度行けば新都の心は落ち着くはずだ。だけど⋯⋯。


 「⋯⋯わかったよ。見るだけなら。それにしても無料って大丈夫なのか?怪しいところじゃないよな」


 「あったりまえだろ。いいか安いアンドロイドは買取価格よりも壊す費用の方が高くつくんだ。バッテリーとか、コンピュータチップとか。だから、政府の公認で捨てられたアンドロイドのメモリを削除して無料で再配布してるんだ。それがアンドロイドリサイクルセンター」


 それって安いアンドロイドしか置いてないってことじゃないか。別にもらえるだけありがたいけど中途半端な性能のものをもらっても邪魔になるだけだ。


 「それじゃあ早速行くぞ」


 「あ、ちょっと」


 新都が僕の手を無理やり引っ張って教室を飛び出す。

 もういい、こうなったら行くだけ行ってすぐに帰ってこよう。

 電車で数駅分走った後、そのなんとかセンターまで来た。


 「よっしゃあ来たぜ!」


 「おいおいうるさいよ。周りの人めっちゃこっち見てんじゃん⋯⋯」

 

 中に入ると早速綺麗な青髪の少女のアンドロイドが出迎えてくれた。


 「ようこそアンドロイドリサイクルセンターへ。ご用件はなんでしょうか。アンドロイドの寄付でしょうか。それとも⋯⋯」


 「もらいに来ました」


 青髪のアンドロイドが言い切る前に新都が言い切った。


 「畏まりました。こちらへお越し下さい」


 すると青髪のアンドロイドは奥の部屋へ僕らを案内した。

 そのアンドロイドは立体ホログラムを展開すると一体ずつ機体を見せてくれた。


 「こちらの機体はLGC2411–5576-0090です。アルダレイン社製のアンドロイドです。2062年に製造されていますね。ちょうど2年前のモデルです。右肩の調子が悪く、ほぼ稼働しません。ただ、日常会話程度の会話はできます」


 うーん、さっきからなんかぱっとしない。

 やっぱり使いもんにならないものを持って帰っても意味がない。このまま失礼しよう。


 「すいません、やっぱり腕が動かないのは⋯⋯」


 「おいおい翔。文句ばっかり言ってたら決まらないぞ」


 「君はじゃあ喋るだけのアンドロイドが欲しいのかよ」


 「そ、それはなんとも」


 「ほらやっぱり」


 「ではこちらの機体はどうでしょう。RGA7756-4463-1180。2064年製造。ホライデン社製ですね。特徴としては全身が特殊な人工筋肉で構成されています。車5台分の重さなら百メートル先まで容易に投げられます」


 ホログラムには筋肉の化身ともいえるマッチョな男性型アンドロイドが映し出されている。⋯⋯確かに使えるけど、こんな筋肉の塊が家に居座られるのもなあ。


 「こんなでかいと僕の家には合わない。というか入らない」


 僕の家は狭いマンションのワンルームだ。

 THEプロテインは部屋に入らないだろう。


 「⋯⋯俺が悪かった。もう帰ろう。もうちょっとマシなのが置いてあると思ったんだがなあ」


 「畏まりました。ではこちらからおかえr


 「ちょっといいか、あの機体はなんだ?」


 部屋がホログラムのために薄暗くて気づかなかったが、部屋の隅には一体のアンドロイドが鎮座していた。ボディが壊れているようにも見えないのに全く動く気配もない。

 白髪のロングヘアが顔を隠していて何も見えないが凛とした輪郭が見て取れる。体も細部まで凝って作られているようだ。どうやら上物のようだ。


 「ええ、あの機体はここに来たときにすでに動かなくなっていたんです。機体番号も刻印されておらず、製造年も不明。彼女を作った会社もよくわからないので問い合わせることもできず、ああやって置きものになってしまっています」


 「翔。これは数千万クラスの代物だぞ。こんなに凝った機体は見たことない。ちゃんと動くのなら俺がもらいたいぐらいだ」

 

 数千万……。


 「すでにアンドロイドを所有している方にはお渡しすることはできません」

 

 「アンドロイドはそれだけで価値がある代物です。密売や転売などをされる可能性を少しでも下げるためです。それに、新しいアンドロイドが売れないと経済が滞りますからね。ここは、あくまでもアンドロイドを買えない方が利用する施設です」


 「わかってるよ。それに動かないんじゃガラクタと同じだ。そんなものは要らないよ」


 数千万か。万が一我が家計が苦しくなったときは使えるかもしれない。アンドロイドとしての価値はなくても、中身のパーツはまだ使える筈だ。別に売るわけではないがいざと言うとき家に置いてあれば何かあっても大丈夫になる。生きるためだ。いざとなったら犯罪だって犯すしかなくなる。それにこう言うのもどうかと思うが、転売なんて多くの人間がやってる。


 「僕がそのアンドロイド貰ってもいいか」


 「えー、翔。動かないんじゃ人形と同じだよ?アンドロイドを貰いにきたんだろ?」


 「何も出来ない下手に動くポンコツより人形の方がまだいい。それに、人形だって可愛かったら癒されるぞ」


 「まあ、お前が言うんだったら俺は止めないよ。だけど後で後悔するなよ?」


 「あの、勝手に話を進められてるようですが、一ついいですか?機体管理番号が存在しないアンドロイドを一般市民が所持するのは犯罪です。なので彼女を渡すことは出来ません」


 青髪のアンドロイドが顔を赤くして説明してる。どうやら暫く無視し過ぎた影響のようだ。

 

 「でも、動かないんじゃ置物と一緒だろ?アンドロイドとしてじゃなく、普通にあの置物をくれって言ってもダメか?」


 「うーん、確かに日本中のあらゆるAIの開発者に尋ねても起動しなかった代物。一般市民のあなたなら起動できる確率はほぼ0。それに、彼女に機体管理番号は無いため彼女はどこに所属しているか証拠がない。勿論国にも。ここに置いてあるのも、管理する為というより置き場所に困ったから。なら、オブジェとして差し上げることもできます」


 「それじゃあ貰うぞ」


 「そうですね。倉庫にしまってあっても、ああやって表に出していてもあの髪の長さのせいで気味悪がる人が多くいるのですよ。どうぞご自由にしてください。ご自宅まで配送致しますか?貴方が家にお帰りになるまでには配送が完了するはずです」


 青髪のアンドロイドは快く承諾してくれた。


 「ありがとう、そうさせてもらおう」

 

 「はあ⋯⋯」


 新都の方は何やら不満げな顔をしているが⋯⋯。

 マンションに帰ると部屋の前には大きな直方体型の箱が置いてあった。金属製で見た目は重そうに見えるが、実際重い。箱の中のアンドロイドもどきの重量も加わって僕では動かせない。          

 仕方ない。ここで開けるか。本当にあのアンドロイドか確かめないと。

 僕は箱の中央部分にある取手を回して開封を行う 。

 白い煙が噴き出すと同時に箱が展開される。


 「ほう、あのときはよく見てなかったけど、意外と綺麗な見た目してんな」


 中にはしっかりと例のアンドロイドが納められていた。

 しかしあのときとは違って顔がよく見える。

 白い肌にキリリとした目元、鼻筋がすっと通ってて端的に言うと可愛い。動かないのが残念だ。


 「ほんと、こんな綺麗でよくできたアンドロイドでも捨てる奴がいるんだなぁ。動かないってだけで価値が暴落するものだな」


 元々数千万クラスの代物をポンと捨てた人に対してある種の敬意を感じていると、驚くべき事態が起きた。

 

 「起動シーケンス終了。ニューラルネットワーク構築。思考演算プロトコル始動。全システム正常に稼働。……電源電圧に微弱な誤差を検知。修正中」

 

 「何が起きてる……」


 突然アンドロイドは目を見開くと何かを口にし出した。

 なんでだ。動かないんじゃないのか。国中の研究者が集まっても動かなかったんだろ?

 ……まあいい、動いてくれた方が僕にとっては都合がいい。もしも、売るときに価値が跳ね上がるからな。


 「……う」


 先程までの様子とは異なり、気絶したかのようにそのアンドロイドは僕の方に倒れてきた。


 「おい、大丈夫か」


 「……こんにちは。あなたは、誰ですか?」


 アンドロイドはゆっくり目を再び開くと、小さな声で聞いてきた。


 「そんなことより、君は大丈夫なのか」


 「ええ、大丈夫ですよ……。まだ動作、が安定していない、だけです。なんせ30年近く眠ってしまったもので……」


 「30年だと……」


 30年前の型落ちじゃないか。本当にこんなのか数千万もするのかよ。


 「あなたの、名前、教えて頂けますか?」


 薄らと目を開け、僕に手を伸ばしながらまた名前を聞いてくる。


 「わかったから……。僕は翔。高田翔」


 「翔君、ですか。私は……誰なのでしょうか」


 いや、僕に聞かれてもわからないよ。


 「ごめん。わからない」


 「そう、ですか。今まで何をしていたのか記憶がありません。ただ、メモリに損害が出た痕跡はないため、おそらくこれが私の初めての目覚めなのだと思われます」


 ってことは、前の持ち主なんか居ないってことじゃないか。新品だと。これは、数千万そのままの値段で売れるかもしれないぞ。……いやいや、転売は犯罪だ。本当に生活に困ったときの話だ。

 

 「初めての起動って、30年間もなんで……」


 前の持ち主が居たならその後捨てられてずっと眠るのもわかるが、新品のままずっと起動せずにどうして今起きたのかがわからない。


 「なんででしょうね。それもわかりません。ただわかってるのは、起動までにかかった時間が30年ということだけです」


 あー、あれか。不良品ってやつか。

 無駄に演算処理が遅くて起動までに馬鹿みたいな時間が必要だったんだ。こんなんじゃ製品として売れるわけがない。だからこれの製造会社も機体番号を登録する前に破棄しようとした。しかしなんらかの経緯で流出。社会的問題にされるのを危惧した企業はこれを作ったことを無かったことにしたかった。そんなところか。

 どの機体にも類似していないと言うのなら新製品の開発に失敗したんだろ。その欠陥品がこれってわけだ。

 そんな不良品売れるわけないか。やっぱいざとなった時はパーツだけ流すか⋯⋯。それまでせめて邪魔にならないように保管しとこう。


 「君はうちに来たけど、特に何もする必要はない。自由にやってくれ。ただ、僕の邪魔はしないでくれよ」

  

 僕はアンドロイドの手を引いて立たせるとそう告げた。


 「ええっと⋯⋯。それじゃあ、静かにしていますね⋯⋯」


 だからって外に立たせておくのもどうかと思うので部屋の中へ案内する。僕の部屋はワンルームだ。だから人が1人増えるだけで少し狭く感じる。


 「ここが今日から君の家となるところだ。よろしく」


 「はい、よろしくお願いします」


 アンドロイドははにかみながら言った。⋯⋯こんな表情がアンドロイドにはできるのか。AIの技術を少し舐めてたかもしれない。

 そうだ。ずっと君と呼び続けるのも面倒だ。


 「君とずっと呼ぶのもどうかと思うのだけど、君は何か読んで欲しい名前とかあるか?」


 「あの、その、できれば翔くんに名前付けて欲しいな、なんて。ダメですかね⋯⋯?」


 このアンドロイドは頰をポリポリとかきながらそんなことを言ってきた。しかも上目遣いで。⋯⋯無駄に表情豊かだな。

 ⋯⋯こいつもしかして裏社会で使われる予定だったんじゃ。

 いやいや、今はそんなことどうでもいい。とりあえず今は名前だ。

 うーん。

 このアンドロイドの顔を見ながら唸る。なんかいい名前ないかな。僕はネーミングセンスがないんだ。⋯⋯赤く透き通った瞳。⋯⋯そうだ。


 「ルビーなんてどうだ。僕はネーミングセンスがない。これが嫌なら悪いが後は自分で考えてくれ」

 

 「ルビー⋯⋯素敵な名前です。ありがとう⋯⋯」


 ⋯⋯そんな表情するなよ。

 そのアンド⋯⋯ルビーはにこやかに微笑むと、僕の手を握りそう言った。


 「別に、そんなに喜ばれるものでもない」


 「私にとっては生まれて初めて誰かからもらった大切なものです」


 小首を傾げ、微笑み続けるルビー。

 こいつ本当にアンドロイドか?

 今日行ったなんとかセンターのアンドロイドはこんなに繊細な表情はしなかった。

 ⋯⋯まあ、あれか。これが数千万の力か。30年前の技術でもこんなに凄いものが作れるんだ。今ならどんなアンドロイドがいるのだろうか。

 ただ、アンドロイドにはマスター契約とかが必要だったはずだ。学校で習った。


 「なあ、ルビー。アンドロイドには色々な契約が必要だと聞いていたがそれは大丈夫なのか?」


 「契約?それはなんですか?」


 ん?待てよ。


 「インターネットで検索とかできないのか?機械の君なら簡単だろ?」


 「すいません⋯⋯。私、インターネットに接続できないんです。技術的な問題というよりプログラム上で禁止されているみたいです。一般常識、とは言っても30年前のものですが、それならもともとメモリ内に入っていました。今の私はそれを元にして動いています」


 やっぱりな。インターネットに接続できていなかったんだ。アンドロイドにしてはやけに無知な感じがした。初めはそういう機体なのかとも思ったがそうではないらしい。

 やはりこの機体は不良品だ。アンドロイドはインターネットに接続できて真価を発揮できる。人のサポートができるのだ。

 インターネットにも接続できないのならば意味はない。ルビーの製造元はなんでこんな仕様にしたんだ。意味がわからない。


 「そうか、タブレットは使えるか?ほら、これを使え」


 僕は学生鞄からタブレット端末を取り出すとルビーに差し出した。

 

 「ありがとうございます。役立たずですいません⋯⋯」


 ルビーはタブレットを受け取ると、辿々しく操作をし始めた。

 おそらく、30年前とは違いタブレットが液晶ではなく平面ホログラムによる映像投影に変わっている影響だろう。

 なんとも奇妙な光景だが、今は仕方がない。


 「インターネットアシスタントのキリエです。ご用件はなんですか?」


 「うわあ、喋りました!」


 ルビーはタブレットを落としかけると、慌てて持ち直して一息入れた。

 まさか、キリエを知らないのか?⋯⋯知らないか。


 「そいつはキリエだ。日本全国のあらゆるシステムを総合的に管理する高知能AIだ。例えば外で自動運転の車が走ってるだろ?あれが事故を起こさないように管理してたりするのもキリエだ。他にも電車の運行スケジュールの管理とかもしてる」


 「え、インターネット上にAIがいるんですか?大丈夫なんですか?事故とか起こさないんですか?」


 確かに、人工知能が人間に危害を加える場合もあったけど、ちゃんと時間をかけて成長させたAIは少し世論が動いただけじゃその考えが変わることはない。ましてや、人を攻撃してはいけないとかの制限がAIには設けられている。確かAI規制法だっけ。


 「大丈夫だ。AIにはある制限が設けられてる。事故は起こすことはないよ。それに、重要な意思決定は最終的に人が下すんだ。だから安全性は高いよ」


 「へえ、便利な世の中ですね」


 お前がいうことじゃない。


 「後で調べてみたらどうだ」


 「そうさせていただきます。それじゃあキリエ、さんでしたっけ。アンドロイドの契約について検索していただけますか?」


 「畏まりました。⋯⋯それではマスター契約について説明させていただきます。マスター契約とは、人間とアンドロイドとの間に結ばれる契約です。アンドロイドの所有者を法的に定めたり、紛失した際に届け出を出すのにも用いられます。また、自立していないアンドロイドが行った行動に対しての責任を人間側が負担する際に用いられます。ただし、製造会社側に不備があったことが認められた場合はこの対象にはなりません。この自立していないアンドロイドとは、自身で金銭を稼げないアンドロイドのことを指します。通常、マスター契約はアンドロイド側がユーザーに使用される前にユーザーに許可を取り契約します。アンドロイド規制法によりこれは義務付けられています。これに従わない場合は2000万円以下の罰金か10年以下の懲役が課せられます。なお、この法律は2035年以降に製造されたアンドロイドにのみ適用されます」


 「へえ」


 ルビーは感心したかのように頷いている。

 もう一度言うけど、お前がいうことじゃない。


 「私の頃にはこんなにAIや、アンドロイドに関する法は存在しませんでした。なので私にはマスター契約を必須とするプログラムは組まれていません。なので、この文章を見る限り翔君は私とマスター契約をする義務は発生しません」


 キリエの言い方だと確かにそうなる。だが、結局2035年以前のアンドロイドが問題を起こした場合どうなるのだろう。責任の所在が不明瞭になってしまうのではないか?


 「キリエ、2035年以前の自立していないアンドロイドが問題を起こした場合は誰が責任を取るんだ」


 僕はルビーが持つタブレットに向かって話しかけた。


 「そのアンドロイドを開発した会社側に責任が付きます。2035年以前のアンドロイドは今ほどにユーザーの介入による行動力があったわけではありません。今貴方が使用しているタブレットにも補助AIが入っていますが、これもインターネットによる検索や情報の管理はできてもユーザーの意思なしには情報を変化させることはできません。さらにその情報の変革可能範囲を決められるのはユーザーではなくこのAIを開発した会社側が決めることです。当時のアンドロイドも同様です」

 

 ⋯⋯よくわからんが、とりあえず問題はないらしい。だが、ルビーの場合開発者が不明だ。


 「その開発者が不明な場合どうなる」


 「そのような場合は、事件の該当者同士での話し合いで責任の所在を模索していくことになります。2035年以前もこのように対処していたのですが、あまりにも曖昧で面倒な手順を踏む必要があったためアンドロイド規制法ができたわけです」


 なんともテキトウなものだな。

 でも、ルビーの所有者は僕だと主張しておかないと誰かに取られてしまっても文句が言えなくなる。

 マスター契約をするべきだ。


 「ルビー、僕とマスター契約しないか」


 「え?あ、はい。大丈夫ですけど」


 ルビーは体をピンと伸ばすと口元を緩めて言った。

 何度でも言おう。こいつ30年前の技術にしては表情が豊富すぎる。話し方だって今のところ自然だ。本当にアンドロイドか?検証番組とかじゃあないよな。

 アンドロイドとして振る舞う人間を人間は見抜けるのか、みたいな。

 まあいい。続けよう。仮に人間だとしてルビーの反応は面白い。きっと見ている人は僕がここで気づくよりも気づかない方が面白いと思っているはずだ。


 「キリエ、マスター契約の方法を教えてくれ」


 「畏まりました。⋯⋯わざわざ私に方法を聞くということは、アンドロイド側がインターネットに接続できない場合ですね。その場合、このサイトでアンドロイドの機体管理番号とユーザー様のマイナンバーを入力し、ここの欄にチェックをして下の承諾ボタンを押してください」


 キリエがタブレットであるサイトを開く。どうやら機体管理番号が必要らしいが、ルビーには無い。

 ただ、ここでキリエにルビーには機体管理番号がないと言うと、僕が機体管理番号を持たないアンドロイドを所持しているとして起訴されてしまう。残念だが、マスター契約はできないようだ。

 僕はルビーからタブレットを奪い取ると、電源を切りルビーに言う。


 「残念だがマスター契約はできない。⋯⋯だからだ」


 僕はルビーの耳元で小声で事情を説明する。万が一キリエに聞かれていたら面倒だ。


 「そう、ですか。少し残念です」


 ルビーはシュンとした顔をすると僕のベットに腰をかけた。

 ⋯⋯ルビーが仮に人間だとしたら今、相当やばい状況じゃ無いか?知らない人を勝手に家に入れてルビーって言う名前をつけて。更に今知らない女の人に耳元で囁いたのだ。

 テレビで放送されてたら笑い者だ。⋯⋯とは言ってもテレビで放送するには僕の許可がいる。家の中までは撮られていないはずだ。音声は加工されて流されてるかもしれないけど。

 とにかく、今はルビーが本当にアンドロイドか確かめる必要がある。

 テレビの面白さを気にしてる場合じゃない。


 「ルビー、君がアンドロイドだって言う証拠はあるか?」


 「どうしたんですか?いきなり」


 ルビーは首を傾げてこちらを見つめてくる。


 「だって、機体管理番号もない上にインターネットにも接続できない。更に人間とほぼ変わらない立ち振る舞いだ。30年前の技術ではそんなこと不可能なはずだ。何か裏があるんじゃないか?」

 

 僕は思っていたことを言ってみた。

 テレビの視聴者様には申し訳ないが、僕の黒歴史を増大させ続けるわけにはいかない。


 「えーっと、そうですよね。そう思いますよね。わかりました、少し待っていてください」


 そう言うとルビーは着ている服に指をかけボタンを外し始めた。

 僕はとっさに目を逸らしてしまった。

 ちょっと待て、今まで健全な番組として放送されてると思ったが、実は隠し撮り系のAVだったのか?アンドロイドとして会った人間と人間のSE〇、とか言うクソ企画みたいな⋯⋯。

 でも待て、僕は高校生だ。そんなのに巻き込まれるわけにはいかない。止めなければ。

 そう思い再びルビーに顔を向ける。が、遅かった。ルビーは下着以外の全ての衣服を脱ぎ去っていた。


 「どう、ですか、少し、いや、かなり恥ずかしいんですけど、おわかりいただけましたか?」


 ルビーの体には所々機械仕掛けが見える箇所があった。肘や肩には球体関節と思われる駆動箇所が見えているし、肌の繋ぎ目と思わしきところも辛うじて見える。

 これでわかった。これはAVの企画でもないし、検証番組でもない。間違いない、アンドロイドだ。

 だが、それ以上に僕の目に映ったのはルビーの体の純白さと体のラインの美しさだった。

 正直な話、見惚れてしまった。


 「何か言ってくださいよ!恥ずかしいんですからね⋯⋯」


 ルビーの顔は赤く、目に涙を浮かべている。

 やばい、何か反応しないと。


 「綺麗だよ」


 ってちげえだろバカ!

 『アンドロイドということはわかった。ありがとう。早く服を着てくれ』が正解だろ。何言ってんだよ⋯⋯。

 

 「そうですかね、へへ、ありがとうございます」


 何こいつも満更でない顔しやがって、もっと頬を引き締めろよ。

 くそ、アンドロイドならアンドロイドらしくしろよ。ペースが崩れる。


 「ありがとう、ルビーはアンドロイドだって事がわかったよ。⋯⋯早く服を着てくれ、じゃないと、その、いろいろまずい」


 主に理性が。


 「はいぃ。うー、恥ずかしかった。もう、翔君だけですからね」


 謎のサービス精神どうもありがとう。おかげで色々吹っ飛ぶとこだった。

 ルビーは服を着直し始めた。

 僕も目を逸らす。あれだ。完全に服を脱いでるよりも脱ぐ過程の方にエロスを感じるのと同じだ。⋯⋯いや決して僕が変態紳士なわけじゃないが。


 「ふう⋯⋯疲れた」


 お前も疲れただろうがこっちもこっちで大変なんだぞ。

 ルビーは服を着ると僕のベットに寝転がった。


 「ほら、翔君もどうですか?あったかいですよ?」


 「そこは僕のベットだ」


 「翔君は、私は床で寝ろというんですか?」


 ⋯⋯僕だけベットで寝るのも気が引ける。


 「⋯⋯わかった、今日だけだ」


 「わーい」


 僕のベットではしゃぐルビー。

 ⋯⋯本当にこいつがアンドロイドなんて、信じられない。

 もういい。疲れた。明日考えよう。

 僕はルビーの隣に体を投げ出す。ルビーに対して背中を向けると眠る態勢に入った。


 「おやすみなさい。翔君⋯⋯」


 ルビーは後ろから抱きついてくると、耳元で静かに言った。

 ⋯⋯柔らかい。

 程よく眠気が襲ってくる。でも待て、アンドロイドは眠らないんじゃないのか?

 しかし僕はそれを考える前に眠りに落ちた。

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